ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが?   作:名無しのナナシ

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ヒロインが全員可愛くて素直だと思ったら大間違いだぞ

 ──息を潜める。

 

 声を出すな。呼吸音すら最小限に抑えろ。奴に見付かったが最後だ。

 そもそも何で奴がここにいる。誰にも言わずここまで一直線に進んで来たのに。いつの間に追いついて──いや、追い抜かれていたのか。

 次の町が目の前にあったというのに、その姿を見た瞬間反射的に近くの木陰に身を隠す。

 ああ神様ジラーチ様アルセウス様。どうか奴がこのままどこかへ行ってくれますように。

 全力で。冗談抜きに全身全霊をかけて本気で祈った。

 この世界には実際に存在する神だ。祈りさえすれば通じるはず。

 

「……なんかすぐ近くにユウキくんが来てる気がする」

 

 ファック。二度と神なんか信じるかバーカ。

 つーかなんでアイツはそんな事わかるんだよ人間辞めてんのか。

 

 内心でそんな悪態をついたところで現実は変わらない。奴がゆっくりとこちらに近付いてきた。

 さく、さく、と草を踏みしめる音。

 その音が段々と近付く度に心拍数が上がっていき、やがて俺の隠れている木陰のすぐ側で止まる。

 動悸が最高潮になる。心臓の音が外に漏れているんじゃないかと錯覚する程に煩く鳴り響く。

 一秒が永遠の様に長く感じられ、汗が滝のように噴き出し、それでも何も出来ずに俺はただギュッと目を瞑った。

 時間にしてどれくらいだっただろうか。きっと十秒も経ってはいないだろう。

 さく、さく、と草を踏みしめる音。

 その音が段々と遠ざかっていく。

 

 ──行った……か……? 

 

 恐る恐る草陰から顔をほんの少しだけ出してその場を確認する。

 奴の姿は無い。どうやら別の場所に移動したようだ。

 胸を撫で下ろし、溜まっていた息を盛大に吐き出した。

 

「──ぶはっ……助かっ」

 

「──みーつーけたっ」

 

「っ、うおおおぉぉぉおおお!?」

 

 息が止まった。心臓が今まで以上の強さで跳ねる。

 馬鹿な。何故逆方向へ向かったはずの貴様が裏に回っている!? 

 

「ユーウーキーくーん!!」

 

「うおおぉぉ抱き着くんじゃねえええぇぇぇ!!」

 

「そんな事言って〜。こんなにドキドキしてるクセに〜」

 

「擦り寄って来んなああぁぁぁ!!」

 

 そうして奴──つまりはポケモン世界におけるヒロインの一人。

 ホウエン地方を舞台としたRSE、もしくはORASのライバルポジションでもあるリボン巻きにした赤いバンダナがトレードマークのハルカに、俺は思いっきり抱き着かれた。

 

 

 * * *

 

 

 さて、何から話したものだろうか。

 とりあえず物凄く簡単に説明するなら異世界転生というやつだ。場所はポケットモンスター、縮めてポケモンの世界。

 理由も原因も知らん。ただ物心ついた頃には既に前世の事を朧気ながらに認識していたし、五歳くらいになるとはっきりと思い出せるようになっていた。

 ぶっちゃけ前世に関しては特に未練も……まあ無くはないが、戻れるかどうかでやきもきするより、せっかく生まれたんだからポケモン世界を謳歌しようという結論になったわけだ。

 そして前世ではいわゆるポケモン廃人と呼ばれる人種であった俺が目指すのは当然最強のトレーナーである。

 ゲーム知識を活用すればそれもきっと不可能では無いのではと、幼い頃からトレーナーになる日を楽しみにしていたのだ。まあそんな淡い幻想はとっくにアサギの海岸に投げ捨ててしまったが。

 

 というのもなんかこの世界、俺が思ってたのと少し……いや、全然違う。

 

 そりゃあゲームと現実じゃ全然違うのも道理なんだけど、それにしても知識がいまいち役に立たないのだ。

 もちろん全部が無意味ってわけじゃない。いわゆる三値はちゃんと存在してるっぽいし、タイプ相性なんかも一般人なら複雑で覚えにくいものだし、そういう情報面のアドバンテージはちゃんとある。

 けど『そこらのポケモン倒しまくって努力値稼ぎまーす個体値厳選の為にタマゴ生ませまくっていらないのは逃がしまーす』とか出来るかって話だ。

 

 無理だろ。ゲームじゃねえんだぞここ。携帯獣虐待の罪で捕まるわ。

 

