ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
適当な場所で食事を終えた後、ハルカに案内されたのはビジネスホテルだった。
ホテルとしては比較的安価ではあるものの俺の手持ちだとやはり痛い出費であったのには変わらず、結局ハルカが全額払う事となった。
ハルカは気にしないでいいと言っていたがいずれは返そうと思う。
子どもだけでホテルに泊まれるって前世だとあんまりない事なんだが、少年少女が旅をするこの世界だとわりと普通の事なんだよな。
それはともかく、俺もシャワーでなく湯に浸かれるのは望外の喜びだしそこに異論は無い。疲れを癒すには湯に浸かるのが一番だと母さんも言っていた。
だからそれはいい、のだが。
「なんで相部屋なんスかハルカさん」
「時間的に一部屋しか取れなかったんだよ。仕方ない仕方ない」
「仕方ないとか全然思ってないだろお前」
何食わぬ顔でハルカが言うが、おそらくこいつは部屋が空いてても一つしか取らなかっただろうと確信出来る。
「そんな事ないって。えへへ〜ユウキくんとお泊まり〜」
テーブルにだらっと身体を預けたハルカがにへらと笑う。何がそんなに楽しいのやら。
……まあ友だちとのお泊まり会が楽しいという気持ち自体はわからんでもない。俺も男友だちと遊ぶの楽しかったし。
ただ異性同士となると話は変わる。
そりゃ男としては嬉しいよ? でもハルカさんなんか得体の知れない怖さがあるんだもん。
一日過ごした感じだと急に刺してくる的なアレではなさそうだけど、だからといって無条件に心を許せるかといえば微妙なラインだ。悪い子じゃないのは確かだけども。
「ねーねー、お風呂沸くまでトランプしよ〜」
「二人でか? まあいいけど」
「わーい。じゃあスピードやろ〜」
ハルカがバッグの中からトランプを取り出す。
スピードといえばカードを赤と黒の二組に分けて、台札の数字と繋がるカードを出し続けて先に手持ちのカードを使い切った方の勝ちという知ってる人も多いだろうゲームだ。
カードゲームとしては少々珍しく屑運をプレイングで挽回出来る為、必要なのはその名の通りに反射神経とカードを出すスピードになる。ちなみに俺の強さは普通くらいだ。
カードを配り終えて準備が整う。
「じゃあ気楽にやるか」
「はーい」
伏せられたカードを表に返して。
「「『スピード』」」
* * *
「そういえばさ」
「ん?」
カードを出しながらハルカに質問を投げかける。
「トウカの森でバシャーモが二回連続で攻撃してたじゃん? あれってやっぱり裏特性か技能?」
「そうだよ。あの子は足技が得意だからね。使ったのは技能の方かな」
俺の質問にハルカが答え、やっぱりそうかと納得する。
裏特性と技能。どちらもゲームには存在していないシステムだが、この世界では明確に機能する技術の一つだ。
そして俺がこの世界で頂点を目指すのを諦めた原因でもある。
「“ひてんげり"って名付けたんだけどね。蹴り技を当てる度に威力が上がるようにさせたの。もう一回くらい派生出来るけどね」
出せる札が無くなったので山札から新しいカードを出して再開。
「つまり最大三回連続攻撃か。えげつないな」
バシャーモの動きを思い出しながら呟く。
技能とはつまり、ポケモンに覚えさせる技術である。
例えばハルカのバシャーモは技を繰り出す際に、単に技を使うのではなく身体を捻って蹴り技を行う事で遠心力を得て、二度目の攻撃へとスムーズに移行した。やろうと思えば更に回転力を上げて威力を増した三撃目を叩き込めるという事だろう。
直接技とは関係のない細かな動きを徹底して覚え込ませる事で、条件反射的にバトルで使える行動として昇華させたものをこの世界では『技能』と呼んでいる──らしい。
アニメだと回転回避とかカウンターシールドとか技食ってパワーアップとかあったじゃん? あれらが全部技能に当たる。
ちゃんと動きがあるからこそ成せる技だ。この時点でゲームとは比べものにならない自由度である。
というか実機で威力が上昇する“ブレイズキック"三連打とかぶっ壊れもいいところだ。あの悪名高いメガガルーラですら二発だったのに。
ちなみに『裏特性』はもう少しポケモンの本質に寄ったものになる。
技能が他のポケモンにもある程度流用が効く技術なのに対して、裏特性はその種固有のものになりやすく、代わりにそのポケモンが意識せずとも発動するようになる場合がほとんどなんだとか。
ゲーム的な用語で言えば技能が
まあ大まかにポケモンが元々持ってる特性や図鑑のフレーバーテキストを発展させたのが裏特性で、それ以外が技能と俺は覚えた。バシャーモで言うなら脚力や速度関連の裏特性が発現しやすいんじゃないかなーと思ったり。
ともあれ、そういうゲームには無いぶっ壊れた技を覚えさせる事ができるのだが、技能を習得させるにしてもまず発想力が重要なのだ。
どういう事をすれば望んだ効果を得られるのかを手探りで探し、実現の目処が立ったらそれを何度も何度も反復練習させる。それこそ何十回も、何百回も、何千回もだ。
そういう手間暇をかけても技能を習得出来るかどうかはぶっちゃけ運だ。
結局技を使うのはポケモンであり、コツを掴めるかどうかはポケモン次第。すんなり上手くいく事もあれば、全てが徒労に終わる可能性だってある。
経験値を得れば自動的に技を覚えるみたいな都合のいい世界じゃないのだ、ここは。
……というのがトレーナー教本で学んだこの世界の
さて、いわゆるジムリーダーを代表とした上位トレーナーたちはほぼ例外なくこれらの技術をポケモンに仕込んでいるわけだが。
これらに勝てます?
