ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
「ふぃ~……あぁ、やっぱいい湯だなぁオイ。ここまで足を運んだ甲斐があったってモンよ」
テメェらもそう思うだろ? とアオギリがこちらを見る。
「こっち見ないでください話しかけないでください」
「だから悪かったって。つーか事故みたいなモンだろありゃあ」
しかし当のハルカは俺の後ろに隠れつつアオギリを威嚇していた。
そりゃまあハルカにとっては刺激が強かったのかもしれないけど、状況的に考えてアオギリ側に非は一切無い。混浴である以上、こういう事故が起こる可能性は普通にあるのだから。
一切無いが……別に向こうの肩を持ってやる義理もないのでここは口を出さずにおく。
「ま、そっちがそういう感じならオレもここを広々と使えていいんだけどよ」
「そうだぞハルカ。もう少し空間を有効的に使おうぜ」
「やだ。あの人の近くに行きたくないもん」
ハルカに絡められた腕が更にぎゅっと抱き寄せられてほぼ密着するような形になり、柔らかい感触が直に伝わる。俺はそれを意図して意識から追い出すように、湯の中で自分の脇腹を捩じ切る勢いで捻りあげた。
本当にこの湯が白く濁っててよかったと思う。色んなものを隠せるから。
「はっ、随分と嫌われたモンだな。だがオレもガキンチョなんかにゃ興味ねぇよ。あと十年は早ぇ」
そんな事を言うアオギリ。
そりゃまあアオギリにはアクア団幹部にして幼馴染みかつ、スタイル抜群のイズミという超優良物件が近くにいるので、如何にハルカといえど
でもそんな事情をハルカは知らないだろうし関係も無いわけで。
「がるるるる……!」
……ポチエナみたいになっていらっしゃる。ハルカってよりは
それはいいんだけどそろそろ離れてもらっていいですかねハルカさん。これ以上くっつかれると湯が赤く染まる事になります。
……ダメだ、本当に脇腹が限界だ。会話でもして気を紛らわさないと。
「そ、それよりアオギリさんは一人でここに?」
「あン? そうだが……なんでオレの名前を知っていやがる?」
アオギリの顔が怪訝そうなものに変わる。やっべ、マズったかも。
今ここに至るまでに向こうは一度も名乗っていない。なのに俺はアオギリの名を呼んだ。そりゃ怪しいだろう。一刻も早く煩悩を消したい一心で油断してた……!
「えーと、その……」
「……さてはテメェ──」
そうしてアオギリの頭脳は何かしらの答えを導き出したらしい。
まさかこれで転生がバレる……って事はないだろうけど、アクア団の活動を探ってるとか思われたら面倒だ。思われたらってか実際に活動内容知ってるけど。
どうあれここで疑念を持たれるのはマズい。行動を間違えたら今ここで戦闘になりかねないし、そうなるとポケモンを持ってない今フィジカル勝負になる。
子どもの体でこんなマッシブオバケに勝てるわけがないので、それだけは絶対に避けないといけない。最悪ハルカだけでも逃がす必要があるけど、どうやって切り抜けるか……。
アオギリの次の言葉を待つ間に全力で思考を回して──
「──ウチのサイトでオレを知ったな?」
「──はい?」
──放たれた言葉に素っ頓狂な声が出た。何? サイト?
「なるほどなぁ。いや、ガキンチョのくせに中々見所があるじゃねぇか。って事はオレたちの活動にも興味があるって事だよな?」
などと一人で勝手に得心するアオギリにとりあえずこくこくと頷いておく。何を言ってるんだろうかこの人は。
「そうかそうか、そんなら改めて自己紹介といくか。オレはアオギリ。自然環境保護団体──通称アクア団のリーダーをやってるモンだ」
そうしてアオギリが名乗りを上げ、知ってるとは思うがと前置きをしてから何やら語り始めた。
曰く、この世界におけるアクア団とは誰が見てもわかる悪の組織──ではもちろんなく、アオギリが言った通り環境保護を掲げて活動している団体である。
文明の発展に伴い失われていくホウエンの豊かな自然、及びポケモンたちの住処。
そんな現状を憂いた者たちが集ったのがアクア団という集団であり、ほんの少しボランティア感覚で参加するも良し、本格的に活動する為に入団するも良しの懐の深い団体だそうな。
参加条件はただ一つ。自然やポケモンを愛する心を持つ事。そんな風に熱く語るアオギリの説明を聞いていて思い出した。
──ああ、そういや前に冗談でアクア団とマグマ団を調べたら出てきたなそんなサイト。
まさかあるわけないだろうとダメ元で検索をかけたら普通に名前が出てきた事に驚いた記憶はあるけど、内容は至って普通のものだったし特に怪しい部分も見つからなかったから忘れてた。
ともあれ、両団共に
というか、そうでなければ裏の活動をするのにも支障が出るだろう。主に金銭面とかで。スーツの開発とかえんとつ山の謎機械とかどこから捻出するんだって話。
