【白銀武】
本当に一週間で換装とは。
流石は先生と言ったところだなあ。
強化装備に着替え終わり部屋を出ていく。
目の前にある見慣れたシミュレーター。
いつものだ‥なんだろうな。
この安心感。
「白銀、こっちはOkよぉ〜。ちゃっちゃと済ませましょう」
俺を確認するなり直ぐ様手をひらひらさせ、先生の横にいる純夏と一緒に笑顔で知らせてくる。
「はい」
‥‥‥なんだ?笑顔?
理由を聞いてみたいが今は今、取り敢えずシミュレーターに乗り込む。
「‥たけるちゃん準備大丈夫?」
「ん、ああ。所で純夏」
「なぁに?」
「さっきなんであんな笑顔だったんだ?」
「………」
「なあ?純夏?」
「それでは新型OS開発第二段階を始めます」
「おいいい!!純夏ぁあ!!」
【香月夕呼】
「CPよりX01,唇を慎め」
「唇を慎むってなんだよ!!ああ!もう分かったよ!やってやらぁ!」
楽しそうねえ‥どうせ大隊規模のBETA群でも余裕でしょうし。
遊ばせて貰おうかしら?
って元から遊ぶつもりだったんだけどね!
端末をアダプタ経由で管制機器に取り付け起動する。
今はデータ収集に適した小物から順の小出しだけれど、これを…ふふふふふ。
【白銀武】
「なんだ?意外と普通…」
そう言ってるのも束の間、マップが荒野…BETAにやられた後の大地だ。
「CPよりa1!二個中隊規模の敵が来ます!」
「なに?」
直ぐ様マップを確認する。
「要塞級が殆どだよたけるちゃん!!」
「そりゃあ見たら分かる!」
60mもの巨体が地平線の向こう側から大量にやってくる‥奴らの足下には光線級もちらほら。
「…面白いじゃねえか夕呼先生、CP!」
「はっはい!」
「弾薬が不足したら直ぐ様補給場所を伝えてくれ!頼むぞ!」
「うん!」
【香月夕呼】
遊びで要塞級を大量に詰め込んで2分。
撃震であそこまでやり合うとはねぇ。
モニターに映るのは要塞級により幾つもの山が積まれ、その麓で下半身だけ残し肉片と化している光線級。
要塞級の中から湧いて出たBETAには光線級が混じっている。にも関わらず奴らを陽動し撤退しながら追いかけっこのような形で高高度から確実に処分する。
それらを行っているのは奴らの返り血で真っ赤に塗装されたF-4J撃震。
まだまだ行けそうねえ。
「鑑!ちょっと変わってもらえる?」
「え?あっはい!…どうぞ!」
「白銀」
「…夕呼先生。これなんですか?」
「まあいいから!」
「良くないですよ!嫌な予感はしてましたけど」
「なら良いじゃない、事前に準備できただけマシよ」
「なんですか!?その考えは!俺を殺す気ですか!?」
「あら?駄目?」
柔らかい声で応えると鑑が横で喚き出す。
「だめです!だめ!だめだめだめぇ!!」
「ほら!純夏も」
「でも瀕死ぐらいは良いかな?」
「ばかぁぁああ!!」
「バカって言う方がバカなんだもん!」
「白銀が疲れてたらもう止めようかと思ったけれど…元気そうね」
「っ!?…先生!俺めっちゃ疲れてきたなぁ!」
「そ」
そう言うと私は端末に触れポチポチと設定しだす。
突撃級2個師団規模、要撃級1個連隊規模、要塞級1連隊規模、光線級1個師団規模。
戦場、荒野。
「…夕呼先生」
「なぁに?」
「なんか地響きが凄いんですけど、これとやりあえと?」
「ごめいとーう」
「…どうせXM3に関係あるんでしょうからやりますが俺の身体は無視ですか?」
「なに気にしてほしいの?」
「そりゃあちょっとは」
「なら大丈夫よ、私はちゃんとあんたの体心配してるもの。」
「道具としてですか?」
「……」
「否定してくださいよ!!」
「ほれほれぇ〜早く対処しなくて良いのぉ〜?」
「くっ!」
同日 帝国技術廠
【巌谷榮二】
「…新OSに着手か」
「どうされました?」
「いやいや、白陵基地から届いてね」
「?…何か我々に関わることでも?」
「ああ、戦術機に向けた新型OSを研究及び開発するとな」
「……可能なんですかそれ。というか開発する意味が分かりませんが」
「ははっ私もだよ。さっぱり検討つかん」
「…誰ですか?そんな事を始めたのは」
「近頃、白陵基地が国連との共同施設になったことは知ってるかね?」
「ああ結構反発があったやつですよね」
「そこにまだ二十にも成らないお若い女性、博士がトップとして立ったのだが…」
「凄いですねその方は、まさか?」
「ああ、その人からだよ」