 こういった事情で前世の知識で役に立つのなんてそれこそタイプ相性の関係くらいなわけで。

 何よりゲームに無かった技やら技術やらが当たり前のように飛び交っているような世界で、小手先の知識が一体どれ程の大きさを持つというのか。

 いつか見たセキエイリーグでの決勝戦なんて自らが“りゅうせいぐん"と化して“しんそく"で突っ込むカイリューがいたんだぞ。おかしいだろ。

 そりゃ条件とかあるけどさぁ……そういうのも含めて前世の知識がまるで通用しない。

 それにゲームの対戦ですら技一つ決定するのに一分近く考える事もザラなのに、バトルコート内を縦横無尽に動き回るポケモンに数秒で状況を判断して指示を出すなんて無理な話過ぎる。

 そんなこんなで最強のトレーナーになるのは早々に諦めた。まあ最強を目指すのはやめるにしても、それならそれでポケモンを愛でる方向にシフトすればいいかと思ったんだ。バトルは趣味程度に嗜んで、好きなポケモンを一、二匹捕まえて食わせてやれればいいかと。

 

 ホウエンに招集食らった。

 親父がセンリだった。なんでと思ったけどよくよく思い出してみればあの人元アサギ住みだったわ。

 

 だって当時はポケモン世界にテンション上がってて細かいところは考えなかったし……そもそも物心ついた頃には親父とっくにホウエン行ってたし……。

 単身赴任って情報だけでセンリなんてわかるわけないじゃん……電話で会話した事ある程度だぞ……。俺の名前にしたって別にそんなに珍しいわけじゃないしわかんねえよ……。

 要するに俺はRSE、あるいはORASの主人公ポジ(ユウキ)だった。戦いの運命から逃れる事叶わぬ。

 別に逃げりゃいいじゃんって話だけど、それをやったら世界が終わるから無理なんだよな。

 

 何故かってグラードンとカイオーガのせいだよクソったれが。

 

 アイツらはマジでヤバい。一般ポケモンですら人智を超えた能力を保有してるのに、伝説のポケモンがゲーム通りのスペックなわけがない。

 まだちょっとRSEかORASかは判断ついてないけどORASだったら本当に大変な事になる。

 ゲームじゃ所詮テキストでしかなかった世界丸ごと干上がらせたり海に呑み込んだりというカタログスペックをそのまま実現しかねないのだから。

 故に絶対にアイツらを復活させるわけにはいかない。死ぬ気で悪の組織──マグマ団とアクア団をぶっ潰さないといけないわけだ。

 

 ちなみにグラカイを直接なんとかするのは無理だ。蘇ったら詰みと思っていい。

 

 ジムリーダーとか四天王に任せるって手も考えたけどあの人たち基本的に持ち場から離れられないし、そもそも悪の組織の情報を伝えたところで『なんでお前がそれを知ってるの?』ってなる。

 実は俺転生してて未来の事がわかるんですとか言っても相手にされないだろう。だから自分が動いて潰すしかないと思ったわけだ。本当に嫌だ。

 というわけでホウエン移住が決まった瞬間から組織壊滅RTAよーいスタートなわけだけど、とりあえずお隣さんに挨拶してこいって母様が仰りましたのでヒロインの顔を拝んでおこうと家に行った。

 もちろん可愛いかった。当時何人の男子がこの子にガチ恋したんだろうね。俺も危なかった。

 で、この後オダマキ博士がポチエナに襲われる予感(予定)があったから挨拶もそこそこに家を出ようとした、その時だった。

 

「ユウキく──────ん!!」

 

「なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 思いっきり抱き着かれた。ちょっと胸当たった。柔らかかった──じゃなくて、原作のハルカこんなんだったっけ? 

 確かに友好的ではあったけどこんな好感度カンストしてるみたいな振り切り方はしてなかったはず。

 

「ユウキくんユウキくんユウキくん……!」

 

「なになになに!? どういう事!?」

 

 何故かずっと抱き寄せられる。なんか頬擦りされるし。何これ現実のハルカさんこんなんなの!? ちょっと怖いんですけど!? 

 

「会いたかったよ……ずっと一緒にいようね……うふふ……」

 

 耳元で囁かれたそのセリフで俺の中の警鐘が最大音量で鳴り響いた。

 ハルカの腕を振りほどいて押し退け──怪我しないようにベッドに倒れるようにした──ガンダッシュで階段を駆け下りる。

 アイツヤバいだろ! なんか背筋がすげぇゾワッとしたぞ!? 

