ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
あの後に
かといって考えている間に何もしないのは時間の無駄なのでとりあえず圧縮“リーフブレード"を続けさせている。何かの弾みでコツを掴めば儲けものだとほんの少しだけ期待しているが、まあ現実はそんなに甘くないわけで成果は未だゼロだ。
そんな中でも一つ幸いと言えそうなのは、“リーフブレード"を伸ばす方向でならそこまで時間はかからなそうという事だった。
ものは試しと思って圧縮訓練と並行してやらせていたのだが、意外な程あっさりと“リーフブレード"の
通常の“リーフブレード"の長さがだいたい七十センチ程度として、伸ばした刃は目算でもその倍はあった。
もちろん実際にその長さで使うかは別だし、伸ばした刃もまだ不安定さが残るのですぐに実戦投入出来るような代物でもないが、それでも圧縮訓練をしていた時よりは明らかに手応えがあった。
エネルギーが十しか入らない
ただまあ……やはりというか、刃が伸びたところでカインの得意な間合いで有効に働く場面が思いつかない。
大剣並に巨大化させるのならともかく、ただ伸ばしただけなので技の威力そのものはあまり変化していないし、近付いた時点で射程内に捉えているのだから刃を伸ばす必要性も無いのだ。
まして伸ばした“リーフブレード"の長さはカインの身長とほぼ同じなわけで、そんなものを密着状況で振り回せるはずもない。まさに文字通りの無用の長物というわけだ。
「どーすっかなぁ……」
今度もまたカインの努力が実らず“リーフブレード"が爆散したのを見て、思わずそんな言葉が口から漏れる。
あれから三日が経つが未だ妙案は浮かばないし、カインも明らかに訓練に身が入らなくなってきている。これまでの失敗続きでやる気と自信が失われているのだ。
よくない兆候である。やる気とは物事における重要な原動力だというのに。
このままだと負の連鎖が始まってしまうのでそうなる前になんとかしたいが、焦って案が出るなら苦労はしない。
こうなってくると“リーフブレード"自体をどうこうするより刃を振る技量の方を向上させるという手もあるが、それにしたって具体的に何をすれば上手く斬れるようになるのやら。
誰かに教えを乞おうにも、ホウエンどころかポケモン世界で剣振ってる人間もパッと思いつかないしなぁ……。
「……なあ、ハルカはどんな感じで
「ん、あたし?」
なんとはなしに隣に座るハルカに尋ねる。
もうこちらも藁にもすがる思いなのだ。ジュカインとバシャーモとでは戦い方が全く違うし直接の参考にはならないだろうが、それでも何かヒントになるものがあるかもしれない。
「そうだね……色々やったけど、まずはちゃもをよく見る事から始めたかな。どんな風に動いて、どんな風に技を出すのか、とかを細かくね。それである程度わかってきたら今度はあたしも一緒に身体を動かすの。こんな感じで、ねっ!」
「うおっ!?」
言いながらハルカが立ち上がって構えたかと思えば、短い気合いと共にミドルキックを繰り出した。
突然目の前でやられたから驚いたものの、フォーム自体はしっかり足が伸びてたし体幹もブレていない綺麗なものだった。これには思わず拍手である。
「おお、すげぇな」
「えへへ、ありがと。それでこんな感じで一緒に動くとちゃもの得意な動きとかがわかってくるから、それを元に練習したって感じかなぁ」
「なるほどなぁ……」
観察と動きの模倣、か。
難しい事は何も無い。ただ見て、真似る。たったそれだけの事だがなるほど、やってみる価値はあるかもしれない。
「よし、試してみるか。カイン、適当に動いてみてくれ」
「ジュカッ」
頷き、カインが左半身で構えた。
踏み込みは右足。上体を捻りながら遠心力を乗せて右腕を振り抜く。続けて左の斬り上げに繋げて右の袈裟斬り、最後に最初の動きの鏡写しのように左から一文字に薙いで一連の流れを締めた。
それをなぞるように、俺もゆっくりと自分の身体を動かす。
一つ一つを丁寧に、その行動の意味するところも考えながらカインの動きをトレースし、確認するように何度もそれを繰り返す。
そうしてようやくいくらか動き方を理解し始めてきた頃、これで一旦区切りにしようと深く息を吸い込み、右腕に宿した仮想の刃を横に振るった。
