じんせいみてい!   作:湯切

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第二十二話 終わらせるために

 シスイの死が与えた影響は大きく、うちは一族は一年以上クーデターの決行を遅らせることとなった。

 

 ところが、近頃また動きが活発になってきている。

 父さん達が新たな計画の骨組みを完成させ、一族に再起を促しているせいだった。

 ――その中には、当然スバル兄さんもいる。

 

「ダンゾウ様から話は聞いている。うちはイタチだな」

 

 オレがいるのは、ダンゾウに一時的に提供された根の屋敷の一室。ここでうちは一族に関する資料を整理することになっていた。

 

 共に資料を捌いていた猿面の男が、部屋にやってきた人物に勢いよく顔を上げた。

 

「モズさん!」

「ゴズ、進捗はどうだ」

「順調に進んでいますよ」

 

 モズと呼ばれた男はオレの目の前まで来て、同じように床に直に座った。

 オレと猿面の男が整理していた資料に手を伸ばして内容を確認している。ダンゾウが言っていた補充要員は彼なのだと分かった。

 

「大名の護衛任務以来か」

「……そうですね」

 

 モズが資料から目を離さずに淡々と口にする。

 

「アイツはいない」

「…………」

 

 アイツというのは白猫のお面を被った少年のこと。無意識のうちにあの少年の姿を探していた自分に驚いた。

 思考をすぐに読まれてしまうのは修行不足の証。オレは気を引き締めて手元の資料に集中した。

 

「モズさんに雑務が割り当てられるなんて珍しいですね」

「この件は最優先事項だからな」

「ヤシロの出した修正案によると、漸くシスイに頼らず火影を拉致する目処がついたようです」

 

 この修正案を根に持ち帰ったのは、ゴズという猿面の男だった。オレは彼の素顔を幼い頃から何度も目にしたことがある。

 うちはカゲン。警務部隊の事務処理や後方支援を行う部署に配属されており、うちはの会合に毎回参加しているものの目立った発言をしているところは見たことがない。

 

 その正体が誰にも気づかれぬうちに入れ替わった根の忍だと知ったのは、暗部の分隊長となり、ダンゾウから部下として彼らを与えられた時だった。

 ゴズには双子の弟がいて、二人揃ってうちはカゲンの顔に作り替えている。

 背格好もチャクラの質も同じ二人が交互にうちはカゲンとしての役目を果たし、根にうちは一族の情報に流していたのだ。

 

 木ノ葉において根の目が届かない場所などないのかもしれない。木ノ葉という大木を目に見えぬ地下から支える、闇を生きる忍たち。

 オレにその資質があると言ったダンゾウの言葉を思い出す。

 

 根はシスイの仇だ。しかし、オレには親友と共に追いかけた夢がある。戦争のない世界のため、木ノ葉隠れの里の未来のために、復讐心に取り憑かれている場合ではない。

 三代目が動かない以上、ダンゾウに従うしかなかった。

 

「本当にうちはフガクが次の火影に就任できると思ってるんですかね」

 

 ゴズが読んでいた資料を「処分」と書かれた箱に振り分けながら言う。

 

 火影……それは、オレが己の夢への足がかりとして目指した道でもあった。

 

 うちは一族初の火影となって、この世のありとあらゆる争いを失くす。

 今でも平和への情景は絶えることなく胸の中にある。夢を夢で終わらせるつもりはなかった。例え、火影となる道が既に潰えていたとしても。

 

「さあな。オレたちが考える必要はない」

 

 モズがぶっきらぼうに答える。

 白猫の少年と会話している時の彼はもう少し感情のこもった話し方をしていた気がする。

 

 仕分けしなければならない資料も残り少なくなってきた頃、遠くから騒々しい足音が聞こえてきた。その音は部屋の前で立ち止まり、断りもなく障子が開かれる。

 

「分隊長!!」

 

