ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
ポワルンというポケモンの特徴としては、やはり“てんきや"という専用特性が真っ先に思い浮かぶだろう。
これは“にほんばれ"、“あめ"、“あられ"の三つの天候によって姿やタイプが変わるという珍しい特性*1である。
そして今相対しているポワルンは雨に適応した“あまみずのすがた"……なのだが。
「ぽわわー!!」
「な、なんかあいつめっちゃ怒ってない?」
「そ、そうみたいだね」
何故かあの小柄なゆるふわ様は大層お怒りの様子でいらっしゃった。おかしい。被害者はむしろ俺のはず。
「ぽわわわ……!!」
なんて疑問に思っていたのもつかの間。ポワルンの身体から小さな光が放たれ、それを中心に水球が形成されていく。
あれはポワルンの代名詞とも呼べる技の“ウェザーボール"*2だろう。どうやらバトルがお望みらしい。
「まあ、よくわからんがやる気なら相手になって──」
「ぽわー!!」
“ウェザーボール"
「おわぁっ!?」
「わわっ!?」
反撃のために
真っ直ぐ俺を狙ってくるそれを、思いっきり横に跳びながら危ういところで回避する。
あ、あぶねえ……ギリギリでなんとかなったが、一歩間違えば大惨事だぞ……!
「くっそ、やってくれたな……! もう容赦しねえ──うおおおお!?」
“ウェザーボール"
“ウェザーボール"
“ウェザーボール"
息つく暇も無い怒涛の連弾。おかげでボールを投げる余裕も無い。完全に殺る気である。
「ユウキくん、こっち!」
「! おうっ!」
そうして俺が狙われている間に避難していたらしいハルカが、木の裏から呼び掛けてきた。
迷わずそちらに向かって全力ダッシュし、少し離れた位置にある木へ隠れるようにして飛び込む。直後、すぐ後ろでドパァァァン! と激しい破裂音が聞こえた。
危ない! 本当に危ない! 死ぬ!
「うっひゃー、すっごいねあの子。大暴れしてるよ」
「呑気にしてる場合か! あーもうなんなんだあいつは! 好戦的過ぎるだろ!」
「うーん、あのポワルンもユウキくんみたいにテンション上がってるのかも?」
「テンションで殺されてたまるか! というか、まさかこの雨もあいつの仕業じゃないだろうな」
これだけの暴れっぷりならそうだとしてもおかしくないけど。
「多分だけど、それは違うと思うな。この辺は元々こういう気候だし、“あまごい"による雨ならもうちょっと水が冷たくなるはずだから」
しかしその考えはハルカに否定された。なるほど、温度で判断できるのか。覚えておこう。
「……まあそれはいいとして、そろそろあいつをなんとかしないとだな」
尚も大暴れし続けるポワルンを木の陰から覗き見る。
このまま隠れてやり過ごせるかわからないし、やり過ごせたとしても今度は他の人を襲い始めるかもしれない。そうなると危険なポケモンと判断されて討伐対象になる事だってある。それはちょっと色々と気分が悪い。
にしてもポワルンってもっと温厚なイメージだったけど、案外気性が荒いんだな。個体差といえばそうなのかもだけど──。
「……あー、そういや
しょうもない事を思い出して脱力する。ともあれおかげでなんとかなりそうだ。
「ユウキくん? どうしたの?」
「いや、なんでもない。けど多分なんとかなるわ」
言いながらボールに手をかけ、それを投げる。
中身はカイン──ではなく。
「チルルー!」
チルタリスのフォルテだ。
そもそもフォルテはこういう状況に対応する為に手持ちに入れているポケモンなのだから。
「よし、行ってこい。正面から突っ込めばいいぞ」
「チルッ!」
力強く頷いたフォルテが綿のような羽を広げて飛んでいく。
それに気付いたポワルンも無闇な連射を止め、フォルテに狙いを定めて光の玉を生み出した。
「ぽわわわ……!! ──ぽわっ!?」
が、水球は形成されない。ただ光の玉がそこに浮かぶだけである。
“ノーてんき"*3
元よりポワルンの戦闘能力はほぼ天候に依存している。故に天候メタの特性を持つフォルテならほぼ完封できるのだ。
「ぽわ……ぽわー!!」
“ウェザーボール"
苦し紛れにポワルンが何も纏っていない素の“ウェザーボール"を放つが、天候の影響が無ければ威力五十の『ノーマル』技だ。例え直撃したとしても大したダメージにはならない。
