ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
えんとつ山から下山し、旅館に戻って今日の事を色々考える。
あれからアスナにどれくらいの猶予が貰えたのかを聞いてみたところ、どうやら期間は一ヶ月程度との事だった。
長いような短いような、なんとも言えない期間だが落とし所としては妥当だろう。ともあれこれでしばらくの間はこっちの心配をしなくて済む。
というのも、この期間中に封印解除の方法が見つかる可能性はほぼ無いと思っているからだ。
あの封印が海底洞窟にあったものと同じものだとするなら、その力の源は伝説のポケモン──ゲームの描写から推測するとおそらくレックウザ──のものという事になる。
となるとこれを解除するならレックウザ自身に封印を解いてもらうというのが真っ先に思いつく手段ではあるが、そのレックウザに会う手段をマグマ団は持ち得ていない。故にこの方法は不可能だと言える。
もしくはあの二つの玉があればその封印を破る事も出来るのかもしれないが、現状マグマ団にはその所在が判明していないはずだし、判明したとしてもあの老夫婦が渡すとは思えない。だからこれも大丈夫だろう。
他にあるとするならヒガナが何かしらの情報を持っている場合だが、これに関してもそこまで問題は無いように思う。
何かしなくとも一ヶ月後には封印解除に動くのだから、ここで出処不明の情報を出して身バレのリスクを負う必要も無い。それならこの空いた期間を利用して玉の在り処を探す時間に充てた方がいいはずだ。
ついでに言うならヒガナが潜入してるのがマグマ団の方だけって事も無いだろうし、この期間内は活動拠点を移してアクア団として働く可能性も考えられる。
以上の理由から、少なくともこの一ヶ月間に大きなアクションは起こらないと判断した。
というわけで、今後の展開を考えた上で次の行動を決めようと思う。
まずはどう動くにせよ“そらをとぶ"を使用可能にしたい。これがあると無いとでは行動範囲も移動時間も大きく変わる。なんなら最優先事項と言ってもいい。
だが“そらをとぶ"を自由に使えるようになるにはヒワマキジムのバッジが必要で、取得には当然ジム戦で勝たなければならない*1。
ではどうするか。
そう、育成である。
いい機会なのでここで本格的な育成に力を入れたい。
今までの育成といえば単にレベルを上げる事だったが、そこからもう一歩先に踏み込む。
具体的には技能習得に手を付けたいのだ。ここから先の戦いに必要になってくるものだから。
という事をハルカに話してみたところ、
「うん、いいと思うよ。ここから先はジムもかなり厳しくなってくるしね」
そんな答えが返ってきた。ちなみに服装は既にいつもの赤いノースリーブと白のショートパンツという大変健康的なものに戻っている。
山を降りると決まった瞬間にハルカが秒速で着替えに走ったという一幕もあったがそれはさておき。
現在俺の取得バッジ数は四つ。つまり丁度折り返し地点という事になる。
そしてここから先のジム戦は今までの比じゃないレベルでジム戦の難易度が跳ね上がる。
というのも、実はバッジ四つというのはある程度トレーナーとしての能力があれば誰でも取得可能な数なのだ。そしてこれは“なみのり"や“そらをとぶ"といったポケモンを使った移動手段が解禁されるラインでもある*2。
トレーナーとはその多くが旅をするものであり、ポケモンジムはそんなトレーナーを育成する機関という側面も持つ。だからこの辺まではトレーナーの成長を促す為の
バッジ四つでトレーナーに必要な能力が備わったとされるなら、それ以降は支援の必要性が無くなる。つまり立場の違いはあれどトレーナーとしては対等に見られるようになるわけだ。
要するに相手が全力でふるい落としにかかってくるようになる。
もちろん挑戦者のバッジ数に応じた制限はあるものの、その制限内の全てを駆使して負かしに来るのだ。
前半のジムで基礎は教わったのだからそれ以降は自分で勉強しろという事だろう。当然と言えば当然である。
まあそんな理由もあっての手持ち強化だ。どちらかと言えばジム戦がどうこうというより対アクア団マグマ団がメインではあるけど、それを正直に話す必要も無いのでジム戦想定という体にしておく。
「技能は
「ああ。“リーフブレード"をメインに強化したいと思ってる」
少し前にポケモンセンターでも話したが、俺が考えていた技能の構想がこれだ。
