ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
拝啓、お母様。
何も言わずに出て行ってしまってごめんなさい。どうしてもやむにやまれぬ事情があったのです。書き置きだけは残したので許してください。
いつか顔も見せに行きます。電話もなるべく早くします。
追伸、すぐにバチが当たりました。
「何ボーッとしてるの?」
「うるさい眠いんだよ……」
「あー、まだ五時だもんねー」
うんうんと頷くハルカに適当に答える。眠さが全く無いと言えば嘘になるが別に原因はそれじゃない。
というかコイツマジでなんなんだ。なんでこんな時間に起きてるんだよ。五時だぞ。寝てろよ。目覚ましまでセットして早朝からコソコソしてた俺が馬鹿みたいじゃないか。
「眠いならほら、そこのポケモンセンターで休もう? 添い寝してあげる」
ポケモンセンターはトレーナーであれば誰でも無料で使える休憩所という一面も持っており、宿泊施設として使う事も出来る。
もちろん本業のそれに比べれば簡易的なものでしかないが、それでも利用する人は多い。
トレーナー業ってポケモンの分の飯とかその他必要な道具とかで何かとお金かかるしな。無料というのはかなり大きい。
で、休むのは別にいいのだ。それよりも。
「お前マジでもうちょっと男との距離考えろ」
腕を絡めながら言うハルカに呆れを返す。
前世だと確か十二歳って普通に性に関心出てる年齢のはずだったんだけど。明確なものじゃなくても異性が気になり始めたりとか、そういう時期だったように思う。
そういう事の成長は女性の方が早いらしいし、いくらなんでもここまで純粋無垢ってわけじゃ……いやでもあの時の博士の反応見たらマジで何も教えて無い可能性あるな。
一応俺は前世も含めれば精神的には完全に大人だ。それでも精神は肉体に引っ張られるというか……まあ、そういう事だ。
だから恐怖云々抜きにしても、肉体的接触はなるべく控えてほしいというのが偽らざる本音なわけだが。
「ほらほらゴーゴー♪」
「やめろ離せ近寄るな」
全然全くこれっぽっちも気にした様子が無いハルカに引き摺られるようにして、コトキタウンのポケモンセンターへと連行される事になった。
それでまあ、寝たよ、うん。眠かったもん。
流石に一緒のベッドに入ろうとしてくるのはジョーイさんが一緒に止めてくれたけど。良識ある人で助かった。そう考えると博士はやっぱりおかしい。
……ふと、そういやミシロタウンって限界集落みたいなところだったな、と思い返した。
有り体に言ってしまえばド田舎なのだ。だからそこら辺の認識はかなり緩いのかもしれない。
といっても外の世界に出る娘の貞操観念がこれではパパも気が気じゃないだろうに。ガード緩すぎるぞアイツ。
前にも思ったけどハルカは相当に可愛い。そこら辺の男に言い寄れば半数くらいはコロッといくんじゃないかってレベル。
当時ゲームをプレイした人間ならわかるだろう。ハルカは間違いなく可愛いのだと。ついでにトラウマを植え付ける事もあると(主にあの橋の下とか)。
ともあれベッドから降りて部屋を出て、簡易宿泊室である二階を後にする。
下に着いてみれば既にハルカは起きており、足をぶらぶらさせながら椅子に座っていた。
「あ、おはよう!」
「ああうん、おはよう」
ニコッと笑って挨拶してくるハルカ。
可愛いのになぁ……なんで中身あんなんなんだろうなぁ……素直に受け取りにくい。
前世の恋愛モノとか読んでて『女の子に好意寄せられてて何が困るんだこの野郎』とか思った事あるけど、実際に正体不明のクソデカ感情ぶつけられると普通に恐怖だわ。実体験大事。
「そういえばユウキくん、約束守ってくれなかった」
「んあ?」
さっきまでの表情と一転、ハルカがぶすっとむくれた顔をする。
はて、約束とは? と間抜け面を晒しながら頭に情報の検索をかけ、そうして昨日のバトルを思い返し──血の気が一気に引いていった。
ヤバい。そもそも俺がハルカから隠れたのもそれが原因だ。色々パニックになってたせいで頭から吹っ飛んでた。
なるべく考えないようにしてたけど、多分このハルカって『ヤンデレ』ってやつだよな? 異常に執着心が強くて『貴方を殺して私も死ぬ!』みたいなやつ。
そんな相手からの約束を反故にして逃走したんだ。その後どうなるかなんて考えたくもない。
「えーっと……それはだな……」
ダラダラと背中に冷や汗を流しながら言い訳を探す。
身体は子どもでも頭脳は大人。そんな灰色の脳みそをフル回転させ、そして閃く! 起死回生の一手!
