ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが?   作:名無しのナナシ

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シナリオだけでなくシリアスもぶち壊す女

 フエンタウンとはホウエン有数の温泉地である。

 いわゆる火山性温泉というものが湧いており、えんとつ山が近くにあるフエンの名物が温泉になるのは自明の理だっただろう。

 この町に来たらまず温泉。何を置いてもとにかく温泉。とにかく切っても切り離せない関係にあるのだ。

 効能については神経痛や筋肉痛等の療治に加えて、恋愛の悩みや金儲けといったものにまで効果が及ぶという。

 後半に関しては眉唾もいいところだけど、まあとにかくフエンといえば温泉の一言で説明出来る。

 

 さて、そんなフエンに到着したのが夕方頃。

 遂に移動手段としてマッハ自転車を入手したので、テンションを上げながら間にある二つの道路を駆け抜けたのである。風を切って進む感覚がとても心地良かった。

 それでまずは泊まる場所を探そうとしたところで、それならもう決まってあるとハルカが言った。

 なんでも、さっきの電話相手が頼まれ事の駄賃代わりとして宿を予約しておいてくれたらしい。

 

 それは助かるんだけど、着いた先が明らかに高級旅館なんですねこれが。

 

「……え、ここ? 場所間違えてね?」

 

「えー? でも『コータスの甲羅』だって言ってたよ?」

 

 旅館の名前は『コータスの甲羅』。古くから続くこの旅館はガイドブックにも載っている文句無しの一級旅館である。少なくとも一般人がおいそれと手を出せる場所ではない。

 何かの間違いじゃないのかと呆けている間に、ハルカは躊躇無く中へ入っていくので慌ててついていく。

 

「あの、ハルカかユウキで予約が入ってると思うんですけど」

 

「ああ、お待ちしておりました。話は聞いておりますのでどうぞこちらへ」

 

 そうして女将さんに連れられて案内された部屋は畳と障子、ちゃぶ台に座布団という旅館らしいド和風な部屋だった。

 (ふすま)の中にはおそらく敷布団が入っているのだろう。さすがにテレビは時代に合わせて薄型のやつだったけど。

 

「では、どうぞごゆっくり」

 

 戸が静かに閉められる。部屋に残ったのは当然俺とハルカの二人。

 

「……場所間違えてね?」

 

「合ってるってば。もー、疑り深いなぁ」

 

 先程の疑念を再び口に出すと、ハルカが少し呆れたように言った。

 いや、確かにここまで通された以上間違いであるはずはないんだけども。

 

「なぁ、さっきの電話相手ってオダマキ博士じゃなかったのか? あの人そんなに財力に余裕あんの?」

 

 そりゃ博士だし金は持ってるだろうけど、それでももう少し常識的な場所を選ぶと思う。

 格安宿を選ぶとは言わないけどちょっといい場所、くらいの旅館を選びそうなイメージだ。

 

「え、違うよ? 電話してたのはダイゴさんだよ」

 

「え、ダイゴさん? なんで?」

 

 聞いてみれば意外な名前が出てきた。どうやら最初から思い違いをしてたらしい。そういえば石の洞窟で会った時も交流がある風だったような。

 確かにダイゴさんなら金持ってるだろうし、金の使い方も一般人とは異なってそうだけど、となるとハルカの用事はつまりダイゴさんの頼みという事になる。一体何を頼まれたんだろうか。

 

「えっとね、もし次に行く場所が決まってないんだったらフエンのジムリーダーの様子を見てきてほしいんだって。ほら、フエンジムって最近ジムリーダーの交代があったから──って、ユウキくんは知らないか」

 

「ふーん……?」

 

 バッグを下ろしながら言うハルカにとりあえず相槌を打っておく。

 フエンのジムリーダーであるアスナは、ゲームにおいてもトレーナーとしてはともかく、ジムリーダーとしては就任したての未熟者というキャラ付けが成されている。それこそ明らかに年下のツツジよりも経験が浅いだろうと予測が立つレベルで。

 事実、ハルカがジム巡りをした時は先代が務めていたらしい。それはそれで見てみたくはあるんだけども。

 まあそれはともかくとして、少しおかしくないだろうか。

 

「……でもそういうのって他のジムリーダー(同僚)とか、それこそチャンピオンとかのリーグ関係者がやるもんじゃないのか? なんでわざわざハルカに……」

 

