ダウンタウン熱血テニス物語   作:愉快な笛吹きさん

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いつもの予選(VSトビオカ)

「これより各校交流テニス大会を始める! 各人とも全力を尽くし、共に熱き青春の汗を流したまえ! ちなみに今回も優秀な成績を納めたものには豪華な賞品を用意してあるから優勝目指して頑張るといい。以上だ!」

 

 藤堂グループが用意したビッグでグレートなグラウンドの中央で、藤堂の父である晃之介の威厳ある声が響き渡る。藤堂グループが主体となって始まった異例のテニス大会は、まずは大きな拍手をもって迎えいれられた。

 晃之介の退出を待ったタイミングで、スピーカーからチャイムが流れ出す。

 

「それでは今から30分後に予選会を行います。選手の皆さんは全員建物の中に集まって下さい」

 

 声の主は格闘大会の時と同じ、花園高校の西野玉絵のものだった。おそらくはまたアルバイトに勤しんでいるのだろう。

 ぞろぞろと建物に歩きはじめる一同。歩を進めるくにおの後ろから、応援に来た姿たちが声をかける。

 

「お疲れ様です。くにお先輩のペア……まだ来てないみたいですね」

 

「まあ細かい集合場所まで決めてなかったしな。そのうち出くわすだろ」

 

「それで、結局誰なんすか? くにおさんの相方って」

 

「あれ? まだ言ってなかったか?」

 

「はい。というか聞く暇がなかったっす。この一週間あちこち声を掛けまくってたもので」

 

「で、その結果収穫ゼロか……その、なんだ。元気だせよお前ら」

 

 まるでお通夜のような雰囲気を見せる後輩たちに、流石のくにおも言葉が出ない。意気込みこそあったものの、結局出場資格を満たせた者はくにお以外に一人もいなかった。

 

(姿なんかは上手くやれば参加できただろうにな)

 

 桃園の顔を浮かべながら、くにお。今回も彼女は他の高校の女子と一緒に応援ガールを担当する予定だが、彼女が姿のことを好きなのは明らかだ。よって彼の対応次第では参加もできたのだろうが……当の姿が全く彼女の気持ちに気付いていない。

 ままならねえもんだな、と独り呟く。

 と――

 

「いたいた。やっと見つけたわ」

 

 前方から聞き慣れた声。ようやくか、と首を向けたくにおが、長谷部の姿を見て思わずぽかんとする。

 いつもの見慣れた長い髪は後ろに束ねられ、服装はお馴染みの制服や体操服ではなく上品なワンピースタイプのテニスウェアを身に着けている。まるでお嬢様学校から飛び出してきたかのような雰囲気だった。

 

「何で口開けてるんだか……もしかしてこのテニスウェア似合ってなかった? 五条院さんが女子用にわざわざ揃えてくれた物だから仕方なく着てみたんだけど」

 

「い、いや……そんなことないぜ」

 

 むしろ五条院に感謝したいくらいだった。言葉を上擦らせるくにおに彼女が疑問符を浮かべる。

 

「く……くにおさん!? 誰っすかこの人。めちゃくちゃ美人じゃないっすか」

 

「しかも上品そう……もしかして百合ヶ丘女子の人だったり?」

 

 いやそれは無い、と心で断言するくにお。儚げな校名とは違ってあそこの女子は野獣のようにアグレッシブだ。以前助っ人に出向いたホッケー部の練習試合では多くのメンバーが血祭りにあげられている。

 それはさておき。

 

「ったく何言ってんだお前ら? もう一度見てみろって。お前らもよく知ってる顔だぞ」

 

 にやにやとしながら告げたくにおに、え? と驚いた面々が再び彼女を見る。

 

「も……もしかして長谷部さんですか? 冷峰の」

 

「そうだけど……」

 

「ええ〜〜〜!!」

 

 更に驚きの声を上げる後輩たち。以前目にした姿とはあまりの違いっぷりに、女子にあまり免疫の無い一条などは完全に心奪われている模様だった。姿や七瀬ですらも、ちらちらと彼女を気にしている。

 

「見世物じゃないんだけど……もう帰っていいかしら?」

 

「悪い悪い。みんな長谷部に見惚れてたんだよ。あ、もちろん俺はお前の実力を見込んだうえで誘ったからな」

 

「それはそれで面白くないわね」

 

「どうしろってんだよ……」

 

 一向に不機嫌を治さない長谷部に、くにおはお手上げだとばかりに肩をすくめた。とはいえそんなやり取りをしていてもぴったり並んで歩いていく光景に、後ろで見ていた後輩たちは次々とため息をこぼす。

 

「いいよなあくにおさん……俺も彼女欲しくなっちゃったよ」

 

「俺もっす……彼女がゲットできる本、立ち読みしないでちゃんと買おうかな」

 

「俺もだ……あーできれば身近に素敵な出会いが転がってるといいんだけど」

 