「──とまあ、要するにポケモンたちが安心して暮らせる世界にしようぜって事よ。どうだ、オレたちと一緒に理想郷を創る気はねぇか? やる気があるなら歓迎するぜ?」
そんなアオギリの誘い。
ゲームやってりゃわかるけど、アオギリのこの思想は本心からのものであり、そこに悪意は存在しない。本気でポケモンの事を想い、その為に行動して理想の世界を作る為の最善策を模索した。
多少行き過ぎなところがあるのと粗野な部分を除けば基本的に善人なのだ、アオギリという人物は。
……その策が致命的なものでなければ、アクア団に入るのも吝かじゃないんだけどなぁ。
「……悪いですけど遠慮しときます。今は他にやる事があるんで」
このまま誘いに乗って内部から野望を阻止出来ないか軽く脳内シミュレーションしてみたけど、入団したばかりの新人が重要な作戦で起用されるかという問題点もあるしこれはおそらく無理筋だ。
あと多分今の状況で入団するって言ったら多分ハルカもついてくる。そうなったらいよいよ何が起こるかわからなくなるし、まあアクア団に入るのはナシかな。
「そうか、そりゃ残念だ。ま、気が変わったらいつでも言ってくれや。そっちのガキンチョもな」
ふはっ、とハルカを見ながらアオギリが笑う。
……当然と言うべきか、やっぱハルカの事気付いてるよなぁ。下っ端ですら知ってたんだから、リーダーであるアオギリが気付かないはずがない。
で、カナズミとかカイナでのあれこれの報告も多分されてるから……あれ? これ俺の事もバレてね?
じゃあその上でアクア団に勧誘してきたのか。邪魔されるくらいなら自分の団に引き入れて動きを把握、制限しようって魂胆だったとか? ……意外と抜け目無いなこの人。
「ああそうだ、せっかくだからテメェらに一つ忠告しといてやるよ」
「忠告?」
「ああ。マグマ団を名乗る連中には気を付けな」
そうしてアオギリの口から出たのはマグマ団の名前。
一応表面上は人類の発展の為にマグマを利用したエネルギーを開発したり、土地の開拓なんかをやってるマグマコーポレーションという名前の組織なんだけど。
「元々人類の発展の為だとか抜かして手前勝手に自然を破壊するいけ好かねぇ連中だったが、最近は前にも増して妙な動きをしてやがる。あの山──えんとつ山にも出没してるって噂も聞いたし、ありゃなんか企んでるに違いねぇ」
ふんと鼻を鳴らすアオギリ。両団の仲が悪いのはゲーム通りらしい。
「何をする気か知らねぇがどうせろくな事じゃねぇ。テメェらも巻き込まれたくなきゃしばらくあそこには近付かないこったな」
「……なんでそんな話を俺たちに?」
「さあな。ただ、テメェらはなんか厄介事に首突っ込みそうな
言いながらニヤリとアオギリが笑う。ああ、これは完全に気付いてるな。
実際に俺たちはデボンの荷物関連でアクア団と関わっている──つまり厄介事に首を突っ込んでいる。
尤も、
どうあれ、アオギリ視点から見れば俺たちはデボンの荷物奪取を妨害した邪魔者であり、ハルカに至ってはホウエンでもトップクラスの実力を持つ厄介者。こんなのに気紛れに首を突っ込まれて作戦失敗だなんて笑い話にもならない。
故にアオギリの忠告は一見すれば子どもを事件に巻き込まないよう遠ざける親切な大人のものだけど、その実『自分たちの邪魔をするな』と釘を刺しているわけだ。
「下手な正義感で動くと痛い目を見るぜ。見たところテメェらは旅の途中だろ? さしずめジムバッジ取得の旅ってとこか」
「まあ……そうですね」
「だったらそっちに注力しな。余計なモンに関わってる時間がもったいねぇだろ」
「……心に留めておきます」
そんな俺の返事をどう思ったのか、アオギリはもう一度鼻を鳴らして立ち上がった。すぐ後ろで小さく悲鳴が上がる。
「ま、忠告はしたぜ。その後はテメェら次第だ。せいぜい巻き込まれないよう気を付けな」
それだけ言ってアオギリは湯気の奥へと消えていき、やがて扉の閉まる音がしてその気配は完全に無くなってしまった。
……まさかこんなところでアオギリと会うとは思わなかった。アイツこの時期だとここにいるのか。
幸いというか明確に敵対の意思は持たれてないみたいだけど、それでも警戒はされてるって感じだった。
とりあえずアオギリの話からえんとつ山にマグマ団がいるのはほぼ確定した。そしてそう遠くないうちにこの両団はぶつかる。
だからその機会に何かアクションを起こしたいところだけど、釘を刺されてしまった以上えんとつ山に行くのも難しくなった。
どこかで奴らの本当の目的──伝説の復活を目論んでいるという情報を手に入れられれば、それをハルカに伝えてゲームセットまで持っていけそうなんだけどな……先の展開を知ってるのにそれを伝えられないのはもどかしい。
……いや、アスナにさっきの情報を渡せばどうにかなるか?