「ふぅ……なるほど、こんな感じか」
「どう? 何か掴めそう?」
ハルカが『おいしいみず』を差し出しながら聞いてくる。
そうだな……掴めそうかそうでないかで言えば……。
「……正直さっぱりだな。一応カインの身体の動かし方はなんとなくわかるけど、特別これをすれば“リーフブレード"の威力が上がる、みたいなのはわかんないんだよな……」
「あらら」
これで俺が武術経験者であれば何かしら改善点を見い出せたのかもしれないが、残念ながら前世は生粋のインドア人間だ。そこら辺の知識は全く無い。
だとするとやはり俺がどうにか力になれそうなのは“リーフブレード"自体の強化方法を考える事だが、そもそも“リーフブレード"は形状として完成され過ぎている。
ジュカインの腕の葉はしばしば刀に例えられるが、反りのある鋭い刃はまさしくそれと同等。斬るという行為における最適な形だと言えるだろう。そんなものに下手に手を加えたらせっかくの斬れ味が台無しに──
「……いや、待てよ?」
それはふとした思いつき。これなら刃の形を極端に変えずに威力も上げられるかもしれない。あくまでも理論上は可能、というくらいで実際に出来るかはわからないが……。
……いや、出来る出来ないはやってみてから考えればいい。思いついた事は全部試すべきだ。
「カイン、“リーフブレード"だ。少し試したい事がある」
「ジュカ?」
不思議そうにしながらも言う通りに技を発動させるカイン。こういう時に素直にすぐ動いてくれるのはありがたい。
「そのまま刃を薄く、鋭く研ぎ澄ませ。エネルギーも減らしていい」
「ジュカッ!」
エネルギーを増やして刃を伸ばせるという事は、逆にエネルギーを減らして極限まで薄くする事も出来るはずだ。
やがてカインが向こう側が透けて見える程薄い“リーフブレード"を完成させる。よし、ここまでは目論見通り。
「それで今から投げるものを斬ってみてくれ。いくぞ」
そしてバッグから取り出したもの──何の変哲もないリンゴを投げる。両断するのに特別な技術も必要無い、ただのリンゴ。
「ジュッカァッ!」
カインが腕を振りかぶり、真一文字に斬り抜いた。
しかし──リンゴには少し切れ込みが入っただけに留まり、“リーフブレード"はパキンという軽い音を立てて半ばから折れてしまっていた。
「ジュ、ジュカ!?」
「え? な、なんで?」
遠くに転がっていくリンゴを見ながら困惑するカインとハルカ。
そうか、こうなったか。
「ユウキくん、どういう事? それって普通のリンゴじゃないの?」
「いや、普通のリンゴだよ。今から説明する」
転がっていったリンゴを拾い上げ、ハルカたちの元に戻りながら問う。
「ハルカ、刃物がなんで斬れるかってわかるか?」
「え? それは……刃先が鋭いから?」
ハルカの答えに頷く。その通りで刃物が切れるのは刃が鋭いからだ。
例えば指先で物を突いても刺さったりしないが、先の尖った針を使えば貫通する。力が先端に集中するからだ。刃物が切れる原理はそれが面になったものだと思えばいい。
ハルカの言葉を肯定するように頷いて話を続ける。
「なら、なんで今極限まで研ぎ澄まされてるはずの“リーフブレード"でリンゴが斬れなかったかはわかるか?」
「え? えーと……」
少し考え込み、そして。
「……薄くなったせいで、刃の強度が足りなかった?」
「正解だ。あれだけ薄けりゃ多分俺でも折れる」
物の厚みはすなわち強度だ。
紙だって一枚なら簡単に折れるが、何枚も重ねれば固くて折るのは難しくなるだろう。
が、しかし。
「まあ簡単に折れると言っても、それは横から力を加えた場合の話だ。真正面からならそう簡単には折れない」
「? でもそれならそのリンゴは斬れてるはずじゃないの? 真っ直ぐ斬ってたように見えたよ?」
「そう、そのはずなんだ。
携帯用のナイフを取り出して側面をリンゴに押し当てながら。
「例えばこれは極端な例だけど、こんな風にナイフを横から押し当てても斬れるわけが無いだろ? ちゃんと刃が入る形じゃないからだ。だからしっかり斬る方向に向けて刃を立てないといけない。
まあこれ自体はネットの聞きかじりで受け売りだけど、という余計な発言は控えておく。実際原理としてはそう間違ってないはずだ。