「そう! 旅が楽しみすぎて下見に来ちゃったんだよ! もちろんすぐに戻るつもりだったさ!」
これぞ
「でも旅の醍醐味って新しい世界を知る事なのに、自分でそれを潰しちゃったの?」
──秒で崩壊ッ! そんな事する馬鹿いないわっ!
「いやー、ほら、旅先って不安も色々あるからさ……」
冷や汗が滝のように噴き出る。このままいくと脱水症状を起こしてしまいそうだ。
「……もしかして、あたしが怒ってると思ってる?」
「……イイエ?」
「そう? ちなみにあたしは嘘を吐かれるのが一番嫌いだなー」
「嘘吐きましたすみません許してください」
人目も気にせず
なんか周囲がザワザワしてるが知った事か。こちとら命の危機なんだ。恥なんざクソ喰らえだ。
「もう。謝るくらいならあんな事しなきゃよかったのに」
「誠にその通りでございます」
その通りではありますがあなたが怖かったんです、とは言えず。
「反省した?」
「はい、反省しました。もう逃げません」
努力目標としてなるべく前向きに善処する方向で検討しておく。
「……よろしい。ほら、そろそろそれやめてよ。他のお客さんがこっち見てるよ?」
そんなハルカの声に顔を上げれば、その頬が少し赤く染まっていた。
なんだコイツ、羞恥心とかあったのか。一緒のベッドに入ろうとしたくせに基準がわからん。
というか、ここで怒らないのか? 俺の予想だと五秒後くらいに血塗れになってる想定だったんだが。
とにかく許しも得たので土下座をやめてゆっくりと立ち上がり。
「お、お邪魔しました〜……」
俺の手を引いてそそくさとポケモンセンターから出て行くハルカの姿は、至って普通の女の子に見えた。
* * *
朝のいざこざから数十分が経過した頃、ぐぅと腹の虫が鳴った。
そういえば朝食をまだ食べていなかったと思い出す。無駄にエネルギーを使ったしこれも致し方の無い事だ。
「お腹空いた?」
「飯まだだったからなぁ……なんか食べるか」
「うん!」
幸いコトキタウンはミシロみたいな限界集落と違って、少し探せば喫茶店があった。
店に入ってメニューを開けば、それなりに色々とある。
……カツサンドとかあるけどこれやっぱアレをアレしてるんだろうか……。
いやまあ前世でもそうだったしな、と疑問を彼方に投げ捨てる。世の中には知らなくていい事もあるのだ。
「何食うか決まった?」
「うん。ユウキくんは」
「俺も大丈夫。じゃあ呼ぶか」
呼び鈴を鳴らして俺はオムライスを、ハルカは女の子らしくフルーツサンドを注文した。
そうして待つ事数分、テーブルに料理が運ばれてくる。
「おお、なかなか美味そうだな。いただきます」
「いただきまーす!」
手を合わせてオムライスにスプーンを入れる。一口分を取り分けてそのままパクリ。
とろっとした卵とケチャップライスの相性が堪らない。これはとてもいいオムライスだ。
流石は店の味と感心しながらパクついていると、ハルカがこちらを見ているのに気づいた。
「な、何か……?」
「んーん。美味しそうに食べるなーって」
「あ、ああ。美味いからな」
どうやら俺が食べる様子を見ていただけらしい。
……それは別に構わないけど、ずっと見られてるとなんか食べにくいな……。
「本当はね」
ハルカが零す。
「お弁当作ってたんだけど、ユウキくんが先に行っちゃうから間に合わなかったんだ」
ピシッと身体の動き全てが止まる。
なんて事を言うんだこの娘は。味全部消し飛んだが。
「食べてもらいたかったなー……」
悲しそうな顔をするハルカを見てまたもや冷や汗が流れる。
そうか、フィールドワークで早起き慣れてるのかと思ってたけど、弁当を作る為に意図的に早く起きてたのか。
……って、これ俺めちゃくちゃクズじゃね?
