ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
少し考えたところ、あの木は今後の練習台として活用するのが一番いいだろうと思ったので、手頃なサイズに切り分けて持ち運ぶ事にした。
もちろん俺のナイフじゃ切り分ける事は不可能なのでそちらの作業も
「ところでユウキくん。さっきの技能はどんな名前にするの?」
「え? 名前?」
そんな風にハルカが話しかけてきた。名前とはまた突然な。
「全然考えてなかったけど……それって付けなきゃダメなのか?」
「ダメってわけじゃないけど、あった方がいいと思うよ。その方が自然とイメージが固まって技の発動も早まりやすいからね」
と、ハルカのアドバイス。
つまりはルーティーンのようなものか。何も無しにイメージを練るより、何かしらの行動と結びつけた方が完成が早くなる、と。
「なるほど、理屈はわかった。けど名前って言われてもなぁ……」
帽子越しに頭を搔く。
困った。その手の命名センスに自信が無い。
「そんなに難しく考えなくても、あくまでも発動補助の一つだから頭にぱっと思い浮かんだのでいいと思うよ」
「そんなすぐに思い浮かばないから悩んでるんだが……というか、それで言うなら
「そう? えへへ、ありがと」
はにかんだように笑うハルカ。
俺も付けるならそういう名前にしたいなぁ……。
「うーん……名前なぁ……」
改めて考えてみる。
技能の見た目としては薄く鋭い葉っぱの刃だから……ダメだ“リーフブレード"とかいう完璧な名前が邪魔してくる。やめろ今それはノイズだ。
じゃあ緑の刃だから“グリーンソード"とか……いやダサいな。“リーフブレード"のパクリだし並べた時の劣化感が凄い。
ならエメラルドから取って“エメラルブレード"は……なんか惜しいな、もう一押し欲しい。
というかこの技能の要点は『薄く』『鋭く』『正確に』なんだからそれをイメージさせられるようにする必要があって、そうなると──。
「……“
「──え?」
それは、前世において神器ともされる有名な剣の名前。
名前に『草』も入ってるし、『薙ぎ』で斬り払うイメージも立つしこれはいいんじゃないだろうか。
「よし、それでいこう。結構いいのが出たんじゃないか──って、どうしたハルカ?」
同意を求めるようにハルカの方を向くと、呆けたような顔でこちらを見ていた。なんだ?
「あ、うん、なんでもないよ。ただちょっとびっくりしちゃって」
「びっくり? 何が?」
「うん。あたしが思い浮かべてたのと同じ名前だったから、すごい偶然だなって」
「え? マジで?」
そんな答えに思わず素っ頓狂な声で返してしまった。
必死に捻り出した名称だったのにハルカも同じ事を考えてたなんて……そんな事あるのか……。
「うーん……まあいいか。それだけわかりやすいイメージって事だしな」
「うんうん。けってーい!」
同じ名前を思い浮かべてたって事は同じようなイメージを共有しやすいという証左でもあるし、イメージの補強という点でも高い効果を期待できるはずだ。
それに“ひてんげり"を考案したハルカと被るならおかしな名称ではないという事でもある。一瞬変な名前にしてしまったのかとも思ったけどそれは無いようで安心した。
「ジュカッ!」
「お、終わったか。お疲れさん」
そうして話していると、切り分け作業が終わったらしいカインが呼び掛けてきたのでそちらに歩いていく。そこそこの量があるのでしばらく練習台には困らなさそうだ。
しかし今後は名称込みで技能を考えた方が色々スムーズかもなぁ。肉体や技以外にもこういう部分に強さへ繋がる秘密があったりするから侮れないものだ。
「……ホント、びっくりしたなぁ」
木をバッグに詰めている最中にそんな呟きが聞こえた気がした。
* * *
そんなこんなで次の予定を話しながらフエンの宿に戻る途中で、黒いジャケットに赤のズボンを着たモヒカン頭のガラが悪そうな男がいた。
不良、ヤンキー、ゴロツキ、チンピラ。まあそう形容されるような風貌の男だ。
ぶっちゃけ普通なら関わりたくないタイプ筆頭の人種である、が。
「あれ? カゲツさんだ。カゲツさーん!」
「ん? おお、ハルカじゃねえか。元気してたか?」
「はい! カゲツさんもお元気そうで」
なんの躊躇いもなく話しかけたハルカと、その声でこちらに気付いて振り返った男の名はカゲツ。
その正体は悪タイプポケモンの使い手であり、ホウエン四天王の一角を担っている最上級のトレーナーの一人だ。あれで意外と面倒見のいい常識的な性格だったりする。
……とはいえ、実情を知っててなお傍から見てるといたいけな少女に絡む不良という構図になるから、如何ともし難い感情になってしまう。残念だ。
しかしどうしてこんなところにカゲツがいるんだろうか。
「って事は、そっちの奴が?」
「はい、ユウキくんです」
不思議に思っていると、カゲツの視線がこちらを向いた。
思わず身体が固まってしまったのは仕方のない事だろう。悪い人ではない──多分──というのはわかってるけど、それでもこういう人種から見られるのは苦手だ。
「なるほど、お前が──ん? んん〜?」
怪訝そうな顔をしながらカゲツが顎に手を当ててこちらに近付き、俺を値踏みするかのようにジロジロと観察を始める。
い、居心地が悪い……!
