ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが?   作:名無しのナナシ

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雨降って地固まる

 オレンジと黒を基調にした半袖シャツとグレーのズボン──微妙な差異があるがいわゆるE(エメラルド)衣装に近い──に着替えて昼食を終え、時間潰しも兼ねてジュカイン(カイン)と“くさなぎ"の反復練習をしていると。

 

「ユウキくん、雨止んだみたいだよ」

 

「ん? おお、やっとか」

 

 洞窟の入口付近から呼びかけてきたハルカの方を見れば、あれだけ激しかった雨が止んでいるのが確認できた。

 まあスコールなんて言ってみれば通り雨のようなものだし、そう遠からず晴れるだろうとは思ってたけど。ともあれこれでようやく先に進める。

 ちなみにハルカもオレンジ色のノースリーブというE仕様の服装に変わっているが、ベース自体はORASのものに近いのでE衣装との合の子といった感じだ。

 こっちの衣装もいいよなぁなんて思いながらカインをボールに戻し、焚き火もきっちり消してからチルタリス(フォルテ)を連れて洞窟を出ると、外は数十分前の光景が嘘のようにすっかり晴れていた。

 

「いやー、晴れたなぁ。ここまで晴れると爽快だ」

 

「そうだね──あっ! ユウキくん、あそこあそこ!」

 

「ん? あそこって──」

 

 大きく伸びをしながら、雨上がり特有の緑の匂いを肺いっぱいに吸い込こんでいると、興奮した様子のハルカが空を指差した。

 なんだろうと思いながら見上げてみれば、そこには大きな虹が架かっていた。虹自体は何度か見た事があるけど、ここまで見事なものは前世でも記憶に無い。

 

「おお、これは凄いな。虹なんて久し振りに見たぞ」

 

「うんすっごく綺麗だね!」

 

 楽しそうにハルカが笑う。

 正に天の恵みと言えるような見事な虹だった。大雨に降られたのは災難だったけど、これを見られたのなら帳消しにしてやってもいいと思える。

 それにポケモンで虹と言えば追加効果が出やすくなる効果があり、言ってみれば幸運の象徴だ。出発するタイミングとしてこれ以上は無いだろう。

 

「よし、行くか」

 

 目指すは天気研究所。そしてその後はヒワマキシティだ。

 

 

 * * *

 

 

 長い橋を渡って滝の流れる川を横切り、勝負を仕掛けてくるトレーナーは無双状態のカインに任せて突破。

 先を急ぎながらも道中を楽しむ事は忘れず、緑を踏み締めて歩いて行く事およそ三時間。

 再びのスコールに見舞われる、なんて事もなくどうにか日が暮れる前にそれらしい建物が見えた。おそらくはあれが天気研究所だろう。

 これで後はポワルンを返して終わりだな、なんて思っていると。

 

「あのー! そこの君たちー! ちょっとすみませーん!」

 

 研究所の近くでキョロキョロと辺りを見回していた男性が、声を張り上げながらこちらに向かって走ってきた。な、なんだ? 

 

「ハルカ、知り合いか?」

 

「ううん。知らない人だよ」

 

 一応聞いてみたがハルカは首を振った。やはり知り合いというわけでも無いらしい。

 何事かと身構えていると、俺たちの目の前までやって来た男性は息も絶え絶えになりながら膝に手を着いた。

 

「はあ……はあ……す、すみません……突然呼び止めて……けほっ……」

 

「それはいいんですけど……大丈夫ですか?」

 

「すぅー……はぁー……だ、大丈夫です」

 

 歳の頃は三十代前後くらいだろうか。服装は研究員が身に付けるような白衣で、癖っ毛のある髪に黒縁の眼鏡をかけており、顔立ちからはおっとりとした印象を受ける。

 見るからに運動慣れしていないのであろう彼はようやく呼吸を整え、佇まいを直してから改めて口を開いた。

 

「申し遅れました。僕はそこの天気研究所で研究員をしているシロツメと申す者です。ここに来る途中でポワルンというポケモンを見かけなかったでしょうか? あそこでふわふわ浮いているポケモンなんですけど」

 

 首から下げたネームホルダーを見せながら男性──シロツメが研究所の方を指差す。

 距離がやや遠いのではっきりとは見えないが、その方向には確かに複数体のポワルンと思わしき白い何かがふよふよと漂っていた。天気研究所付近にいるってのはこういう事か。

 まあそれはさておき。

 