「大丈夫なんですか?」
「心配は要らないだろう、別に錯乱してる訳では無いだろうしな。それに」
「?」
「些か気になる、その新型OSとやらがな」
「戦術機という兵器、初期こそ操作は困難でありましたが死んで行った衛士達が長年に渡って積み上げ改良してきたものです。それを簡単に変えるなど…」
「それが普通だろうな、正直私でもこの計画は失敗するのが目に見えている部分がある」
「でしたらそのような部門に手を付けさせず、貴重な予算を他へ回すべきです」
「……そうだな」
これが今の日本の短所と言うべき所だ。
確実に直ぐ貢献する目先の物事にしか目が行かず、明日への投資を行わない。
政治家の言葉を借りるとすれば、誠に遺憾とやらだ。
私の中ですら失敗する事しか予測できないが‥微かな希望を根源に期待している。
【香月夕呼】
まさに化物、今じゃ周囲の国々からしたらBETAなんかよりアンタの方がよっぽど驚異よ。
興味本位で投入したBETA群、確かにアイツはオリジナルハイヴを落とした。
けれどそれは他のA-01の隊員が居て、凄ノ王の力があってこその勝利だった。
彼自身もそう語っている。
…F-4で1万のBETAを駆逐。
前の世界で激的に代わった彼の心意気と技術、それに私にも複数個存在する知らない世界の記憶の極一部。
元の世界の記憶と桜花の世界、それ以外にもいくつも存在する。
AL5遂行と共に御剣を宇宙へ送り出し彼が生きた世界の記憶。
元の再構成された世界へ帰らなかった彼を月へ駆り出し、社と結婚させた世界の記憶。
彼と一緒に社すら戦死して私と速瀬、涼宮妹だけが生き残り彼女らにA-01を存続させた世界の記憶。
柏木と帝国軍へ移籍、黒の斯衛として二人揃って日本国民の英雄として讃えられ、生涯を共にした世界の記憶。
他にもまあ色々とね。
アイツが幾つの世界をループして今現在どれほどの記憶を保有しているかも分からない。
私ですらこれだけあるんだからアイツ本人に聞こうもんなら色々と思い出して頭がぶっ壊れるでしょうね。
全部の記憶が無くともそれら全ての世界で戦った身体は染み付き化け物じみた力を持った。
ほーんとアイツ何歳よ。
本人が自覚してる年齢で言えば確かに私と対して変わらないけれどとんでもない爺さんよ。
アイツと鑑の現状、ちゃんと確認しないとね。
【白銀武】
地獄のシミュレーターが終わり、しばらく休んでいると先生から部屋に来るように言われる。
どうやら聞きたいことがあるらしい。
まあそうだよな、今後の方針を決めていくにしろそろそろ情報を集めなきゃならいからな。
「確かに…あるにはありますよ」
「へえ、どんなの?」
「すっごい断片的で極々一部だけですよ。夕呼先生の顔を見て夕呼先生関連の記憶は少しずつ出てきましたが」
「ふーん。配慮かなんかかしらねぇ、前回と違って大分お優しい世界みたいねここは」
「優しい…ですか?」
「そ、今までの世界じゃ戦死していた兵士達が結構生き延びちゃってんのよ」
「…」
「なんか心当たりは?」
「多分ですが全員‥見覚えがあります」
「へぇ‥でも明らかに一部は産まれた年代すら違うわよ。特にこのドイツ軍とか。思い出せる?」
「…無理ですね。本当に奥底に記憶がある気がするんですけど」
「そ、鑑!こっちに来なさい」
「あんたは何かしら能力があるような感覚ある?」
「いいえ‥今の私にはないです」
「そうよねぇ。面白いことになってきたわ、白銀!一応聞いとくけど」
「…」
「私や鑑にあんたはどんな感情を抱いてる?」
「護りたい…それじゃ単純ですかね」
「それでいいのよ、で!あんたが恋愛原子核なのは定説だけどこのリスト。鑑がイラつく部分がない?」
「可愛い女の子が多い!」
「純夏、真面目に答え「その通り」へ?」
「え、合ってたの!?やった!タケルちゃん!1点とったよ!」
「そんな期末テストの赤点回避みたいに‥」
「このリストは圧倒的なまでに女性が多い、あんたは恋愛原子核、記憶は無くともそれについての感情はある。そして鑑には何も力がない‥愛は世界を超える!それほどの力を持った鑑はホントは死んでも前回で満足したんでしょ?」
「うっ‥」
「白銀に幸せになって欲しいとか、皆を助けたいとか確かにあったかもしれないけどね。それじゃ説明しきれないぐらい世界が変わってる」
「そんなに‥ですか?」