技能というのは技のようにレベルを上げれば自然に習得するようなものではなく、明確な意図を持って訓練する事で初めて使えるようになる
例えば体重移動を意識して一撃の威力を上げたり、はたまた素早く身体を動かして連撃にしたり、あるいは狙いを定めて急所率を高めたりといったものが技能に当たる。
こうやって例を挙げてみれば何も特別な事をしてるわけじゃないのがわかるだろう。ただ技を使うだけじゃなくて、細かい部分を意識して更に効力を高めたのが技能と呼ばれるものの正体だ。
だからこそ技能習得には明確なイメージが不可欠になる。どういう技能を習得させたいか、その為にはどんな訓練や環境が必要なのか。それらをトレーナーが考え、ポケモンと共有し、根気強く付き合っていかなければならない。
それで俺の場合は“リーフブレード"関連が一番イメージしやすかったという話だ。他にも理由はあるけど。
「“リーフブレード"か。一応ジュカインは特殊攻撃の方が得意って言われてるけど、それでいいの?」
ハルカが確認するように問うてくる。
確かにジュカインは種族値の上では『こうげき』より『とくこう』の方が高く、それで言うなら特殊方面を伸ばした方が効率が良さそうに思える。
が、現実はそうじゃない。
「カインにも聞いてみたけど、あいつ近接戦の方が好きみたいでな。それならそっち方面で考えた方が伸びると思ったんだ」
種族として『とくこう』が高くとも、イコール特殊方面を鍛えるのが最適解とは限らないのがこの世界だ。
わかりやすく言えば性格の話である。ここで言う性格は能力補正云々ではなく言葉通りの意味だが、カインは遠くから攻撃するより自ら直接斬り掛かる方が好きなタイプだった。
もちろん“エナジーボール"や“リーフストーム"といった特殊技も相応に使えるが、明らかに“リーフブレード"で戦っている時の方が楽しそうというか、ノっているのだ。
それにこれはメタ的な知識も入った推測ではあるが、おそらく“リーフブレード"という技を最も上手く扱えるのはジュカイン系列だと思っている。
というのも、元々“リーフブレード"はジュカイン系列の専用技として登場したからだ。
色々な事情で現在は種族値とは噛み合わなくなってしまったが、少なくとも登場時点ではジュカインのメインウェポンとしてこの技を作ったんだろうし、何よりジュカインはどの作品で登場してもほぼ必ず“リーフブレード"を使用可能だ。これはもう公式側が得意技として設定したと考えてもいいのではないだろうか。
であれば無理に種族値上の戦いをやらせるより、カインの性格や戦い方に合った戦い方で伸ばした方が結果的に強くなるんじゃないかと思ったわけだ。これが種族値だけで技を語れないとした理由である。
……ちなみにあいつが近接好きになったのは
「そっか。本人たちが納得してるならいいんだけど。それで具体的にどうしたいかとかはあるの?」
「とりあえずは“リーフブレード"を強化したいかな。こう、エネルギーを上乗せする感じで」
「なるほど。うん、シンプルでわかりやすいし初めての技能には丁度いいと思うよ」
今回カインに習得を目指してもらうのは技威力が向上するタイプの技能だ。発動条件もわかりやすく、通常より多くのエネルギーを使って技を放つという至ってシンプルなもの。
かといって習得が簡単かと言えばそうじゃないからわざわざ技能と呼ばれてるんだけど。この辺は完全にセンスの問題だからどうなるかはやってみなくちゃわからない。
「ひとまずカインにはひたすら“リーフブレード"を振り回してもらう事になるな。地味な時間になりそうだ」
「技能ってそんなもんだからね。どんなに派手な必殺技だって最初は地道な努力から始まるものだよ」
「ははっ、それもそうだ」
どの分野でも言える事だけど、何かを成そうとするなら当然相応の時間と努力が必要になる。いきなりゴールになんて辿り着けないのだから、一歩一歩進んでいくしかないのだ。
「さて、それじゃカインくんはそれでいいとして、他の子も何かあるの?」
「……それが、正直に言うとカインほど明確なイメージは出来てない。特にこれがやりたいってのが無いんだよな……どれもピンと来ないというか……」
ぼんやりとサポート系かなぁと考えてはいるが、じゃあその内容は? と聞かれると答えに窮してしまう。
あとどっちも特殊個体なのが更に困る。
方やバトルどころか生態としての常識も破壊したぺラップとクレッフィのユニゾンポケモン。方や本来『ひこう』であるはずが『でんき』タイプをその身に宿したチルタリス。こんなん普通に育成したらつまんねぇだろと。
