ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが?   作:名無しのナナシ

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思ってたより……? な新任ジムリーダー

 朝起きて、顔を洗い、朝食を食べて朝風呂を堪能する。

 そんなちょっとした贅沢を味わった後、旅館を出て向かった先はフエンジムであった。

 目的はもちろん俺のジム戦──というわけじゃない。

 基本的にジムは余程常識外な時間帯でもない限りは常時挑戦可能なんだけど、今日のフエンジムは朝は休みとなっている。

 

 では何故俺たちは朝からフエンジムに向かったのか。

 

「どうぞ、これお土産です」

 

「こ、これはご丁寧にどうも。お茶を用意するからちょっと待ってて」

 

 土産屋で買ったアチャモ饅頭をハルカが手渡すと、それを受け取ったアスナがポットで湯を沸かし始めた。

 現在地フエンジム──の、奥に用意された事務室。

 俺たちは今、挑戦者としてではなく客人としてフエンジムに招かれている。

 ……んだけど、アスナの様子がどこかおかしい。緊張でもしてるかのように、どこかぎこちなさを感じる。

 湯が沸く間の暫しの沈黙。

 俺はこういう時間が苦にならないタイプだけど、アスナはそうでもないらしくそわそわして落ち着きが無い。

 やがて耐え切れなくなったのか、アスナが口を開いた。

 

「えーと……あなたたちがチャンピオンが言ってた代理人……でいいんだよね?」

 

「そうですよ」

 

「…………そっかぁ……」

 

 会話終了。あまりにも無惨である。

 ……アスナってこんなコミュ障だったか? 肩に力が入るタイプなのは知ってたけど……。

 

「……えーと……は、初めまして、わたしはアスナです。フエンジムのジムリーダーを務めさせていただいてます」

 

 ……出たよ気まずい時の会話デッキ筆頭『自己紹介』。まあタイミング的に不自然ではないけども。

 

「初めまして、あたしはハルカです。それでこっちが──」

 

「ユウキです。今回はハルカの付き添いって形ですけど」

 

「そ、そう。よろしくね」

 

 ……会話終了。いやなんか繋げろよ。

 というかハルカとアスナって初対面だったのか? てっきり面識あるもんだと……いや、でもハルカが旅してた時は先代が務めてたって言ってたな。だったらこれが初対面でも不思議はないのかもしれない。

 にしてもこの空気どうしようかな……最早何も喋らないのが正解な気がするけど……。

 ポットをちらりと見る。まだ沸きそうにない。ガッデム。ハルカは……饅頭の箱開けてる場合かなんか喋れ。

 ……これ俺がなんとかした方がいいのかなぁ……別にそんなに会話得意じゃないんだけど……。

 

「あー……アスナさんは俺たちがここに来た理由って聞いてます?」

 

 そもそもの話、今日の用事はハルカがダイゴさんに頼まれた依頼をこなす事だ。日常会話は難しくても仕事の話なら出来るかもしれない。

 そう思って話題を振った瞬間、それを聞くなりアスナの肩がびくりと跳ねて。

 

「あ……あの……あたっ……あたしじゃ、やっぱりダメですかっ……!?」

 

 そう震えた声で瞳に涙を湛えながら言うアスナ。

 ええっ!? なんの地雷踏んだ今!? ダメって何が!? 

 

「自分が未熟なのはわかってます……! でも、このままじゃ託してくれた先代に顔向け出来ない! せめてあと一年……いえ、半年だけ待ってもらえませんか!?」

 

「いやなんの話!? そんな重い話なのコレ!?」

 

 アスナが必死の形相で俺の肩を掴んできた。

 近い! 顔が良い! でもあまりにも切羽詰まってる! 

 

「ちょっ、ちょっと落ち着いてくださいアスナさん! 多分何か勘違いしてます!」

 

「うわぁ〜ん! 資格剥奪なんて嫌だよぉ〜!!」

 

 そしてついにアスナの瞳のダムが決壊して泣き出してしまった。これには流石のハルカも焦った様子でアスナを宥め始める。

 一体何がどうしてこうなった。ハルカは一体どんな用事を任されたんだ。

 ……とりあえずちゃんと話し合おう。そんなに重い話だとは思ってなかったけどなぁ……。

 

 

 * * *

 

 

「どうぞ」

 

「ん、ありがとユウキくん」

 

「ありがとう……ズズッ」

 

