ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
「それで、何か問題はあったかね?」
「いいえ、あたしが確認した限りだと特には。やっぱり勘違いか何かだったんですかね?」
「フン、我々の信用の失墜でも狙ったのだろう。奴の考えそうな事だ。だがこれでわかっただろう。我々の活動に怪しい点など一片たりとも存在していないと」
休憩の時間を取るとの事で、俺たちも一緒にテントの中に入らせてもらうと、それぞれ用意した昼食を食べながらマツブサとアスナがそんな話を始めた。
その傍らではあの女団員が支給された弁当をフードも取らずに猛烈な勢いで貪っている。よく食うなこの人。
「それにしても、本当にマグマ団とアクア団って仲が悪かったんですね。片方は人間、片方はポケモンだけどそれらが安心して暮らせる社会をって掲げてる目標は似てるのに」
「……そのマグマ団という呼び名はやめてもらおう。僅か○・一パーセントでも奴らと同じにされるのは不愉快なのでな」
「ああっ! ごめんなさい!」
箸を止めて言ったマツブサのセリフでテント内に緊張が走り、アスナが慌てて謝る。
マグマ団って呼ばれるの嫌だったのか……てっきり親しみやすさを持たせる愛称みたいなもんだと思ってたけど……。
「全く……どこの誰が呼び始めたかはわからぬが迷惑な話だ。目先のポケモンのみを救い自己満足に浸る奴らと、人類という巨大な規模で進化と発展を見据えた我々とではスケールが違う。奴らの語る理想など高が知れるものだ」
そう語るマツブサの口調はどこか刺々しい。
いや、元々そういう人ではあるんだけど、なんかこう、感情がこもってるように感じるというか……。
「我々が人類の未来を作る。そうすれば奴とて認めざるを得ないだろう。何が人類の……ひいては全ての生命にとっての未来永劫の幸せに繋がる道なのかをな」
「……マツブサさん?」
アスナが心配したように呼びかけるがマツブサは何も答えない。
ゲームでもそうだったけど、マツブサとアオギリの間には確執が存在する。
かつて二人は同じチームに所属していたが、何かが起こって袂を分かったというものだ。
それが何なのか実際に語られる事はなかったが、今の言葉にはその想いが込められていたのだろう。
誰も何を言えばいいのかわからなくなり沈黙が場を支配する、そんな暗い雰囲気の中。
「
空気を読んでいないのか──あるいはわざとなのか、食に執心だった女団員が場に似合わぬ陽気さで突然マツブサを持ち上げるような発言をした。
瞬間、テント内を満たしていた重苦しい空気が霧散する。
「……口に物を入れたまま喋るな」
「
全く悪びれた様子も無く二つ目の弁当に手を伸ばす女団員。
……せっかくシリアスな話してたのに台無しだ。まああの空気のまま進行するよりは精神的に楽だけども。
「まあいい、そんな事より次の話だ。ジムリーダー」
「あっ、はい!」
水を向けられたアスナがぴしっと佇まいを直す。
「ここから少し降りたところ……七合目辺りか。そこの山道から外れたところでこんなものを見つけてな」
言いながら対面に座るマツブサが懐から写真を取り出してアスナに手渡した。
俺たちもそれを横から覗き込んでみると、写っていたのはただの岩肌のようだった。
「あの、これが何か?」
「封印だ」
「封印?」
気になるワードを交えてマツブサは続ける。
「一見するとただの岩肌だが、どうやらこの奥には洞窟のような空間が広がっているようでな。調査したいのだが、そこはポケモンの技でも傷一つ付かぬ程に強固な封印で閉ざされているのだ。ジムリーダーよ、何か心当たりは無いか?」
問われたアスナはしばらく何かを考えてから。
「……すみません、ちょっとわからないです。こんなものがえんとつ山にあったなんて……」
「……そうか。残念だ」
どうやらアスナも知らなかった事のようだ。
……けど、これってもしかして……?