最早止める術を持たないポワルンに向かってフォルテが飛翔し。
「チルー!」
「ぽわっ……! ぽむっ!?」
ぽふっ、という間の抜けた擬音付きでフォルテが羽毛に包み込んだ。
「ナイスだフォルテ。お疲れ様」
「チルル♪」
労いの言葉をかけると、着陸しながら頭を下げてきたので撫でてやる。
というか最初からこうしてればよかった。フォルテを出した今、土砂降りだった雨は小雨レベルにまで落ち込んでいる。まあこれはあくまでも特性範囲内での話であって、実際に雨が上がったわけじゃないんだけど。
この“ノーてんき"という特性は天候に影響を与えるというよりは、天候による現象に作用すると言った方が正しい。雨や晴れといった天候そのものを変えられるわけではないけど、それに伴う降雨や熱はある程度緩和できるという感じだ。
まあめちゃくちゃシンプルに説明するなら、“ノーてんき"の持ち主を中心にした範囲内は屋内にいるのと同じとでも思えばいい。家の中なら雨だろうと晴れだろうと関係無いという理屈だ。
「おー、上手く捕まえたね」
「そうだな。さて、引っ張り出すか──っと」
羽の中に手を突っ込んでポワルンを探す。すると何か生温かいものに触れたのでそれを両手で掴み、一気に引っこ抜いた。
「ぽわ──ぽわ?」
「よーしよし、いい子だから暴れるなよー」
引き抜いたポワルンは先程のような“あまみずのすがた"ではなく、アホ毛のようなものを頭から生やした薄灰色の姿──いわゆる
これがポワルンのデフォルトの姿である。
「ぽわわ〜」
「……うん、大人しくなってるな。やっぱあの雨が原因か」
さっきまでの凶暴性はどこへやら。手を離しても辺りをきょろきょろ見回しながらふわふわ浮かぶだけである。
この目を疑うような変貌ぶりの原因は言うまでもなくあの豪雨であり、ポワルンの図鑑説明を見ればすぐにわかる。
曰く、『気象が荒くなるほど気性が荒くなる』、と。
舐めたシャレだ。ぶん殴ってやりたい。
……まあ、そういう事である。
要は天気の影響をモロに受けるポケモンなので、“ノーてんき"の範囲内であればポワルンは元の性格に戻るというわけだ。
別に何が悪いとかそういう話ではないが力が抜ける。まあでも元々暴れん坊だとか、誰かが操ってたとか、そういうわけじゃ無さそうで安心した。
「ぽわ、ぽわわ〜♪」
「チル?」
ポワルンはポワルンでフォルテの羽の中が気に入ったようで、再び潜り込もうとしていた。気持ちは非常によくわかるが。
「とりあえずはこれで一件落着か。しかしえらい目に遭ったな……」
「そうだね。……うーん、でも少し変だな。ポワルンって基本的にはこの先にある天気研究所付近でしか見ないはずなんだけど……」
「ん? そうなのか?」
ハルカが思案顔でそう言う。
確かにゲーム内だとポワルンは天気研究所のイベントをクリアする事で貰えるポケモンであり、野生には生息していなかった。
だけどそれはあくまでもゲームの話で、この世界なら普通に野生にも生息しているのかと思ってたんだけど。
「そういや最初もどっからか飛んできてたな。まさかそこから飛んできたのか?」
「多分そうなんじゃないかな。さっき大暴れしてたのも、知らない場所に来て混乱してたからかもしれないね」
ここから天気研究所までは結構な距離がある。そこから流れてきたとなれば確かに不安になるかもしれない。
どうあれ生息域でないのは確かなようだ。
「ん〜……じゃあまあ、元の場所に帰しに行くか。迷子だとしたらかわいそうだしな。おーい、ポワルーン」
「ぽわ?」
呼びかけるとポワルンが羽の中からひょこっと頭だけを出した。とてもかわいい。
「お前を元の場所に帰そうと思う。だから少しの間これに入っててくれないか?」
「ぽわ? ぽわ〜……」
言いながらモンスターボールを見せると、ポワルンは悲しげな顔をしていやいやと首を横に振りながら奥に隠れてしまった。
嫌か……ならしょうがないな。また天気が変わった時の事を考えたらボールに入れておきたかったけど強制はしたくないし。まあフォルテを出しておけばそこら辺は大丈夫か。
「わかった。ならそこにいていいぞ。フォルテ、悪いけどしばらく外に出ててもらえるか?」
「チルッ」
了承も得たので、仕事料としてポロックケースから緑のポロックを取り出し、フォルテに差し出すと嬉しそうにそれを啄んだ。