 有り体に言ってしまえば抜き打ちテストのようなものなのだろう。でもそれならリーグ関係者が正当な手続きをした上で監査に来るのが筋なはず。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にそれを頼むのはどうなんだろうか。

 そんな意味を込めて指摘してみると。

 

「うん、普通はそうなんだけど今回は例外というか……ユウキくんがジム戦やるならそのついでにって感じみたい。そんなに深い意味は無いと思うよ」

 

「ええー……?」

 

 そりゃ厳密な意味での監査じゃないんだろうけども……なーんか引っかかるなー……。

 

「まあまあ、そのお陰でこんなおっきな旅館に泊まれたんだからいいじゃない? それより温泉だよ、温泉!」

 

 そうしてバッと振り向いたハルカの瞳はキラキラと輝いているように見えた。随分とテンションが高いものである。まあ俺も温泉は楽しみにしてたけども。

 

「そうだなぁ。先に行ってみるか?」

 

 フエンの旅館なら当然ながら大抵の場所に温泉が湧いている。

 夕食にするには少し早いし、時間潰しと疲れを癒す目的で先に入りに行くのも悪くない。

 

「それもいいんだけど、実はあたしオススメのところがあるの。ちょっと歩かないとなんだけどね」

 

 そうしてハルカが提案してきたのは秘湯に行かないかという事だった。

 どうやらえんとつ山に続くデコボコ山道に湧いているらしく、夜になると星が綺麗に見えるんだとか。

 やっぱり一度行った事がある人間のそういう体験談はとても参考になる。そしてそんな隠れ名所のような場所があると聞くと少しウズっと来るのも心情なわけで。

 

「へぇ、良さそうだな。じゃあ夕飯食ったら行ってみるか」

 

「うん! やったー!」

 

 星が見える温泉、か。

 前世ではあんまり空とか気にした事なかったけど、ホウエンみたいな自然豊かな土地だと空も綺麗に見えるんだろうな。

 温泉自体も久し振りだし楽しみだ。それまでは軽く町を見て回るか。

 

 

 * * *

 

 

 秘湯とはいえある程度認知された場所ではあるので、そこに至るまでの道のりは多少整備されていた。それでも山道である事に変わりはないけど。

 ハルカを先頭に案内してもらいながら、仄かな月明かりが照らす不安定な山道を歩いていくと、やがて硫黄の香りが強くなってきた。

 目的地が近いのだろう。そこから更に少し歩けば、ボロボロとまではいかなくとも年季の入った小屋が見えてきた。どうやらあそこで着替えるらしい。

 一瞬まさか男女共用じゃないだろうなと思ったけど、近付いてみれば流石に男女用に入口が二つあった。

 ここで一旦ハルカと分かれて小屋に入り、服を脱いでからタオルだけ持って奥の扉を開けると、湯気が俺の顔を勢いよく襲撃してきた。

 咄嗟に手で顔を覆い、落ち着いたところで改めて前を見てみれば。

 

「おー……まさに秘湯って感じだな……」

 

 足場こそ最低限整地されてるけど、それ以外はほぼ自然のままを残した状態。

 乳白色の湯から硫黄の刺激臭が漂ってくるのが少し気になるけど、天然温泉ならまあこんなものだろう。

 転けないよう気を付けながら温泉の近くまで歩き、備え付けの桶で掛け湯をして、軽く身体の汚れを(すす)いでから湯に足を浸ける。

 そしてゆっくりと膝、腰と湯に浸かる部分を増やしていき。

 

「あー……生き返る……」

 

 肩まで浸かり、(ふち)にもたれかかりながら手足を伸ばしてリラックスする。陳腐な表現だけど、本当に疲れが吹っ飛んでいくようだ。

 少し歩かないといけないとはいえ、この湯に入れるならそれだけの価値があると言える。

 

「ハルカに感謝だなー……」

 

 旅館の温泉ももちろん悪くないんだろうけど、人が集まる場所である以上はどうしても人目がある。

 別にそれを気にする程繊細でもないけど、完全に無視出来るわけじゃない。

 その点、ここには人がいないから何も気にしなくていい。仮にここで泳いだとしても怒られる事だってないのだ。やらないけど。

 ともあれ、今はこの貸し切り状態を堪能するとしよう。こんな機会は滅多に無いだろうから。

 

「ふぅ……」

 

 空を見上げる。

 街中と違って余計な灯りがない分、一面の星がより一層輝いて見えた。これはきっとフエン(町中)の温泉じゃ見られなかった光景だろう。

 手足を投げ出した体勢のまま全身の力を抜けば、浮力で身体が軽く浮かぶ。周りの景色も相俟って、まるで自分が宇宙にいるようにも思えた。

 

