ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
※1月25日に最後の方を修正&加筆。物語の大筋に変化はありません。
──何が起こった──!?
倒れ伏した
あのアブソルから技を受ける直前、ヒートの体力はほぼ全快だった。相手の『こうげき』も下げていたし、ヒートは持久戦を見据えた育成を施している。
だから
……なのに、続く一撃でヒートが倒れた。
考えられるとすれば、急所に当たった時のダメージを伸ばす技能だろうか。
実際アブソル使いはその手の技能を覚えさせる事が多いと聞くし、四天王の一人でもあるカゲツさんもそういう技能を持たせていたはず。
……けれど、それが効果を発揮するのは元の『こうげき』が高い場合に限るはずだ。
仮にあのアブソルが爪で攻撃してきていたのならまだわかる。もちろん
だけどあのアブソルは間違いなく角で攻撃していた。であれば角が折れている分本来の『こうげき』は下がっているはずで、ヒートの『ぼうぎょ』を抜いて致命のダメージを通すのは不可能なはずなのだ。だったらどうして……。
思考がぐるぐる回る。相手の攻撃の正体が掴めない。わからないまま突っ込んでもまた同じようにやられるだけ──
「──いや!」
後ろ向きになった思考を追い出すように思いっきり両頬を叩く。……少しばかり強く叩き過ぎてしまって思ったより痛い。だけど──
「ごめんヒート! もう一度お願いガッツ!」
「コッ!」
“ひでり"
気持ちを切り替えてガッツを場に出し“ひでり"の再展開を行う。
時間をかけて攻撃の正体を見破りたいのは山々だけど、このまま相手に呑まれて後手に回ってしまう方がよっぽど危険な状況になる。
それに相手が次のポケモンを出すまで待たないといけない、なんてルールも無いんだし、そんな事をしてる間に“つるぎのまい"でも積まれようものならいよいよ手が付けられなくなってしまうかもしれない。
だけど一体しかいない
とはいえ──
(──技能の肝が角なのは間違いない。でもそれだけが条件なら『サイコカッター』みたいな遠距離技でもよかったはず。だけど──)
技能というのはポケモンに元々備わっている力を
そしてそれは当然ポケモンによって向き不向きがあり、例えば物理攻撃が得意なポケモンで特殊方面を伸ばそうとしても上手くいかないし、鈍足なポケモンに速さを求めても大きな成果は得られないだろう。
それで言うならアブソルは物理と特殊両方可能なポケモンではあるが。
(──わざわざ接近してきたという事は確実に近距離型! 少なくとも遠くから一方的に技を押し付けられる事は無い!)
両方出来るからといって両方伸ばせるわけじゃない。
尖らせるというのは特化させるという事。言い方を変えれば
人間だって同じだけど、ポケモン一匹に出来る事は限られている。あれもこれもと欲張ったって全ては得られない。だから取捨選択する必要がある。
それを前提に考えれば、あのアブソルだって危険を冒してまで接近したのだから真価を発揮出来るのは近距離戦に限られるはず。だったら攻撃の正体が掴めなくても近寄らせなければ充分解答になり得る。
「そるる!」
「来るよ!」
「コォッ!」
“こうらでまもる"
アブソルが動き出すのを見てガッツに指示を飛ばす。
自分で言うのもなんだけど、この状態のガッツにダメージを通すのは至難の業だ。何せただでさえ『ぼうぎょ』に優れたコータスが完全に防衛姿勢に入ってるのだから、生半可な攻撃じゃビクともしない。
故にこそ、相手は必ず大技で仕留めに来ようとする。そしてそういった技は往々にしてその前後に隙が出来やすい。
あたしが狙うのはそこ。さっきのバシャーモにもやったように、無理やり攻めてくる相手を逆に吹き飛ばすのがガッツの戦い方だ。
