ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
ムロタウンとはどういうところぞや、と道行く人に聞いてみれば大抵は『離島』『田舎』『秘境』といった答えが返ってくるだろう。
基本的にはバッジを集めるトレーナーか余程の物好きでなければこの土地に足を運ぶ事はまず無いと言っていい。
理由は至ってシンプル。何も無いから。
本当に何も無いのだ。
もちろんゲームと同じようにポケモンジムはあるし、それなら当然ポケモンを回復させるポケモンセンターもある。
ただそれ以外が何も無い。フレンドリィショップすら無い。民家か個人経営の八百屋や薬局、それくらいだ。
娯楽施設なんて皆無だし、やれる事と言えば石の洞窟探検か釣り、もしくはサーフィンくらいのもの。強いて言うなら格闘家には密かに人気があるらしいという事くらいか。
ルネ程ふざけた立地ではないが、それでもわざわざここに足を運ぶ者は皆無に等しく、この過疎っぷりはミシロのそれと近しいものがあった。
ではそんなムロタウンで俺は何をしているかと言うと。
「うええ……気持ち悪い……」
「ジュ……」
「よしよし、ゆっくり休もうねー」
弁解させてもらうと、ハギ老人の運転が非常に荒かった。
ハンドルを握ると人が変わる、という人がいるだろう。ハギ老人はそのタイプであり、船に乗るなり『ブッチ切るぞい!』とアクセル全開で船を発進させたのだ。
最初は楽しかった。潮風を切って海を渡る爽快感は初めての経験でめちゃくちゃワクワクした。
だが数十分後には身体が変調を訴え始めてきた。何の事はない。ガンガンに揺れる状況に身体が対応出来ず、船酔いという症状を起こしただけだ。
その状態がだいたい三、四時間くらい? まあとにかく長く続いたわけで。
現在俺は非常にグロッキーなのである。意地でも吐かなかった自分を褒め讃えてやりたい。
「というかハルカはなんで平気なんだよ……」
「あたし? あたしはほら、普段から“なみのり"とか“そらをとぶ"とかで慣れてるから」
「ああそっか……トレーナーならそうだよな……うっぷ」
ポケモンに乗って移動する時というのは、余程訓練されてない限り思いっきり揺れる事を想定しておかなければならない。
当然だ。自然界で乗り手を意識してのんびり動く余裕なんて存在しない。速度を出すなら相応に揺れもする。
ラプラスとか一部のポケモンはこちらを意識してくれるものの、基本的には動きが荒いのだ。
……これを考えると後の飛行手段にチルット──というかチルタリスを選んでよかったと思う。比較的穏やかなポケモンだから安全運転を心掛けてくれそうだし。というかそうしてもらうように育てると今決心した。
「これから少しずつ慣れていけばいいよ。酔い止め買ってくるから待っててね」
ひらりと手を振ってハルカが部屋を出て行った。
身体が弱った状態で取り残されると少々心細い。絶対に口には出さないけど。
テーブルの上に置かれたタマゴに視線を移す。
「そろそろ孵ってくれないかなー……」
ハルカの言だとポケモンのタマゴは個体次第ではあるが、平均して一週間程で孵るらしい。だから今日明日には生まれてくるんじゃないかと期待してるんだけど。
なんて思ったその時だった。
──ぴきっ。
「ん?」
──ぴきぴきっ。
「えっ、ちょっ、マジで!?」
* * *
「ただいま〜──って、あれ? その子……」
「おう、おかえり」
「ちる〜♪」
ハルカが買い物から戻るなり変化に気付いた。いやまあ、気付かない方がおかしいんだけど。
「生まれたんだね、チルット」
「みたいだな。にしても──」
ハルカから酔い止めと水を受け取りながら、俺の腕の中でニコニコしているチルットを見やり。
「まさか
本来のチルットは身体の色が青色だ。だけどこのチルットは黄色い。つまりは文字通りの色違い。
ゲームにおいても実装されており、色違いが見つかる確率はなんと約四千分の一である。色々条件を満たせば見つかる確率を上げる事も出来るけど、それはさておき。
「珍しいね。色違いなんて滅多に生まれないのに」
ハルカがつんつんとチルットをつつきながら言う。既にホウエン各地を旅して回っていたハルカが言うならそうなのだろう。
さて、ゲームにおいて色違いとは単に珍しいというだけの存在だ。