 隊長と呼ばれるのは未だに慣れない。ゴズと同じ猿面をつけた男が障子の向こうに立っていた。どこから走ってきたのか、肩で息をしている。

 ゴズの双子の弟であるメズだ。

 

「メズ……? お前、なんでここに! 監視はどうした」

 

 ゴズがこの場にいるということは、メズはうちはカゲンとして集落に存在していなければならない。

 兄であるゴズの責めるような目に怯むことなく、メズがオレに向かって叫んだ。

 

「たった今、通達があったんだよ! 監視どころじゃねぇんだ!」

 

 ゴズより随分と荒々しい口調だった。

 話を続けようとしていたメズの動きが急に止まる。

 彼の肩には、いつの間にか第三者の手が置かれていた。

 

『……メズ。やけに急いでいたようだが、その前に俺の用事を済ませていいか?』

 

 メズの背後から姿を現したのは白猫の面をつけた少年だった。

 

「く、クロさん……気配を消して後ろに立たないでくださいよ」

『ああ、悪い』

 

 少年は怯えているメズの言葉を軽く流して、メズの肩越しに部屋の中に目を向ける――真っ先に手前に座っていたオレと目が合った。

 

『…………』

「…………?」

 

 すぐに逸らされるだろうと思って、オレの方は少年を見上げたままだったが、いつまで経っても視線が外れない。ずっと見られている。気のせいでなければ瞬きすらしていない。

 少年の瞳は乾燥のせいで徐々に充血していた。素直に感情を表現するなら……怖い。

 なぜ、そんなにも必死にオレを見つめる……?

 

「お前な…………」

 

 オレの隣に座っていたモズが、呆れたような声と共に立ち上がる。

 

「オレを呼びにきたんだろ。さっさと行くぞ」

『……モズ隊長、これは、』

「喋るな」

『…………』

 

 借りてきた猫のように大人しくなった少年の首根っこを掴んだモズ。

 

「後は頼む。オレはこいつと別の任務だ」

「は、はい!」

 

 ゴズが慌てて立ち上がって、二人の姿が完全に見えなくなるまでメズと一緒に見送っていた。

 

「随分とあの二人に配慮しているんだな」

 

 ゴズとメズがオレの言葉に振り返る。その目は今まで見た中で一番生き生きとしていた。

 

「当たり前です。とくにモズさんは根の忍で知らない人はいないですよ」

 

 ゴズの言葉にメズが勢いよく頷く。人徳のある人物のようだ。

 

「あの猫のお面の少年はいつから根に?」

「…………分隊長とはいえ、外部の人間に根の構成員のことは話してはならない決まりですから」

 

 やはりこれ以上は踏み込めないか。ゴズの反応は予想できていたから落胆はない。

 

「ところで、メズ。ここまで走ってくるほどの用はなんだったんだ」

「あ…………」

「…………」

 

 不覚にも完全に忘れていた。

 

 

 

 メズが持ってきた情報は、次の会合でクーデターの決行日と配属が皆に伝達されるというものだ。

 オレには知らされていない。ヤシロ達との件があってから会合には一度も参加していないし、父さんやスバル兄さんと碌に会話も出来ていないことを考えれば当然のことだった。

 

 あれから兄さんはますます家に寄り付かなくなり、別の場所で寝泊まりすることも増えた。

 父さんがたまに帰ってきた兄さんを捕まえて詳細を聞き出そうとしていたが、あの“笑顔”と共にのらりくらりとかわされてしまっている。

 完全にお手上げらしかった。

 

 今日は、一族にとって重要な会合のあった翌日。

 火影屋敷にある優先度の高い報告や話し合いを行う際に使用される査問室。

 

 オレの前には長机を挟んで四人の木ノ葉上層部が椅子に腰掛け、それぞれ温度の違う視線を投げかけている。

 

 ゴズやメズと共に調べ上げてきたうちは一族に関する報告をする為に設けられた場だった。

 最後に行われた会合の内容は、参加したメズのおかげで全て把握している。

 クーデター決行は十日後に迫っていた。

 

