ポケモン世界に転生したからゲーム知識で無双しようと思ったのに全然役に立たない上になんかヒロインがおかしいんですが? 作:名無しのナナシ
カナズミジム内にて人心地つき、カインにキズぐすりを使いながら先程のバトルをツツジやハルカと共に振り返る。
「改めましてお見事でしたわ。少し厳しくし過ぎたかもしれませんが、これに勝てるのならバッジを受け取る資格は十二分にあると言えます」
「どうも。というか厳しくしてた自覚あったんだな」
カナズミジムのバッジ──ストーンバッジと
「そ、それは……ハルカさんがいいって言うから……」
「ジムリーダーなら自分の基準を優先してほしかった」
どうしてそこでハルカの意見が通るのか。
「だってわたくしよりハルカさんの方が強いですし、何か考えがあるのかと思って……」
「だそうだがハルカ、何を企んでた」
「やだなー、人を悪者みたいに。それくらいなら突破出来るかなーって思っただけだよ。正直一回で勝つとは思ってなかったけどねー」
そんな事を悪びれる様子もなく言い放つハルカ。
話聞いてる感じだと明らかにバッジ無し相手の想定から逸脱しまくってる気がするんだが。
「……実際、多少強いと判断したらこれくらいやるものなのか?」
「いえ、今回は本当に特例ですわ。少なくとも『指令』は普通使いませんし」
「ああ、やっぱりなんかやってたのか……」
多分あの岩で囲まれたやつだろうなぁと思い返す。
指令というのはポケモンではなくトレーナー側で発動する技術の事だ。やってる事は単なる指示でしかないが、極まったそれはポケモンの能力を限界以上に引き出せる。
めちゃくちゃ簡単な例を出すと一撃技必中とかそういうのが出来るようになるかな。要はポケモンの技や動きの補佐等をリアルタイムで行う技術で、通常より大きな効果を付与するのが指令と呼ばれている。
例えばそれは技威力を増大させたり、相手の耐性を貫通したりと効果は様々。今回の例で言えば
もちろん指示すりゃ何でも出来るとかそんな舐めた代物ではないので原理はあるんだけど、とりあえず今は置いておくとして。
これを使ってくるのなんて早くてもバッジ三つ目とかからだろうし、こんな序盤で使っていい代物ではないはずだ。
というか使われたら普通は負ける。対抗策無いもん。
「一応かなり抑えて使ったんですけどね。と言いますか──」
こちらを向いてツツジ。
「
何より、と続ける。
「
ツツジが言いにくそうに口籠もり、少し間を置いて申しわけなさそうに再び口を開いて。
「──
本当に貴方はバトルの経験が無いのですか、と。
「……間違いなく初心者だよ、俺は。アサギにいた頃は浅瀬にいたクラブでバトルの真似事やってたけど本当にそれくらいだ。そりゃここに来るまでに何人かとバトルはしたけど、なんていうか、本気の本気でバトルしたのは今回が初めてだ」
嘘は言ってない。
俺のバトル経験なんてホウエンに来てからの数える程しかない。
ジム前までに戦ったトレーナーはジグザグマとかケムッソとか、決して強くはないポケモン相手ばかりだったし、アクア団との戦いに至ってハルカに全部任せただけ。
俺のトレーナーとしての現状を表すなら、必要な事はある程度出来ているという評価だろう。これは謙遜でも悲観でもなく純然たる事実だ。
一つ他の初心者トレーナーと違うのは、現段階ならまだゲームの知識が通用するから焦らず行動出来たという点だ。
けどこんな事をバカ正直に伝えたところで今度は別の意味で疑いがかかってしまうだろう。言わぬが花という言葉もある。
実際ゲームに無かった
「むぅ……確かに嘘は言ってなさそうですが……」
明らかに納得がいってない様子のツツジだが、まさか真相を告げるわけにもいかないのでそのままモヤモヤしていてもらうとする。
ぶっちゃけ今回勝てたのだってカインが進化したおかげだ。あれで完全に流れを取れた。
気合いとかテンションとかがそのままポケモンの力に直結しやすいこの世界において、バトル中の進化なんてほぼ勝ち確イベントである。