「あ……あの……?」
「──っと、悪い悪い。ダイゴから話を聞いてたもんだからどんな奴かと思ってよ。オレはカゲツ。四天王のカゲツだ。よろしくな」
「あ、はい、ユウキです。こちらこそよろしくお願いします」
視線に耐えられず溢れた言葉にカゲツが反応し、遅まきながらに自己紹介を始めた。
普通はそんな風にジロジロ見るより先にするものでは、と言いたかったが、まさかコテコテのヤンキー面した相手に対してそんな物言いができるわけもないので、言葉を飲み込んで自己紹介に応じておく。
「それで、悪いついでにちょっとポケモンを出してくれねえか? できればエースがいい」
「え? は、はい。カイン!」
これについても半ば反射的にカインを繰り出すと、カゲツはそちらに視線を移して観察を再開する。
なんだ? 何を見てるんだ?
「……なるほど、足を活かした物理型か」
「!」
そうしてカゲツの口から出た言葉に驚愕する。
まさか、この僅かな時間でカインの型を見抜いたのか!? ジュカインは種族値的には両刀可能だし、どの型かなんて技を見るまでは判別できないはずなのに。
「お、その反応は合ってるみてえだな。ならオレの目がおかしくなったわけじゃねえな」
ククッとカゲツが笑う。いかにも悪タイプ使いといった悪そうな笑みだが、今はそれどころではない。
「あの、なんでわかったんですか?」
「ああ、オレの特技みたいなもんよ。昔はちょっとばかしやんちゃしてたもんで、相手の強さを見抜く必要があってな。体格や動きからある程度判断できるようになったのよ」
例えば、と続ける。
「このジュカインは足の筋肉が他の同種族よりも発達してるから足回りに自信があると見た。それに腕の筋肉や葉の鋭さも中々のもんだ。特殊攻撃をメインにしてたらこうはならねえ。だから物理型だろうと予想できるわけだな」
「はぁ〜……」
凄い観察眼だ。少し見ただけでそこまでわかるなんて。というか情報の拾い方が上手いのか。
初見殺しが横行するこの世界でカゲツの能力は非常に強力だ。相手をよく見るってのはこういう事を言うんだろう。
「まあこいつを見りゃお前がいいトレーナーだって事はわかるぜ。流石にあのハルカと一緒に旅してるだけの事はある。だが──」
「だが?」
「……いや、気にしないでくれ。色々言ったが半分くらいは勘みたいなもんだからな」
「はぁ……わかりました」
何を言いかけたんだろうか。気にするなと言われた以上、聞き出す事はできないんだろうけど気になる。
「ところでカゲツさんはどうしてここに?」
「おお、そうだった。ダイゴからえんとつ山の件についてサポートするよう言われてよ。詳しい話はジムリーダーに聞こうと思ってたんだが丁度いい。お前らも話を聞かせてくれ」
「あ、はい。ええとですね──」
とりあえずはえんとつ山での出来事と封印の件、それと期日について話しておく。
しかしあっさり言ってるけど四天王のサポートとはまた贅沢な話だ。確かにこれほど頼もしい助っ人も中々ないだろう。
「──なるほど、封印ねぇ。正規の手段で解くならともかく、無理やりこじ開けるなんざろくな事にならなさそうだが……」
「俺もそう思います。だからできれば封印を解くのはやめてほしいんですけど……」
「だがそいつらの言い分もわからんではない。連中の理想云々は置いとくにせよ、そんなあからさまなもんがあんなら中が気になるのもわかるしな」
簡単に説明を終えると、カゲツはそんな感想を口にした。
俺としても気持ちは理解できるが、何せ特級の危険生物が眠っている可能性が非常に高いのだ。
好奇心は猫をも殺すと言うが、猫だけならまだしも世界規模で被害が広がる事を考えれば呑気な事は言ってられない。
「ま、事情はわかった。とりあえず探索にはオレも同行できるよう言っておく。その為に来たんだしな」
