ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
ラルトスというポケモンがいる。
主にポジティブな感情を好み、そういった感情を抱いている者の前に姿を現すという習性を持ったポケモンだ。
ではどうやってそれを判断しているのかといえば、頭から生えた赤い
今回の人探しならぬポケモン探しでは、この能力を活用出来ると思った。
例えば、いつも一緒にいた誰かと離れ離れになってしまったらどうするだろうか。
寂しかったり、悲しかったり、怒ったり、泣いたり。反応は人によって違うと思う。だけど何かしらの反応はあるだろう。
そしてそれは互いの仲が深ければ深いほど、離れた時に感じる気持ちも大きくなるものだ。
少なくとも平常時より発する波は大きくなるはず。そういった強い感情の大元をラルトスに探ってもらった。
「……やっと見つけたぞ」
「フィッ!?」
言うほど簡単じゃなかった。
元々ラルトスが好むものとは真逆の感情をキャッチする事でラルトスには負担がかかるし、ネガティブな感情を発している人やポケモンなんてこの大都市なら一人や二人では済まない。
それでもポケモンが隠れられそうな場所に絞ったり、
キンセツシティにいくつもある路地裏の一つ。その奥にクレッフィは隠れ住んでいた。
「よし、それじゃあ話し合いを──」
「──さあ、鍵を返してもらうよ! ラルトス!」
「らる!」
「フィッ!?」
するか、と言い終える前にミツルくんが意気揚々と前に出てラルトスをけしかける。
ちょっ、荒事にするつもりは無かったんだけど!?
「“ねんりき"だ!」
「らるっ!」
「フィッ……フィ〜ッ!!」
「あっ!? 逃げた!?」
ラルトスの“ねんりき"が発生する前に不利と判断したのか、即座に背を向けて飛び去ろうとするクレッフィ。
まあこっち大所帯だし、どう考えても勝てないだろうからその判断は正しいんだけども。
「テッセンさん!」
「うむ! ジバコイル!」
「ジジッ!」
“じりょく"
「フィッ!?」
テッセンが繰り出したジバコイルの磁力に引かれ、クレッフィの身体がガッチリと固定される。
やっぱ持ってたかジバコイル。だから最悪逃げられそうになっても大丈夫と思ってたんだけど……あんまりよくないなぁこれ。
「フィッ、フィ〜ッ!」
じたばたともがく……動けてないけど、多分もがいているクレッフィ。だいぶ興奮してるみたいだ。
この状況じゃ無理もないな。よく見れば身体中が汚れてボロボロだし、色々と極限状態だっただろうところに攻撃という爆弾を投下されたんだから。
「攻撃して悪かった。でも落ち着いてくれ。別にお前をどうこうしようってわけじゃない。ペラップに頼まれてお前を探しに来ただけなんだ」
「フィ……?」
ぺラップ、という単語でクレッフィが少し落ち着きを取り戻す。
そうして後ろからチョウチョウが姿を見せ、それを確認したクレッフィが目を見開いた。
テッセンさんに言ってクレッフィを解放してもらうと、すぐに逃げ出すような素振りは見せずにその場に留まる。
「ほら、話してきなよ。俺らは向こうで待ってるから。あとこれクレッフィに」
「アリガトウゴザイマス。デハノチホド」
まずは当人同士で話すのが一番だろうと『オボンのみ』を渡し、二匹を置いて路地裏から少し離れる。
とりあえずチョウチョウのお願い事は達成出来たかな。
「いいんですか? また逃げるかもしれませんよ?」
ミツルくんの問い。
まあ、それは俺もちょっと思わなくもないけどさ。
「んー……多分大丈夫だと思うぞ。見た感じ随分疲労してたし敵意が無い事も伝えた。それに本気で逃げる気なら、とっくにこの街からいなくなってただろうからな」
実際テッセンが鍵を盗られてから数日が経ってるらしいし、例え一匹でもその間に街を出る事は出来たはずだ。
それをしなかったのは、まあ体力面の問題とかもあったかもしれないけど、何よりチョウチョウと離れるのが嫌だったんじゃないかな。
「あたしもそう思う。きっと本当は仲直りしたくて、でも勇気が出なかったから隠れてたんだよ。ずっと仲良しだったのに、離れ離れになるのは悲しいもんね」
ハルカの言葉に頷く。
上手く仲直り出来てるといいけどな。
「さて、と。ミツルくん」
「は、はい」
ミツルくんの肩に手を置けば、ビクリと肩を震わせた。
お説教……ってほどでもないけど、ちょっとばかし伝える事がある。