……あとあれで仮説が立ったけど、どうやらレベルが足りてても一定以上の激闘を経験しないと進化しないっぽい。
別に今までの相手が弱かったとか言うつもりは無いけど、今回に比べるとどうしてもランクは下がるからやっぱりそこら辺が関わってる気がする。
「まあ何にせよお疲れカイン。よく頑張ってくれたな」
「ジュッ」
精悍な顔つきになったカインがニッと笑う。うわめっちゃイケメン。惚れそう。
あんなに小さかったキモリが今や俺の背丈に迫るくらいになってしまったし、ジュカインに進化したら越えられるんだろうなぁ。
今のうちに頭を撫でくりまわしてやろう。
「……にしても、ハルカさんの言う通り正直勝つとは思いませんでしたわ。一度くらい敗北を経験しておいた方がいいかと思ったのですが」
「俺普通にこの人に負けっぱなしなんですが」
とりあえず傷の処置が終わったカインと戯れているハルカを指差す。あらゆる意味でコイツに勝った事ねぇぞ。
「いえ、そうではなく……なんと言いますか、同格相手の敗北というか……メンタルの立て直し方を覚えてほしかったと言いますか。お話した通りユウキさんは既にトレーナーとして必要なものはある程度備えていますので、負けた後の行動を見たかったのです」
「あー……まあ言いたい事はわかる」
実際負けかけた時結構メンタルきてたからな……立て直しには時間がかかる方かもしれない。注意しておこう。
「それでまあ、負けた後に言うのも何ですが、もしわたくしが勝った場合でもバッジは渡すつもりでした」
「え? そうなの?」
「はい。正直に申し上げれば最初のイシツブテをほぼノーダメージで倒した時点でバッジ取得の条件は満たせています。後のバトルはエキシビションみたいなものですわね」
「なんだそれ……」
だったらあんなに苦労しなくてもよかったじゃん……と考えて、それもそうかと思い直す。
どう考えたってバッジゼロに持ってくる戦力じゃなかったし、そもそもジム戦は勝ち負けじゃなくて過程を見るテストだ。
それで言うならツツジが言う通り、イシツブテを倒した時点でバッジ一つ分の実力はあると判断されたという事だろう。
……まあ、でも。
「それで渡すって言われても断ってた可能性あるな……」
「でしょうね。実際負けてもバッジを受け取る人はそう多くありませんわ」
プライド……という程でもないけど、どうせなら勝って気持ちよく貰いたいという心理が働くのは大抵のトレーナーが当てはまるようだ。
「とにかくお疲れ様でした。それで、もしよろしければ電話番号の交換をしませんか?」
「んあ? いいけど……これも勝った時のご褒美的な?」
「いえ、これは将来有望そうなトレーナーに渡しているだけですわ。そんなに軽い女じゃありません事よ?」
悪戯っぽく笑みを浮かべるツツジ。これを断れる男はいないだろう。
「そりゃ失礼した。それじゃ交換させてもらおうかな」
マルチナビを取り出して電話番号を交換する。
いやだってツツジさんも可愛いもん。可愛い女の子と連絡取れるなら交換するじゃん。向こうはそういう気でやってるわけじゃないのは理解してるけどさ。
「……ユウキくん、なんか変な事考えてない?」
「いや?」
ジト目でハルカが見てきた。鋭いなコイツ。
「……はい、ありがとうございます。次の行き先は決めてますの?」
「いや、特に決めてない。オススメとかある?」
「え? うーん……」
ゲームなら次はムロタウンだけどあそこめっちゃ遠いしなぁ……。かといって今はまだカナシダトンネルも開通してなかったはずだし、歩きで行くには色々と街が遠い。
ぶっちゃけどこ選んでも一緒な気がする。
「ハルカさんに運んでもらうのはありですか?」
「あ、ごめん、それはナシ。せっかくの旅だし自分で歩いた方がいいもん」
と、質問に答えたのはハルカ。まあそうだろうとは思ってた。“そらをとぶ"使えたら移動も楽なんだけどなぁ……。