 お茶の入った湯呑みをハルカとアスナに差し出す。

 本来であればアスナがこの立場なんだろうけど、ああいう状況になった以上そんな事は言ってられない。ポットの横にあった茶葉を勝手に使わせてもらったけど、そこは大目に見てもらうとする。

 

「ごめんね、取り乱しちゃって……連絡受けてからずっと気を張ってたから……」

 

 幾分か落ち着いた様子のアスナ。よかった、なんとか話は出来そうだ。

 

「あー……それはいいんですけど……一体どういう説明を受けてたんです?」

 

 俺はハルカからは『フエンジムの様子を見に行く』としか聞いてない。アスナはダイゴさんから直接話を聞いてたみたいだけど、あの狼狽っぷりはちょっとおかしい気がする。

 なんか剥奪がどうのとか言ってたけどそれと関係あるんだろうか。

 

「えっと……チャンピオンからは『ジムの様子を見たいけど自分は行けないから代わりの人を寄越す』と」

 

「……それだけ?」

 

 別に不穏なところは無いように思うけど。

 

「だってチャンピオンから直々の連絡だよ!? それも定期監査でもない時期に! 基本的にそういうのはリーグ教会から連絡が来るはずなのに!」

 

「お、落ち着いてくださいアスナさん……」

 

 また少し泣きそうになったアスナを宥める。

 ぽつりぽつりと語り始めたアスナの言い分を纏めるとこうだ。

 まず前提として、定期監査というのはリーグから派遣された審査員が行うものであり、そこに例外はまず無い。時期についても明確に決められてるらしく、それにはまだ早いのだとか。

 まあ細々とした事情は省くとして、アスナにとって重要だったのはダイゴさん(チャンピオン)から()()()()()()()という事である。

 ジムの視察は確かに大事な仕事ではあるものの、たった一人しかいないチャンピオンがその仕事に割り振られる事は有り得ないのだという。

 考えてみると確かにその通りだ。明確に決められた基準があって、それを実行出来ているかを見るだけなら他の人でも可能だろう。

 実際今までの歴史でもチャンピオンが自ら視察に来た事例は(気紛れとか個人的な理由を除いて)無いそうだ。

 

 そこに来て今回の件である。

 これが百戦錬磨のジムリーダーであれば多少困惑しながらも『まあそんな事もあるだろう』とどっしり構えられたのかもしれない。

 だがアスナは新参者である。そしてゲーム内の描写を見る限り、ジムリーダーとしてのスタンスも固まっていない時期だ。

 そうして悩んでいたのだろう時にダイゴさんからの連絡。

 

 それはもうパニクった。心の底から動揺した。

 

「やっぱりあたしはジムリーダーに相応しくないんだって……!」

 

 手で顔を覆うアスナ。

 自らの未熟さや、ジムリーダーとしての確固とした在り方を持てていないという現状。

 代理人を立てたとはいえ、本来であればチャンピオンから来ることの無い直々の視察の連絡。

 これらの要素が絡まった結果、アスナは今回の話を『ジムリーダー資格剥奪』だと思い込んでいたらしい。

 

「……だそうだけど、そうなのかハルカ?」

 

「いや、ホントに見に来ただけだよ。そんな話一言も聞いてないし、そうだったとしたらあたしには頼まないと思うなぁ……」

 

「だよなぁ……」

 

 だがアスナの予想はハルカの言葉であっさりと否定された。

 そもそも俺たちは一般トレーナーであってリーグ関係者でもなんでもない。ジムリーダー資格剥奪だなんて一大事にそんな無関係な人間を寄越しはしないだろう。

 ……もっと言うなら仮にそんな重い話題だとしたら、いくらハルカでももう少し深刻な空気を出してたと思う。

 そんな素振りを見せてなかった以上、昨日ハルカが言ってたようにそこに深い意味は無いのだろう。

 

「ほら、アスナさんが思ってたような事にはなりませんから。顔上げてください」

 

「うう……本当?」

 

「ホントホント。ほら、饅頭でも食べて元気出してください」

 

 箱の中の饅頭を一つ取り、袋を破いてアスナに渡す。そうして差し出された饅頭をアスナが手に取り、もそもそと食べ始めた。なんとなく小動物的で可愛らしい。

 ともあれこれで勘違いは正せただろうか。もう問題は無い……よな? 