「仕方あるまい。ならば更に強力な力を以てこじ開ける他に無いな」
「!? ちょ、ちょっと待ってください!」
強引な手段を取ろうとしたところに待ったをかける。
俺の考えが正しいならこの封印は解かせたらダメだ!
「どうした、少年よ」
マツブサの目がすうっと細められ、静かな威圧感が発せられる。
そのプレッシャーに怯みそうになるところをぐっと堪えて、俺は口を動かし続けた。
「そんな、封印されてるものを無理やり解こうなんてよくないんじゃないですか? 危険だから封印されてるのかもですし」
この封印が見つかったという場所はここから少し降りたところだとマツブサは言った。それはエメラルドでいうマグマ団のアジトと同位置ではないだろうか。
そうだとするとそこにある洞窟とやらはグラードンへ繋がるあの洞窟という事になる。
何せORASでもカイオーガが眠っていた海底洞窟は封印されていたのだ。同じようにグラードンへの道も封印されてたっておかしくない。
「フム、一理ある。だが危険を恐れていては発展など有り得ん。新たな発見の為には誰かがそこへ踏み込まねばならぬ。だから我々がそれを行おうと言うのだ」
「それは……けど、ポケモンの技より強力な力をぶつけるなんて強引な手段取ったら、それこそ周囲に被害が出るかもじゃないですか。岩が崩れてきたり、マグマが噴き出してくる可能性だってある!」
「無論、最大限に配慮した上で封印を破るつもりだ。だが多少の被害はこの際仕方ないだろう。何かを得ようとするのであれば犠牲は付き物だ」
俺の反論にもマツブサは頑として意見を変えない。そりゃお前らのお目当てが目の前に転がってんだからそうだよな……!
「それに貴様も旅をしているのならわかるであろう。未知を知る事こそが人生の喜び。そして今まさに我々の目の前には未知が広がっているのだ。それを止める権利が貴様にあるのか?」
……ぐぅの音も出ない。
確かに俺にはマグマ団を止める権利なんてものは無い。マツブサの言う事も尤もだ。
人類の発展大いに結構。未知でも既知でも勝手に飛び込んでくれ。
けど、それでもグラードンが絡んでるなら話は変わるんだよ……!
何か、何か無いか……! 止められなくても、せめて明確に遅らせられれば……!
「──あたしもユウキくんに賛成です」
必死に考えを巡らせていると、隣のハルカが口を開いた。
「……貴様もか、ホウエンの舞姫よ。ならば問おう。どんな理由があって我々を阻む」
マツブサが鋭くハルカを睨んだ。
それでもハルカは臆する事無く、真っ直ぐにマツブサの方を見て言葉を紡いでいく。
「さっきユウキくんが言ってた通りです。もしかしたら危険だから封印されてるのかもしれないって」
「フン、危険危険とそればかりだ。もしもばかりを考えていてはいつまでも前に進めぬだろう。本当に危険があるとして、蓋を開けねば知る事すら出来ぬ」
そもそも、とマツブサが続けて。
「何を以て危険だと言っている。我々とて万全を期して調査に望むつもりだ。それでも対処出来ない問題が起こるとでも言うのか。そうだと言うのならその根拠はなんだ」
論理的なマツブサらしい正当な主張。
それに対して、ハルカは一言で告げた。
「──勘です」
「……バカげている」
そこで両者の会話が終わる。流石のマツブサでもあの発言に反論する気は失せたようだ。
それも当然だろう。少なくとも最初の方はお互いにちゃんとした理由を付けて議論していたのに、最後の最後で勘などという合理性から最もかけ離れた単語が飛び出たのだから。
それでもハルカの一言には妙な説得力があった。
強者故の先見の明とでも言おうか。とにかく無視出来ない何かがある。その点についてはマツブサも同じ考えのようで、反論こそしないものの切って捨てるつもりも無いようだった。