「お前は黙ってろ」

 

「なんで!?」

 

 桃園の顔を思い浮かべながら怒りを顕わにする七瀬に、姿はわけもわからず声を上げるのだった。

 

 

 建物の入口では藤堂グループのスタッフたちが出場選手の確認作業を行っていた。くにおたちも列に並び、ほどなくして順番が来る。

 

「お待たせしました。名前と在籍している高校をお聞かせください」

 

「熱血高校のくにおだ」

 

「冷峰学園の長谷部です」

 

「くにおさまと長谷部さまですね……はい、確認できました。ではこちらのラケットをお持ち下さい」

 

「お、助かるぜ。肝心の道具が無いから困ってたんだ」

 

 受け取ったラケットの感触を確かめながら、くにお。スタッフの男性がメガネをくいと持ち上げて告げる。

 

「藤堂グループの仕事にぬかりはありませんので。とはいえ今回のルールではボールを打ち返しさえすればいいのであまり必要ないかもしれませんね。実際、中には木刀を持ち込む方もいたようで」

 

「五代か……」

 

 くにおがぽつりと口にする。そんな突飛なことをするのはあいつくらいのものだろう。五代奨。谷花高校の番長でキレると手がつけられない危険な男だ。

 だがそれよりも――

 

「あいつとペアを組める女がいたのか」

 

「確かに……」

 

 こくりと長谷部も頷く。運動会などを通じて五代の性格は一般生徒にすら広く知れ渡っている。それでなお彼と組もうというのだから、相当に度胸が据わった娘なのだろう。

 

「……まあ、こっちも負けてねえけどな」

 

「何が?」

 

 にやりと笑みを浮かべるくにお。例えどれほど豪傑な女子が現れようが、隣にいる彼女ほどではないだろう。

 きょとんとしている長谷部に告げる。

 

「お前と組めて良かったって話だ」

 

「そ、そう……」

 

 と言って顔を背ける長谷部。言葉とは裏腹に嬉しさを隠しきれない様子で頬を染めるその光景に、後ろで見ていた後輩たちは次々とため息を(ry

 

 ――閑話休題

 

 

 

「それじゃ俺たちは応援席に移動します。くにお先輩も長谷部先輩も、優勝目指して頑張って下さい!」

 

「おう!」

 

「ええ!」

 

 姿たちと別れたくにおたちが、いよいよ建物の中へと足を踏み入れた。防音が施された観音扉を開くと学校の体育館の数倍はありそうなホールが現れる。

 

「中は結構広いんだな。……てかあれはなんだ?」

 

「テニスのネットみたいね」

 

 長谷部が言う通り、ホールの中央にテニスのネットが張られていた。ただしホールの端から端まで間仕切りのように伸びており、時折高圧電流らしきものが流れている。そのため選手たちはみんなネットの手前側に追いやられていた。

 早くもきな臭さを感じとったそのとき、無人だったネットの向こう側の床に穴が開き、何かがせり上がってくる。

 

「オ待たせしました。コレより予選会を始めマース」

 

 奇妙なイントネーションの日本語と共に現れたのは、米国を代表するロボット開発企業の御曹司、マイケル・トビオカだった。

 本来ならくにおたちとは縁の無い人物のはずなのだが、以前行われた運動会や格闘大会では藤堂の誘いで自社の人型ロボットをくにおたちにぶつけ、繰り返し敗れている。

 今回もまたそのリベンジかとくにおたちが身構えると、彼は「ノーノー」と掌を突きだした。

 

「安心して下サイ。今回はいつものロボットではありませン。代わりに今日はコレを皆サンの前にお届けしマス」

 

 そう宣言したトビオカがぱちんと指を鳴らした。直後、彼の背後からまるで多連装ロケット砲のような形をした物体が姿を見せる。

 

「我社ガ開発した広範囲球出しマシーン、TE-37564デス。コレがボールを発射するので、上手く打ち返してワタシの後ろにある的に当てて下サイ。制限時間は今から20分デス」

 

「20分? やけに長いな」

 

「絶対何かあるわね」

 

 ひそひそと声を交わすくにおたち。運動自慢たちが集う大会にしてはやけに簡単過ぎる内容だ。

 とりあえず様子を見守ろうと結論づけたところで、最初の一球が発射された。緩い山なりのボールにテニス経験者と思わしき一人の生徒が飛び出し、慣れた様子でボールの落下地点に入る。以前長谷部に声をかけていたあの男子生徒だ。

 

(ふふ……こんな低速のボールなんてノーバウンドで的に当てられちゃうよ。見ていてくれ長谷部さん)

 

 ペアと思わしき女性徒の声援も耳に入らない様子で素早くラケットをセットする。そのままドライブボレーを華麗に決めようとスイングしたものの、盛大に空を切った。

 

「な、何?」

 

