ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが?   作:名無しのナナシ

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お待たせ。


一口に育てると言っても色々ある

「何をしたらこうなるんですか!?」

 

 ハルカとアスナのバトルが終わり、そのままみんなでポケモンセンターへと向かいボールを預けた瞬間、ジョーイさんから悲鳴が上がった。

 

「どうやったらバシャーモの腕が()()からこんな焼け焦げ方をするんですか!? どうしたらこんな事に!?」

 

「あ……アハハ、ちょっと気合い入りすぎたって言うか……」

 

「それじゃわかりません! ちゃんと説明してください!」

 

 目を逸らしてぎこちない言い訳をするアスナに、ジョーイさんは詳細な説明を求める。

 そんな風にやいのやいのと言い合いをする二人を、俺は備え付けの椅子に座って遠目に見守っていた。

 ……いや、言い合うってよりは一方的にアスナが詰められてる感じだけども。

 

「……お前何したの?」

 

「いや、別にあたしが何かしたわけじゃないんだけど……」

 

 隣に座るハルカにジト目を向けてやると、心外だと言わんばかりに返してきた。けどこういう時のハルカへの信用度は残念ながらそんなに高くない。

 そんな俺の心中を察したのか、ハルカは少し不服そうにした後に説明を始めた。

 

「あれはあたしじゃなくて向こう側の問題だよ。凝縮された『ほのお』エネルギーが限界を超えて内側から焼いちゃったの」

 

「限界を超えたって……最後のあれか?」

 

「そう、あれ」

 

 言われて先のバトルを思い返す。

 アスナのバシャーモが最後に放った一撃は、まるで超新星爆発を連想させるような凄まじいものだった。

 威力だけ見るなら前にテッセンが使ってきた“らいごうせんが"より上だろう。

 

「普通あんな量のエネルギーを暴発させずに一点に留めておくなんて出来ないんだけどね。あのバシャーモ、エネルギーの操作技術が抜群に高いよ。出来ちゃったからこその反動とも言えるけど」

 

「ふーん……バシャーモ(ちゃも)は出来ないのか?」

 

「絶対に無理だね」

 

 即答である。

 

「単純にちゃもがそんなに器用な方じゃないっていうのもあるけど、そういう方面は全然鍛えてないからね。ちゃもに出来るのはただの格闘戦だけだよ」

 

「俺からすればその格闘戦も大概だけどな」

 

 大した事じゃないとでも言いたげなハルカだが、極まったあれは単純に強力な技を使えるよりよっぽど脅威だろう。

 例えばゲームの話で言えば“きあいだま"という技がある。

 この技は『かくとう』タイプにしては珍しい特殊技であり威力も120とかなり高く、低確率だが『とくぼう(D)』ダウンのオマケまであるという非常に便利な技なのだが、高火力技の例に漏れずデメリットが存在する。

 

 命中率である。

 

 これがもう盛大に外す。悲しい程に外す。

 何せ大事なところで外すと言われるあの“ハイドロポンプ"や“ストーンエッジ"よりも命中率が下の70なのだ。そんなもん信用出来るわけがない。

 これにより“きあいだま"は『ワロスだま』、『採用する方が悪い』、『一撃技(30%)の方が当たる』と散々な評価を受けながら、しかし当てれば戦果を挙げるので良くも悪くもドラマを生んできた歴史が存在するのである。

 

 まあ何が言いたいのかと言えば、どんなに強力な攻撃でも当たらなければ意味が無いという事だ。極端な話、相手の攻撃は全部避けて自分の攻撃は全部当てれば勝てるのだ。

 もちろんそんな夢物語が現実に起こるわけは無いんだろうけど、基礎的な身体能力を極限まで鍛え上げれば理想に近付く事は出来る。ちゃもはつまりそういうポケモンだ。

 対抗するなら特殊の遠距離技で攻めるべきか。例えば広範囲を攻撃出来てかつ弱点の“なみのり"とか、発生や軌道を読みにくい“サイコキネシス"とか。もしくは“トリックルーム"や“でんじは"のような補助技を絡めて真っ向から勝負する事自体を避けるのも有効そうだ。その他にも地形を利用するなら“あなをほる"とかでフィールドに落とし穴を作ったり、“あまごい"で弱体化を図ったりなんかも──

 

「……ユウキくん? おーい」

 

「──ん、ああ、ごめん。なんでもない」

 

