ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
カナズミシティはホウエン地方にて最大級の大都市である。
ホウエンにおける最大手の企業であるデボンコーポーレーションの本社があったり、他にもトレーナーの基本を学ぶトレーナーズスクールや、そのスクールに所属している人間がジムリーダーを務めるポケモンジムもあったりする。
ゲームだと特徴はこのくらいのものなんだけど、実際にこの目で見るとまあ広いしデカい。
大学とか工場とかホテルとか、ゲームじゃ必要無いから削られてた現実の建物がそれはもうそこかしこにある。
適当に歩き回ったら多分迷うだろう広さは正にコンクリートジャングル。移動一つでも苦労しそうだ。
「すっげー」
アホみたいな感想を漏らしながらビル群を見上げる。
アサギも結構な港街だったけど、流石にカナズミと比べると発展度合いが比べ物にならない。方向性が違うから比べるものではないけど、とにかく凄い。
ミシロ? 論外だよ。
森を出たら空が若干赤くなり始めてたのには焦ったけど、とにかく日が完全に落ちるまでに到着してよかった。
研究員さんも無事に送り届けたし、とりあえず今日の動きはここまでかな。
「あー疲れた。ずっと歩きっぱなしで足が痛い」
「ふふ、お疲れ様。ちょっとそこで休んでいこっか」
ハルカが指すのは自販機横に備え付けられたベンチだ。街に入ってすぐのところにこういうものを設置してくれているのは非常に有難い。
とりあえず何か飲み物が飲みたいし遠慮無く休ませてもらう事にする。
「おお、流石都市の自販機。色々あるな」
ゲームでは三種類しか無かった飲み物の他にも『モモンジュース』や『パイルジュース』等色々な種類があった。
「ハルカもなんか飲むか?」
もののついでなのでお礼も兼ねてハルカにも尋ねておく。
「ありがとう。じゃあ『モモンジュース』がいいな」
「あいよ。んじゃ俺は『サイコソーダ』にするか」
ボタンを押せばガコン! と子気味良い音を鳴らして飲み物が出てくる。自販機のこういう感じなんとなく好きなんだよな。
「ほい」
「ん、ありがと。お金は……」
「いいよこれくらい。奢られとけって」
「そう? じゃあお言葉に甘えて」
財布を出そうとするハルカを遮る。二百円そこらの品でどうこう言う程狭量ではないつもりだ。
ベンチに座り、ラムネ瓶の要領で蓋を開けて中身を飲む。疲れた身体に行き渡る炭酸がとても心地いい。
「あ〜生き返る〜」
「大袈裟だなぁ。まだまだ旅は始まったばかりなのに」
くすくすとハルカが笑う。
そうは言うけど疲れるものは仕方ない。まして俺は旅なんてこれが初めてだし、長距離を移動するならバスとか電車を使ってたようなモヤシっ子だ。それを思えば中々上出来だと言えるはず。
「始まったばかり、か。そうだよなぁ。一日目でこれなら俺どっかで挫折するかも」
「もう。そんな事言わないの」
少しむくれたような顔をするハルカに苦笑して。
「冗談だって。でもどっちにしても今日は終わりだ。夜も近いし今からジム行っても迷惑だろ」
ゲームじゃ時間なんざ関係無ぇと言わんばかりに深夜だろうが突撃しても許されるし、ジムリーダーも律儀に挑戦者を迎え撃っていたが現実ではそうもいくまい。
何より普通に俺の体力がもう無い。
「というわけで今日はセンターに泊まろうと思います」
ポケモンセンターはトレーナーであれば誰でも無料で利用出来る簡易宿泊所というのは先も言った通り。
何かとお金がチラつく序盤の旅路ならなるべく節約出来るところはしておきたいのだ。
もちろん出来る事なら今日の疲れを癒す為に浴槽に浸かって羽ならぬ足を伸ばしたいけど、まあ初心者トレーナーにそんな贅沢してる余裕は無い。
幸いシャワーくらいの設備はあるしそれで我慢しておく。
「別にハルカは俺に付き合わなくてもどっかのホテルとかに泊まってもいいぞ」
「え、やだ」
即答である。うん知ってた。
「この期に及んで逃げたりしないぞ?」
「その心配してないよ、大丈夫」
どうせ逃げても捕まえるし、とかボソッと聞こえた気がするのはきっと幻聴に違いない。
「ユウキくんと離れたくないんだもん」
「またお前は……」
溜め息を吐く。
まだハルカの
どちらにしても攻めすぎだし、あんまりそういうセリフを言われると心臓に悪いから自重していただきたいところではある。
「なあハルカ。お前は何の気無しに言ってるのかもしれないけど、健全な男子にそういう発言は効くからやめてくれ」
「……え〜? 効くって何が〜?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ハルカがニヤニヤと小悪魔的な笑みを浮かべる。またか。今日二回目だぞこの感じ。
「だから、その、離れたくないとか、身体を密着させるとか……」
取り繕う余裕も無く馬鹿正直に答える。それを聞いて更にハルカがニヤニヤと笑って。
「ふ〜ん? それって──」
あまりにも自然な動作で腕を伸ばして俺の頭を胸まで引き寄せ。
「──こんな感じ?」
そんな風に耳元で囁いた。
「おまっ……なっ……!?」
ドクンと心臓が跳ね上がる。
なんだよこれ十二歳のやるテクニックじゃねえだろ完全にそういう店のやり口じゃねえか!