 あまりの様子にハルカの母親から心配されたが『大丈夫です! 何も無かったです!』と押し通して急いで家を出た。

 そのまま101番道路に向かってひた走り、なんか博士が襲われてたからカバンの中身を漁ってキモリでポチエナを追い払った。色々と必死だったのでバトル中の事はあまりよく覚えていない。

 

「いやー、調査に出たら襲われてしまって。助かったよ、ありがとう」

 

 そうお礼を言ってくるのは、この地方でいわゆる御三家をくれる博士ポジションにしてハルカの父親のオダマキ博士だ。

 服装は白衣に短パン、顎髭を生やした小太り気味のこの人には少し抜けている印象を受ける。

 毎度思うけど草むらに入ったらポケモンが出るって常識なのに、なんでこの人は対抗手段を持っていないんだろうか。

 

「手持ちはどうしたんですか。まさかこの三匹がそうとか言わないですよね?」

 

「はは、普段はハルカがいるし僕はバトルは苦手だから……」

 

 などと言われてしまえば妙に納得してしまう。確かにこの人がバトルしてる様子は想像出来ない。

 

「それより、君はユウキくんだね? 大きくなったみたいじゃないか」

 

「面識ないですけどね」

 

 オダマキ博士は親父(センリ)と旧知の仲である。だから俺の事も時々話題に出ていたらしい。

 

「何でも天才児なんだってね。さっきのバトルも見事なものだったよ」

 

「過大評価もいいところですねぇ……」

 

 なんでこんな評価を貰っているのかといえば、まあ前世の知識のせいだ。

 他の子どもに比べれば明らかに知識があったし、それこそタイプ相性なんかもスラスラ言えたものだから、母さんは親父に送る用のビデオを撮りながら大喜びしてたっけ。

 思えば『あの人に似て将来は立派なトレーナーになるんだわ』とか言ってた時点で勘づくべきだった。調子に乗ってる場合じゃないぞ過去の俺。

 

「まあこんなところで話もなんだし、一度研究所に来てくれないかい? ハルカーーああ、うちの子も君に会いたがっているんだ」

 

「……あー、俺このまま旅に出たいなーなんて」

 

「旅をしたいのかい? なら尚更研究所においでよ。ポケモン図鑑をあげよう」

 

 どうあっても逃げられないらしい。

 ……まあ冷静に考えてこのまま旅なんて到底無理だろう。旅の準備もしてないし、まだ手持ちもいないし次の町(コトキタウン)まで辿り着けるかどうか。

 仮にこの時点でキモリを貰えたとしてもポチエナとの戦闘で消耗してる以上は引き返すしかない。

 ……でもあのハルカにはあんまり会いたくないな……。

 

 

 * * *

 

 

 それでまあ、無事キモリとポケモン図鑑は貰えた。

 研究者内にいたハルカは相変わらず謎にめっちゃ笑顔だったし、親の目の前だというのに抱き着いてきた。

 それを見た博士も博士で『おお、もうそんなに仲良くなったのか』などとほざく。お前年頃の娘が他所の男に抱き着いてるの見てそれでいいのか。

 頬を擦り寄せてくるハルカをなんとか引き剥がす事に成功したが、研究所を出て家に戻ろうとした時もずっと後をつけてくる。なんでこの子ずっと笑顔なんだよ怖ぇよ。

 このまま行くと家の中まで入って来られそうだったので振り返って質問。

 

「……なんか用?」

 

「んー? いやー、友だちが出来て嬉しいなーって」

 

「そうですかい……」

 

 本当に心底嬉しそうに話すハルカ。なんでこんなクソデカ感情ぶつけられてんの俺。全然わからん。

 

「俺この後身支度整えたらそのまま旅に出るつもりなんだけど」

 

「そう? じゃあついていくね!」

 

 正気かコイツ。

 

「いや、図鑑完成の為にはお互い別々の場所に行った方がいいんじゃないかなー」

 

「えー? でも一人旅は危ないよ? だからあたしがサポートしてあげる!」

 

 ハルカが任せてとでも言うようにドンと胸を叩く。

 旅の間は四六時中一緒にいろと? 絶対嫌だが?

 

「大丈夫だって。それに一人旅云々はお前に言えた事じゃないだろ。昔から一人でフィールドワークしてたって博士から聞いたぞ」

 

「ありゃ、バレてる」

 

 よし、と心の中で拳を握る。尤もらしい理由を付けたつもりだろうがそうはさせん。

 

「だから俺が一人で旅するのも何も問題は無いはずだ」

 

「むー……じゃあじゃあ、あたしが一人なのは心配じゃない? ほら、あたし女の子だよ?」

 

 昔から一人でフィールドワークやってたって今言ったばかりだろうが。

 ……と言いそうになったが、考えてみれば女の子の一人旅って普通に危ないよな。

 ハルカは見た目も相当に可愛いし変な輩に付きまとわれる可能性は充分にある。

 ゲームでこそそんなR指定の展開は無かったがここは現実だ。何が起こっても不思議はあるまい。

 かと言って中身が異常な人間を連れ歩こうとも思わない。さて、どうしたものか……。

 