「うちはフガクの火影襲名……集落の解体……九尾事件での我らの温情を忘れたか!」

 

 報告を受けて真っ先に感情を露わにしたのは、うたたねコハルだ。

 

「これ以上うちは一族の蛮行を見過ごすわけにはいかぬ。今すぐにでも逆賊として処断すべきだ!」

「待てコハル! 決行まで十日ある、まだ出来ることがあるはずじゃ……」

 

 たった十日間で何ができるというのか? シスイの命を犠牲にして一年以上もクーデターを引き延ばしたというのに、三代目は今日までこれといった動きは見せていない。少なくともオレの前では。

 シスイの死を無駄にしない為、何よりも里の平和のために動いていたのはオレと根の忍、そして皮肉にも根のトップであるダンゾウのみだった。

 

「ヒルゼン……イタチやワシの暗部が持ち帰った情報によると、()()うちはスバルも一族側につくのだろう? あの男は実に優秀だ……悠長にしていれば本当に寝首を掻かれることになるやもしれぬぞ」

「……スバルがうちは側につくこと自体、ワシはまだ受け入れられていないのだ」

「しかしそれが現実だ。あの男が根に所属していた頃、常に里を想い里の為に働く優秀な忍だった。あやつが変わったのは火影直属の暗部なんぞに入ったせいではないのか?」

 

 額に手を当てた三代目の顔には疲労が滲んでいる。

 

「まずはうちはスバルと話をしなくては」

「あの男はこれまで巧妙に本心を隠し、里を裏切ってうちは一族に情報を流し続けていたスパイだ。イタチ達が集めた情報を我々が知っていることをスバルに知らせれば、すぐに一族に伝わる。そうなればクーデター決行がさらに早まるだけだろう」

「だが、うちははかつての戦友……力ではなく言葉で話しかけたい」

 

 せめて、一族との対話を九尾襲撃事件の後でも構わないからしてくれていれば。一族を里の中枢から遠ざけて隔離するような真似をしなければ。

 

 今更たらればの話をしたって仕方ない。

 もう止まれないところまで追い詰められてしまったうちは一族にはどのような言葉も意味を成さない。

 彼らは奪われたものを取り返そうと必死だ。

 

「イタチ……少しでいい、時間稼ぎをしてくれ。その間にお前の兄であるうちはスバルのことも、一族のことも、ワシが策を考える」

「…………」

 

 シスイの死を無駄にした三代目の言葉は薄っぺらいものにしか聞こえなかった。もう貴方に出来ることは何も――

 

 ――おまえたちに できることはない

 

 かつての兄さんの言葉を思い出す。あの時は荒波のような感情を抑えるのに精一杯で、その言葉の意味を深く読み取る余裕もなかった。

 

 スバル兄さんはどうしてあのようなことを……オレが三代目に抱いているような感情を、何故クーデターを実行する側であるはずの兄さんが……。

 あれは間違いなく“怒り”だった。

 

 オレとシスイにクーデターの邪魔をされそうになったからか?

 ――違う。

 愚かにもたった二人で一族を止められると信じていたオレ達への呆れからか?

 ――違う。

 

 兄さんは一体、何に対して怒りを抱いていた?

 

 

 

 三代目達へ報告を済ませてすぐ、ダンゾウに根の屋敷に呼び出されていた。

 

「戦争になろうがなるまいが、クーデターが起こった時点でうちは一族の滅亡は避けられない」

 

 静かに告げたダンゾウの言葉は、正しい未来だった。シスイの死によって確定してしまった未来。……もうどうすることもできない。

 

「事が明るみに出てしまえば、何も知らぬ子どもといえど粛清の対象になる」

「…………」

 

 何も知らぬ子どもが弟であるサスケのことを指しているのはすぐに気づいた。サスケはまだアカデミーに通う子ども……一族がしようとしていることは何も知らされず、日々己の力を磨く為に努力している。