珍しいからといって能力に変化があるわけでもないし、ぶっちゃけ労力に対してリターンが無い。だからこれは趣味の領域の話なのだ。
ではこの世界においてはどうだろうか。
珍しさはゲームのそれと比較にならない。仮にオークション等に出せば莫大な金が動くだろう。もちろんそんな事はしないが。
特筆すべきはその
「ちょっとパチパチするね。『でんき』タイプ持ちかな?」
「調べてみたらそうだった。こうなるんだな」
生まれたチルットの図鑑情報は以下の通り。
【種族】チルット
【タイプ】ノーマル/でんき
【レベル】1
【性格】おだやか
【特性】ノーてんき
【技】つつく/なきごえ/でんきショック
そう。『ノーマル』と『でんき』。
本来チルットは『ノーマル』『ひこう』なのにタイプが変わっている。
これがこの世界における『色違い』という特異性を持ったポケモンが実際に起こす変化だ。
ただ、ゲームでなくともこういうタイプ変化を起こす現象は一応知ってはいる。
「デルタ種……ってやつか?」
ポケモンカードに設定として存在したホロンと呼ばれる地域がある。その特殊な地域に生息するポケモンは本来のものと違うタイプを獲得する事があるという。
そして調べてみたらこの世界でもホロンは存在していた。だからこれもそういった変化かと思ったんだけど。
「よく知ってるね。でも違うと思う。あたしもあんまり詳しくないけど、あれは特殊な磁場に影響を受けた結果だから。この子はタイプの変化がそのまま色に出た感じじゃないかなー」
「そうなのか? まあその辺の話は後で博士にでも聞いてみるか」
少し驚いた様子のハルカの説明にとりあえず納得する。
……にしてもこれはちょっと計算外だ。
ムロジムは『かくとう』タイプのポケモンを主軸にしてるから『ひこう』タイプのポケモンなら有利に戦える。
だけどこのチルットはよりにもよって『ひこう』を無くして『でんき』タイプを獲得してしまっている。どうして『ノーマル』の方を無くさなかったのか。これでは『かくとう』技が抜群で入ってしまう。
強いて言うなら通常じゃ覚えない“でんきショック"を覚えてるのが利点か? 一応俺のパーティ初の遠距離技でもある。
でもチルットって確かちょっと育てれば“チャームボイス"覚えたよなぁ……。“でんきショック"はいらない子になりそうな予感。
多分“でんじは"とかの搦手は覚えてくれる気がする。後で試してみようか。
「お前、飛べるか?」
「ちる?」
チルットの身体を持ち上げて飛ぶよう促してみる。タイプはともかく種族としての本能は失われてないと思うけど。
チルットが綿のような羽を広げる。そうしてパタパタと羽ばたけば、緩慢な動作なれどもちゃんと宙を飛び始めた。
「おお、飛んでる飛んでる」
「かわいいー♪」
ただ、まだ生まれたばかりだからか、それともタイプから『ひこう』が失われてしまったからか、飛ぶのには慣れてないようで十数秒程度で羽ばたくのをやめてしまった。まあこれは訓練すればなんとかなるだろう。
落下を始めるチルットを優しく受け止めてやる。
「頑張ったなー、偉いぞー」
「ちる♪」
頭を撫でてやると嬉しそうに一鳴きするチルット。とてもかわいい。
「これでカインも先輩だな。仲良くしてくれよ?」
「ジュッ」
ほれ、とカインの頭にチルットを乗せる。なんか綿で出来た帽子被ってるみたいになった。
「『ひこう』タイプは無くなったけど飛ぶのに問題は無さそう、と。だったら『じめん』技はそこまで気にしなくていいか?」
「普通に使われる分にはそうだね。まあ飛んでる相手に『じめん』技当てる方法なんていくらでもあるけど」
「……知ってる」
当たり前だけどいくら『じめん』技をぶっぱなされようと当たらなければ──つまり地に足をつけてなければ影響は受けない。だからチルットが飛べるなら弱点が一つ消えているようなものなのだ。
そんな当然の理屈があるから、ゲームだととりあえず覚えさせとけレベルの汎用技であった“じしん"がこの世界だとかなり使いにくい部類になってる。
そりゃそうだ。ジャンプすりゃ避けれるもん。着地狩りには滅法強いけどそれくらい。あと地形的な意味で範囲が優秀。
まあこれは普通に使うならの話で、例えば直接相手をぶん殴って“じしん"のエネルギーを叩き込めば関係無い。“じしん"が地面を揺らさないと使えないなんて誰が言った?