「んー……あ、そうだ」

 

 と、ここでハルカの閃き。

 

「バトルで決めようよ。あたしが勝ったらユウキくんが心配だから付いてく!」

 

「俺が勝ったら?」

 

「か弱いあたしを守る為に付いてきて?」

 

「ふざけろ」

 

 女子とはいえそろそろ手が出るぞ。

 

「ぶー……半分冗談だよー……」

 

「半分本気なんじゃねえか」

 

「ユウキくんが勝ったらお互い違うところで図鑑完成を目指そう。それでどう?」

 

「それなら──」

 

 いいぞ、と言いかけて慌てて口を抑える。

 これは罠だ! 

 

「いや待て。お前はずっとフィールドワークしてたんだよな? ならポケモンもそれ相応に強くなってるはずだ」

 

 まさか今まで一度も野生のポケモンと遭遇しなかったわけがあるまい。普通にレベル三十とか繰り出してきてもおかしくないのだ。

 そんなものを出されては勝負になるはずもない。

 

「博士から貰ったポケモン同士で勝負だ。それで対等と言えるだろう」

 

「あっ、それなら大丈夫! そう言われるかもと思ってもう貰ってきてるから!」

 

 準備いいなコイツ。

 まあそれなら条件は同じだろう。お互い初期レベル同士だから抜群技は無いはずだし、泥臭い殴り合いになるはずだ。

 向こうの方がトレーナー歴が長い分不利だが、そこは気合いで何とかするしかない。

 

「じゃあ本当にそれでいいね?」

 

「ああ。男に二言は無い」

 

「もう取り消せないよ?」

 

「もちろんだ。だからお前も絶対に約束守れよ」

 

「うん!」

 

 よし、条件は呑ませた。こっち不利でもやるしかない。

 大丈夫だ、俺は主人公。こういう時は運命力が勝たせてくれるはずだ。何故なら俺は主人公だから。ゲームだと普通に負けあったけど大丈夫だ。

 ミシロタウンの外れにあるバトルをしても問題無さそうな場所に移動し、ボールを投げて。

 

「いけっカイン!」

 

 ニックネームを付けたキモリ──カインを繰り出す。

 

「死ぬ気で勝つぞ! ここで勝てなきゃ未来は無いと思え!」

 

「キャモっ! ……キャモっ!?」

 

 なんか二度見してきたけど俺はマジで言ってるからな。あのハルカと一緒に旅するとか怖過ぎる。

 ……って、そういえばハルカの手持ちってどうなるんだ? 一緒に選んだわけじゃないから絶対に不利相性取る相手ってわけでもないだろうし。イメージ的にはアチャモだけど。

 

「お願い! ちゃも!」

 

 なるほど、ニックネーム的にやはりアチャモか。まあここは仕方ない。今後どこかでぶつかる可能性を考慮してどこかで『みず』タイプのポケモンを捕まえると──

 

「──シャアアアアアッ!!」(バシャーモ登場)

 

「は?」

 

 なんで? 

 

「ふざけんなっ!? 博士から貰ったポケモンって言ったじゃねーか!」

 

「ちゃんとお父さんから貰ったポケモンだもーん。()()()()()かは言われてないしー?」

 

「屁理屈だっ!!」

 

「男に二言は無いんだよね? いざ勝負!」

 

「勝てるわけ──いや俺は主人公! ここで勝って未来を掴んでみせる! 行けぇカイン!」

 

「き────キャモォォォォォォ!!」

 

 どう考えても無茶な俺の命令に従い、勇敢にバシャーモに立ち向かっていくキモリ。その意気や良しとバシャーモが全力で迎撃の態勢を取っていた。

 当たり前だが勝負には負けた。

 無効試合を主張したが『ちゃんと条件通りに戦った』『約束は守るもの』と押し切られた。確かに言葉には何一つ嘘がなかった。ただ真実も言っていないだけで。

 俺は慟哭した。こんな理不尽があっていいのかと声の限り叫んだ。

 満足気な表情でひらひらと手を振り『明日家まで迎えに行くね』と去っていくハルカを横目に見ながら、俺はとぼとぼと家路に着く。

 旅の支度を終え、風呂に入り、晩御飯を食べて就寝。

 そして次の日の早朝、家の前に誰もいないのを確認して俺は急いで家を飛び出した。すぐにコトキタウンへ向かえばハルカと鉢合わせる事は無いだろうと。

 

 その後の恐怖体験に本気で怯えたのは言うまでもない。

ふと思ったけどこれヤンデレタグいる?

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