アブソルが軽やかに地上を駆ける。
真っ直ぐ突っ込んでくるような真似はせず、一定の距離を保ってガッツの周囲を走りつつ攻撃の隙を窺っている。
一応ヒートの“いあつかん"で能力が下がってる状態だけど、それでも鈍足なガッツで追うのは無理な話だろう。
だからこそ
アブソルの挙動を見落とさんと集中する。いつか来るその瞬間を捉える為に目を光らせる。
そうしている間に“ひのうみ"が消えた。これでアブソルの体力が減る事は無くなったが、時間を掛ければ掛ける程ガッツの体力は石炭が残ってるおかげで徐々に回復していく。
それに動き続けていればいつかは息切れを起こすから、動かなければならないのは相手の方だ。
引いてくるならそれで良し。攻めてくるなら攻撃を合わせる。
ジリジリとした睨み合い。果たしてハルカちゃんの選択は──
「──正面っ! タイミング合わせて!」
方向転換。アブソルが真正面から強襲を仕掛けてきた。
本来、遅いポケモンに対しての定石は背後を取って攻める事。
ごく稀な例外を除いて、どんなポケモンでも後ろから襲い掛かられればどうしても反応が遅れてしまう。そして素早いポケモンであれば後ろに回り込むのはそう難しい事じゃない。
だけどそれは
コータスは口からはもちろん、甲羅からも炎を噴射する事が出来る種族だ。故にタイミングさえ合わせられるならコータスの向きは関係無い。
だったら少しでもハルカちゃん側から見やすいように正面から突っ込ませた方が対応幅は広い、という事だろうか。
それでもこちらが取る手段は変わらない。相手の突撃に合わせて攻撃を──
「“かげぶんしん"!」
「いっ!?」
“かげぶんしん"
その技名と共にアブソルが自らの姿を模した虚像を生み出した。その数約十。それぞれが様々な方向からガッツに刃を向ける。
本体以外は実体が無いし影が映らないという欠点はあるものの、目の前で突然増えたそれらを一瞬で把握出来るような目を、残念ながらあたしは持ち合わせていなかった。
正直まだ温存しておきたかったけど……ここで切るしかない!
「
「コォォ──ッ!!」
“パワープラント"
“ふんか"
残りの燃料を全て使い切り、最大威力の“ふんか"をぶっぱなす。
凄まじい勢いで噴射される炎の奔流が目の前全てを覆い尽くし、アブソルの虚像諸共焼き払っていく。
耐久の低いアブソル相手ならただの“ふんか"で充分だったし元々そのつもりだったけど、あの範囲全部をカバーしようと思ったら威力をブーストしないと対処し切れなかった。
手札を切らされたのは痛いけど、それでも。
“だいかさい"
“ひのうみ"
状況はそこまで悪くない。
ガッツの体力はほぼ全回復したし、アブソルを倒した事でハルカちゃんの手持ちは体力約半分のバシャーモとまだ見ぬ残り一匹のみ。単純な総合体力だと逆転した事になる。
とはいえガッツの技能の殆どは石炭有りきのものだ。もう大した仕事は出来ないだろう。
後は起点にならないように相手を削れるだけ削ってラストに託すだけ──。
──ゆらり、と。
爆煙の向こうで何かが蠢いた。
「──っ! まだだガッツ!」
「コッ!?」
倒せた、と思った。分身諸共全てを焼き尽くせただろうと。
それで僅かに気が緩んだ。目の前の脅威を退けた事に安堵して。
違う。倒せたのは分身だけだ。あのアブソルは分身だけを前に出して囮にし、自分は後ろに下がって技を誘発させた──!
黒煙の向こうから白い獣が飛び出してくる。
刃を構えて、それを一息に振り下ろし。
“ほろびのやいば"
“つじぎり"
「コォ──っ!?」
「ガッツ!」
防御が間に合わなかったガッツに“つじぎり"がクリーンヒットする。いくら『ぼうぎょ』が高くてもこれは痛い……!
