ガイドラインに抵触しないような安全な作品であることを心がけていきますので何卒よろしくお願いします。
「キミ!オレのところで強くなりたくないか!?」
「あなたには才能がある!私ならそれを開花させてあげられるわ!」
あるチームへの加入を賭けた模擬レースの直後、例の如く担当バを求めるトレーナー達の必死の勧誘が始まる。
チームに加入することの叶わなかったウマ娘を引き抜くためだ。
惜しくも一着は逃したものの、好成績を残したウマ娘はすぐに大勢に囲まれてしまっている。
「トレーナーさん、よろしいのですか?好成績の方々はもう囲まれてしまいましたけれど」
そう声をかけてきた隣に佇むウマ娘はメジロマックイーン。
俺が最初に担当したウマ娘で、一心同体として強い信頼関係にある。
さらに、初めてURAファイナルズを目指したパートナーでもある。
「ああ、問題ないさ。ライス、気になる娘はいたか?」
マックイーンの質問に答えつつ、俺を挟んで彼女の反対側に立っているウマ娘、ライスシャワーに声をかける。
彼女は俺がマックイーンの少し後に担当し始めたウマ娘で、ある理由から俺のことを「お兄さま」と呼ぶ。実際にその仕草から妹──それどころかもはや小さい子供のようですらあるが──のように接してしまうが、事案ではない。決して。
弱気で控えめなように見えるが、レースに向ける情熱は他のウマ娘にも劣らない。
マックイーンも当然だが、彼女に関しても語り始めるとキリがない。
「えっとね、あの子かな」
ライスが指差す方を確認し、笑みを向けながら彼女の頭を撫でる。
少し恥ずかしそうに笑う彼女はやはり可愛い。
もう一度言う。事案ではない。
「ああ、そうだな。俺もあの子が気になってたんだ」
「どの方ですの?」
「ほら、あそこの」
マックイーンが俺の人差し指の先からその指す方へと視線を動かしていく。
その先にいたのは、先ほどの模擬レース終了後にゴールのすぐそばで悔しそうに脚を抑えて座り込んでいた濃い茶髪のボブカットにワンポイントで黄色のメッシュが入れられているウマ娘であった。
聞くところによると、彼女は今年この「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」通称トレセン学園に編入されたという。
「あの方、ですか?」
「ああ」
マックイーンが驚くのも当然のことだ。
なぜならそのウマ娘は、コーナーで転倒し最下位で模擬レースを終えたウマ娘であったからだ。
しかも、彼女はここ最近のレースの全てで転倒している。
しかし、実績は関係ない。その彼女が立ち上がった時の強い意志を込めた目に、そしてゴール後も悔しがりながらも諦めるような素振りを一切見せないその姿勢がとても眩しくて、どうしようもなく惹かれてしまったのだ。
「なるほど。あなたはそういう方でしたね」
「お兄さまは優しいから、そう言うと思ったんだ」
優しいなんて、それは過大評価だ。
ただ、俺が見てみたくなっただけだ。
いつもコーナーから先をそのまま走り抜くことができない彼女が、先頭でゴールを駆け抜けるのを。
「それじゃあ行ってくるよ。先に戻っててもいいぞ」
「いえ、ここで待っていますわ。私も挨拶したいですし」
「ライスも待ってるよ」
二人の声に軽く返事をし、その場を離れると、『あの人は次はだれをスカウトするのか』そんなような声がどこからか聞こえてくる。
G1ウマ娘を複数鍛えた俺が誰をスカウトするのかで盛り上がっている声だ。
『G1ウマ娘のトレーナー』、それはある意味ネームバリューなのだろうが、俺はあくまで彼女らの手助けをしただけだ。そのような称号を得ていることに抵抗すら感じてしまう。
まあそれを担当のあるウマ娘に話したら「弱気なことを言うな」と蹴られてしまったのだが。