「……貴様はどう思う、ジムリーダーよ」
「はえっ!?」
再び話を振られたアスナが素っ頓狂な声を上げる。どうやら気を抜いていたらしい。
まあ途中から置いてかれてたもんな……。
「封印の話だ。ここはえんとつ山を管理しているフエンのジムリーダーの意見が優先されるべきだろう」
「あ、あたしが決めるんですか!?」
そして突如決定権を委ねられて更に困惑するアスナ。俺がその状況なら泣くかもしれない。
「ええと……だ、だったら強引に封印を解くのは方法をもう少し調べてからにして、もし解けたらあたしも調査に連れてってもらう、って事で……どうですか……?」
「……妥当だな。よかろう」
意見が受け入れられ、心底安堵したようにアスナが息を吐いた。
咄嗟に出たにしては中々いいアイデアだ。ここら辺の判断力は流石ジムリーダーに選ばれるだけの事はある。
もしかしたらさっきの話し合いの間にもアスナなりに色々考えてたのかもしれないけど。
「では期限について話し合いたい。時間はあるか?」
「あ、はい、大丈夫です! じゃあユウキくん、ハルカちゃん、ちょっと行ってくるね」
言いながら二人は立ち上がってテントを出て行った。
……どうやら落ち着くところに落ち着いたようだ。期限にもよるけどこれですぐにグラードン復活、なんて事にはならないだろう。
ひとまず山場は超えたって感じかな。……えんとつ山だけに。
……うん、しょうもない事考えられるくらいには余裕が出てきた。どうもさっきみたいな張り詰めた空気は苦手だ。
「ふぅ……あー怖かった……」
息を吐いてその場に座り込む。
ゲームじゃわかりにくかったけどちゃんと風格のある人だった。どんな形であれ人の上に立ってるんだからそりゃそうなんだろうけどな。
「あはは、悪かったね。あの人ああいう言い方しか出来なくてさ」
そうやって緊張を解いて身体をだらけさせていると、あの女団員が声をかけてきた。
「ま、あんま悪く思わないでやってよ。あの人はあの人なりに理想を叶えようとしてるだけだからさ。にしてもさっきの啖呵は見事だったよ。キミにも何か理想があったりするのかな?」
カラカラと朗らかに、しかしどこか試すような口振りだった。
けれどそんな事を問われても理想と呼べる程大層なものは持ち合わせちゃいない。俺がこの世界に望む事なんて一つだけだ。
「……俺はただ、何事も無く世界が平和であってほしいだけですよ」
人もポケモンも命の危機に晒されない世界。グラードンとカイオーガが目覚めなければ達成される世界だ。
それを成す為に俺はここにいる。
「──いいねぇ世界平和! グッドだよ、グッと来たよ! やっぱりキミは面白いね!」
「おわっ!?」
そして質問に答えてみれば、女団員はいきなりずいと目の前まで顔を近付けてきた。
その拍子にフードに隠れた顔が少し見える。
「いやいや、何を隠そうこのわたしも世界平和の為に戦っている身でね。なんてシンクロニシティ! これはもう運命──ハッ!?」
瞬間、隣から放たれるドス黒い気配に女団員が距離を取った。
今ハルカはどんな顔をしてるんだろうか。
「や、やだなー、ちょっとした冗談なのに。……ま、世界の為に戦ってるってのはホントだけど」
「どうでもいいのでユウキくんに近付かないでくれませんか?」
「おお怖い怖い。それじゃわたしはこの辺でドロンしますよっと。そいじゃ」
最後に通算三つ目の弁当を平らげ、そう言い残してそそくさとテントを出て行く女団員を見送る。
……いや、というかなんとなく感じてたけどさっきのセリフと少し見えた顔……もしかしなくてもアイツか?