「……コ……コォ……?」
「……え……?」
しかし攻撃を受けたガッツが不思議そうに自分を見る。その様子を見てあたしも何かがおかしいと思った。
ガッツの体力が殆ど削れてない。あんなに綺麗に入ったのに? それに傷跡だって三本もはっきり……。
──いや。
さっきのヒートの時もそうだった。綺麗に入った割にはダメージが殆ど無い。
最初は極端に『こうげき』が低いせいかと思ってたけど、だとしたらおかしくないだろうか。
コータスという種族は単純な物理防御なら全ポケモンの中でも上から数えた方が早いくらいには高い。ましてあたしのガッツは『ぼうぎょ』に特化した育成を施している。
なのに
そこまで考え、
「──
「む、バレたかな」
ダメージに関係なく相手を問答無用で『ひんし』に追い込む技。つまり“ほろびのうた"を下地にした技能だ。
おそらくはあの傷跡を模したマーカーがカウントの役割を果たし、攻撃する度にカウントを削るといった感じのものだと推察する。ヒートが一撃で倒されたのは、何らかの条件でカウントを更に短縮する技能が発動したからか?
だけどそうならまずい。耐久を無視してくるなら鈍足なガッツはただの的だ。何せ相手は攻撃の強弱に関わらずただ当てるだけでいいのだから。やっぱりあの攻撃は受けちゃいけなかった。
とはいえ“ほろびのうた"を下地にしてるなら、おそらく交代であの
こんな交代を強制するような技能を覚えさせているんだから、“おいうち"系統の技能が無いなんてのは流石に楽観が過ぎるだろう。最悪、交代に技を合わせられて一撃で倒されかねない。
となると居座るのが正解……というか居座るしかない。何がなんでもあのアブソルを落とさないといけなくなった。
最早取れる手段は一つ。
「……ごめんガッツ、お願い」
「コッ!」
不甲斐ない主の命にも文句一つ言わず従ってくれるガッツ。本当にごめん。
さっきのカウンターが透かされた以上、もう待ちに徹しても的になるだけ。ならこっちから攻めるしかない。でも
だったらどうするか。
ガッツが甲羅に引っ込む。残り全ての力を凝縮し、解放する準備を始める。
ハルカちゃんが若干訝しげな表情になり──そしてこっちの狙いを悟ったのか目を見開いて。
「逃げっ──いや、倒してそるる!」
「ソルッ!」
僅かに焦りを含んだ声でハルカちゃんの指示が飛ぶ。
狙いを看破したのなら退きそうなものだけど、ここで攻めの判断が出来るのは本当に凄い。実際あたしがやろうとしてる事を止めるならそれが最善手だと思う。
だけどもう遅い。
「“だいばくはつ"ッ!」
「コォ──ッタス!!」
“フルバースト"
“だいばくはつ"
腹の底から、ジムを震わせるような大声で叫ぶ。
瞬間、ガッツを中心に破壊が弾けた。それはガッツの周囲はおろか、バトルコート全域に及ぶ程の大爆発。衝撃波は強風となり、砂煙を巻き上げながらジム内を吹き荒れる。
砂が目に入らないよう手で守りながら、今は煙で隠れて見えないガッツがいた場所から目を離さない。
如何にポケモンが使える技の中でも最大級の威力を誇る“だいばくはつ"といえど、普通に使えばここまでの規模にはならない。だけどそれに使う
“パワープラント"とは別の火力増強手段だけど、これを使うとポケモンへの負担がかなり大きい。少なくとも今日一日はポケモンセンターに預けておかなくちゃいけない。
しばらくしてようやく晴れてきた爆発の中心部には威力の代償として『ひんし』になったガッツと、そのすぐ近くに倒れているアブソルの姿が見えた。
分身……じゃない。今度は間違いなく本体だ。動く様子が見えない事からあっちも『ひんし』になってるんだろう。
「……お疲れ様、ガッツ。ありがとう」
「うー……やっちゃったなぁ……。ごめんね、そるる」
互いに倒れたポケモンをボールに戻す。
脅威は去った。あのアブソルだけはどうしても倒しておかなきゃいけなかった。
だけどやっと一匹。これだけ犠牲を払ってようやく一匹だ。ヒートが殆ど何も出来ずに落とされ、ガッツが意地で相討ちに持っていった一匹。代償はあまりにも大きい。
格上という認識で戦ってたし色々噛み合ったのもあるだろうけど、ここまで差があるとは思ってなかった。
こっちの残るは一匹。最低でもあのバシャーモに勝てるポケモンじゃないといけない。
そう考えながら最後のポケモンを選ぼうとして。
「次……は……」
その手が止まる。
どうやってあのバシャーモに勝つ? ジム戦とはいえ先代を完封したあのバシャーモに?