 ……宇宙、か。

 

 ふと頭に浮かんだワード。

 あくまでも自分が体感するこの景色に対する感想でしかないそれは、しかしホウエンという土地には何かと深い関わりがあった。

 正確には宇宙というよりは隕石の方にフォーカスが当たるけど、それでもホウエンにおける宇宙要素というのは少し考えただけでいくらでも挙げられる。

 それをより深く追求したのがゲームにおける『エピソードデルタ』なわけだけど……まあ、基本的にこっちは厄介事の種でしかない。というか、なんなら全ての元凶ですらある。

 始まり(アルファ)と、終わり(オメガ)と、その先(デルタ)の物語。これらをほぼ一個人で解決してみせた原作主人公はどれだけぶっ飛んでいたのやら。

 

「……俺がやらなきゃ、なんだよな」

 

 そして、ゲームにおける主人公の立ち位置にいるのが今の俺だ。だからこれは俺が解決しないといけないし、多分俺がいないと解決しない。きっとそれが俺がこの世界に生まれた意味だから。

 だけど俺は原作主人公(ユウキ)じゃない。立ち位置はそうであっても、今生の名がそうであっても、結局のところ俺は役を借りただけの別人だ。

 この世界はどうしようもなく現実で、ゲームと同じように動けば万事解決、なんて甘い考えは通用しない。

 というか、そもそもどっかのリボンバンダナがシナリオブレイクしてくれてるせいでそんな希望は最初から打ち砕かれている。

 

「足掻けるだけ足掻くしかないか」

 

 なんて、考えたところで全てを解決する冴えたやり方なんて浮かびやしないのだ。

 強いて言うなら、今までなんだかんだで出会ってこなかった各団のリーダー……特にマツブサならえんとつ山でほぼ確実にエンカウント出来るはずなので、そこで何かアクションを起こせればといったところか。

 

「……ま、何するにしてもまずは強くならなきゃだな」

 

 やがて来る未来の災厄に対抗出来るように。この世界を滅びから守る為に。

 遥か先にある星に重なるように手を伸ばす。

 

 今はまだ届かないけど、きっといつかは──

 

「やっほー。お待たせ、ユウキくん」

 

「……………………」

 

 ──タオルを、一枚だけ、身体に巻いたハルカが、そこに、いた。

 

 繋がれた手を振り払って全力で反対岸に退避。湯の色が濃いのではっきりとは見えないだろうが念の為に前も隠しておく。

 

「おまっ……!? なんっ……!? こっちは男湯のはずじゃ!?」

 

 どうしてハルカがここにいる!? まさかわざわざ男湯側から入り直したのか!? 流石にそれは狂ってるだろ!? 

 そんな俺の心の内の絶叫が聞こえてるはずもないが、ハルカはこてんと小首を傾げて。

 

「男湯も何も、ここそんな区別無いよ?」

 

「はぁ!? でもさっき確かに分かれて……!」

 

「そりゃまあ、湯浴み着とか着る人は着るだろうし」

 

 事も無げにハルカが言う。あの小屋その為だけの場所かよ! 

 

「その配慮が出来るなら仕切り板取り付けるとかあっただろうが……!」

 

「あー、昔はあったらしいけど野生ポケモンに壊されるからやめたんだって」

 

「……そうか……こういうとこの温泉ならそういう事もあるよな……」

 

 一旦分かれたからてっきり区画分けされてるもんだと完全に油断してた。

 確かにこんな山道に湧く温泉なら野生のポケモンも入りに来るだろうし、その度に壊されてたんじゃやってられないだろう。

 

「じゃ、あたしも入ろーっと」

 

「んなっ……!?」

 

 そうしてハルカが躊躇なく身体に巻いたタオルを脱ぎ捨てた。コイツは本当に恥じらいという感覚が無いのか!? 

 いきなり脱ぎ出したものだから、目を塞ぐのも間に合わずその場で硬直する。

 咄嗟に顔を逸らす事も出来ず、俺はハルカの肌を()()()()目に焼き付けてしまい──

 

「──って、あ……水着……?」

 

 いっそ岩に頭ぶつけて記憶飛ばしてやろうかと考えかけていたが、ハルカは肌面積こそ若干多いものの、あくまでも一般的なビキニタイプの可愛らしい水着を身に付けていた。

 

「そうだよー。ユウキくん前に水着の方がいいって言ってたから」

 

 掛け湯をしながらそんな事を言うハルカ。

 

 ……そんな事言ったっけ? 