うわしかもなんかいい匂いするし柔らかい! わざとか天然か知らんが破壊力が高すぎる!
「ひっ、人! 人が見てるから! ここ天下の往来!」
「あたしは気にしないよー」
「俺が気にするわ!」
道行く人がこちらを見てはギョッとしたり、何か微笑ましいものを見ているような顔をしたりする。
助けを求めたいがどうにも上手く声が出ない。
「ふふふ……さあ、ユウキくんは何がどんな風に効くのかな〜?」
こ、この女……! 全部わかった上で煽ってやがるな……!
こうなったら!
「だから……離れろっての!」
「えっ、きゃっ!?」
無理に引いても抜けられない気がしたので逆に頭を押し付けにいく。
結果、ハルカがベンチに倒れてその上に俺が覆い被さる形になった。
「あのなハルカ、こういうのは遊びでやる事じゃなくてだな……」
俺の反応が面白いんだろうけど、流石に今のはちょっとライン超えてると思う。心を許してるんだとしてもああいうのは良くない。
「そりゃ好かれてるのは嬉しいけど、もうちょっと行動は考えてほしいというか」
「………………」
「……あの、何か言ってくれませんかねハルカさん。なんで黙ってるんですか」
逆光のせいでハルカの顔が影に隠れていまいち表情がわかりにくい。今ハルカはどういう顔をしてるんだろうか。
「………………」
「おい、マジで何か言えって。この体勢色々とまずいのわかってる?」
なんで何も言わないんだ。慌てるなり拒絶するなりなんでもいいから反応があって然るべきだろうに。
心臓が早鐘のように鳴る。このままじゃ本当にまずい。主に俺の理性が。
「なあ、ハル──」
「ちょっと君たち?」
「ハァイ!?」
突然の声にビクーン! と跳ねながら音速でそちらに振り向く。そこには青い制服に身を包んだ男性が一人──すなわち警官がいた。
「こんな街中で何してるの。変な事しようとしてなかった?」
さあ状況を整理してみよう。
今は夕暮れ。俺とハルカは二人きり。ベンチにハルカが倒れてその上に俺が覆い被さるような体勢であり、更にハルカは無抵抗。
これを警官が見たらどう思うか。おそらくは襲っているように見えるだろう。そうじゃなくても盛りの現場でしかない。
「ななな何もしてないですよ!? ただじゃれあってただけです!」
慌ててハルカから離れながら無意味に手を動かして必死に弁明する。
他意は……無かったと言えば嘘になるかもしれないけど、とにかくこの場を乗り切らねば。旅の初日から警察のお世話とか冗談でも笑えない。
「じゃれあい、ね。それにしてはちょっと過激に見えたけど」
「そんな事無いっすよ! 田舎じゃこれくらいは普通っす! 挨拶みたいなもんですよ!!」
嘘は言っていない。事実博士はやや過剰気味なスキンシップでも何も言わなかった。
さっきの行動がセーフかは考えないようにする。
「そうなの? じゃあその子はお友だち?」
「そうです!」
「ふーん……。この子はそう言ってるけど本当かな?」
そうして警官がハルカに尋ねる。
頼むぞハルカ。ここで梯子外されたら一生恨むからな。
先程とはまるで違う意味で心臓がバクバクと跳ねる。警官の言葉にハルカが佇まいを直して。
「──はい、ユウキくんの言う通りですよ。ちょっと遊んでたらたまたまああなっちゃっただけで、別に変な事は何も無いですよ」
よっしゃあああああ!! 信じてたぜハルカ!
