ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
「先に名乗っておこう。我が名はマツブサ。人類の更なる発展と進化を叶える為の組織、マグマコーポレーションの長を務める者だ」
「……ユウキです」
「ハルカです」
向こうに合わせて俺たちも名乗る。その間もマツブサはずっとこちらを値踏みするように鋭く睨みつけていた。
対峙してみてわかったが結構なプレッシャーだ。出会った状況が違うと言えばそれまでだが、アオギリの時には感じられなかった圧力をこの男は放っている。流石は組織の長といったところだろう。
「あの、あたしたちを呼んだのってあなたですよね? 何か用ですか?」
しかしそんなプレッシャーの中でもハルカは全く動じた様子がなく、直球でマツブサに疑問を投げかけていた。流石ですハルカさん。
そんな遠慮の無いハルカの言葉を受けたマツブサは、不愉快そうに眉根を顰める。
「……フン、有りもしないデマをどこぞの輩に吹き込まれた哀れな子どもがいると、そこのジムリーダーに聞いたものでな。私が直々に正してやろうと思ったまでだ」
「デマ?」
「我々の活動についてだ。大方自然破壊活動をしているとでも吹聴されたのだろう?」
そこまで直接的な事を言われたわけではないが、どうせそんな感じだろうと頷いておく。
するとマツブサはやはりか、と呟いて話を続けた。
「そこのジムリーダーには既に話しているが、それは全くの間違いだ。一ミリたりとも無いとは言わんが周囲への影響は極軽微に留まる。それらを計算した資料も渡しているはずだ」
その言葉にアスナの方を見る。頷いていた。
「尤も、資料を読んだところで子どもに理解出来る内容ではないだろうがな。だからここへ呼んだのだ。直接現場を見た上でジムリーダーの保証があれば、貴様らのような子どもであっても納得出来るだろう」
なるほど。つまり話だけ聞いてもわからないだろうから、直接現場を見せてからジムリーダーのお墨付きを貰って黙らせようって腹か。まあ合理的だな。
「好きに見て回るがいい。貴様らもまた未来ある若人の一人。社会勉強の場を与えてやるのも大人の役目だ。だがその前にこれに着替えてもらう」
そうして話し終えたマツブサが団員の一人に呼び掛けると、どこからか赤い物を持ってきて俺たちに手渡してきた。
これは……マグマ団の制服か?
「火口に近い場所なのでな。肌を出していると皮膚が焼けてしまう可能性がある。少々暑いかもしれんが安全の為だ、我慢してもらおう」
「えっ……」
……やっぱりこの人も悪人向いてないだろ。悪の組織のリーダーが安全に配慮するな。
まあそういう事なら仕方ない。言われた通り着替えるとしよう。
「……ん? ハルカ、どうした?」
「……ううん、なんでもない……」
手渡された制服を見たハルカが何故か微妙な顔をしている。何か変なものでも付いてたんだろうか。
取り替えてもらうかと聞こうとしたが、そうする前にハルカたちは女団員に案内されて設営されたテントの一つに入ってしまった。
少し気になるがこのまま待ってても仕方ないので俺も案内されたテントに入って着替えておく。
そうして制服に腕を通すと、意外に風通しがいい事に気が付いた。
さぞ暑苦しい思いをするだろうと思ってたからこれは嬉しい誤算だ。これなら暑さで倒れるなんて事にはならなさそうだ。
着替えを終えて外に出ると、やはりこの手の準備は男の方が早いのかまだハルカたちの姿は見えなかったので、準備が終わるまで待っておくとする。
「やっ、お待たせ。思ったより暑くないね、この服」
それから少しして、向こうの方からアスナがやってきた。
アスナの格好と言えば腕と腹を出した上半身の露出が多いものであるが、マグマ団の制服はその逆で上半身の露出こそ皆無だが代わりに足の露出がある。
ゲーム内じゃ絶対に拝めない姿だ。眼福である。この事だけはマグマ団に感謝してもいいかもしれない。
「似合ってますね」
「ありがとう。ユウキくんも中々似合ってるよ」
お互いに制服姿を褒め合う。
俺自身の見た目は正直どうでもいいけど褒められて悪い気はしない。
「ところでハルカは?」
「まだ少しかかるんじゃないかな。なんかあの子、すごい顔でこの服見てたんだよね」
「そうですか」
一体どうしたんだろうか。さっきも変な顔になってたし、まさかハルカの制服だけ変なデザインだったとか? もしくはサイズが合ってなかったり?
でもそれならアスナが放っておかないよな……うーん?
「あ、来た。おーい!」
なんて考えてる間にハルカの姿が見えたらしい。
さて、どんな感じなのかなと振り向いてみれば。
「……お待たせ」
「お、おう……なんか不満そうだな」
ちゃんとあの服は着ているが、仏頂面のハルカがそこにいた。な、なんで……?