ずっと『ほのお』タイプのポケモンと過ごしてきたあたしにはわかる。わかってしまう。彼女のバシャーモがどれ程の強さなのかが。
そして……それが今のあたしには及びもつかない領域に到達しているのだという事が。
……このバトルには、きっと勝てない。
ここまでやられておいて言うのもおかしな話だけど、試合運びは決して悪いものじゃなかった。
自分のやりたい事は出来てたし、極端な指示ミスがあったとも思わない。
ただ……純粋にハルカちゃんがあたしよりもずっと強かった。
あたしの目指した先は、まだまだ遥か遠かった。
……やっぱり、あたしじゃ……。
先代にジムを託された。突然の任命に戸惑いながらも、あたしを選んだ先代の顔に泥を塗らないように頑張ろうと決めた。
でも……あたしは自分が先代のようなジムリーダーになれるのかずっと疑問だった。
先代はあたしの──ジム生みんなの憧れだった。
強く、優しく、快活で豪胆。ちょっと雑で大雑把なところもあったけど……そこも含めてみんなに慕われる、太陽のような人だった。
対してあたしはどうだろうか。
なるほど、ジムリーダーに選ばれる程度にはバトルが強いのだろう。あたし自身、数少ない取り柄として少々腕に覚えがある。
では人格は?
人並みには優しいと思う。ややあがり症なのは自覚してるものの根が暗いわけじゃないし、ジム生や町のみんなともそれなりに良好な関係を築けている。
だけど……それは果たして
他のジムリーダーはみんな何かを持っている。
例えばムロタウンのトウキさんは不屈の闘志。キンセツシティのテッセンさんは底抜けの明るさ。若輩者であるあたしよりも更に若く、任期も大差無いカナズミシティのツツジちゃんだって明晰な頭脳がある。
これらのように強さ以外の何か……『特別』を、他のジムリーダーは必ず備えている。
じゃああたしは?
特別心が強いわけじゃない。特別明るいわけじゃない。特別賢いわけでもない。
あたしはどこまでも『普通』であり、少々ポケモンバトルが強いだけ。その強さだって目の前のハルカちゃんに比べれば霞む程度のものだ。
──でも……それでも……!
拳をぎゅっと強く握る。
あたしにだって何かあるはずだ。そうじゃなければ先代があたしを後継に選ぶ理由が無い。この戦いはそれを見つける絶好の機会なんだ。
何かを見つけるまでは終われない。終わらせられない。
「先代のような立派なジムリーダーになるんだ……! じゃないとあたしは……!」
自分に言い聞かせるように呟きながら、
──相性上はグレンが有利。だからきっとこれが正解のはず。
ボールをホルダーから取り外して手に取る。そのままバトルコートへ投げ込もうと大きく振り被ろうとした、その時。
──ガタリ、と
「え──?」
グレンが出るより早く中から勝手に飛び出してきたのは、スラッとした人型の長身のポケモン。
二又に分かれた長い髪のような羽根に、燃えるような赤い身体と強靭に発達した太い脚を持つ
……正直意外だ。一応連れて来てはいたものの、この子の性格上出る事は無いと思ってたのに。
「……珍しいね、
「…………」
あたしの言葉にバーンが僅かにこちらを振り向いたものの、またすぐに前を向いてしまった。
相変わらず無愛想だけど、背中越しから闘気が溢れているのがわかる。いつになくやる気のようだ。
少し驚いたけど、こういう状況でこの子以上に頼りになるポケモンはいない……が、それと同時に不安も覚える。
それは先代に貰ったタマゴから生まれたあたしの第二の相棒──バシャーモのバーンだった。
評価や感想、批評等あればよろしくお願いしマース。
ここすき機能なんかもご利用くださいませ。
あとツイッター始めてみたので興味があるなら是非。
SV楽し過ぎなのと普通に難産でかつてなく遅れてしまった。許してください。ストーリーめっちゃ良かった。
なるべく早く次を上げたいと思ってますが、多分思ってるだけなのでそんな早くないです。のんびり書きます。
正直こんな長くなると思ってなかったので次くらいで終わらせたいところ。