「ああ、その事でここまで来たんですよ。もしかしたら迷子なんじゃないかって事で、そこのチルタリスの中に入れて連れて来たんですけど」

 

「よかった!」

 

 俺の言葉を聞いて、シロツメの顔がぱっと明るくなる。

 

「朝のスコールで飛んでいってしまった時からもうずっと探していたんです! どこかで泣いたりしてないかって心配で心配で……!」

 

「あー……まあ、元気でしたよ。とても」

 

 元気が良すぎて殺されかける程度には、という言葉は呑み込んでおいた。

 しかしこの様子からして相当心配していたらしい。見つかっ(襲われ)たのは偶然だったにせよ、ここまで連れてきてよかった。これであの苦労も報われるというものだ。

 

「それじゃあ主人も見つかった事だし──おーいポワルン、出てこーい」

 

 フォルテの羽の中にいるポワルンに呼びかけて少し待てば、眠っていたのか寝ぼけ眼のポワルンがぽふっと顔を出した。

 よしよし、感動の再会だな。

 

「ああ、ポワルン! よかった、さあ一緒に帰ろう!」

 

「ぽわ〜……ぽわっ!? ぽわ〜!」

 

 しかし俺が予想した光景とは大きく外れ、ポワルンはシロツメの顔を見るなり逃げるように羽の中に引っ込んでしまった。

 あれ? ここって主人との再会に飛びつくところじゃないの? 

 

「……あの、確認なんですけど、本当にこのポワルンってシロツメさんのなんですよね?」

 

「ええと……正確には研究所のみんなでお世話をしているので僕個人のというわけではないんですが……そうですね、少なくともこのポワルンのお世話は僕が任されていました」

 

 一瞬生まれた良からぬ疑惑は、しかし即座に否定される。確認すればすぐにわかるような嘘を吐く理由も無いので、本当の事を言ってると思っていいだろう。

 となるとあの反応はなんでだ? 明らかに不審人物とかにする反応だったけど……。

 

「……すみません。少々お話したい事がありますので、研究所まで来ていただけませんか? ここまでポワルンを連れてきてくれたお礼もしたいですし」

 

「ん? ああ、俺はいいですけど……」

 

 ちらりと隣を見ればハルカも頷いていたので、シロツメに着いて研究所内へ案内される事にした。

 フォルテをボールに戻すかどうか迷ったが『どうやらそこが安心するようなので』と言われたのでそのまま自動ドアを通って中に入る。

 

「では、申し訳ありませんがそこにお掛けになってお待ちください。それと、もしよければこれもどうぞ」

 

 そう言ってシロツメは俺たちを入口近くにあるイスに案内し、ポケットから飴を二つ取り出して俺たちに手渡すとどこかへ行ってしまった。

 

「……天気研究所だけに飴、ってか」

 

「ん? 何か言った、ユウキくん?」

 

「いや、何も」

 

 余計なツッコミを受ける前に包み紙を開いて飴を口の中に放り込むと、スッとするような清涼感のある味わいが口の中に広がっていく。

 何味かと思ったらハッカ飴かこれ。眠気覚ましにでも使ってんのかな。

 

「……むーん……」

 

 隣からは苦々しい声が聞こえる。どうやらハルカは苦手だったらしい。

 まあハッカ飴って好み分かれるもんな。俺は嫌いじゃないけど。

 

「苦手なら吐き出してもいいと思うぞ」

 

「……ううん、食べる。せっかく貰ったし」

 

 変なところで真面目なハルカである。無理して食べるものでもないだろうに。まあ本人がそう言うなら別に止めないけども。

 そうして飴を舐めて時間を潰す事暫し、飴が無くなって少ししたくらいのタイミングで『お待たせしました』と言いながらシロツメが戻ってきた。

 対面に座り、その表情が真剣なものに変わる。自然と俺も背筋を伸ばして話を聞く態勢に入った。

 

「では、お話させていただきます。まず最初にお恥ずかしい話なのですが、ポワルンがどこかへ行ってしまったのは僕のミスが原因なのです」

 

「ミス?」

 

「はい。そうですね……ポワルンの特徴についてはご存知でしょうか? 彼らは天気によってその姿形を変えるというポケモンなのですが」

 

「はい、もちろん。それと一緒に性格も変わりますよね」

 

 こくりとシロツメが頷く。

 