 

 ハルカに水着のリクエストをした覚えは無いんだけど……なんかそういう事らしいからそのままにしておこう。

 温泉で水着はアリなのかとかいう疑問は彼方に投げ捨てる。裸で突撃されるより数億倍マシだ。

 

「ふあぁ……気持ちいい~……!」

 

 掛け湯を終えたハルカが湯に浸かりながら幸せそうな声を出す。その感想には全面的に同意する。

 

「……で、いつまでそこにいるの? もっと近くでお話ししようよ」

 

「……イエ、ベツニ?」

 

「む~……」

 

 未だ距離を取る俺に不満げなハルカ。

 そうは言ってもですね、こっちは裸を見てしまったと思ったわけですから、下の方が勝手に反応してしまいましてですね。今ちょっとハルカさんの側には寄れない状況なわけですよだから近寄ってくんなぁぁぁぁ!! 

 

「せっかく水着着てきたのになんで? ユウキくんが言ったのに」

 

「だから覚えが無い──あ!? まさかカナズミん時のアレか!? そういう意味じゃねえって言っただろうが!」

 

「じゃあ脱ごっか?」

 

「違うそうじゃ──それやめろ!」

 

 水着の肩紐を指で摘み上げるハルカ。その仕草は俺に効くからマジでやめろ。これで挑発顔だったら即死だった。色んな意味で。

 さっきまで結構真面目な事考えてたのに、ハルカが来た途端一気にギャグワールドになってしまった。

 なんだこれ。結構主人公ムーブしてただろ俺。俺のシリアスを返せよ。

 

「なら一緒にお話してくれる?」

 

「わかった! わかったからちょっと待て! ちょっと時間くれたら行くから!」

 

 じりじりとにじり寄ってくるハルカとの間に岩を挟みながら距離を維持する。

 貸し切り状態で本当によかった。こんなに騒いでたら他の客の迷惑に──

 

「ふははははははっ! やっぱ温泉といえば天然モノだよなぁ!」

 

 バンッ! と扉が開く音がしたかと思えば、豪快な笑い声が響いてくる。

 

 ……なんだろうなぁ、タイミングがいいやら悪いやら。

 

 ともあれ、流石に他の客がいるなら無闇に騒ぐのはよくないし、それくらいはハルカもわかってるだろうから多少は落ち着くだろう。貸し切り状態が終わったのは残念だけど。

 さて、誰が入ってきたんだろうか。声からして男というのはわかるんだけど。

 

 ハルカと共に湯気の向こうのシルエットを見る。そうして徐々にその全貌が明らかになる。

 体格はかなり大柄で、鍛えているのか格闘家もかくやというくらいに筋肉質。肌は日焼けによるものなのか浅黒く、活動的な人間である事がわかった。

 顔立ちも精悍なものであり、伸ばされた髭も相俟って非常に力強い印象を受ける。イメージとしては海賊の船長が近いだろうか。

 

「お、先客がいたのか。やっぱいいよなぁ、温泉ってヤツは」

 

 ある意味で男の理想を体現したその人は、実に堂々とした姿で俺たちを見る。

 

「な……な…………!」

 

 実際に会った事はなかったが一目でわかった。

 こんなに特徴しかない男を見間違えるはずもない。

 こいつは、この男こそがアクア団のリーダー。ポケモンの為に世界を始まりに還さんと活動を続ける者──アオギリだ。

 

 どうしてこんなところにとか、本物の筋肉はスゲェなとか、様々な思考が脳内で絡まるが、とりあえず──。

 

「……あン? なんだ、オレをじっと見てきやがって。俺の顔になんか付いてるか?」

 

 ──いいえ、付いてるのは下の方です。

 

 温泉の熱のせいか、はたまた()()()()か。

 可哀想なくらい顔を真っ赤にしたハルカがわなわなと震えて。

 

「──キャアアアアアアアアア────ッ!!」

 

 ──相手が子どもだとしても、女子がいるんだから少しは前隠せよ、と思った。




評価や感想、批評等あればよろしくお願いしマース。
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あとツイッター始めてみたので興味があるなら是非。

みんな大好き温泉回。下ネタ多めなのは……まあ許してください。
個人的にアオギリさんは好きなキャラ。
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