向こうは長年ポケモンバトルに携わってきた百戦錬磨のトレーナーで、俺なんか多少ゲーム知識があるだけの小僧だ。精神年齢二十歳超えてるけど。
俺は無理だと思った。経験も技術も足りないし、発想力に自信も無い。更にまだもう一つトレーナー側で使えるスキルが存在するときた。
何もかもが違いすぎる。ゲームの常識が通用しない。だから俺は頂点を諦めたのだ。
故にチャンピオンリーグまで到達したハルカの異常性が際立つんだけど、まあそれは置いておくとして。
「どこまでやれっかなぁ……」
誰にでもなく独りごちる。
目標ジムバッジ八つと掲げたものの正直自信は無い。
最低限の強さを得られればいいと思ってたけど、今日のアクア団を見る限りだとその最低限のラインも相応に高くなっていそうだ。
ゲームシナリオの事とはいえ未来を知っている身としては頭が痛い。
「大丈夫だよ」
ハルカが呟く。
「ユウキくんならきっとどこまでだって辿り着ける」
顔を上げればハルカが真っ直ぐにこちらを見ていた。
「もし躓いてもあたしが支えてあげる。だから大丈夫」
そう言ってハルカが笑う。
……なんでコイツはここまで俺を信用出来るのかね。他ならぬ俺自身が自分を信用出来ないってのに。
ただ、なんとなくなんとかなるような気がした。
根拠も何も無いけどハルカの言葉で少しだけ気が楽になる。
「……じゃあバトルの事教えてくれよ。頑張るからさ」
親父に教わらなかった分はハルカに教えてもらおう。
チャンピオンリーグにも出場したトレーナーだ。不足はない。
「任せて! あ、でも今教えられるような事は少ないからもうちょっとキモリが育ってからね」
「わかった。たまにバトルに付き合ってくれればそれでいい」
技能にせよ裏特性にせよ、基本的には身体が出来上がった最終進化を前提とした技術だ。今色々詰め込まれたところで大した意味は無い。
それよりは経験値的な意味でスパーリングの相手でもしてもらった方が身になるだろう。
一応技能の構想はある。習得出来るかはカイン次第だが、モノに出来ればこの世界に適応出来たという証左にもなるので是非頑張ってもらいたいところだ。
「まあまずはカナズミジムの突破からだな。それを越えなきゃ何も始まらないし」
「そうだね。でも最初のジムは基本的な事を抑えておけば問題ないから、それこそユウキくんなら大丈夫だと思うな」
基本的、というとタイプ相性の理解が出来ているかとか指示がちゃんと出せているか、という点だろう。
実のところ俺も一つ目のジムはさほど苦労しないと思っている。『くさ』タイプなら『いわ』タイプを使うカナズミジムには相性有利だし、カインも俺の指示を無視したりしない。初心者トレーナーとしてのラインはクリア出来ているはずだ。
……流石に“すいとる"連打とかしてたら咎められそうだけどな、色んな意味で。
というかそもそも“すいとる"とか“メガドレイン"に信用が置けない。あれキモリだと結局接近しないと技の効果範囲内に入らないから体感的には物理技と使い勝手が変わらん。エナボ欲しい。
「……なぁハルカ、“エナジーボール"の技マシン持ってたりしない?」
「え? 持ってるけど……ズルはよくないと思うなー」
「デスヨネー」
この時点でエナボとかズルどころか反則である。如何にジムリーダーでも対策してなきゃ何も出来ずに沈むんじゃないだろうか。……流石に甘いか。
まあこれはダメ元なので期待はしてない。とりあえずは“メガドレイン"で頑張るとする。それにこれは俺が強くなる為の旅だから楽しちゃダメだな、うん。
なぁに、キモリの『すばやさ』を活かせば組み付くチャンスはいくらでも作れようぞ。
「はい、俺の勝ち」
「ありゃ、負けちゃった」
ここで俺が手持ちカードを使い切ってゲーム終了。ついでにタイミングよく風呂も沸いたみたいだ。
何回かやったけど五分五分くらいだったな。マサラ人よろしく反射神経ずば抜けてたりするかと思ったけど、身体能力自体に大きな差は無いらしい。
それを知れただけでもわりと大きいかもな。これで素の能力から違いますとかだといよいよキツい。
「さて、と。風呂も沸いたし終わりにするか。どっちが先に入る?」
「ユウキくん最後に勝ったし先に入ってていいよ。あたしも準備あるし」
「そうか。なら先に入らせてもらおうかな」
女の子だし先の方がいいかと思ってたけど、譲ってくれるならと着替えを持って脱衣所に移動する。
今日は歩きっぱなしで流石に疲れた。町三つ分の距離を歩きで踏破したんだもんな。