「うーん、それでしたら行けるところは限られてきますわね……。一番近いのはトウカシティですが」
「そこは酷く身勝手な理由でジム戦断られた」
「……予想がつきますわ」
どうやらあの性格は周知の事実らしい。
おいクソ親父、こんな少女にまでアンタの悪癖が知れ渡ってるのを恥ずかしいとは思わないのか。
「なら船に乗るのが一番ですかしら。カナズミシティからも定期便は出ていますから、そちらに乗るのがいいかと」
「あー、ならそうしようかなぁ」
ゲームでならこの後ハギ老人の船でムロタウンに行ったりするが、冷静に考えて移動手段があれだけのはずがない。
海に面している街なら大抵船着場があるので、それを利用して海を渡るのが鉄板なのだ。もちろんお金はかかるけど。
ルネ? 一応飛行便あるよ。じゃなきゃトレーナー以外は誰も出れない事になるし。
ただトレーナーなら空飛んで行くし、一般人はそもそもルネに行く用事がほぼ無い。
従ってルネ行きの飛行便というのはそれほど多くないのだ。逆はそこそこあるけど。リーグは一体何を考えてあそこを公認ジムにしたんだろうな。
「便が出ているのはムロとカイナ、ちょっと遠いですけどトクサネやミナモもありますわね。個人的にはムロタウンをオススメしますが」
「へえ、そりゃどうして?」
「石の洞窟ですわ!」
「うわビックリした!」
ツツジが急にテンションを上げてずいと迫ってきた。なになに!?
「石の洞窟には古代ポケモンの壁画がありますの! それに地下深くには珍しい石もあると聞きますわ! もしかしたら化石も眠っているかもしれません! ああ、なんてロマン……! わたくしもジムリーダーの仕事が無ければすぐにでも行きますのに……!」
などとうっとりとした表情で語るツツジが正気を取り戻したのが十数秒後。
「……ハッ!? す、すみません! つい……!」
「お、おう、大丈夫だ。好きなものがあるのはいい事だよな」
なんてフォローを入れてみるがそれがトドメになったらしい。
よほど恥ずかしかったのかツツジが顔を押さえて俯いてしまった。隠しきれない顔の部分や耳が真っ赤になっているのが見える。
そういやツツジって石とか化石好きなんだっけ。文字通り泣くくらいに。
ダイゴさんとめちゃくちゃ気が合うだろうな。石友なんだっけ?
「と、とにかく! 次のジムはムロに行くのをオススメします!」
まだ顔の火照りが治まらないままツツジがヤケクソ気味に告げる。別にそんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うけどな。世の中にはチャンピオンなのに鼻で笑われるようなファッションセンスしてる人間だっているんだぞ。
まあそれはともかく、確実にムロに行けるなら俺もそうしたい。実はそこに俺の捕まえたいポケモンもいるし。あと船旅が地味に楽しみなのもある。
「それじゃあムロタウン目指すか。その前に空飛べるポケモンを何か捕まえたいんだけど」
確かスバメが近くにいたはず。
食費や自分の育成能力を考えてスルーしてたけど、ジムの賞金でそこそこお金も増えたし今なら一匹か二匹くらい増えても何とかなる気がする。
「ユウキくん、何か捕まえたいポケモンでもいるの?」
「ん? ああ、スバメでも捕まえようかなって。本当はチルットが欲しいけどこの辺にはいないしな」
ハルカの質問に答える。
伝説相手にどこまで通用するかは不明だけどグラカイを考えるなら『ノーてんき』要因が欲しいのだ。それと“そらをとぶ"要員も兼ねられるチルットは非常に都合がいい。ムロジムにも有利取れるし。
あとそういう事情抜きにしてもあのクッソもふもふな翼に包まれたい。
「チルットいいよなぁ……もふもふで……」
確か生息地はフエンタウン周辺だったか。ここから行くには少し……いやかなり遠いから今は諦めるしかないけど。
「あ、チルットならあたし用意出来るかも。確かボックスにタマゴが──」
「マジでッ!?」
「わっ!?」
ハルカの言葉に瞬速で飛びつく。聞き間違いじゃないよな!?