「ええ、こんなに死亡した人間が生きてるんだもの異常よ?ヨーロッパから中東、アジアからオセアニア、それにアフリカ大陸とアメリカ大陸の人間までね」
「あんたはちゃんと人類の英雄になったのよ」
「へっ?」
「なぁによ素っ頓狂な声出して、折角カッコよく決めてやったってのに」
「い、いえ。夕呼先生からまたそう言うことを言われるとは思ってなくて」
「はぁ?私だってあんたの事誇りに思ってるんだから当たり前じゃない。まあ良いわ.説明するから聞きなさいよ?鑑、そこに飴あるから舐めてなさい」
「先に伝えとくけど、私はあんたの前回。前々回、元の世界の記憶を持ってる。でもそれだけじゃないの」
「…」
「私にも断片的だけどね、あるのよ。十個とはいかないけど確率時空の記憶がね。その中に1つあるの、私の幼少期に白銀武が介入してきた事が」
「幼少期?‥」
「失礼な事考えてないで聞いて、あっ鑑それ一つ頂戴」
「そうよ幼少期、詳しくは分からないのが勿論だけど何故かあんたが幼少期の私と一緒に暮らしてる。謎よねぇ」
「武ちゃん!?同棲!?」
「バカ!べっ!別世界の話だ!」
「いったぁ!!!」
「分かったのは、あんたは10月スタートの世界だけじゃない。もっと昔のこの世界でも戦ったことがある」
「昔…」
「理由はあんたを地球が欲しがったから」
「はい?」
「先生こわれた」
「人類が欲しがったってのは確実。あんたが元の世界に帰ったあとに人類のトップに立った社が後世で本を出版してねぇ、あんたの事が描かれた英雄伝。かなりの大ヒットでその中には私やマリモに伊隅達、鑑のことも書かれてたわ」
「わっ私!?」
「そーそー間接的に一番の恋敵って描かれ方してね」
「こっこいがた!」
「それでみんな夢見たのよ、本当にそんな人が居たなら良かった。居たならもう一度舞い戻ってきて欲しい。そんな感情が高ぶってね。私は年だったからその後は分からないけど直前に社は何か装置を作ってた」
「装置?」
「死ぬ数ヶ月前にね問われたの。転移装置について」
「多分あんたを呼び戻したかったのね。それがどれだけ重い罪でどれだけ冒涜的でどれだけ残酷な事なのかを理解した上で」
「霞…」
「結果を見るに成功、涼宮達に記憶の流入が大量発生。そこで起こったのが必然であり奇跡であった行為。人類全体が白銀武を認知。
それが鑑ご自慢の愛の力と同レベルどころか遥か上を行き、並列していた別世界に影響が出た。
あらゆる確率時空が三度の世界を渡った白銀武という英雄が存在するという固定概念に囚われ数多の白銀武は一方でヨーロッパ、また一方アメリカ、更にまた一方でアフリカと世界線毎に戦った」
「… 」
「そこで関わった人達、女達はあんたを愛した。だけどあんたは英雄として死んでいくし再構成された世界へ戻って消えていく。それに心の底から悲しんだ確率時空にいるあんたの現地妻達は鑑と同じく白銀武を求め続け、彼女達の記憶とあんたに助けられた人達の記憶を再構成して作られた」
「‥」
「現地妻‥」
「なに?それ以外に適切な言葉でもあるの?…白銀は全てのBETA世界の人類に求められてんのよ」
「なんだか‥実感が湧きません。でもなんだか分かります。記憶の奥底にあるこの感覚、彼女達を護りたい、愛したい、人類を救いたい、導きたい。地球の緑を取り戻したい。俺にはそれがある気がするんです。俺でも驚くくらいこれ以上ないくらいの理想を俺が求めてるんです」
「そうでしょうね‥でも良いのか悪いのか分からないけどそれを実現できるのはこの世界で最後よ。周りの女達が幸せになって、人類が英雄が作った世界を感じるそれが大体の目的。それを達成したらあんたはBETA世界から開放される」
「俺に出来るんですかね」
「なによ、あんだけ散々青臭い理想論をぶつけてきたのに今さらひよってんの?…この地球が言ってんのよバカみたいな夢を成し遂げろって。良かったわねぇ」
「タケルちゃん…泣いてる」
「…良いじゃない。あんたは記憶なくともそれだけ頑張ったんだから最後のステージくらい泣いても。それも別世界の白銀武達が泣いてるんでしょうけど」
「夕呼先生、宜しくお願いします」
「なぁによ改まって」
「いえ‥言いたかっただけです」
「そ」
「でも悲しいわねぇ鑑」
「わっ私ですか?」
「この世界じゃあんたが白銀の1番になれるとは限らないわよ。そこらへんの大学より倍率高いからねぇ」
「うぐあ!!」
「ふふふ」