綾小路......誰さんですか?   作:せーちゃん

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じゅんびちゅー

「ありがとう御座いましたァー!! 失礼しまーすッ!!」

 

 入学から二日目の放課後。つまりは平田達との楽しい昼食から数時間後の事。

 今頃は、体育館で部活動紹介が行われているのだろう。校舎内は人も疎らになり、辺りは閑散としていた。

 そんな中、職員室から顔をニヤけさせて出てくる世界一のイケメンが一人。

 

 ─────俺である。

 

「....まさかここまで上手くいくとはな」

 

 

 

 拍子抜けに驚きながらも、俺は手元にある二枚の紙を今一度確認する。

 

 

 

 

 

『部活動新設書類

         【eスポーツ部】

 

  部長 菊白蓮夜 部員他二名(坂柳有栖 綾小路清隆)の署名により、部活動新設に必要な最低条件を満たしたと判断し、上記の部活動設立を一年、学年主任“真嶋 智也”の立会の下、認める。 4月X日』

 

 

 

『部活動新設書類

         【資格取得支援部】

 

  部長 坂柳有栖 部員他二名(菊白蓮夜 綾小路清隆)の署名により、部活動新設に必要な最低条件を満たしたと判断し、上記の部活動設立を一年、学年主任“真嶋 智也”の立会の下、認める。 4月X日』

 

 

 

 

 

 そう書かれた書類には、赤色の丸で囲われた“受理”の判子がデカデカと押されていた。

 

 ん? 部活動紹介という重要な原作イベントを無視してまで何をやっているのかだって?

 決まっている。これからに備えての金策の一つだ。そんなわけで新部活の設立申請書を職員室で認めて貰えるように学年主任である“真嶋先生”に直談判して来た。

 涙を流しながら鼻水飛ばして、どれだけ自分達が本気なのかを力説する俺の名演技に真嶋先生も引き攣った顔を拭いながら折れるしかなかったようだ。その後もしつこく真嶋先生のスーツで鼻をかみ続ける俺に、なんと先生は自分から顧問になってくれると申し出てくれた。流石は教師の鏡。ウチの担任とは比べ物にならないレベルの聖人ぶりだ。

 

 

 ただ、設立自体は認めるが、目に見える成果が出ない間は部室の申請も受け付けないし、部費も一切降りないとの事。

 

 まぁ、ぶっちゃけこの辺りはどうでも良い。

 部費の話になると必然、生徒会を挟まねばならなくなるし、今はクラスの違う有栖と日常的に会う為の口実程度で構わないのだ。俺も清隆も、まだ自身の能力を周囲に見せるわけにはいかない。

 まだ土台作りが終わっていないのだ。チート万歳でクラスを引っ張る立場に就いてもいいのだが、ぶっちゃけ今のDクラスリーダーには殆ど旨味が無い上、それでは安全圏から弾かれてしまう。

 

 ....なんて、この辺りの話は一旦置いておこう。俺のコレからの動きは今晩清隆と話すとして....今は【eスポーツ部】とは違い、『道化』の“菊白蓮夜”ではなく『Aクラスの才女』である“坂柳有栖”を部長とした【資格取得支援部】の方へと話を戻そう。

 この部活で大々的に活動出来るようになるのは、Dクラスの担任である“茶柱佐枝”の弱みを握ってからだ。

 教職に就いている人間には、プライベートポイントの変動が明確に分かってしまう。俺がこれからやろうとしている事を考えると、それは非常に困るのだ。

 Dクラスで単独ないしは少人数で行動する場合、最も厄介になってくるのが担任教師である茶柱の存在だ。能力的に俺と清隆が遅れを取るとは思えないが、教職に与えられる権限は決してバカには出来ない。言ってみればゲームマスターと戦争するようなものである。そんな事は黒の剣士ぐらいにしか出来ないので、一般チートオリ主である俺は、茶柱を黙らせられる程度の手札が揃うまでは表立って暴れるのは控えなければならない。

 

 その間の隠れ蓑が【eスポーツ部】である。

 【資格取得支援部】に関しては、能力の高さがモロに出る為、今は看板以上には役に立たないだろうが、【eスポーツ部】の方の活動であれば、部活動設立というそれなりに目立つ行動も含めて、ただのゲーム好きな学生程度で話を終わらせる事が出来る。

 出来れば、真面目にeスポーツで天辺を狙っているような生徒では無く、『学校内での活動の一貫としてゲームがしたい』という舐め腐ったエンジョイ勢として見られていれば尚良しだ。

 

 また、隠れ蓑ではあるものの、作った以上は有効活用しなくては勿体無い。いくつかの小さい実績を積んだ後に、ゲーム機材の為の部費としてテレビや電子機器一式を部費申請すれば、たった三人ぽっちの部活だろうと身内で回せる分の余剰なプライベートポイントが期待出来る。

 

 あん? 他の入部希望者はどうするのかって?