「チルットくれんの!? だったら俺何でもするぞ!」
「えっ、あっ、あのっ、あたしチルタリス持ってるからっ! その子のタマゴが確かボックスにあったはずでっ! だっ、だから持ってくるねっ!」
「おー! 待ってるぞー!」
言うが早いか、ハルカはすぐにジムを出て行った。
いやー楽しみだなぁ! ゲームだとハルカってチルタリスなんか持ってなかった気がするけどどうでもいいや! もふもふ! もふもふ!
「……今の行動に自覚はおありで?」
「? 何が?」
何故かツツジが冷ややかな目でこちらを見てくる。
何か不味い事したっけ……ああ、交換かな?
確かに現在手持ちがカインしかいない状態でこの提案を呑むというのは、ハルカにカインを渡すという事に他ならない。
相棒を軽率に交換に出す行為はジムリーダーとして看過出来ないのだろう。俺としてもカインを交換に出すのは避けたい。
「流石にカインを交換に出すのはちょっと……かといってその為だけにポケモンを捕まえるのもかわいそうだし……」
「いえ、そういう事では……ああ、もういいです」
なんか呆れられてしまった。どうしよう、何かがすっぽり抜け落ちている気がする。
まあいいか! チルットヒャッホー! 旅に出る前から絶対に捕まえると心に決めてたぜ!
と、この時はテンションが振り切れるくらい歓喜に満ちていたのだが、よくよく考えればハルカの手を取って鼻息荒くパーソナルスペースに踏み込んでいたので、ハルカやツツジの反応もさもありなんという事に気付いたのが夜になり風呂に入っている時だった。湯に沈んで叫び散らかしたのは言うまでもない。
ちなみにタマゴは交換じゃなくて普通に貰った。よく考えたらゲームでもタマゴイベントは交換じゃなくて手持ちにそのまま加入してたっけ。
それと盗難事件はまだ起こっていないらしい。おそらくパーツ開発に時間がかかっているのだろう。この情報は知れてよかったと思う。
とりあえずタマゴが孵るまでをタイムリミットとして、それとなくツツジに『最近この辺治安悪いらしいから何かあったらよろしく』と伝えておき、何も起こらなければそのままムロに向かおうと考えて寝る事にしたのだった。
評価や感想お待ちしておりマース。
ここすき機能なんかも使ってみてくださいませ。好きが共有されてるのが分かるから見ると結構面白い(作者は)。
ハルカちゃんの手持ち二匹目が判明。オオスバメ? 野生に返ったけど元気にしてるよ。たまにミシロに遊びに来てる。
あとアンケート回答ありがとうございました。今後の糧にしていきます。
ここから先は技解説含めた裏事情なので見たくない人はバック推奨。
というわけで三つ目のスキルの『指令』解禁。
元ネタの方では名前違うけど『裏特性』『技能』と来て一つだけ横文字ってのもなぁって思ったから無い知恵絞って出したのがこの言葉です。それだけ。
要するにトレーナー側のスキルで『〇〇しろ』って指示でしかないけど、これが実際に現象を伴うと『指令』になる。
フレーバー気味ではあるけどちょいちょいやってる技名言わずに技を指示してるのも『指令』の一部。アクア団の下っ端ですらやってましたね。
ちなみにこれは表記する予定無いのでスキル名は考えてないです。好きに呼んでいいよ。
まあ
まあこんな事知らなくても雰囲気で読んでくれればいいです。所詮は設定ですし。
とりあえずデータ置いときます。
『指令』
『ロックロック』
『いわ』技を使用した時、次のターン終了時まで相手の交代を封じる。次に使う『いわ』技の威力が1.5倍になり必ず当たる。
相手が逃げられないように技を配置して閉じ込めつつ、次の攻撃で周りの岩を巻き込んで威力を増幅するイメージ。
作中でも言ってる通りこれはだいぶ手加減してます。本来はもっと効果盛ってます。逆に言えば手加減して尚とおせんぼう+拘り補正+ロックオンが乗る。紛うことなきクソです。
ぶっちゃけこの程度なら技能として習得させられるけどまだノズパスだからトレーナーの補助がいるので指令。そして進化したらもっと強力な指示出せるのでやっぱり指令。