こういう時のご褒美用としていくつかポロック*4を作ってあるけど、ポロックキットに入れれば自動で完成するんだから便利な時代である。
「さて、それじゃあ研究所──の前に、先に休憩したいな。流石に疲れたし服も乾かしたい」
「さんせーい。もうびしょ濡れだよ〜」
フォルテのおかげで雨は弱まっているものの、依然として振り続けているのは変わらないし、濡れた衣服が乾くわけでもない。あまり濡れたままでいるのは身体にも良くないだろう。
「……って、この辺に休める場所ってあるか?」
「えっと、一応近くにコテージがあるんだけど……あんまり広くないからフォルテちゃんが多分入れないんだよね」
ハルカの話を聞いて記憶を掘り起こす。
確かにゲームでも休憩所があったっけ。ゲーム的には回復ポイントとしての役割があったが、現実的にはこういう時の避難所としての設置なんだろうか。
でもフォルテが入れないのはなぁ、と俺が渋い顔をしたのに気付いたのか、ハルカが続けた。
「あ、でもそこからもう少し歩かなきゃなんだけど、先に行ったところに小さい洞窟があるんだよ。そこならフォルテちゃんも入れるはずだからそこで休もう?」
「洞窟?」
そんなもんあったっけ? と少し考え、もしや秘密基地の事かと思い至った。あったなそんな要素。技の方がメイン過ぎて忘れてた*5。
「まあ、それなら案内してもらうか」
「任せて! こっちこっち!」
* * *
それから二十分くらい歩いただろうか。橋の下を潜った先、滝のすぐ近くに小さな洞穴が見えた。
ホウエン地方の各所には秘密基地になり得る場所がいくつかある。ここもそういう場所の一つなのだろう。
正に隠れ家。人目につかない場所。秘密基地である。
「お邪魔しまーす」
言いながらハルカが洞穴に入っていくも返事は無い。どうやら先客はいないようだ。
「うん、誰もいないね。ユウキくんたちもおいでよ」
「おう」
フォルテと一緒に中に入る。
近くが水辺だからか、中は少しひんやりとしていた。冷たい空気が肌を撫で、雨に濡れた身体がぶるりと震える。
「うっ……フォルテ、ちょっと」
「チル?」
フォルテを呼び寄せて羽に
ああ、暖かい。流石は最高級の羽毛布団と呼ばれるだけあって素晴らしい柔らかさだ。チルタリス万歳。もふもふは正義。
「さて、火を起こさなきゃね。ユウキくん、あの木ちょうだい」
「ん? おう」
バッグを漁り、中から木材をいくつか取り出す。
意外な形で役に立ったなぁ。
「こんなもんでいいか?」
「ん、ありがと。
「シャッ」
ちゃもが木材を手に取り、そのまま炎を纏わせる。そうして木材に火を着けて重ねていくと、みるみるうちに立派な焚き火が完成した。
「おー、流石。ありが──」
とう、と言い切る前に仕事は終えたとばかりにボールの中に戻っていくちゃも。前にもあったなこんな事。
「……やっぱ嫌われてるよな」
「そ、そんな事無いって……多分……」
主人を濡らしやがってこの野郎、みたいな事だろうか。それに関しては面目ない。
「ま、まあとりあえずはここで雨宿りしよっか。服も乾かしたいしね」
「そうだな……はぁ……」
溜め息を吐いて焚き火の前に座る。
嫌われてる……は言い過ぎだとしても、よく思われてないのは確かだと思う。ただちゃもは最初からああだったせいで、何が気に入らないのかもよくわからないので改善のしようも無い。
俺としては仲良くしたいんだけど、向こうにその気が一切無さそうだからなぁ……。
「よいしょ……っと。わー、濡れたなぁ」
ぼんやりと炎を見つめている最中、声に釣られて視線を動かす。
その先には服の裾を持って水を絞り出しているハルカの姿があり、白いお腹がチラチラと見えていた。
細いなぁとか、柔らかそうだなぁなんて思いながらそれを眺めていると、少し遅れてハルカと目が合った。
数秒の静寂。少し遅れてハルカがもじもじと裾を下ろす。
「あ、あはは……そんなに見られるとちょっと恥ずかしいなー、なんて……」
そこでようやく頭が働き始め、自分が何をしていたのかに気付いた。
「──っ!? ごっ、ゴメン! 何してんだ俺!?」
言うが早いか、摩擦熱が起きそうな勢いでグルンッ! と身体ごと後ろを向く。
最悪だ、あまりにも失礼過ぎる。言い訳のしようも無いくらいガッツリ見てしまっていた。
何をボーッとしてんだ俺は! 細いなぁじゃねえだろうが!