「じゃあ、さっきリンゴが斬れなかったのは刃筋が通ってなかったって事?」
「端的に言えばそうなる。さっきのも真っ直ぐ斬ってるように見えたけど、多分ほんの少しだけ刃筋がズレてたんだと思う。普通の“リーフブレード"を使う分には全く気にならない程度の極僅かなズレだろうけどな」
あの薄い“リーフブレード"は、斬れ味と引き換えに横方向から掛かる力に極端に弱くなっているのだ。
その問題を解決するには刃の側面に負担が掛からないように、刃筋を全くズラさず完璧な角度で振る必要がある。
「ただ、斬れ味自体は間違いなく今より高くなるはずなんだ。だからその僅かなズレを修正する。難しいなんてもんじゃないだろうけど……どうだ、やってみないか?」
自分がとんでもなく難易度の高い要求をしているのはわかってる。でも迷いを抱えながら身にならない訓練を続けるくらいなら、どんなに難しくたって新しい事に挑戦した方がいいはずだ。それが結果的に新しい道を拓くかもしれない。
カインが瞑目する。自分の中で考えをまとめているのだろう。
それから十数秒の静寂の後、ゆっくりと目を開け──カインは首を縦に振った。どうやら覚悟は決まったようだ。
「よし、それじゃあこれからはひたすら“リーフブレード"を振る特訓だ。まずはこのリンゴを斬れるように──」
と、そこまで言いかけるとカインが首を横に振った。何かと思えば腕を持ち上げ、指先を周りに生えている木の一本に向ける。直径にして約五十センチといったところだろうか。
「……それを斬る、ってか?」
「ジュカッ」
ニッと不敵な笑みを見せるカイン。
いきなり大きく出たものだけど……どうせ完成すれば対象が何だろうが斬れるようになるんだから関係無いか。
「いいぞカイン! やってみせろ!」
「ジュカァ!」
大きく吠え、“リーフブレード"を構えたカインのその姿には、ここ最近で失われていたはずの大きなやる気が満ち溢れていた。
***
新しいやり方に切り替えてから、カインの成長速度は凄まじいものだった。
訓練を始めた当初は刃を幹に当てた瞬間に折れていたのに、僅か三日目にして数センチ程切り込みを入れる事に成功。そこから更に三日が経過すると、刃は一度の振りでおよそ三分の一くらいにまで到達するようになった。
明らかに上達が早い。圧縮法をしていた時とは雲泥の差だ。
これは才能……というよりも、おそらくはカインの性格と訓練方法が合っていたのが大きいのだと思う。じっとしてエネルギー制御を云々とやるより身体を動かす方が好きなようだし。
加えて切り込みの深さで自分の成長が明確にわかるのもプラスに働いたようで、カインは訓練中一度も集中を切らさずに打ち込み続けていた。
更に一週間が経った今日もカインは刃を振るう。今度は数センチのところで刃が折れる。しかしカインはさして気にした様子もなく次を構えた。
すうっと深呼吸。左半身になって腕は地面と水平に。息を整えながら目を閉じ、刃を生成しながら集中力を高めていく。
重く濃密な空気が周囲に満ちる。動く事はおろか、声を出す事も許されないような緊張感の中、カインの目がカッと見開かれ。
右足の踏み込みと同時、遠心力を乗せた刃が霞むような速度で振るわれた。
ヒュカッ、と音が鳴る。これまでの割れるような音とは質が異なる音だった。
そして違いはそれだけに留まらない。
「“リーフブレード"が……折れてない」
呆然とハルカが呟くのを聞きながら、俺はカインと共に木の元まで歩いていく。
「せぇ……のっ!」
そのまま二人で身体全体で押すように体重をかければ、木がメキメキと音を立てながら倒れていく。
もちろん俺たちが怪力なわけじゃない。木が支えを失っているからこその結果だ。
これが意味するところは、つまり。
「やったな、カイン」
「ジュカァ!」
ようやくだ。ようやくここまで来た。
実戦で使うにはまだまだ修練が必要だけど、それでも完成系がやっと見えた。
両断した木の断面は綺麗過ぎるくらいに真っ直ぐで。それこそが紛れもないカインの努力の証だった。
「……それは素直におめでとうなんだけど、この木どうするの? 流石に放置するわけにはいかないよ?」
「あ」
……しまった。そこまで考えてなかった。