 不思議そうな顔で覗き込んでくるハルカに手を振って返す。いけない、自分の世界に入り込んでしまった。

 ともあれ、あのバトルで得られた知見はそれなりに多い。特に俺にとって大きかったのはバシャーモミラーを間近で見れた事だ。

 あれのおかげで同じ種族(バシャーモ)でも育成次第で戦闘スタイルに差が出るというのが改めてよくわかった。

 アスナのバシャーモは高速機動からの多彩な攻め筋。ハルカのちゃもは徹底した待ちからの鋭い反撃。

 どちらが優れてるとかはさておき、少なくとも俺のバシャーモのイメージとしてはアスナバシャの方が合致してたから、ちゃもの戦い方はそれなりに新鮮だった。

 やっぱりこの世界における育成の自由度は尋常じゃなく高い。尤も、だからこそ難度も相応というのが側面の一つとしてあるんだけど。

 

「うーん……とりあえずはジュカイン(カイン)と色々やってみるかなぁ。試したい事もあるし」

 

「お、何か思いついたの?」

 

「まあざっくりと。形になるかはわからないけどな」

 

 実のところ、構想自体はカインをパートナーにした時点で薄らとあったのだ。その為の下準備もコツコツと進めてきた。あとはそれを形に出来るかどうかだ。

 こればっかりはカイン次第なのでなんとも言えないところではあるけど。

 

「お待たせ。いやー、ちょっと怒られちゃったよ」

 

「ちょっと……?」

 

 そんな会話をして時間を潰していると、ようやくジョーイさんのお説教から解放されたらしいアスナがこっちまで歩いてきた。

 俺には激怒されてたように見えたんだけどアスナの基準では違うらしい。

 

「随分長かったですね。そんなに酷かったんですか?」

 

「いや、怪我自体は一日メディカルマシン*1で休んでれば治るくらいのものらしいんだけど、前科があったというか……」

 

「前科?」

 

 そう尋ねるハルカに、アスナが頭を掻きながらバツが悪そうに答える。

 

「昔、コータス(ガッツ)がどれくらい石炭を溜められるのか試しててさ。その時にやりすぎて大爆発しちゃった事が……」

 

 何やらかしてんだこの人。

 

「まあ挑戦に失敗は付きもの! 大事にならなかったから問題ナシ!」

 

 あっはっは! と豪快に笑うアスナ。しかし徐々にその笑顔に陰りが見え始め。

 

「……って冗談のつもりで言ったら『取り返しのつかない失敗になる事だってあるんです!』って本気で怒られたんだよね……もちろんあたしなりに反省はしてたんだけどさ……」

 

 煤けた表情でアスナは語った。要するに過去にも似たような失敗をやらかしてた分、お説教が長くなったと。

 これあれだな。周りに心配かけまいと軽い調子で話したらマジレスされてヘコむタイプだな。しかも自分では事実をそれなりに重く受け止めてるから二重にダメージ受けるやつ。

 

「ユウキくんも気を付けてね。外側と違って内側の怪我は見えにくいし治りにくい上に大事に繋がりやすいから」

 

「それはまあ……気を付けます」

 

「うん、それでよし」

 

 人間がそうであるように、ポケモンも身体の内側と言うのはデリケートだ。

 中でもポケモン毎に備わっている独自の内臓器官*2は決して丈夫ではない場合も多く、傷付けば最悪一生技を出せなくなる事だってある。

 だから完全にとは言わずとも、手持ちの状態を把握するのはトレーナーの必須項目だ。ゲームの時と同じように能力を高く伸ばすだけが育成じゃないのだから。

 

「で、あなたたちはこの後どうするの? 一応午後からはジムを開けるつもりだから挑戦するなら受けるけど」

 

 そう問い掛けてくるアスナ。

 本当は先にジム戦を済ませてからと考えてたけど、せっかく良さげなタイミングが来たし、先にあの事について質問させてもらおうかな。

 

「それもいいんですけど、その前にちょっとアスナさんに聞きたい事が」

 

「ん? 何かな?」

 

「その、えんとつ山でマグマ団が怪しい動きをしてるとかって聞いたんですよ。それが本当なら危ない事かもしれないからアスナさんに対処してもらおうと思って」

 

 温泉でアオギリから聞いた情報をそのまま話す。

 えんとつ山がフエンタウンの管轄である以上、そこで怪しい動きをしてるとなれば放っておくわけにもいかないはずだ。

 そうした狙いの俺の言葉を聞いてアスナが小首を傾げる。

 

「マグマ団……って、マグマコーポレーションの人たちの事? 特にそんな話は聞いてないけど……その話どこで聞いたの?」

 

「えーと……」

 

 一瞬名前を出すか迷ったが問題無いだろうと判断して。

 

「アクア団のアオギリさんです。温泉でばったり会ったら会話の流れでそんな話を聞かされました」

 

「あー、あの人か……確かにちょっと前にえんとつ山での活動許可が欲しいって言われたけどそれの事かな……」

 

 ……んん? 