「……ふふっ。やっぱりユウキくんってお腹が好きなんだ」
お腹、という単語に反応して、脳が勝手にさっき見た映像を再生し始め顔が熱くなる。
すぐにでも忘れるべきはずのそれは、無駄に鮮明に脳裏に焼き付いていた。
「……っ、だからっ、それは違うって……!」
「別に隠さなくてもいいのに。前にも言ったけど、あたしのでよければいつでも見せてあげるからね。なんなら触ってみる?」
「〜〜っ! いいっ! いいって!」
「そう? じゃあ気が変わったら言ってね」
ハルカの言葉を聞いて、一瞬でも不埒な想像をしなかったと言えば嘘になる。が、実際に実行に移すのは論外だ。
いくら本人が良いと言ってるとはいえ相手はまだ子ども。遊びの範囲に過ぎないのだから、絶対に本気にしてはいけない。
「……というか、俺外に出た方がいいだろ。男がいたんじゃ着替えにくいだろうし」
「んーん、別にいいよ。ユウキくんの事は信用してるし。……まあ、どうしても見たいなら見てもいいけど」
「見ない! 絶対見ないから!」
「ふふ、でしょ? あ、ユウキくんも着替えていいからね」
言い終え、少しした後に『んしょ……っと』などという声と共に衣擦れの音が聞こえてきた。
正直非常に居心地が悪い。やっぱり出ていけばよかったかと思ったが後の祭り。タイミングを逃してしまっている。
仕方がないので言われた通り俺も着替える事にするが、せめてフォルテを俺とハルカの間に立たせておく。これでちょっとやそっとじゃ互いの姿は見えないだろう。
さて、着替えるっつってもどうするかな……正直ぐしょぐしょで気持ち悪いからパンツも履き替えたいところだけど、果たして
「ねえ、ユウキくん」
「はいぃ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった事で『どうしたの?』などと聞かれてしまったが、すぐさまなんでもないと返すと特にそれ以上は言及されずに続きを話し始めた。
「ユウキくんって雨が好きなの?」
「雨? 別に好きでも嫌いでもないけど……それがどうかしたのか?」
「ほら、さっきも雨に打たれて笑ってたじゃない? だから好きなのかなーって」
突然何かと思えばそんな事か。つまりは暇潰しの雑談をしたいのだろう。
俺としてもこの空気の中無言でいるよりは助かるので乗っかる事にする。
「アレはちょっと特殊というか……その時も言ったけど、めちゃくちゃな雨が降った時ってなんかテンション上がるんだよな。けど特別雨が好きってわけじゃないよ。そういうハルカはどうなんだ?」
こういう時は相手にも同じ質問をすると話が続きやすい。話題を振った方は大抵その質問に対して答えを用意しているものだから。
果たしてハルカはどうなのだろうか。
「あたし? あたしはあんまり好きじゃないかなー」
ハルカの返答。
その答え自体が意外なわけではなかったが、ハルカなら『雨だとポケモンが普段と違う顔を見せるから好き』、と言ってもおかしくないと思った。
「ふーん。まあ雨が好きって人もあんまりいないしな」
「今みたいに濡れたりするとちょっと気持ち悪いしね。あとコケやすくなったりするし。そうそう、それこそ雨が降った次の日にフィールドワークに行ったお父さんが泥だらけになって帰ってきた事があって。その時のお母さん凄く怖かったなぁ」
「はは、それはご愁傷様だな。でも泥って落とすの大変だから怒る気持ちもわかる」
「そうそう。お母さんも『自分で洗いなさい!』って怒ってたよ」
なんとなく博士が怒られて小さくなっている情景が目に浮かぶ。そんなに怒るって事は相当汚したんだろうな。
「じゃあハルカも汚して怒られたりしたのか?」
「んー、いや、あたしはそこまででもなかったかな。ちょっとは汚れるけどお父さんほどじゃなかったし。ほら、お父さんってあんまり運動神経良くないからよくコケるから……」
「あー……」
これもまた目に浮かぶ。確かにあの人は運動できるようには見えないな。コケた時もおそらくは盛大に泥の中に突っ込んでいってるに違いない。
だから多少ハルカが汚そうとも、博士の方が酷いからあまり怒られなかったのだろう。
「あとは……まあ、雨の日ってなんだか気分が落ち込むからさ。色々考えちゃうんだよ。嫌な事思い出したりとか、ね」
「それはまあ、わかる」
元より雨の日に憂鬱になるというのはただの気のせいとかではなく、気圧の変化がどうたらで科学的に証明されていたような気がする。ハルカもその例に漏れなかったという事か。
「あ、でも好きなところもあるよ。雨だと普段とは違うポケモンが元気になったりするから、それを見るのは楽しいもん」
「……ははっ」
そんな会話を続けていると、正に先ほど想像したような答えが返ってきて思わず笑ってしまう。
そうだな、ハルカはそういうやつだ。それでこそだと思う。
「え、な、なんで笑うの?」
「いや、なんでもない。それより早く着替えて飯にしようぜ」
誤魔化し、バッグの中からスープの素を取り出す。
さあ、早く着替えて飯の準備をしよう。身体も冷えてきてるし温かいもの食わないとな。