その時の彼女のことを思い出しつつ、俺は目標へ向けて歩いていく。
件の彼女は、ゴールをひと睨みした後、グラウンドを出ていこうとしているところだった。
「悔しくないか」
大きく深呼吸を繰り返した後、彼女の背中に向けて声をかける。
わざと煽るような言葉で。
その耳は反応しなかったが、彼女はピタリと足を止めた。
「逆に聞くけど、こんな負け方して悔しくないとでも思う?」
「悔しいだろうな。俺ならレースなんてやめてしまうだろう」
「さっきからなにが言いたいの?お前には才能が無いからレースは諦めろって?」
振り向いた彼女の表情は険しかった。
俺の言い方のせいだろう。当然だ。
「さっき誰かが言ってたけど、あんたって有名なトレーナーなんでしょ?それこそあんたの勧誘を他の人が気にするくらい」
「あ、ああ。そうらしいな」
「超有名トレーナーともあろう御方はなかなか趣味が悪いようですね」
「なっ、違う違う!そういうことが言いたいんじゃないんだ」
予想外に皮肉じみた言い方をする彼女に対して慌てて弁解しようとする。
「普通の人間なら諦めてもおかしくない状況だって言ったんだ」
「だからなに?いい加減に——」
「でも、君はまだあきらめてなんかいない。そうだろう?」
「っ…当たり前でしょ。G1で勝てるまで諦めるわけない」
怪訝そうな目を向ける彼女と目を合わせ、大きく息を吸う。
「君は強い。
どうだ、俺と一緒に目指してみないか。URAファイナルズの頂点を」
「…は?」
彼女は先ほどまでの表情とは一変し、拍子抜けしたような顔を向けてくる。
それも一瞬のことで、すぐに表情を引き締める。
「アンタがあたしを強くしてくれるってこと?」
「ああ。そのために最大限のサポートをしよう。
それに、君はもう十分に強いさ」
「アンタがあたしをG1ウマ娘にしてくれる?」
「それは君次第だ。だけど、そのための協力は惜しまない」
ここまで言って、初めて彼女の顔に笑みが浮かぶ。
笑みと言っても、あきれたような微笑だったが。
「ふふっ、なにそれ。サポートサポートってそればっかりじゃん」
「し、しかたないだろ。トレーナーにはそれくらいしかできないんだから」
「本当に無責任な人」
「うっ…」
そう言われて思い浮かぶのは、先ほどはっきりと聞こえた二人のトレーナーの勧誘だった。
彼らの言葉に込められているのは圧倒的なまでの自信であり、それは
勧誘の際はいつも自信が相手にも伝わるようにしてきた。ウマ娘たちが自分自身のことをまかせるのに、控えめな人間では心もとないだろうという考えからだ。
今回もそうするようにした。だから「勝ちたい」という発言を誘導するような言動も取った。
だけど、どうしても「絶対に勝てる」という言葉は言えなかった。
次に聞こえたのは「はぁ」とため息をつく声。
これはまずいかと思いつつ彼女の言葉を待つ。
いまや有名トレーナーと言われるようにまでなった──自分では納得いかない点も多くあるとはいえ──が、この瞬間は何度やっても慣れない。
「分かった。その誘い、乗るよ」
「本当か!」
「だからちゃんと勝たせてよね。
あたしはハリボテエレジー。よろしく、
「ああ!」
差し出された手を握り返す。
今まで誰も見たことのないこの子の勝利が、俺を変えてくれるのかもしれないという密かな期待を抱きながら。
というわけで、何やら事情を抱えていそうなウマ娘(?)とこれまた何やら事情を抱えたトレーナーがURAファイナルズを目指すお話です。
前書きにも書いた通り、とにかく年中に投稿を開始したい一心で仕上げたのでかなり短くなっていますが、とりあえずプロローグとして書きたいことは書けたのでこれでよしとします。
ちなみにですが、ハリボテエレジーのビジュアルはバンドリの美竹蘭の色違いって感じです。