だから何か変わった事をやらせたいのだが、変に奇を
幸いどちらも音に関連するポケモンなのでそういう系統で考えたいとは思ってるけども。
「出来れば今の内に色々とやっておきたいんだよな……いっそお試しで教本からいくつか使えそうな技能の訓練してみようかとも思ったんだけど……」
「う〜ん……それはオススメしないかな……。変な癖が付いちゃう可能性もあるからね」
「やっぱそうだよなぁ……」
ハルカの言う通り、技能の雑な習得はあまり推奨されない。
技能の効果を考えればあればあるだけいい覚えさせ得の技術と思うかもしれないが、実のところはそうじゃない。
技能はバトルで使うもので、それはつまり常に変動する状況で咄嗟に出せる技という事だ。
そうなるには当然何度も何度も修練を重ねる必要がある。それこそ反射レベルで意識せずとも使えるように。
そしてそこまで身に染み付いた技能は言わば癖のようなものと言ってもいい。
これの何が問題になるのかと言うと、別の技能を覚える時に苦労する可能性が出てくるのだ。
めちゃくちゃ極端な話をすると、ある程度成長した右利きの大人とまだ利き手の概念が無いまっさらな子どもが『今から左利きになってください』と言われた時にどちらが早く適応出来るかという事だ。
こんな感じで適当に技能を覚えさせてしまうと、その後に『やっぱりこれがいい』と全く違う方向性の技能を覚えさせようとしても上手くいかなくなる場合がある。
もちろん既に覚えている技能から応用して習得が早くなったりと必ずしもマイナスになるわけではないが、それでもこれで無闇矢鱈と技能を覚えさせるのが推奨されない理由はわかるというものだ。
「まあ思い付かないなら今は置いといていいんじゃないかな。それよりまずはカインくんの技能を完成させる事を考えようよ」
「そうか……そうだな」
のんびりしてられるような状況でもないが、だからと言って焦れば結果が出るわけでもないのは事実。
それならまずは明確な完成形を思い描けているカインの技能を確実にモノにするべきだろう。それにこの技能習得の経験は後に活かせるかもしれないし。
「よし、それじゃあ明日から特訓を始めるとするか。新しい宿泊場所も探さないとな」
「え? なんで?」
「いや、なんでも何もこんな高級旅館に何日もいられないだろ。そんな豪遊出来る程の金は無いぞ」
ダイゴさんに用意されたこの旅館の宿泊期間は二週間なのだが、技能完成はいつになるかわからない。だからもしその期間を超えるようなら当然旅館に延長金を支払わないといけない。
だけどこの旅館は一泊するだけでもちょっと引く金額を要求されるので、ダイゴさんの依頼と好意が無ければそもそも選択肢にも挙がらない場所なのだ。
ツワブキ社長から貰った金はまだ残っているが無駄遣い出来る程の余裕は無い。故に残り日数で足りなさそうなら別の安い旅館に移る必要があるのだが。
「別にダイゴさんに言えばいいでしょ?」
真顔でとんでもない事を仰るこの女。
「いやいや……いくらなんでもそこまで甘えるわけにはいかないだろ。フエンジムの様子を見るってのも終わってるし、もうダイゴさんが金出す理由は──待てどこに電話しようとしてる」
「──あ、もしもしダイゴさん? ちょっと用事が出来たので旅館の延長の方をお願いしたいんですけど」
「待て待て待て!! ちょっ、ダイゴさん!? 聞こえてます!? いらない! 延長いらない!」
「あ、気にしないでください。はい、はい……あ、それはまた後で報告します。はい、じゃあお願いしますね」
俺の言葉を無視して通話が切られる。
「『何日滞在してもらっても構わないよ』だって」
「金持ちがよぉ!」
構わないよじゃねえよ金銭感覚バグり散らかしやがって。別に普通の宿でいいだろうが。
「まあまあ。また泊まるところ探すのも面倒じゃない? 時間は有効に使おうよ」
「尤もらしい事言いやがって……」
それでも一応は正論なので何も言えない。
正論だが……何かが間違っていると感じる俺がおかしいんだろうか。
「さ、それより明日の準備しよ! 訓練場所も探さないとね」
「ああ、うん……そうだな……」
毎度の事ながらなんかもう反論する気も失せた。決まった事はどうにもならないし、明日の準備をするべきか。
訓練するならあまり人がいないところがいいな。人目があると集中し辛いし。ならどっかの道路から逸れて良さげな場所を探すか。
そんな風に考えながら立ち上がり、ハルカの後について部屋を出た。