「なんでクレッフィに攻撃を仕掛けた? 焦る必要は無かったろ?」
「あう……だ、だってすぐに逃げちゃうと思ったから……」
「だから一回戦闘不能にしようってか? それはちょっと好戦的過ぎると思うなぁ」
元来ミツルくんは優しい性格で、積極的に相手に危害を加えようとはしないはずだ。それがああも短絡的な行動に出たのは、中途半端に自信を付けてしまったせいか。
実際、ゲームでもこの街で会った時のミツルくんはかなり気が大きくなってるみたいだし、それがそのまま反映されてしまった結果だろう。
主人公とのバトルでクールダウンって過程が無かったからなぁ今回……。
「ご、ごめんなさい……」
「いやぁ、別に怒ってるとかじゃないんだよ。ただまあ、もう少し余裕を持って相手を見るのも大事だよって言いたいだけ」
そりゃトレーナーの本分はポケモンを闘わせる事だけど、闘わずに済ませられるならそれに越した事はないと思う。
呑気にしてたら先手を打たれたって事も往々にしてあるから、一概にミツルくんの判断が間違ってたとは言えないんだけどね。
「ま、ちょっとずつ覚えればいいさ。俺だってハルカに比べたらまだまだ全然初心者だしな。少しは先輩ぶらせてくれ」
なんて冗談めかして言ってみる。
実際こういう事を言うならハルカが言った方がよっぽど説得力あるしな。
「……ユウキくんってあれだよね。時々ベテラントレーナーみたいな風格出すよね。ホントに新米トレーナーなのかわからなくなる時があるよ」
「そうか? 思った事言ってるだけなんだけど」
微妙に核心を突いたような事を言われたので適当に誤魔化しておく。
現実のものでこそないものの、ポケモンってジャンルに触れてた時間は今のハルカとそう変わらないだろうしなぁ……。
見た目は子ども、頭脳は大人を地で行ってるわけだし、考え方が多少子どものものと乖離してしまうのはあるかもしれない。
「そうか……ポケモンを闘わせるだけがトレーナーじゃないんだ……。ありがとうユウキさん。ぼく、少しだけ大事な事がわかった気がします」
「そりゃよかった。お互い立派なトレーナーになれるよう頑張ろうぜ」
「はい!」
うんうん、ちょっと暗い顔させちゃったけどやっぱりミツルくんは笑ってる方がいい。
その方がラルトスも喜ぶし、あんまり思い詰めずに気楽に考えてくれると嬉しいかな。
「オマタセシマシタ」
会話が一区切りついたところで、丁度よくチョウチョウが戻ってきた。
話し合いが終わったかな?
「おかえり。どうなった?」
「ブジ、ナカナオリデキマシタ。ミナサンノオカゲデス」
「おー、それは何より」
よかった。ここまできて仲直り出来ませんでしたは悲しすぎる。苦労した甲斐があるってもんだ。
いやまあ頑張ったのほとんどミツルくんのラルトスだけど。
「ゴメイワクヲオカケシマシタ。カギモカエシマス。……ペラッ」
「フィ……」
チョウチョウに呼ばれてクレッフィがおずおずと後ろから出てくる。
そして鍵束の中にある、あまり見慣れない形をした鍵をテッセンに差し出した。あれがジムの鍵なのだろう。
「フィー……」
「うむ、確かに。しかし珍しい鍵を集める習性か……スペアがあれば渡してもよかったんじゃがのう……」
鍵を受け取りながらテッセンが頭を搔く。
こういうところにも人の好さが表れてるけど、クレッフィが犯行に及んだ原因は『唯一無二のレア性』にあったんだろうし、スペアがあるならここまでの事態にはならなかったかもしれない。
そも、スペアの有無をクレッフィがどうやって確認するのかというのは置いておくとして。
「今後も繰り返す……って事はないだろうけど、我慢し続けるのはちょっと大変かもね……」
ミツルくんのおじさんが言った言葉にその場のみんなが唸る。
こればっかりはどうしようもないからなぁ……本能みたいなものだからずっと抑えてたらいつかまた爆発するだろうし。
「定期的に新しい鍵を作って渡す……とか?」
「一番手っ取り早いのはそれじゃが、あくまでも野生のポケモン一匹の為にそこまでやるのものう……」
ミツルくんの提案は却下されるが、これはテッセンが正しい。
これはケチとか冷たいとかそういう問題ではなく、単純に野生の領分に踏み入る事になるからだ。
外で一緒に遊んだり、食べ物なんかをあげたりするのはまだいい。けど、そのポケモン一匹だけを特別扱いするのはダメだ。