「ありがとうございます」
これで探索の参加メンバーはマグマ団に加えてアスナとカゲツになるわけか。
正直マグマ団を抑えるにあたってアスナ一人だけだと若干不安もあったけど、カゲツが加わるならかなり心強い。
さっきの観察眼もあるし、マグマ団が怪しい動きを見せればすぐに対応してくれそうだ。
「んで、お前らはどうするんだ? 一緒に来るのか?」
「あ、いえ、そろそろヒワマキかトウカのジムに向かおうかって話してたところです。フエンでの用事も済んだので」
「そうか。そういやお前、トウカジムリーダーの息子でもあるんだっけか。お前の親父は強えぞ?」
「……まあ、なんとかしますよ」
実際、トウカジムはゲームでも鬼門になり得る場所だ。本当の初見攻略で真っ向から挑んだ時にあのケッキングに叩き潰された人も少なくないだろう。
それがこの世界だと一体どうなってしまうのか。楽しみ半分、怖さ半分といったところだ。
しかしあの親父、四天王にも強いと言われるレベルなのか。やっぱ怖さ八割くらいになってきたかも。
「ま、頑張んな。さて、話も纏まったところでそろそろ行くとするか。宿も探さなきゃなんねえしな」
「あれ? ダイゴさんに手配してもらってないんですか?」
「おいおい勘弁してくれよ。あいつが取る宿っつったらやたら高え旅館ばっかじゃねえか。オレにゃ合わないっての」
ハルカの問いに、げんなりした顔でひらひらと手を振りながらカゲツが言う。
ああ、この人の金銭感覚は庶民派なのか。やっぱハルカとかダイゴさんがおかしいだけなんだな。安心した。
「つーわけで丁重にお断りさせてもらったわけだ。オレはオレで分相応の宿を探すさ」
「四天王なんだから分相応って言うなら高級旅館でいいと思いますけどねぇ」
「立場じゃねえ。心の分だ」
不思議だ。初めて聞く単語なのになんとなく意味が理解できる。
「それじゃあな。旅、楽しめよ」
そう言ってカゲツは去って行った。
なんというか、意外と普通に話せる人だったな。あのファッションと人相でなければもっと気軽に話しかけやすくなりそうだ。 まあカゲツはあのファッションが気に入ってるらしいからやめる事は無いんだろうけど。
「……なんか凄い人が来たなぁ。まさか四天王にお目にかかれるとは」
「そうだねぇ。あたしもカゲツさんが来るとは思わなかったよ。でもこれでえんとつ山の方はある程度安心なんじゃないかな」
「そうだな。ジムリーダーと四天王、二人いれば早々問題も起こらないだろ」
強力過ぎる助っ人に驚きはしたが、これでいよいよマグマ団も好き勝手に動けないはずだ。もうしばらくは安心してパワーアップに専念できるだろう。
「それで、どっちに向かうの? あたしはどっちでもいいけど」
「んー……やっぱり飛行手段が欲しいからヒワマキかな。ここからだとヒワマキの方が近いし」
ゲーム通りの順番で進めるのもいいけど、やはり“そらをとぶ"の使用許可が早く欲しい。これがあるのと無いのとでは移動速度が倍どころのレベルじゃなく変わってくるからな。
「そっか。でもそうなると後回しにしたセンリおじさんは強いよ〜?」
「やめろよ考えないようにしてたのに」
平気で“なまけ"無効のケッキングとか出てきそうだから困る。
というか相性有利かつ、あのバシャーモを手持ちにしてるハルカですら強いと言うレベルって本当になんなんだ。マジで戦いたくねぇ。
「あはは。でもヒワマキを先に回るのはあたしも賛成かな。やっぱり移動手段は欲しいしね」
「だな。そしたら今日のところはキンセツまで行って、明日に着くようにするか」
「おー!」
よし。次の目的も決まったところで、旅館のチェックアウトを済ませないとな。
親父には悪いけど戦うのはもう少し待っててもらおう。