ジムリーダーである以上は治安を守る必要があるし、えんとつ山もその対象だったはず。よし、それでいこう。
「……まあ、何するにしても先にフエンジムか。早めに攻略して次の行動に移りたいところだな──って、ハルカ?」
「──しんっっっじらんない!!」
「うおっ!?」
ずっと黙ってるなと思ってたら、突然両手をぶんぶんと振り上げて怒りを顕にするハルカ。何!? 急にどうした!?
「一度目はともかく二回もやった! にっ、二回も変なの見せつけられた!!」
「お、落ち着けよ……対面にいたんだから仕方ないだろ……」
熱か、怒りか、それとももっと別の感情か。あるいはそれら全てなのだろう。
顔はマトマのみを食べたかのように赤く染まり、呼吸は興奮したケンタロスの如く荒く、瞳は若干潤んでいる。
「ほんっとに最低……! せっかくの温泉気分だったのにぶち壊し……! もうやだぁ……」
「まあまあ……」
半泣きになりながら顔を手で覆って俯いてしまったハルカをどうにか宥める。
座ってた場所が悪かったというか、あの位置ならそりゃ立ち上がった時に見えるよなぁって。別にアオギリも狙ってやったわけじゃないだろうし、不幸な事故だったと言うしかない。
にしても、ハルカ意外とこういうのに耐性無いんだな……たまに年上お姉さんみたいなムーブするくせに。存外耳年増なだけかもしれない。
「うぅ……ねぇユウキくん、忘れさせてよ」
「お前マジでそういうの本当やめろ」
ほんのり上気した顔に潤んだ瞳で上目遣いのハルカ。凶悪すぎる。
この流れで言ったらそういう意味になるだろうが。いや、ハルカとしては単純に忘れたいだけなんだろうけども!
「そもそもだな、忘れさせろったってどうするんだ。まさか記憶を操れとでもいうのか」
「わかってるよ……言ってみただけ」
そして拗ねたようにハルカが言う。よかった、流石に本気では言ってなかったか。いや、本気だったとしたら困るなんてもんじゃないけど。
ハルカにとってはそれだけショックだったという事だろう。恐るべしアオギリの下腹部。
「……ねぇ、ユウキくん。アクア団に興味あったって本当?」
そうして話しているうちに幾分か落ち着いたのか、ハルカがそんな質問をしてきた。そういやさっきそんな事言ったな。
「いや、興味あるっていうか、調べものしてたらたまたま目に入っただけだよ。活動自体は立派だと思うけどな」
「ふーん……調べもの……」
実際、自然保護活動自体はポーズとかじゃなく真面目に取り組んでるみたいだし、それ自体は素晴らしい事だと思う。
ポケモンにとっての理想郷を創るべく創設されたのがアクア団であり、そこに悪意は存在しない。徹頭徹尾、本心からアオギリはポケモンを第一に考えて行動している。
……だからこそ、アクア団を摘発するのは難しいんだけど。
「ま、そこのリーダーから直々にマグマ団には気を付けろって言われたんだ。えんとつ山にはしばらく近寄らないでおこうぜ」
「……うん、そうだね」
いつかはぶつかるだろうけど、今すぐどうこうという話じゃないだろう。両団が争いを始めるまでの時間でやれる事をやっておきたい。
最低でも下っ端には勝てる程度……フエンジムを突破出来ればそれくらいの力はついたと思っていいはずだ。そうすれば最低限の自衛は出来る。
あとは上手く理由を作って、アオギリかマツブサにハルカをぶつければ何かが起きるかもしれない。ここが最初の勝負どころと見るべきだろう。
「……よし。色々頑張んなきゃな」
まずはフエンジムの突破。そこからアスナに協力を取り付けてえんとつ山へ同行。後はその場の流れでなんとかやるって感じかな。
出来ればどっちかのリーダーを抑えられるといいんだけど……まあ流れ次第だな。
何にせよジムで勝ってからの話だ。皮算用は後回しにして一つずつクリアしていこう。
……さしあたって、真っ先にクリアするべき課題は今抱える煩悩をどう処理するかだった。
評価や感想、批評等あればよろしくお願いしマース。
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あとツイッター始めてみたので興味があるなら是非。
両団とも表の活動を何かしらしてないと活動資金が捻出出来ないよなぁって事で今回の設定。そして多分ポーズとかじゃなく真面目に活動してたと思う。誰かさんが現れるまではね。