閑話休題。とりあえず飛べるなら十分。『ノーてんき』なのもグッド。これで一応グラカイにも多少は抗えるだろう。
「後は……名前か」
少し考え、前世でも使っていた
「……よし。フォルテ──でどうだ?」
「ちる? ちる!」
「……わからんけど『良い』って言ってる事にしよう」
笑ってるし多分大丈夫だろう。
「んじゃどう育てるかだなー。チルタリスは色々出来るから悩む」
チルタリスはやや受け寄りの平均的な種族値をしているが、攻撃性能も決して低くはないので何をやらせても一定以上の成果を挙げてくれるオールラウンダーだ。
ぶっちゃけゲームのガチ環境だと他のドラゴンに押されてほとんど使われなかったけど、この世界なら無限に戦法があるから初見殺し要因になり得る。
何してくるかわかりやすいポケモンより色々出来るポケモンの方が怖いんだよ。対処が遅れたらその時点で一手許す事になるからな。
種族値で劣っていても育成次第では大化けするのがこの世界だ。
「んー……あたしは今育て方を決めるのはオススメしないなー」
「え? なんで?」
こういうのは早めに構想を練っておくのがいいと思うけど。
「ユウキくんって最終的なパーティはどうするか決めてる?」
「いや、まだだけど……」
「
頭にハテナマークを浮かべる俺にハルカがレクチャーを開始する。
「基本的に育成はパーティ単位で考えた方がいいよ。もちろん漠然としたイメージはあってもいいけど、それだとどうしても個の強さにしかならない事が多いからね」
「えっと……つまり?」
「手持ちを揃えてそれぞれ何をさせたいかを考えてから育成した方がパーティとしての完成度が高くなるって事。特にチルタリスはそうだと思うよ」
言われて少し考えてみる。
確かにチルタリスは単体で強いポケモンじゃないだろう。どちらかと言えば味方と連携するようなイメージがある。
そう、例えばクッションとしての役割だとか、エースの圏内に入れる削り役だとか。
もちろんチルタリスをエースに据える構築もあるにはあるけど、そうだとしても単体で全抜きするような性能は流石に持ってない。どちらにせよ味方のサポートがいる。
となると──。
「ざっくりとだけ考えて、最終的な調整はフルメンバー揃えてからの方がいいって事か」
「そうそう。あ、でもエースにするなら決めちゃってもいいよ。エースのやる事は基本的にどんなパーティでも変わらないから」
エース──つまりはパーティの中核で、相手を打ち倒す事を主軸に置いて育成される存在だ。
単純に強いポケモンが担う事もあれば、その人が好きなポケモンが担う事もある。
では俺にとっての将来のエースとは誰になるのか。
視線を横に向ける。その先には
「なら、俺のエースは──カインだ」
これはキモリを選んだ時から決めていた事だ。
例えこの後どんなポケモンを手持ちに加えたとしてもそれだけは絶対に変わらない。アタッカーは増やすかもしれないけど最終的に頼るのはきっとこいつになる。
「まだ短い時間しか一緒にいないけど……それでも、最後を任せるならカインがいい」
別に全抜きしろとかそういう話じゃなくて、もっとこう、こいつになら全てを託してもいいと思える相手。そういうのが多分エースなんだと思う。
「なんだかんだカナズミジムでもこれ以上無いくらい活躍してくれたしな。これからもよろしく」
「ジュ……! ジュプ────ッ!」
「うぉい!? いきなり飛びつくな危ないだろ!?」
感極まったカインが団扇を放り投げて飛びついてきたせいでベッドに倒れる。キモリの時ならともかく、ジュプトルになった今は普通に重いから支え切れない。
「あたしもー!」
「なんで!?」
どさくさに紛れてハルカまで抱き着いてきた。最近ちょっと頻度減ったと思ったのに!
「離れろバカ!」
「ひどーい。夜は抱かせてくれるのにー」
「あれは許可したんじゃなくて諦めたんだ! 毎日毎日潜り込んで来やがってからに! あとその言い方やめろ! 絶対外でするなよ!?」
万が一にもこんなセリフを外で聞かれたら俺の評価は絶対零度よりも更に下回る事だろう。
いやこの言葉を鵜呑みにする大人がいるとは思わない……というか思いたくないけど! でもやめろ!
「重い! 潰れる!」
「あー、女の子に重いとか言っちゃいけないんだー」
「二人分の重さが掛かってんだから仕方ねぇだろうがあぁぁぁぁ!!」
そんな俺の叫びが部屋内に響き渡った。
評価や感想、批評等お待ちしておりマース。
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よりにもよってムロジム前に希少性と引き換えに格闘耐性を失った
一応色違いなら全員タイプ変化があるわけじゃないってのは言っておきます。ちなみにデルタ種との違いはタイプが体の色に表れるか、オーラとして纏うかです。
ここから本編とはあんまり関係無い雑談。
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