 

「ユウキくん、あたしもあたしも」

 

「いやお前は自分で取れ」

 

「えーケチー」

 

 あー、と口を開けて待機していたハルカは無視するとして、少し気になる事が出来た。

 いや、前から違和感はあったのだ。アスナの話を聞いてそれがより浮き彫りになったというか。

 唇を尖らせながら饅頭を取るハルカに小声で話しかける。

 

「……なあハルカ。本当に今回の件ってジムの様子を見るだけか? なんか別の目的があるんじゃないのか?」

 

 ぴくり、とハルカの動きが一瞬止まる。

 アスナの話を聞く限りだとチャンピオン自らが動く、というのは相応の理由があるものだという事がわかる。

 そして本来関与しない仕事に関与し、報酬を用意して代理人を立ててまで現地に向かわせた。ここまでやっておいて何も無いなんて事があるだろうか。

 資格剥奪は無いにせよ、何か思うところがあってハルカを派遣させたと考えるのが自然な流れだ。

 返答を待つ。饅頭の袋が破られ、ハルカがアチャモを象ったそれを眺めて。

 

「ん……少なくともアスナさんが思ってたような話は本当に無いよ。自信が無いみたいだから少しバトルを見てあげてほしいとは言われたけど」

 

 同じく小声でハルカが返した。

 なるほど、ある程度アスナの背景を知ってる身としては一応納得出来なくはない。だけどそういう理由があったとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのはやっぱり不自然な気がする。

 ……まあでも、ハルカの言い方からして何かしら別の目的がありそうなのは確定と見ていいだろう。

 それがジムそのものなのか、アスナ個人のものなのか、それとももっと別の何かなのかはわからないけど。

 

「悪い知らせがあるってわけじゃないんだな?」

 

「うん。そもそも別に何も問題起こしてないし、自信が無いのだって経験を積めばどうにかなるだろうし」

 

 言いながらハルカが饅頭にパクつき幸せそうに頬を押さえる。

 ……まあ、とりあえずそれだけわかれば十分か。隠してる目的の方が気になるけど、ハルカが言わないのなら詮索するのはやめた方がいいだろう。言えない事情の一つや二つはあるだろうし。

 

「──さて、誤解も解けたところで改めてお話を!」

 

「は、はい!」

 

 饅頭を食べ終わったハルカがパンと手を叩きながら言うと、アスナの表情も引き締まったものに変わる。目元はまだ赤いけど精神面はかなり持ち直したようだ。

 

「あたしたちはダイゴさんに言われてフエンジムまでやって来ました。といってもアスナさんが思ってたようなものじゃなくて、隣のユウキくんがジムに挑戦するならって事でたまたまあたしに話が回ってきただけなんです」

 

「そ、そうなの?」

 

「はい。だから気負う必要とか全然無くて、あたしとしても仲良くなれたらいいなーくらいの感覚なんですよ」

 

 ニコニコと笑いながらハルカ。

 

「でも、アスナさんが悩みも抱えてるという話も聞いてました。あたしはジムリーダーじゃないし解決出来るかもわからないけど、一旦細かい事は忘れて──」

 

 本来の目的は別にあるにせよ、ジムの様子を見る──ひいてはアスナの悩みを解消してやりたいという想いも確かにあって。

 

「──まずはバトル、してみませんか?」

 

 それはトレーナーであれば最もわかりやすい方法。

 優秀なトレーナー同士であれば、言葉を交わすよりもバトルをした方が伝わる事もあるんだとか。まして今回のアスナの悩みならバトルで聞くのがある意味一番効果的だろう。

 そしてそれが出来るのはジムリーダーと同等近い実力を持った者じゃないといけないわけで。

 

「──はい。ではジムリーダー……いえ、ただのトレーナーのアスナとしてそのバトル、受けさせていただきます!」

 

 僅かに緊張の色を覗かせながらも、はっきりと力強くアスナがハルカの提案を受け入れる。少なくともさっきまでの弱気な様子はどこにもなかった。

 

 ……こういう関係を少し羨ましいと思う。

 

 俺はまだバトルをするのに精一杯でそこに何かを感じ取るような余裕はないけど、強くなればそこにある色んな想いを汲み取れるようになるんだろうか。

 いつかの未来の大舞台で戦う自分を想像して──上手くイメージ出来ずに霧散した。

 想像すら出来ないなんてまだまだだな、なんて思いながら二人が徐々に会話を弾ませていくのを眺める。

 何はともあれ、トップクラスのトレーナーのバトルを生で見れる貴重な機会だ。どこまで参考になるかはわからないけど、勉強させてもらうとしよう。




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アスナさん像はかなり私的解釈入ってるので解釈違いでしたらごめんなさい。我慢して読んでください。
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