 んなもんイチャモン付けて追い返すんだよ。そもそもウチの部活は現在入部希望を受け付けてすらいない。

部活をする為に部活を設立したわけじゃねぇんだから他の奴に入られたら裏で糸引けねぇだろうが。

 

 

 まぁ、ゲーム部(名前だけ)の話は置いといて、身体の弱い有栖の代行という建前の下、同時に滑り込ませた【資格取得支援部】の方。これは名前の通り、将来役に立つであろう様々な資格を皆で協力してゲットしよう、といった感じの部活だ。

 

 しかし俺も清隆も、そもそも資格を取るのに今更勉強する必要などない。なら、本来買う筈だった高価な参考書や、学習環境を整える為に使う部費を丸々浮かせる事が出来る。加えて部活動は成果を出し続けていれば学校側からのボーナスも期待出来るとの話まである。後の日本を背負って立つ人間を育成する為の国立教育機関としては、生徒の資格取得は高確率で支援対象になる事だろう。後々の金策としてはうってつけだ。

 

 折を見て、他にもいくつかの部活動の新設と兼部の許された既存の部活動への多重加入も考えている....が、これは随分先の話になるだろう。

 

 

 能力的に、俺はどの部活動でもエースを張れる性能を有している。

 やろうと思えば助っ人代他、試合結果に関する裏取引など、pptを稼ぐ手段はいくらでもあるし、Aクラスへの個人移籍に関しても、有栖経由で自身の能力の高さを売り込めば、Aクラス側から大幅な支援が期待出来る。

 

 

 

 ....だが、そんな事に意味など無い。

 Aに上がるのは何時でも出来る。当たり前だ。

 だから問題はそこじゃない。見誤ってはならない。

 俺の目標は、俺と清隆がAクラスで“()()()卒業”する事なのだから。

 この時期にAクラスに上がるのは有り得ない。

 

 

「───さて」

 

 今のうちにやっておかなくてはならない事がある。今夜行う清隆との作戦会議前に出来る限りのカードを揃えておかなくては。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「せーんぱい! ボクとデート行きませんか?」

 

 

 現在、部活動紹介で二年の覇者である南雲雅と、生徒会長である堀北学は出払っている。このチャンスを逃すつもりは俺には無かった。

 というわけで三年Cクラスへと凸った俺は先輩の女子生徒にアピールマシマシで話しかけていた。

 

 この時期の三年生は、卒業を前にAクラスとBクラスの接戦状態が続き、CとDは完全に蚊帳の外となっている。本人達もその事は理解している為、俺はBより下の生徒はAクラスでの卒業を半ば諦めているような状態ではないかと予測した。故に行動を一つ。

 CとDの中から如何にも遊んでそうで、それなりにpptを残していそうな生徒に一日遊ぶ代わりに一つお願いを聞いて貰えるよう交渉しに来たのだ。

 

 んあ? ナンパした側が条件付けられるなんておかしい?

 舐めんにゃ。俺はホワイトルーム産のイケメンチートオリ主だぞ。詐術や話術、人心掌握程度のスキルは当然持ち合わせているのだ(絶対無敵

 

 故に誘った側がある程度お願い出来るという状況も、容易に作り出す事が出来る。

 

 まぁ、遣り過ぎると制御不能になったガチ恋勢にぶっすり刺されてナイスボートに突入するかもだが、その辺りの引き際は見極めている。

 

 

 ...............いや、嘘です。ぶっちゃけいくらイケメンとは言え、ナンパなんてした事なかったからメチャクチャ緊張してました。だからこそ、相手は遊んでそうな人に限定したし、pptも余ってそうな人を厳選しました。いや、流石に金無い相手から貢がれるとか、怖いし申し訳ないし。

 相手も一日で終わる関係だと分かって割り切って遊んでいるような方を選出させて頂きました。

 

 ......だって、怖いし。

 ......あんま本気にさせても申し訳ないし(思い上がり

 女の子に泣かれた時の対処法なんて、ホワイトルームで教えてくれなかったし....。

 

 う、ううぅ。....なんか鬱になって来た。

 けど、どうしても必要な事だったんや。

 許せ、先輩。そして俺とデートしておくれ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 ─────三時間後。

 

 

「今日はありがとね~。楽しかったよ、蓮夜くん」

 

「あ、いえ、コチラこそ楽しかったデスマス」

 

「あっはは! なにそれ〜? ただ、自分からナンパするならもうちょいレベル上げしてからの方が良いかもね? 今度はエスコートしてくれる事、期待してるから♡」

 

「はいっす.......色々助かりましたです」

 

「ん。じゃあ“ソレ”有効活用してよね? この時期から動けるなんて、将来有望なんだから。大変だろうけど、頑張ってね? あ、空いてる日があったらまた誘ってねー♡」

 

 

 そう言って颯爽と去って行く先輩。

 それに対して頭を直角に下げる俺。

 はい。釣れました。ボクにもナンパ出来ました。

 目的の物も手に入りました。

 

 代わりに男としての自信を失いました。

 

 ああああああああああ!!! 恥ずかしい!!