 そんな弟が愚かな一族と共に滅ぶ運命にあるなど、受け入れられなかった。

 

「しかし、クーデターが起こる前に全てを闇に葬り去ることが出来れば…………分かるな?」

 

 一年以上前から覚悟していたことだった。

 ダンゾウはこちらを試すような態度でいるが、オレの心は決まっている――たった一つの心残りを除いて。

 

 そんなオレの“心残り”を見透かすように、ダンゾウが不気味に笑った。

 

「うちはサスケを除く、一族全員の暗殺。生みの親であるうちはフガクや、うちはミコト――そして兄であるうちはスバル。お前の手で殺すのだ……イタチ」

 

 

 

 ダンゾウに任務を受けると伝えた日。

 

 帰宅したオレを玄関で迎えたのはスバル兄さんだった。

 まだ日も落ちていないこの時間、兄さんが家にいるのは珍しい。

 

《おかえり》

 

 兄さんが丁寧に指文字を綴る。その表情は柔らかい。

 

「……ただいま」

 

 それだけ口にして、兄さんの隣を通り過ぎる。

 クーデターを数日後に控えた今、余計な接触は控えたかった。……罪悪感で胸が押し潰されそうになる。

 

「イタチにいさん! 今日は早いね」

 

 声を聞きつけてやって来たサスケがオレに精一杯の笑みを向ける。……ぎこちない笑み。サスケもオレの様子がおかしいことに気づいている。

 そんな弟が、何度か父さんやスバル兄さんとの仲を取り持とうとしていたことも知っていた。

 

「久しぶりに三人で商店街に行こうよ!」

「……それは」

《ひまじゃない》

 

 真っ先にサスケの提案を切り捨てた兄さんに、サスケが目をまん丸にさせる。

 

「……どうして? スバルにいさん、やっと帰ってきたのに……今日はもう任務もないって」

 

 シスイが死んだ頃から兄さんは変わってしまった。以前はもっと言葉を選んでくれていたのに。

 サスケはぎゅうっと自分の服を皺になるまで握りしめて今にも泣き出しそうになっている。

 

 オレは生まれて初めて、大好き()()()兄に対して小さな怒りを覚えた。

 

「……サスケ。自分の部屋に戻っていろ」

「で、でも……」

「オレはスバル兄さんと話がある」

 

 オレとスバル兄さんを交互に見つめていたサスケが、最後にちらりとオレの方を見て……消え入りそうな声で「うん……」と頷く。

 小さな背中が離れていったのを確認して、兄さんに向き直る。

 

「暇ではなくても時間はあるはずだ。一族の演習場へ」

「…………」

 

 兄さんは煩わしそうに眉を寄せたが、すぐに頷いた。

 

 

 

 一族専用の演習場に来るのは久しぶりだった。

 

 視線を横にずらせば、かつて何度も世話になった忍具などが収納されている倉庫がある。

 下忍となってからは里の、暗部に入ってからは専用の演習場の使用許可が得られたおかげで、長い間ここには来ていなかった。

 何度かサスケの付き添いで足を向けたくらいだろう。

 

 隣で静かに演習場を眺めている兄さんを盗み見る。

 

 ――昔から、考えの読めない人ではあった。

 

 それでも母さんの言うように慎重に観察すれば単純な喜怒哀楽はすぐに分かるようになり、兄さんの伝えようとする努力に気づくこともできた。

 

 いつもオレとサスケに対して全力で愛情を注いでくれていたように思う。

 

 オレが不安を感じていれば安心させるように抱きしめ、サスケが嬉しそうに笑えば兄さんの頬も僅かに緩んで、蜂蜜が溶け出したような優しい目をする。

 そんな兄さんを見ているのが大好きだった。

 

 ――あやつが変わったのは、火影直属の暗部なんぞに入ったせいではないのか?