「こんなの着るつもりなんかなかったのに……」
どうやらマグマ団の制服がお気に召さないらしい。
あんまり服装で文句を言うイメージは無かったから意外だ。何かこだわりでもあるんだろうか。そこはハルカも女の子という事か。
「そうか……でも似合ってるぞ?」
「……嬉しいから困る……」
ご機嫌取り、というわけじゃないけど服装を褒めてみれば、何か言いながらフードを被ってそっぽを向いてしまった。自分の好みじゃない服装を褒められてもって感じかな。
でも俺から見たハルカの姿は実際とても可愛い。ハルカのイメージカラーが赤という事もあるからか、マグマ団の制服もかなり相性がいいように見える。
こっちもゲームじゃ見る事が無い服装なのでとても新鮮だ。
「着替え終わったようだな」
「あ、マツブサさん」
そんな会話をしているといつの間にかマツブサが団員を一人連れて近くまで来ており、俺たちの姿を一瞥した。
「ふむ、悪くない。もし貴様らが将来我がマグマコーポレーションに入社を希望するなら歓迎しよう。そちらの者は特にな」
そうしてちらりとハルカの方に視線を向け、ハルカはそれから逃れるように俺の後ろに隠れた。
奇しくもアオギリの時と似たような状況である。まあアオギリも知ってたんだしそれならマツブサだって気付いてるわな。
さておき、気になる事が一つ。
「あの、マツブサさん」
「なんだ」
「さっきこの服は体を守る為って言ってましたけど、女性用の制服が足が出てるのはいいんですか?」
「………………」
実はマグマ団のこの制服、男性用はハーフパンツの下に更に肌を隠すように長ズボンを着用するのだが、女性用のものは長ズボンどころかクォーターパンツ一枚なのでさっき見た通り思いっきり露出してしまっているのだ。
これでは体を守る役割を果たせないのではないだろうか。その事を指摘するとマツブサは押し黙ってしまった。
沈黙の時間が流れ、数秒経ってからようやくマツブサが眼鏡を上げながら口を開く。
「……初めは同じデザインだったのだが、どうも女性社員からの評判が芳しくなくてな。幹部の一人が制服を改造していた事もあって声を抑え切れず、デザインの変更を余儀なくされた」
「ああ……そうですか……」
そう語るマツブサからはどこか哀愁が漂っていた。
制服改造してる幹部っていったら、多分カガリの事かな。この人身内にクソ甘いからな。カガリの事も強く言えなかったんだろう。
それで幹部とはいえそれが許されるなら自分たちもと、他の女性団員が押し切った感じか。女性のお洒落への執念、恐るべし。
組織のリーダーも大変なんだなと憐憫の目を向けていると、マツブサがわざとらしい咳払いをして話題を変えた。
「それより、準備が出来たのなら早く行くがいい。この者を案内に付ける」
「よろしくね〜」
言いながらマツブサの隣にいた団員がひらひらと手を振る。声色的に女性のようだがフードを目深に被っているせいで顔がよく見えない。
「火口付近には不用意に近付かぬ事だ。焼け死にたいと言うのならば止めはせぬがな。それとジムリーダー、例の件だが──」
「わかってます。見回りが一通り終わったら、ですよね?」
「ウム。詳しい話は戻ってきてからにしよう。では頼んだぞ」
アスナといくらか言葉を交わしてマツブサが去っていく。どうやらアスナ個人にも用事があるらしい。
「さて、それじゃ行きますかね。ではではえんとつ山ツアーにごあんなーい!」
そして目の前の女性団員はやけにテンションが高い。
なんだろうこの感じ。ちょっとついていけそうにない。
「行こっか、ユウキくん」
「ん、おお、そうだな」
まあ一旦それはいいか。とりあえず今はマツブサの言う通り調査をしていこう。
* * *
調査開始から二時間と少し。残念ながらアスナの目から見ても特に怪しい動きや物は見つからなかったらしい。
強いて言うならやはり例のあの装置なのだが、あれは設置場所が火口の真上という危険極まりない場所なので近寄らせてもらえず。
これでマグマ団が隕石を手に入れてしまうと人工的にべにいろのたまを完成させてしまいかねないので出来れば妨害……なんならぶっ壊しておきたいところだけど、表面上真っ当な企業の使う機械に手を出したら損害賠償がいくらかかるかわかったもんじゃないしとりあえず保留。
にしても、少しでも怪しい点があればそこから追求して尻尾を掴めたかもしれないのに予想以上に周到に潜伏している。
ハルカが心配してた環境への影響も本当に無いみたいだし、これだとこちら側から打てる手がほとんど無い。