ならアイツが案内役やってたのも偶然じゃなく、俺たちに接触する為だったかもしれない。
……今のでどれくらい情報抜かれたんだろうか。そこまで致命的な事は言ってないはずだけど……。
「……ユウキくん、いつまでそっち見てるの」
思考を巡らせていると、不満そうな声と袖を引かれた感触で現実に引き戻された。
一旦考えるのをやめてそちらを見れば、ハルカが頬を膨らませていた。
「……やっぱりユウキくんって女の人なら誰でもいいんだ」
「いや、別にそういうので見てたわけじゃ……待て、やっぱりってなんだ」
俺はハルカにどういう印象を抱かれているんだ。
「前はルチアちゃんにデレデレしてたし、今回もあの人に抱き着かれて嬉しそうだったもん。どうせアスナさんもそういう目で見てるんでしょ。お腹出してるもんね」
「誤解だ! デレデレも嬉しそうにもしてねぇ! つーか前二つは事故だっただろ!? あとその認識もいい加減やめろ!」
「誤魔化さなくてもいいよ。別に言ってくれればあたしだって……」
「違うっつってんだろ!」
そもそもあのヘッドロックを抱き着かれたなどという優しい表現で済まさないでほしい。……役得だったのは否定しないけど。
「……そんな事より、さっきはびっくりしたよ。まさかユウキくんがマツブサさんと言い合うなんて思ってなかったから」
「そんな事って、俺にとっては尊厳がかかった問題なんだが……ああもう後でいいか。それなぁ……」
頭を掻きながらさっきの口論を思い返す。
あそこで止めてなきゃそのままグラードンへの道が直通で開かれる事になるからなぁ……。
「……まあ、変に山を刺激して山崩れとか噴火とか起きたら大変だしな。それに考え直してくれたのは結局ハルカの口添えがあったからだし」
俺一人の言葉ではマツブサの強行を止める事は出来なかっただろう。やっぱりこの世界の平和を守る鍵はハルカにある。
「ううん、ユウキくんが言わなきゃどっちにしてもあたしが言ってたよ。山崩れとかもそうだけど、あの封印は解いちゃダメな気がしたし」
「さっき言ってた勘ってやつか?」
「うん。マツブサさんは蓋を開けてみないとわからないって言ってたけど、開けた時にはもう手遅れって事もあるから」
「そうだな……」
確かに蓋が開けばそのままバッドエンド一直線だ。覆水盆に返らずという言葉もあるし、その意味だとハルカの勘は正鵠を射ていると言える。
確かダイゴさんもその手の勘に優れてたし、ハルカもそれに準ずる者なのだろう。
けど……なんだろう、この違和感は。
「……なあ、ハルカ」
ほとんど無意識にハルカの名を呼ぶ。
「ん? 何?」
けれどその顔を見て、俺は何を言えばいいのかわからなくなった。
不思議そうに首を傾げるハルカに、何も言わないのもおかしいと思い次の言葉を模索する。
果たして、高速回転した俺の脳が一つの答えを弾き出した。
「あー……そう、さっきマツブサが言ってたホウエンの舞姫って──」
その名を口にした瞬間、ハルカの頬がほんのりと赤く染まった。
「あ、あはは……そんな呼ばれ方もあったなぁ……似合わないでしょ?」
「いや、むしろぴったりだろ。ハルカらしいと思う」
アニポケ的な意味で。でもこっちだとコンテストじゃなくてバトル方面で有名になった結果付いた渾名かな。
くるくると舞うような足技で戦うバシャーモを操る姫。ハルカのイメージ通りだ。
「……そんなのじゃないんだけどな……」
ぼそぼそと呟いてハルカは俯いてしまう。
しまった。どうやらハルカ的にはあまり触れてほしくない部分らしい。まあ渾名ってちょっと恥ずかしいしな……変にイジるのもよくないか。
しかし今日だけでもハルカの新しい表情が色々見えたな。それ自体は喜ばしい事だ。
……まあ、一部あんまりよくない一面も見た気がするがそれは置いておく。
とにかくグラードン復活に関しては明確に猶予が出来たんだ。それは大きな前進と言えるだろう。今日はそれで満足だ。
そう思いながら、俺は小さく残った違和感を飲み込んだ。