それをやってしまうと他のポケモンまで同じ待遇を受けようと押し寄せてくる、という事態にもなりかねない。
この現象が起こる原因に、野生同士にのみ通じるネットワークのようなものがあるのではないか、と推測されているんだけどそれはいいとして。
とにかく、このクレッフィだけを特別扱いは出来ないのだ。
「ねえテッセンさん。この子たちってバトルとかするんですか?」
と、ここでハルカの問い。
「んむ? いや、見た事ないのう」
「そっか。だからかも」
「だから……って、どういう事ですか?」
ミツルくんが不思議そうな顔をしている。
なんとなくハルカの言いたい事がわかってきた。テッセンさんもピンと来たようで、なるほどと頷いていた。
「クレッフィの習性は鍵を集める事……言ってみれば、これは本能的な行動なんだよ。そしてポケモンの本能はもう一つあるの。これはわかる?」
まるで授業のように問いかけるハルカに、ミツルくんは少し考えて。
「……あっ! 闘う事ですね!」
「正解! 本能っていうのはつまり欲を満たす為の行動なんだけど、クレッフィはバトルで補えなかった分の欲を鍵を集める事で満たしてたんじゃないかな?」
こういう知識は流石というか、ポケモンを調べてたハルカらしい答えだと言える。
つまり、クレッフィはポケモンとしての闘争本能を抑える代替行動としてレアな鍵を求めてたと。
「イタズラ好きではあるが、闘いを好まない種族じゃから盲点だったわい。確かにポケモンという種そのものが闘争本能を持っておるからのう」
「って事は、適度にバトルする環境を用意してやれば鍵欲も多少は抑まるか?」
「多分。実際、クレッフィを手持ちにしてる他のトレーナーさんみんなが鍵を常に供給してるとも思えないし」
まあそれはそうだ。求めるとしてもせいぜい嗜好品程度のものに落ち着くだろう。
とりあえず解決策はわかった。問題があるとすれば──。
「──で、誰がゲットするんじゃ?」
『…………』
再びの沈黙。
いや、俺としては別にクレッフィを手持ちにしてもいいんだよ。ただ他の人が欲しいって言うなら譲ろうってだけで……ああダメだ、多分全員同じ事考えてる。
「ちなみにワシは無理じゃぞ。扱うタイプの専門は『でんき』じゃからな」
ああうん、それはわかってる。手持ちにする事に否はないだろうけど、バトルに出す機会が無いだろう。
「……ハルカは?」
「捕まえるだけならいいけど……あたしも今はメンバーを崩したくないかな……」
ちょっと意外だけどハルカもダメか。
となると残るはミツルくんだけど……。
「フィ……」
「……ぼくじゃダメだと思います」
……真っ先に攻撃しちゃったもんなぁ……。クレッフィ側が苦手意識持っちゃったか。
まあいいか、クレッフィ優秀だし。
「んじゃ俺だな。いいぞ、一緒に来るか?」
「フィッ!」
クレッフィがふよふよと飛んで擦り寄ってくる。にしてもこいつ本当小さいな。俺の手の平くらいのサイズしかないぞ。
「それじゃ早速──」
「マッテクダサイ」
「ん?」
と、ここで待ったがかかる。なんだろうか。
「ワタシモツレテイッテクダサイ。ソノコダケデハシンパイデス」
「フィ?」
クレッフィが首を傾げるように身体を傾ける。こいつの仕草かわいいな。
「……サッシハツイテルデショウガ、ソノコハアカンボウノヨウナモノデス。イッピキデハトテモフアンデス」
「ああ、なんとなくそんな気はしてたけど……」
別に身体が小さいのは個体差もあるから直接の判断材料とはならないけど、なんとなく子どもだろうなーとは思った。あっさり人に心を許す辺りとか特に。
意外と警戒心無いぞコイツ。
「ダカラワタシモツレテイッテクダサイ。ソノコハワタシガイナイトダメデス」
「……とか言って、実はあなたが寂しいだけだったり?」
「ソレモアリマス」
「……素直だな」
ハルカのからかうようなセリフにも表情一つ変えずに言い切った。なんでこんな堂々としてんだコイツ。
「……まあいっか。んじゃもう一個ボールを──」
「ペラッ」
「フィ」
「え?」
バッグからボールをもう一つ取り出そうとすると、チョウチョウの一鳴きに呼応しクレッフィがその首にぶら下がった。
傍目から見れば、ぺラップがクレッフィをアクセサリーとして首から下げているような状態だ。
「ドウゾ」
「いや、どうぞって……え? これどうなんの?」
さあ捕まえなさいと言わんばかりに頭を差し出すチョウチョウ。普通に捕まえちゃっていいのか?