 ちょっと聞き捨てならないワードがあったぞ。

 

「え? 許可って、まさかマグマ団が直接来たんですか……!?」

 

「うん。マツブサさんって人が色々説明してくれたよ。新しいエネルギーを作るんだって」

 

「そう……ですか……」

 

 予想外の答えに思わず唸ってしまう。

 まさか許可まで得てるとは思わなかった。あわよくばアスナに同行しようと思ってたのに。

 いや、でも表向きは普通の企業として活動してる事を考えたらそうなるのか? ああもうめんどくせぇ! 

 

「あの、それって本当に危険とかは無いんですか?」

 

 と、内心で頭を抱えていると、今度はハルカが疑問を口にした。

 疑問符を浮かべるアスナにハルカが続ける。

 

「だってアオギリさんって仮にも一組織のリーダーなわけだし、だったらその発言には何かしらの根拠があると思うんです。もしかしたら環境的に良くない事をしようとしてるのかも……」

 

 その言葉に俺は少し驚いた。

 あの時のハルカはアオギリに対して敵意を向けてたはずだったから適当に聞き流してるかと思ってたけど、存外冷静だったらしい。

 

「そうか……そう言われると確かに気になるな……わかった、ちょっと確認してみる」

 

 言いながらアスナが少し離れてマルチナビを取り出しコールを掛ける。連絡先は当然マグマ団だろう。

 そうして通話の相手としばらくのやり取りが行われた後、アスナが戻ってきて。

 

「うん、連絡取れたよ。不安なら直接現場を見て判断すればいいってさ。それと可能なら君たちも呼べって言われたんだけど、大丈夫かな?」

 

 ナビをしまいながらこちらの都合を聞いてきた。まさか向こうから直接お呼びがかかるとは。

 どういう目的かは知らないが好都合だ。これでマグマ団と接触出来る。

 

「あたしは大丈夫です。だから──」

 

 ちらりとハルカが俺の方を見て、それに頷きで返す。心は同じだ。

 

「──ユウキくんはフエンでお留守番ね?」

 

「なんでだよ」

 

 全然同じじゃなかったわ。

 コクッじゃねえんだよ。慈愛に満ちた目やめろ。

 

「だってユウキくん、前にえんとつ山には近付かないでおこうって言ってたし」

 

「確かに言ったけど状況が違うだろ」

 

 ああ言ったのはえんとつ山に向かおうとしても俺の実力不足が理由で咎められるだろうと思ったからだ。あんな風に言われて『じゃあ忠告無視して登ろうぜ』は無理があるだろう。

 だけど向こうから来いと言ってきた以上、それは問題にならない。

 それに──

 

「アオギリさんが言ってたのはマグマ団とトラブらないようにって事だろ? 向こうが呼んでるんだから行かなきゃそれこそ失礼だと思わないか?」

 

 余計な揉め事を起こさないという観点から見ても、ここは素直に向こうの要求に従って顔を出すのが正解のはずだ。

 それに既にマグマ団はロープウェイの封鎖に動いている。わざわざそんな事をする理由なんて、一般人がえんとつ山に立ち入る事を禁じる為だろう。

 実のところ、一般企業の皮を被ってるなら派手な行動や強硬手段に打って出たりはしないだろうし、そこまで焦らなくてもいい可能性はあるけど……とにかく本格的に行動が制限される前に何かしら介入しておきたい。

 

「……そう、やっぱり行くんだね。わかった、でも危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ?」

 

 お母さんかお前は。

 

「心配し過ぎだっての。それにいざとなったらアスナさんだっているし大丈夫だろ」

 

「あ、うん、それは任せて! 民間人を守るのもジムリーダーの務めだからね!」

 

 少し誇らしげに胸を叩くアスナ。頼られて嬉しいのだろうか。実際全力で頼るんだけど。ザ・他力本願。

 ……にしてもハルカ、なんか妙に食い下がってきたな。いつもなら『ユウキくんの判断に任せるよ』とか言ってそうなのに。アオギリの話で不安があったにしてもちょっと違和感。

 実際ただの会社間のいざこざだったとしても一般人が首突っ込む話じゃないのは確かだけど。

 

「で、それはいいんだけど、ユウキくんジム戦はどうする?」

 

「あ、やります」

 

 この際なのでジム戦もやっておこう。勝てるかどうかは置いといて、今は経験を積む方が大事だ。

 質より量……いや、ジム戦だから質も確保されてるか。とにかく実戦あるのみだ。

 

*1
ポケモンセンターに置かれているポケモンの治癒用のマシンの事。大抵の傷はこれで治るが万能というわけではなく、ゲームの様に即時回復というわけでもない。

*2
ピカチュウ系統なら電気袋、アチャモ系統なら炎袋等。




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