 完璧なタイミングだったはず、と男子生徒、不思議なことにボールは空中で停止していた――いや、よく見れば少しずつ回転を加えながらに徐々に前に進んでいる。まるでF1のロケットスタートのように。

 と――

 

「ぐはっ!!」

 

 突如、猛烈な勢いで加速したボールが空振って体勢を崩していた男子生徒の顔面にヒットした。相当な威力なのだろう。勢いよく吹っ飛ばされると体育館の床に激突し、なおもごろごろと転がっていく。

 ペアの女子性徒が悲鳴を上げて駆け寄っていくなか、トビオカが何かに気付いたかのようにぽん、と手を叩いた。

 

「ソウソウ言い忘れてました。この球出しマシーンは最新のテクノロジーによって色んな必殺ショットが出せるようになってマス。設定はランダムにしておいたので各自打ちやすい球を自由に選んで下サーイ」

 

(やっぱりな)

 

 もはやお約束といってもいい展開に、くにおが息を吐いた。どうも今回は連中の手口を知らない者もそれなりにいるらしい。「ふざけるな」と叫びながら進み出たどこぞの男子生徒が、またもや無慈悲に吹っ飛ばされる。

 

「……どうする? 助けにいくか?」

 

 と、長谷部に伺うくにお。参加した以上は多少の怪我も仕方ないとは思うものの、自分以上に正義感の強い彼女の性格を考えれば救出に出向いてもおかしくはない。

 少しだけ思案した彼女だったが、意外にも首を横に振る。

 

「ううん、止めておく。アレを見たら……ね」

 

「アレ?」

 

 長谷部の指差した方向を見れば、最初に吹っ飛んだ男子生徒がペアの娘に膝枕で介抱されていた。互いに顔を見つめ合い、満更でもない雰囲気だ。

 

「……確かに、助ける必要はなさそうだな」

 

 心なしかげんなりしたくにおだったが、他人に気を割く必要が無くなったのも確かだ。

 よし、と気合いを入れると長谷部と頷きあい、駆けていく。

 

「おらこっちだ! デカブツ野郎!」

 

「む、アレはくにおと、例のパワフルガールデスね。ヤッてしまいなさい!」

 

 物騒な言葉をトビオカが放つや、Tなんとかの砲門が一斉に開いてボールが四方八方に飛び出していく。いよいよ本番開始らしい。

 こちらに飛んで来た5つものボールの軌道をくにおは慎重に見極める。案の定、一球は真上に跳ね上がり、一球はあらぬ方向に飛んでいく。ドッジボールの時に苦しめられた弾道だった。

 

「俺は正面の3つをやる! 長谷部はもず落としとぶうめらんを担当してくれ!」

 

「わかったわ!」

 

 返事と共に長谷部が後ろを向き、背中合わせになる。中学以来となるコンビネーションは未だ健在のようだ。

 タイミングを図りつつ、見様見真似でテイクバックを始める。と、先頭を進むボールが突如3つに分裂した。ドッジ部の親友の顔を思い浮かべたくにおは迷わず中央のボールをミートする。

 間髪入れずに次のボール。まるで何かの魔法のように収縮を繰り返すさまに、くにおがざわりと総毛立つ。ミスれば最後、激痛を伴いながらの世界一周が彼を待っている。

 ここは確実に返すことを重視したくにおはスライスショットを選択した。慎重に面を合わせてボールの勢いを殺す。

 

「ラストだ!」

 

 自らを鼓舞し、最後の球へと向かう。どうやら一斉発射はそれなりに負荷が掛かるらしい。次弾がまだ来ていないこの瞬間がチャンスだった。

 長谷部をちらり伺うと、どうやら上手くぶうめらんシュート、もといショットを片付けたようだ。残るもず落としショットに対抗すべく、空高く飛び上がった。それを見届けて自身もラケットを振りかぶる。

 一見何の変哲もない球が、不意にその姿を消した。アイスランドの代表、へいるまんが得意とするわーぷしゅーとの類だろう。ドッジボールで対峙した初見こそ驚かされたものの、ネタがわかっていればそう怖くはない。トビオカと、その背後にある的をイメージしながらジャンプしたくにおは目の前の空間を全力でしばき抜く。片手フォアハンドでのジャックナイフ。名付けてエアK(KUNIO)だ。

 

「やはり一斉発射は連発デキナイのが今後の改良点デスね……ぶはっ!?」

 

 くにおの放ったボールはお馴染みのナッツ状に変形すると、一直線にトビオカの顔面に突き刺さった。錐揉みしながら吹き飛んでいく御曹司の姿に彼がガッツポーズをとる。

 

「くうッ……流石はくにおデスね。ですがまだ的には当たっテいませンじょもおッ!?」

 

「それは私の役目だから」

 

 起き上がり際に再度ボールを食らって吹き飛ぶトビオカに、華麗に着地を決めた長谷部が笑みを浮かべる。ふんわりと舞い上がったボールは、そのまま狙い違わず的の中心をタッチした。

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