「ここ、天気研究所ではポワルンのその特徴に着目してデータ集めを手伝ってもらっているのですが、そこのポワルンは精神的にまだ幼い上に、天気の影響を特に強く受けるようなのです。何せ天気が変わった途端に近くのポワルンにも攻撃を仕掛け始めるくらいでしたから」

 

「ああ……」

 

 思い返すのはさっきの戦闘。

 シロツメの言う通り凄まじい暴れっぷりだった。そういうものかと思ってたけど、どうやらこのポワルンが特別そういう個体らしい。

 

「流石にそのままでは色々と危ないので、まずは別棟で力を制御する訓練をする事にしました。その担当が僕だったのですが……中々上手くいかないものでして。しかし、かと言って外に出すわけにもいかないのでその子には別棟内で生活してもらっていましたが、見るからに不満そうでしたね」

 

 相槌を打ちながら続きを促す。

 

「そんな日が続いて今日に至り、同じように訓練を行っていたのですが、そこで僕がミスをしました。別棟の窓に技が当たって壊れてしまったのです」

 

「つまり、その窓から逃げ出しちゃったって事ですか?」

 

「そういう事になります」

 

 ハルカの質問に、お恥ずかしい話ですとシロツメが俯いた。

 

「うーん、でも話を聞く限りではミスというより事故って気がしますけど」

 

「そうだな。俺もシロツメさんが悪いとは思わない」

 

 確かにミスと言えばミスなんだろうけど、それでもどちらかと言えばハルカの言う通り事故の部類だろう。職務怠慢や注意不足の類とは思えない。

 

「……果たして、本当にそうでしょうか」

 

 しかしシロツメはどこか自責の念を孕んだ声で続ける。

 

「ポワルンは天気によって姿を変えるポケモンです。自然の中にいるのが本来の姿と言えるでしょう。そんな子を、僕は狭い室内に閉じ込めてしまったのです」

 

「それは……でも、必要な事だったんじゃないんですか?」

 

「そうだとしても、その子の自由を奪ってしまった事は事実です。もしかしたら窓が壊れたのだって偶然ではなく、最初から狙っていたのかもしれません」

 

「……いくらなんでも、それは悪く考えすぎじゃないですか?」

 

 シロツメの話す理屈もわかる。だけど度が過ぎればそれは被害妄想だ。

 それに話を聞いても、またそれを体験した身としてもシロツメさんの、ひいては研究所の判断は間違っていないと思える。

 当たり構わず攻撃を仕掛けるポケモンがいて、しかもそれを制御できないとなれば一時的にでも隔離するのは安全のためには仕方ないだろう。

 歩み寄りは大事だけど、寄り過ぎるのも問題だ。どちらかに寄り過ぎた思想なんて、最終的にはどちらも不幸にしかならない。

 

「……失礼。少々悲観的になり過ぎました。しかしポワルンがストレスを抱えていた事は間違いないでしょう。過程がどうあれ迷いなく外へ飛び出したのは事実ですし、先程の僕への反応も見たでしょう?」

 

「それはまあ……そうかもですけど」

 

 実際、外に出られないのはストレスだろう。ポワルンのように自然の権化みたいな生態持ちならなおさらだ。

 そしてポワルンから見れば自由を奪ったのがシロツメという事になり、拒絶してしまう理由も……まあ、わかってしまう。

 

「そこで本題です」

 

 先程までの沈んだ声に、少し力が戻る。

 

「君たちが迷惑でなければ、そのポワルンを連れて行ってやってくれませんか?」

 

「え?」

 

 反射的にフォルテ──の羽の中にいるポワルンの方を向く。いつの間に顔を出していたのか、ポワルンと目が合った。

 

「連れて行くって……いいんですか? その、勝手に決めたりとか……」

 

「元々協議に上がっていた事ではあるんですよ。このままこの研究所にいてもまたストレスを溜めてしまうでしょうし、その子は外に出たい様子。それならば信頼できるトレーナーに預けたいと。外へ飛び出した先で偶然出会った君たちこそが運命のトレーナー……というのは少しばかりロマンチストすぎるでしょうか」

 

 立ち上がり、そしてシロツメは頭を下げる。

 

「無理を承知でお願いします。どうかその子に外の世界を見せてあげてください」

 

 誠実な人だなと思った。

 俺たちみたいな子どもに対しても丁寧に接し、ポケモンの事を思いやれる優しい人だ。きっとこのポワルンにも愛情を持って接していたのだろう。

 そんな人がここまで頼み込んでくるのだから、答えなんて一つしかない。

 