ハルカを見る。首を振られた。どうやらハルカにもわからないらしい。
「ええ……? じ、じゃあとりあえず……」
コン、と頭に軽くボールをぶつける。
そしてチョウチョウの身体が
カチッと、ボールに収まった。
ゲットは成功。でも……。
「……どうなってんだ? これは流石に知らねーぞ」
原則、ボールに収まるのは一つにつきポケモン一匹のはずだ。
ダグトリオとかタマタマとかよくわからんのもいるが、あれはもうその集合体が一匹のポケモンとして確立している。詳しい理屈なんか知らんがそうらしい。
他にもキュレムやネクロズマは特定のポケモンを吸収していたりするけど、それだって片側の自意識はほぼ無いだろうからこれとは少し違う。
「……いや、待てよ?」
ある。一つだけ前例が。
いや、この場合は未来の話になるのか? まあその辺の時系列はいい。
ガラルの王様──バドレックス。そして王が従えていた
あれらは同種の集合体でも吸収でもなく、単なる騎乗でしかなかったはずだ。にも関わらず一つのボールに収まっている事から、おそらく現象としては有り得ない事ではないのだろう。
ゲーム的な事情か、もしくは伝説特有の理不尽ゴリ押しかと思ってたけど一般ポケモンでも起こり得るものなのか。この二匹が特殊なだけなのかもしれないが。
「うーん……? とりあえず確認してみるか……」
ボールを図鑑でスキャンしてみると、少し遅れて画面に情報が表示される。
【種族】ぺラップ
【タイプ】ノーマル/ひこう
【レベル】27
【性格】ひかえめ
【特性】するどいめ
【持ち物】クレッフィ
【技】おしゃべり/ばくおんぱ/うたう/ちょうはつ
「……あいつ持ち物扱いなのか……」
しれっと持ち物欄にいる辺り、やはり同じボール内に収まっているのは間違いなさそうだ。ポケモンを持ち物扱いするなんてそれこそ聞いた事が無いけど。
ポケモンを道具扱いするな、なんて言葉は月並みだけどまさか本当の意味で道具化するとは。
「ねえねえ、あたしも見ていい?」
「ん、はいよ」
中々に謎なぺラップ&クレッフィに頭を悩ませていると、ハルカがひょっこりと図鑑を覗きにきた。
特別隠すような情報でもないので素直に見せる。
「……へー、持ち物になってるんだね」
「こういうパターンって他にもあるのか? 俺初めて見たんだけど」
「ううん。協力関係にあるポケモンっていうのは結構いるけど、完全に一つの種として成立してるのは初めて見たよ」
興味深そうに図鑑データを眺めるハルカ。そうか、ハルカも知らないのか。
「ふーむ、ヤドランやヤドキングなんかと少し似ておるのう。あれも姿が変わっておるとはいえ、厳密な定義ではヤドンとシェルダーという二匹の個体だというしの」
「でもあれはヤドンがシェルダーに噛まれた時の反応で進化して、遺伝子が混ざった結果なんです。進化しないポケモン同士がそのままくっついて新しい種になる、というのは前例がありません」
「む、むう……専門的な話となるとついていけんのう……」
「凄いなぁ、凄いなぁ! これって大発見かも! ぺラップの新しい進化だったりして!?」
ハルカがいつになくキラキラとした目で興奮している。こういうところを見ると根はやっぱり『ハルカ』なんだなぁと思う。
……にしても、そういやヤドランとかいたな。あれ一応ヤドンか。名前が違うしもう見慣れてるからそういうものだと認識してた。
となるとこのぺラップも今の図鑑が認識出来てないだけで新たな進化、未発見の種という可能性もあるわけか。うーむ深い。
「ねえユウキくん、お父さんに報告しよう!? 色々調べてもらおうよ!」
「あー……じゃあまあ、すぐに返してもらえるなら……」
調べる、となると一度博士の元に送らないといけないだろう。
俺としては一応パーティメンバーとして活躍してもらうつもりだから、あまり長い期間預けておくわけにはいかない。というかそれだと今回の捕獲の意味が無くなってしまう。
長くても三日とかそれくらいが限度かなぁ……。
「そうと決まったら早く行こう! きっとお父さんも喜ぶよ!」
「わかった! わかったから引っ張るな! コケる!」
「それじゃあみなさんお元気で! さようなら!」
勢いのままに別れを済ませ、グイグイ腕を引っ張ってくるハルカ。俺は危うく転びそうになりながらも必死についていく。
ともあれ、一旦博士に送るのはいいとして。
──名前、どうするかなぁ……。
とりあえずキンセツにいる間はともかく、流石に
評価や感想、批評等あればよろしくお願いしマース。
ここすき機能なんかもご利用くださいませ。
あとツイッター始めてみたので興味があるなら是非。
他にもヨワシなんかは群体でありながら一匹のポケモンとして成立してますね。あと過去にはマンタインの翼? にテッポウオがくっついてましたし。
意志の統率さえ出来れば意外となんとかなるんじゃないかと思いました。もちろん誰でも彼でもこうなるわけではありませんけどね。