 

 ダンゾウはあのように言っていたが、兄さんを変えたのは間違いなくうちは一族という(しがらみ)だ。

 

 一族の会合に参加した者は、それまでは里に特別な恨みや憎みを抱いていなくても、呪いを刷り込むようなヤシロ達の言葉を何度も耳にしていれば次第に感化されていった。

 昔から使われてきた洗脳の手口。彼らはそうやって少しずつ同志を増やしていったのだろう。

 

「……どうして、サスケにあんな態度を?」

 

 この口は本当に聞きたいことを問いただそうとはしてくれなかった。

 演習場に吹いた風がお互いの髪を何度か揺らして、止む。

 演習場に向けられていたはずの兄さんの瞳は既にオレの姿を捉えていた。

 

《あんな?》

「……突き放すような言い方のことだ」

 

 兄さんが首を傾げる。無自覚だったとでも言うのか。一度もオレから逸らされない瞳は、ゾッとするほど冷たく感じた。

 

《きをつけよう》

「…………」

 

 まただ。あの違和感が消えない。

 

 表情が読みにくいスバル兄さんと一緒に暮らしてきたおかげか、オレは普通の人よりも相手の感情を読み取る能力に長けている。両親やサスケもそうだろう。

 最近の兄さんを家族以外が見れば、恐らく違和感すら抱かない程度の変化。

 

「貴方は……クーデターを成功させてどうするつもりだ。本当に一族の考えに同調しているのか?」

 

 兄さんが微かに笑みを浮かべる。側から見れば動いていない表情でも、オレからすれば一目瞭然だった。

 

《そんなはなしを するために?》

 

 ……これすらも本題でないことに気づかれている。

 

《これいじょうは むだになる》

「…………」

 

 兄さんは空を見上げて、どこか遠くを懐かしむような顔をした。

 

《おれも おまえも》

 

 言い聞かせるように一度区切られた言葉はやけに重たく感じた。

 

《あたえられた やくめを はたせばいい》

「……貴方に与えられた役目とはなんだ」

《もうすぐ わかる》

「…………」

 

 それはクーデターの決行を指しているのだろうか。

 ダンゾウに指定された一族を抹殺する日は、クーデターが起きる前日の夜。その頃兄さんとはもう……。

 

 

 

 根と火影直属の暗部がうちは一族の集落に設置した監視カメラの位置は全て正確に把握している。

 カメラに映らない場所に身を置いて、たった今、南賀ノ神社から出てきた影が向かう先を後から追いかける。

 影の動きに合わせて見覚えのある黒のロングコートがはためいていた。

 

 影はオレと同じように監視カメラの死角を走り続け、木ノ葉隠れの里を抜けて砂隠れの里へと続く街道の途中で走るのをやめる。

 

 街道を横に逸れると広大な森が広がっており、男はその場所でオレを待っていた――最初から気づかれていたらしい。

 

「久しぶりだな、うちはイタチ」

 

 特徴的な仮面の右側にだけ空いた穴から覗く目が、こちらを見定めるように細まる。

 大名護衛任務でテンマを殺した仮面の男だった。

 

「南賀ノ神社でヤシロと何の話をしていた?」

「見られていたか」

 

 やけに周囲を警戒している様子のヤシロが先に神社から出てきたのをオレは見逃していなかった。

 

「うちはシスイという計画の心臓とも呼べる忍を失い、一族がどのような手で火影様を攫うつもりなのかとずっと考えていた」

「……それで、答えは出たと?」

「あんたが裏でヤシロを唆していたのか――うちはマダラ」

 

 仮面の男の目がさらに細くなる。

 

 ヤシロの提出した修正案には、ヤシロとスバル兄さんを中心とする部隊で火影屋敷を襲撃することまでしか書かれていなかった。これではシスイが抜けた穴を十分に埋められていない。