それを考えるとランニングシューズは素晴らしい。トレーナーに寄り添うデボン製なだけあって長旅に耐えうる強度と軽さを兼ね備えている。デボン万歳。社長に会えたらお礼を言っておこう。
脱いだ服を洗濯籠に放り込み、いざ風呂場へ突撃。
中はホテルらしく綺麗に掃除されている事以外は至って普通の浴室だ。特別それに思う事も無いので風呂椅子に座り、シャワーを浴びて備え付けのシャンプーで髪を洗う──その最中の事だった。
ガラッと音がする。反射的に手が止まった。
──頼むから冗談であってくれ。もしくは忘れ物を届けに来たとか。
今朝方中指を突き立てたばかりの神様に全力で祈る。
いやいやまさか。いくらなんでもそれはないだろう。それではガードが緩いどころかノーガードではないか。
カイリキーですらパンツがあるというのに。いやまああれ模様らしいけど。
「あ、ユウキくんお待たせー」
「なあ記憶違いか? 俺が先でいいって言ったよな?」
「え? うん、言ったよ?」
どうやら俺が幻聴を聞いたわけではないらしい。
「じゃあ俺何か忘れ物でもしてたか? それなら受け取るけど」
「何か忘れたの? なら取ってくるけど」
これも違うらしい。おかしいな、風呂場にいるのに汗が流れていくのを感じる。
「……俺今目を瞑ってるからわからないけどさ。まさか裸じゃないよな?」
「まさかぁ〜。いくらなんでもそこまでしないよ〜」
なるほど、流石にそこまで突き抜けたアホではなかったようだ。
じゃあなんでここにいるんだコイツ。
「──流石にまだ恥ずかしいからタオルは巻いてるよー」
「よしお前絶対そこ動くなよ俺が髪洗い終わるまで待ってろいいか絶対に動くなよ」
「? 早口で何言ってるかよくわからなかったけど」
速攻で髪を洗って出口に向かう。
一瞬ハルカのバスタオル姿が目に入ったが努めて目に入れないようにする。何考えてんだコイツマジで。
「あれ、もう出るの? 身体は洗った?」
「うるせえ手を離せなんでここにいるんだお前!?」
確かに洗えてないけど今お前が気にするべきはそこじゃねえ!
「俺が先でよかったんだよな!? いいって言ったよな!?」
「うん、だからあたしは後で行くから先に入っててって……」
「アレそういう意味!? 順番だと思うだろ普通!? つーか安易に男に肌を見せるんじゃねえ!」
博士ですらストップかけるだろコレ!? あなたの情操教育が杜撰だから娘さんこんな事になってますけど!?
「ユウキくんは気にしすぎだよ〜」
「気にするに決まってんだろお前マジで自重しろ! せめて水着とかだろ!」
「え、水着がいいの? なら次からは着てくるね!」
「次とかねぇから! あとその言い方だとなんか変な誤解してる感じになるからやめろ!」
裸より着衣がいい的な……いやハルカがそこまで考えてるとは言わないけど、万が一そう思われてたら猛烈に嫌だ!
「つーかいい加減離せ! これ以上こんなところにいられるか! 俺は部屋に戻るぞ!」
ハルカの方を見ないようにしながら掴まれた手を振り払う。
そして手先にふにゅっ、と何か柔らかい感触。直後にハルカの短い悲鳴。
今自分が何に触れたのか直感的に理解しフリーズして。
「…………えっち」
「──あああああああああああ!!」
その後の記憶はあまり無い。
とりあえずホテルを出て走った。とにかく走った。
身体中から湧き上がるパトスを発散する方法がそれしか思いつかなかったのだ。
走りまくる事数十分、それで何とか頭は冷えてくれた。汗も相応にかいたけどどうせ入り直すつもりだったからそれはいい。
当然入り直した時は浴室に鍵をかけた。背中流すよーとか聞こえたけど全部ガン無視した。今後風呂に入る時はこれを忘れないでいようと思う。
評価や感想、批評や誤字脱字報告等お待ちしておりマース。
ここすき機能なんかもご利用くださいませ。
あとなんかルーキー日間2位とかいう自分史上最高の位置にランクインしてた。有難いことです。
ここから下は本編とは関係あるようで全く無い雑談。裏事情も挟むので本編だけを読みたい人はバック推奨。
これで余韻壊れましたとか言われても知らない。
という訳でオリジナル要素の『技能』と『裏特性』の説明回。
まあこれ某作品の奴を自分なりに再アレンジしたものだから三次創作とも言えるかもしれない(ちなみにその人は設定自由に使っていいって言ってるからね)。だからまんまオリジナルとは言わないし言えないという裏事情。
微妙に設定変えてるけど、まあ詳しくはそのうちやる特訓回みたいなので解説すると思います。多分。