かと言ってこれ以上探しても得られるものは何も無さそうなので調査を終了しマツブサのところへ戻る途中──なのだが。
「ねえねえ、キミ去年のホウエンリーグ優勝者だよね。確かハルカだっけ? 凄いよねぇ。誰か師匠はいたの? それとも独学? 何か特別な特訓でもしてたの?」
「え、えっと……」
ハルカがあの団員から怒涛の質問攻めにあっていた。
この団員にとっては退屈凌ぎに過ぎないのだろうが、これはこれでこの量の質問を捌かなくてはならないので困った問題だ。救いなのはこっちに矢が向いてない事だろう。
「と、特別な事は何も……ただ強くなろうと思って……」
「へえ、そこまでして強くなりたい理由でもあったの? それとも叶えたい夢があった? あ、もしかして現チャンピオンに会う為だったとか? わかるよ、イケメンだもんね。わたしは趣味じゃないけど」
「……ゆ、ユウキく〜ん……」
矢継ぎ早に放たれる質問の数々にタジタジになったハルカがついに助けを求めてきた。前から思ってたけどハルカって押しに弱いところあるよな……。
まあだからと言って俺もアレを相手にしたくないので目を逸らすんだけど。
「そう、キミも気になってたんだよ!」
「!?」
しかし団員は効果音が聞こえそうなほど力強く俺を指差し、凄い勢いで距離を詰めてきた。最悪だ。タゲがこっちに向いた。
アスナは……ダメだ、ロックオンされないように気配を消してやがる。
「去年破竹の勢いで勝ち進みリーグ優勝を飾った子がわざわざ近くに置く人間なんて気になるに決まってるよね! ねえキミ、名前は? その子とどういう関係? やっぱりバトルの師匠なのかな?」
「ええっと……ゆ、ユウキです……。どういう関係って言われても……」
後ずさりながらなんとか答えるが、改めて問われると俺とハルカはどういう関係と言うのが正解なんだろうか。
友だち……なのはそうなんだろうけど、バトルの師匠もそうだし、トレーナーとしての先輩でもある。
でもいちいちそれを全部言うのも変だし、どうもしっくりくる表現が浮かばない。さて、どうしたものか。
「ふーん、言い淀むような関係か。そりゃまたお盛んな事で」
いけない。何か下世話な勘違いをされた気がする。
「いや別にただの友だあぁぁっ!?」
誤解を解こうと言葉を発した瞬間、団員が肩を組もうとし──思った以上に相手の力が強くヘッドロックのような形になった。
しかも幸か不幸かその胸部は中々に豊かなもので、自然と顔が胸に当たる。何!? どういう状況!?
「いやー、いいねえ青春だねぇ! わたしなんて小さい頃から修行修行の毎日でそんな暇無かったよ! 羨ましいねーコノコノ!」
「ちょっ……! あ、当たってる! 当たってるから!」
「んー? ああ、このくらい気にしないよ。でも少年はお姉さんの魅力にメロメロかなー?」
「違っ……! とにかく離れてくれ!」
「またまたー、嬉しい癖に──」
ヒュン、と風切り音が頭上で聞こえた。同時に俺を抑える力が少し緩む。
「すみません。手が滑りました」
聞こえてくるのは無機質な声。
ヤバい。顔を上げるのが怖い。
「……あ、あははー……それはちょーっとシャレになってないかなーって……」
「火山の石って滑りやすいんですね。転んで怪我しないようにしないと」
「いやいや、どう見ても思いっきり投げつけて──ゴメンゴメン調子に乗った! だから次弾を装填するのはやめて!」
慌てて団員が俺を解放する。
少しつんのめりながら体勢を整え恐る恐るハルカの方を見ると、深淵を思わせるような昏い瞳で、当たりどころが悪ければ普通に死ねる大きさの石を持っていた。さ、さっきのヒュンってアレ……?
「……た、助かりました、ハルカさん……」
「うん。気を付けてね?」
ニコッと笑うハルカ。ただし目は全く笑っていない。
これ以上なくマグマ団衣装がマッチした瞬間だった。
「危ない危ない……こんなところで殺されるなんて冗談じゃないよ全く……。それにしても随分と大事にされてるね、キミ。案外友だち以上の関係ってのは当たってるのかもね」
今その言葉に素直に頷くのは非常に難しい。
「ま、面白いものも見れたしとりあえず満足かな。それじゃ今度こそ戻ろっか!」
そうして笑顔で再び先頭を歩く案内役。
さっきの経験を経てなおあの調子である。立場的には下っ端でも中身は案外大物かもしれない。
「……あたしあの人嫌い」
隣で呟くハルカを見て、こいつは怒らせない方がいいと思った。
「……お、お疲れ様……?」
あとアスナは助けろよ。危うく死人が出るところだったぞ。