 ヤシロ達はオレに一瞬で地面に沈められる程度の実力しか持ち合わせていないからだ。

 シスイの瞬身が使えない以上、暗部である兄さんはともかく、ヤシロ達は火影屋敷を正面突破する必要がある。彼らでは三代目に辿り着く前に他の暗部にやられてしまうだろう。

 いくら兄さんでもたった一人で教授(プロフェッサー)と謳われた三代目を拘束することは不可能だ。

 

「死んだはずの人間が生きているなど、到底信じられることではなかったが……。あんたがマダラであり、うちはのクーデターに介入するというのなら、ヤシロが強引に決行に持ち込んだのも理解できる」

 

 何より、目の前の男の禍々しいチャクラがその証明だった。

 仮にこの男がうちはマダラでなかったとしても、その実力は嫌というほど知っている。彼を味方につければクーデターは間違いなく成功するだろう。

 

「どのような人物でどんな思想を持つのかは既に調べさせてもらっている」

「……それなら話が早い」

 

 仮面の男、うちはマダラの瞳にふいに怒りの炎が見えた気がした。

 

「わざわざ修正する必要もないと思うが、オレはうちはの……ファンなどではない」

「…………」

 

 まさかここであの時の話の続きをされるとは思っていなかった。

 よほど白猫の少年の発言を根に持っていたのだろうか。……あれから何年も経っているというのに。

 

「オレはうちは一族の人間で、木ノ葉とうちはの両方に強い憎しみを抱いている……理由は説明するまでもないな。そもそもオレの行動のどこを取ってもお前たちへの好意は一つも見当たらないはずだ」

「…………」

 

 何故か、本当に何故かは分からないが、頭に浮かび上がってきた白猫の少年が『愛が憎しみに変わっちゃった?』と首を傾げる。

 オレは即座に記憶を消した。

 

 オレが調べ上げた情報の中に、仮面の男が白猫の少年が言っていた()()()()思想を持っているというデータは勿論なかったが、フォローを入れるのはやめておくことにした。

 この件のどこに触れても仮面の男の逆鱗に触れる気がする。これから協力を仰ぐ立場にある以上、余計なことで波風を立てる必要はない。

 

「アンタが里と一族を恨んでいることは分かっているつもりだ。……一族への復讐は手引きする。だが、里側とうちはサスケには手を出すな」

「意外だな、そこにうちはスバルの名前が挙がってこないとは」

「彼は一族側の人間だ」

「…………なんだと?」

 

 マダラの表情は仮面のせいでまったく見えないが、声色だけでも驚いていることが読み取れる。

 

「あの男は根の人間だろう」

「根に所属していたのは何年も前のことだ。今は火影様直属の暗部でありながら一族に情報を流している……そんなことはアンタが一番分かっているはずだが」

「…………」

 

 マダラは一旦情報を整理するかのように口を閉ざした。オレにはこの問答の真意が掴めなかった。

 

「ククク、未だにお前は何も知らされていないのだな……うちはイタチ」

「どういう意味だ」

「正直、お前の条件を飲むメリットはオレにはないと思ったが……気が変わった。手を組んでやる」

 

 仮面の男が急に上機嫌になったことを察した。まるで新しいオモチャを見つけた子どものように。

 

「ただ、それだけではお前にばかりメリットがあって対等ではない。オレはこのままいけば里も一族も確実に滅ぼせるのだからな」

 

 マダラがこちらに掌を差し出す。

 

「オレの組織に暁というものがある。お前は一族を抹殺した後に里を抜けるのだろう? 暁は人手が足りていない。お前がその穴を埋めてくれるというのなら、協力しよう」

「…………暁」

「オレはお前の兄に個人的な恨みがある。お前がオレの元にあることが、最も効率の良い復讐になるだろう」

「……兄が一体何を」

 

 うちはマダラのチャクラの質が、今日一番の禍々しさを見せた。

 

「あの男の存在は許されないのだ……視界に入るだけで虫唾が走る」

「…………」

 

 兄さんがマダラと接触する機会があったとは思えないが、非常に嫌われているということだけは、うんざりするほど伝わってきた。

 

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