 終始、女の子に引っ張って貰う俺、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!!!

 

 うぅ....いくらチート持ちでも所詮レベル1男の俺には上手く年上女子をエスコートする事など到底不可能だったらしく、終始先輩にエスコートされっぱなしで御座いました。なんか、レストランで椅子とか引いて貰った....。さり気なく疲れてないかと心配されたり、飲み物買ってきて貰ったり....。

 

 あの先輩、男慣れしてるってレベルじゃねぇぞ!

 なんであんな対人能力高い生徒がCクラスにいんだよ! どう考えても櫛田や一之瀬より支配力有りそうだったぞ!?

 

 

 ....ううぅ。まあ、いいんや。

 俺も良い経験をさせていただきましたし、三年生とのコネも手に入った。ご飯も美味しかったし、色々と有利になりそうな情報も仄めかして貰った。

 

 いや....考えてみれば俺しか得してねぇじゃん。

 ホント、ごめんなさいです。それとありがとう御座いましたです先輩....。ホント良い人で良かった....。

 

 

 そんな事を考えながら、俺はお土産として買って貰った紙袋からブツを取り出す。

 

 ブツ───最新機種の超高性能小型ボイスレコーダーである。お値段なんと十万弱。それが三つ。流石に悪いと思って止めようとしたら、チラリと見えた端末に、優に二千万以上のpptが表示されていて無理矢理黙らされました....怖い。なんなのあの人。俺が原作未読だっただけで、もしかして主要キャラの一人だったのか? ....分からん。俺がやろうとしてた事も見抜いてそうだったし....。

 

 ま、まぁバグキャラみたいな先輩の事は置いておいて、俺が手に入れたかったのはコレだ。

 “よう実二次創作”転生オリ主御用達のボイスレコーダー。もはやスターターセットと言っても過言ではないスタンダードアイテムである。

 いやホント、ボイスレコーダーとか持ってないだけで不利になるから。証拠能力無しとか、最悪詰むし。

 

 ただ、問題なのはこういったボイスレコーダーの様なダーティーアイテムを入学初期から買っていると、明らかに面倒な奴らから目を付けられる可能性がある事だ。シスコン生徒会長とか....担任クズ教師とか。

 三時間前にも言ったかもしれないが、この学校の教員と生徒会長にはかなりの権限が付与されている。

 個々人のテストの点数からプライベートポイントの変動まで丸わかりなのだ。

 これがもし生徒会だけだったり、担任教師が他の三名だった場合であるなら、個人情報保護の観点から全く問題は無かったのだが、うちの担任はあの“茶柱佐枝”である。絶対Aクラス上がるウーマンであるうちの担任に、初動でSシステムに気付いているかのような行動を見せるのは愚の骨頂だ。見せたが最後、教員という立場を笠に骨の髄までしゃぶり尽くされ、Dクラスの人柱にされる事間違いなしである。

 

 故にこのような手を取らせて貰った。

 俺の口座額を不自然に変動させられないのであれば、他人に買って貰えば良いのだ。これなら、俺の財布はダメージを受けないし、俺の持つ端末の購入履歴にも不審な物は残らない。

 

 本当であれば持ちうる才能と幸運の限りを尽くし、部活荒らしで荒稼ぎと行きたかったが、それは長くは続かないだろう。

 初動からニ、三年生に勝負を吹っかければ、二年全体を支配下に置く南雲雅と、ポイント遍歴の見れる会長、教師陣に目を付けられる。

 加えて、現在最もpptを持っているであろう三年のABクラスは丁度最終決戦の真っ只中であり、pptを毟り取ろうとしても途中で逃げられるのがオチである。最終決戦前に自分から軍資金を捨てるような無能は存在しないのだ。

 

 既存部活への多重加入と、新規部活の大量設立も同様の理由から現時点ではナシだ。

 やれば間違いなくAクラスには上がれるが、上がれるだけで、厄介事は増すばかり。

 Aでの卒業を考えるならば三年間の足枷にしかならない。

 

 

 

 故に、俺の思う初動での最も安全な最適解の一つとは、自身のpptを一切増やす事なく、Sシステムに気付いている事を隠しながらも、将来的にpptを大量に得られるよう間接的な舞台造りに勤しむ事なのだ。

 

 

 

 

 

 




原作一巻76ページ最後の行より、新部活結成には三人の部員が必要との記述から生徒側からの部活動設立は可能であると判断しました。
詳しい設立条件は不明でしたので、この小説では学年主任の認可と顧問の取り付けで設立可能としております。

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