「なるほど……まあ君が言うなら信じようか」
「でもあんまり街中でそういう遊びをするのはやめた方がいいよ。僕みたいに勘違いする人がいるからね」
「肝に銘じておきます」
正直言われるまでもないけどわざわざ口に出す事でもあるまい。ここは素直に頷いておく。
「それに最近は変な輩も増えてるからね。君たちは旅の途中かい? 暗くなったらなるべく出歩かない方がいいよ」
「変な輩?」
警官の言葉に気になるワード。それってもしかして……。
「ああ、陸地や海を増やすだの言ってる連中がちょっとね。小競り合いに巻き込まれないよう君たちも気をつけなよ」
ビンゴ。やっぱりあの連中か。
「その人たちがこの街に?」
ハルカが会話に入ってくる。トウカの森の事もあって気になるのだろう。
「らしいね。今日もデボンの社員が襲われたようだし、今はパトロールを強化してるのさ」
「あー……」
襲われた社員ってのはやっぱりあのキノココの人かな。
まさかもう会社を襲撃したって事は無いと思うけど……確認してみるか。
「それ以外に何か事件ってありました? 例えば盗難事件とか」
「いいや、そういう話は聞いてないね。尤も、そういう事件を未然に防ぐ為に僕たちがいるんだけど」
なるほど、やっぱりまだ荷物は奪われてないか。ならデボン周りで張っておけば事件は起きないはず。
……だけど、ずっとそこにいるのも不自然だし退屈だよなぁ。今の俺じゃ絶対力不足だし、頼むならハルカだけど長時間同じ場所で張り込みさせるだけの理由が思いつかない。
言えばやってくれそうな気もするけど、それはなんかハルカを利用してるみたいで気が引ける。頼るのと利用するのとは違うのだ。
「まあとにかく気をつけなよ。暗くなってきたし早く宿なりセンターなりに戻りなさい。それじゃあね」
それだけ言って警官が去っていく。いい人なんだろうな、あの人。
「……あー焦ったー……」
警官に話しかけられたら無条件に焦ってしまうのって俺だけだろうか。今回のは心当たりがありすぎたから例外だけど。
「別に悪い事してないんだから堂々としてればいいのに」
「いやあの場面で堂々と出来る男が何人いると思ってんだお前」
いるとすれば感情が死んでるか鋼メンタルのどっちかだろ。もしくは常習犯だ。
「そう? まあいいや。それじゃあたしちょっとだけ別行動するね。そんなに時間はかからないと思うから待ってて」
「え?」
これは意外だ。まさかハルカの方から別行動を提案してくるとは。
何か買い物でも思い出したとかか?
「ご飯とかも待っててね、一緒に食べたいし。それじゃセンターで待ち合わせね!」
言うなりハルカが走り去っていく。というか飯もお預けか……結構腹減ってるんだけど……。
「……仕方ない。時間はかからないって言ってたし待つかぁ」
とりあえずこの時間を利用してフレンドリィショップとか寄っていこう。キズぐすりとかモンスターボールとかも欲しいし、カインも回復させなきゃだしな。
* * *
そしてセンターで待つ事三十分。ハルカが笑顔で戻ってきた。
「ただいま!」
「おかえり。何してたんだ?」
「宿取ってきた!」
「そうか……うん?」
俺はセンターに泊まると言っておいたはず。それとも自分が泊まる宿をわざわざ伝えに来たのだろうか。それならナビで言えばいいのに律儀だな。
「まあわかった。それじゃ今日はこれでお別れだな」
「え? なんで?」
キョトンと首を傾げるハルカ。いやそんな『何言ってるのこの人?』みたいな顔されても。
「なんでも何も俺はセンターに泊まるし……」
「だから宿取ってきたんだって。あたしとユウキくんの二人分!」
「……ええー……」
金銭的に余裕が無いからセンターを選んだというのに何をするんですかこの娘は。
「……俺金無いんだけど」
「あたしが払うよ?」
「流石に悪いわ。泊まるなら一人で泊まってくれ」
飯とかならまだしも宿は結構高い。それを払わせるのは単純にプライドが傷つくというか。いや別にそんなプライド持ってないけど気分の問題だ。
「えー、でももう二人分の料金払っちゃったしー」
「なんでそう思い切りがいいんだお前は。キャンセルすりゃいいだろ」
「キャンセルするのも宿の人に迷惑かかるんだよ? というわけでほら、ゴーゴー♪」
「俺の迷惑は!? 待てコラ離せ! カインまだ預けてるんだよ!」
ポケモンセンターでの回復は即時というわけではなく、傷の程度にもよるがそれなりに時間がかかる。
カインはさっき預けたばかりだしもう少し時間がかかるだろう。
「明日引き取りに来ればいいよ。あたしもちゃも預けてこよっと」
そんな俺の意見も意に介さず、ハルカがジョーイさんにボールを預ける。
そりゃお前は手持ちが他にもいるからいいだろうが俺はカイン一匹だけなんですが!?
「大丈夫だよ。街中でそうそう事件なんて起こらないし、もし何かあってもあたしが守ってあげるから」
「そういう問題じゃ……! わかった! わかったから引っ張るな! 自分で歩くから!」
こうして結局ハルカに振り回されるがままの一日になった。誠に遺憾である。
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