早起きして手作り弁当作ってくれようとした女の子から逃げようとしたってマジ? しかもその事について不問にしてくれたんだぜ? いい子すぎない?
「それは……ごめん」
流石にこれは罪悪感がヤバい。
そりゃ元の原因もハルカだけど、それとこれとは話が別というか。とにかくなんかモヤモヤする。
「えー、どうしよっかなー」
そんな俺の謝罪の言葉を聞いて、ハルカが小悪魔的な笑みを作った。
ヤバい。墓穴掘ったかもしれない。
「お願い聞いてくれたら許すかもしれないなー」
ニヤニヤとハルカが笑う。
これは……受け入れるしかないだろうか。
色々なものを天秤に掛け、苦悩し、懊悩し、葛藤しながら──それでも最初から決まっていた答えを口に出す。
「お、俺に出来る事なら……」
いやもうこう言うしかないだろ。だってここで『さっきのナシ』とか言えないじゃん。言えるとしたらそいつは人間じゃない。悪魔か何かだ。
「ふっふっふ〜。じゃあ言っちゃおっかな〜」
ここで『今後一切あたしから離れない事』とか言われても文句は言えない。個人的に自分のやらかしはそれくらいのレベルだと思う。
死刑を待つ囚人の如く、ハルカの宣告を受ける。
「じゃあ、それ一口ちょうだい?」
「…………ん? そんなのでいいのか?」
「これくらいが妥当じゃない?」
何か噛み合ってない気がする。ハルカにとってはさほど気にする事でもなかったのだろうか。
まあそれなら薮をつついて蛇を出す必要もあるまい。オムライスを皿ごとハルカに寄越す。
「ほら、一口と言わず好きなだけ食べていいぞ」
さっきもじっと見てきたし、実は食べたかったのかもしれない。
「……む〜……」
「……え? なんで?」
露骨にハルカの機嫌が悪くなる。
何故だ。ハルカの要求にはこれ以上無い形で応えたはずなのに。
「……ち・が・う!」
ハルカがうがーっと皿をこちらに戻し、スプーンでオムライスを掬って俺の手に持たせ。
「こう!」
目を閉じ、口を開いて待ち構えた。俗に言うあーんの構えである。
……いや待ってくれ。何この羞恥プレイ。
今からこれをしろと!? ︎周りの視線もある中で!?
これじゃ罰ゲーム……いや罰ゲームなんだけど! コイツは恥ずかしくないのか!? ポケセンで見せた恥じらいはどこ行った!?
なんて毒づいたところで状況は何も進展しない。悪いのは自分だ。覚悟を決めろ。
それに俺たちは十二歳の子ども。傍から見ればただ微笑ましいだけの光景だ。何も恥ずかしくは無いんだ……。
そう自分に言い聞かせながらオムライスをハルカの口元に運ぶと、ぱくっという効果音が聞こえるかのような食べ方でもぐもぐと咀嚼する。
「んふふ〜」
くっそ幸せそうに食べやがって。俺がどんな思いでやってると……。
「美味しいね、これ。じゃあはい」
オムライスを嚥下したハルカがミックスサンドを俺に差し出してくる。
「……何が?」
「あーん♪」
ふざけんなよマジで。
「あー……そう、俺実は甘い物が苦手で……」
「そうなの? じゃあ──」
そうしてハルカが俺の手からスプーンをひったくり、同じようにオムライスを掬って差し出した。
「はい、あーん♪」
コイツのメンタル鋼鉄か? ダイゴさんもビックリだよ。
やめろ客どもそんな生暖かい目で俺たちを見るな。店員も見てないで働け! なんならイチャつく客として摘み出してくれ!
「あのーハルカさん。さっきので許してくれたんじゃないんですかね?」
「うん、許したよ。だから仲直りの証!」
もう何言っても無駄だなこれ。
悟りの境地で言われるがままに口を開ける。オムライスの香りが近付いたところで口を閉じ、もぐもぐと咀嚼する。
今更だけどこれ間接的なアレになるんだよな。最早突っ込む気力も無いけど。
「美味しいねー」
「ソーデスネー」
なんでエネルギー補給の為の朝食でエネルギーを使っているのか。これがわからなかった。
評価や感想、批評等お待ちしておりマース。
あとアンケート取ったんだけど調べてみた感じ定義的にヤンデレとは微妙に違うから別のタグ考えて付けようと思います。
ご協力ありがとうございました。