「わかりました。俺でよければ是非引き受けたいと思います」

 

「──ありがとうございます」

 

 俺の言葉を聞いて安心したように微笑み、ポワルンの方へと歩み寄っていくシロツメ。

 また引っ込んでしまうのではと思ったが、その気配は無い。不安そうな瞳でシロツメの方をじっと見つめている。

 ポワルンと目線を合わせて、シロツメは優しく言葉を紡ぎながら懐からモンスターボールを取り出した。

 

「ポワルン、狭いところに閉じ込めていてごめんよ。でもこれからはこの人が外の世界を見せてくれるからね。さあ、行っておいで」

 

「ぽわ……ぽわ!」

 

 手の平に置かれたボールとシロツメを交互に見ながら、やがて意を決したようにポワルンがボールに触れる。

 するとポワルンがボールに吸い込まれていき、()()()()()()その中に収まった。

 

「……君は僕の事を嫌いだったかもしれないけど、僕は君を大切に思っていたからね」

 

 呟き、祈るようにボールを抱え、シロツメがこちらに向き直った。

 

「さあ、受け取ってください。大事にしてあげてくださいね」

 

「はい」

 

 手の平の上のそれを受け取る。

 そこに感じる重みは、なんだかボールのものだけじゃないように思えた。

 

「それとこちらもどうぞ。お守り代わりとして僕が持っていましたが、元々はその子のものなので」

 

 更に渡されたのは、雫の形をした青い宝石が付いたネックレス──『しんぴのしずく』だった。

 ゲーム内においてもポワルンが野生で出現する作品なら100%の確率で持っているという、これもまたポワルンと関わりのある道具だ。

 

「僕から渡せるものはこれで全部です。すみません、大したお礼もできなくて」

 

「いえ、充分です。大切にします」

 

 元よりお礼を期待しての行動じゃないし、むしろ貰えるだけありがたいというものだ。大切に使わせてもらおう。

 

「それではその子をお願いします。せめて君たちの旅の無事を祈りますね」

 

「ありがとうございます。余裕ができたら時々様子を見せに来ますから」

 

 それでは、と立ち上がって研究所を出ようとして。

 

「──ああ、それと」

 

 その前に、これだけは言っておかないといけないと思った。

 

「さっきシロツメさんはポワルンが自分の事を嫌ってるって言ってましたけど、そんな事無いと思いますよ」

 

「え……?」

 

「ポワルンをここに連れてこようとした時、俺もボールに入れようとしたんですけど嫌がられたんです。最初は捕まるのが嫌だったのかと思ったんですけど、さっきのシロツメさんとポワルンを見て気付きました」

 

 原則として野生ポケモンを捕まえようとした場合、ボールは一度は必ず揺れる。しかしさっきポワルンがボールに入った時はただの一度も揺れなかった。

 それはつまり、既にポワルンはシロツメのポケモンであったという証拠であり、シロツメのボールには入っていたという事でもある。

 要するに、だ。

 

「多分こいつ、シロツメさん以外のボールに収まる気が無かったんじゃないですかね。単にボール嫌いってだけなら、この中にも入らなかっただろうから」

 

 仮に俺が無理やり捕まえようとしたところでボールは機能しなかったわけだが、おそらくこのポワルンはそれを理解していなかったのだと思う。

 だから俺のボールを拒否したし、シロツメが差し出した時には素直に従ったんじゃないだろうか。

 

「そう……か……」

 

 俺の言葉を聞いてシロツメが俯く。

 こんなもの、ただの予想でしかない。でもそれをただの妄想と断じるか、それとも信頼の証として受け入れるかはその人次第だ。

 やがてシロツメが顔を上げる。その顔はやはりおっとりとしたものではあるが、どこか晴れ晴れとしたものも感じさせるもので。

 

「──ありがとうございます。改めて、その子をよろしくお願いします」

 

「はい。任せてください」

 

 一礼して、研究所を出る。

 もう日も随分と傾いてきた。あと一時間もすれば辺りは真っ暗になるだろう。

 

「さ、行こうぜハルカ。急がないと日が暮れちまう」

 

「……そうだね。話は後ですればいいかな」

 

 ぽそりと呟かれたその言葉に何か不穏な気配を感じながら、俺たちは改めてヒワマキシティを目指して歩き始めた。




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E衣装いいですよね。リメイク版のE衣装も見たかった。
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