じんせいみてい!   作:湯切

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第二十七話 うちは流多重影分身の術

 この日、ダンゾウ様の屋敷は久方振りに人の気配で満ちていた。

 

「最終試験を通過したのは、たったこれだけか」

 

 兄弟のように過ごした二人に殺し合いをさせる、悪習とも呼ばれる慣わしは根に色濃く残っていた。

 

 かつて自分も受けた試験を思い出しながら、目の前に並んだ顔を一つ一つ確認していく。

 

 本来であれば最終試験に参加した半数がここに立っているはずだったが、そう単純に事が運ぶことはない。試験を放棄して両方処分されたり、相手を倒して勝ち残ったもののすでに致命傷を負っていたり、相討ちになるケースもある。

 

 表向きは解体され常に人手不足に悩まされてる根にとっては、解体後初めて実施した試験の通過者がここまで少ないのは頭が痛い。

 

 想定よりも情に流されて処分となったペアが多かった。感情を殺すというのは、それほどまでに難しいことなのだと実感させられる。

 

 オレは一列に並んだ新人たちに順番に声をかけていった。

 

「お前の名は?」

「イロです」

 

 こちらを静かに見つめてくる少年の顔を見ただけで、頭の中にある膨大なデータの中から正しいものを見つけた。イロとは、少年の特性からダンゾウ様がつけた名前だったか。

 

「あそこにいる白猫面の男のところへ」

「はい」

 

 少年はしっかりとした足取りで白猫面――クロネコの呼び名で知られている青年の元へ向かう。

 

 試験を通過した大半が兄弟殺しの余韻から抜けきれず呆然としている。しかし、あの少年はすでにその段階から抜け出しているように見えた。

 ……感情を殺せたというよりは、麻痺したという表現の方が正しいかもしれない。

 

「次。お前の名は?」

 

 この作業をあともう少し続ければ、今日の任務は一旦終了となる。

 

 告げられた名前から目の前の合格者が兄役か弟役かを瞬時に割り出して、弟役だった場合は優先的に白猫面、クロの班に割り当てていた。

 

 離れたところから、こちらを睨みつけるように見つめてくる視線を感じる。

 

 オレは素知らぬ顔をして「お前もあっち」と目の前の少年を誘導した。

 

 

 

『モズ隊長。どういうつもりですか?』

 

 選定が終わって、早速不満がありますオーラを背負ったクロが隣に立った。

 

「お前もオレと同じ規模の隊を率いる隊長なんだから、いつまでも隊長呼びはどうかと思うぞ」

『様呼びしろってことですか』

「違うに決まってるだろ! ……はぁ、まあいい。班員に何か不満があるのか?」

 

 呼び方に注意を逸らしたつもりが、逆にこちらが翻弄されてしまうところだった。対クロ戦においてオレはまだまだ修行不足だ。

 

 いつまでも湿気を帯びた視線から解放されそうになかったので、ため息をつきながら問いかけたが、逆効果だったかもしれない。

 

『どうして俺のところに年下ばかり集めてくるんですか? ショタコン疑惑をかけられてるなら迷惑です。うちは一族にだってまともな人間はいます』

「なんでお前はそういう尖った解釈しか出来ないんだよ……」

 

 早口で言い切ったクロはどうやらご立腹らしい。自分はまともだと思ってるようだ。

 オレの知るうちは一族の中でもレジェンド級の変人のくせに。

 

「お前はどうも年上と組ませるとサボる傾向にあるらしいからな」

 

 ソースはオレとキノエだ。サボるというよりも、本気を出さないというか。

 

「守るものがあった方がやる気が出るんだろ」

 

 心当たりがあったのか、それとも納得がいかないのか、クロのお面は沈黙した。

 

 こいつは弟に重ねているのか、自分とある程度歳が離れている年下に弱い。

 

 戦闘の時もいつものように後先考えない無謀な動きが少なくなって、守ることを中心に行動するようになる。

 根の忍としては仲間を守ることは不必要だが、目を離すとすぐにとんでもないことをしでかすクロには丁度いい足枷だった。

 

 それに、何度もいうが根は絶賛人手不足に陥っている。少しでも生存者が増えれば補充する手間もなくなるのでこちらとしてもありがたかった。

 

「クロ隊長」

 

 控えめな声がクロに投げかけられる。先ほどクロの隊に振り分けたイロという少年だ。

 イロは感情を全て削ぎ落とした表情のまま、こちらの反応を待っている。

 

『イロ、だったな』

「はい」

 

 クロの猫被りも随分と様になってきた。落ち着いた様子で対応しているところを見るたびに、妙な気持ちになる。

 

「これからボクはどうすればいいですか」

『今日のところは新しく割り当てられた寮で過ごせ。明日からの任務は追って知らせる』

「そうじゃないんです」

 

 クロが怪訝そうに首を傾げる。

 

「シン兄さんを失って……己が何者なのか分からなくなったんです」

 

 この場にダンゾウ様が居合わせなくて本当に良かった。やはり心を殺せたのではなく、麻痺していた方だったか。麻痺してしまった分、素直に自分の現状を吐露してしまったんだろう。

 

 ここはオレがフォローすべきかと思っていたら、クロの手がイロの肩に触れていた。

 

『それでいい』

 

 静かな声には何の感情も含まれていない。

 

『過去は捨てろ。これからは与えられた任務の為だけに生きていけばいいのだから』

「任務のために…………」

 

 彼らしからぬ発言に無意識のうちに眉を寄せる。

 

 コイツはこれでいて、自分の下についた部下を大切にしていた。時には根の方針に合わない者がいたとしても、ダンゾウ様にその思想がバレないように庇っていたことも知っている。

 

 他人のために積極的に動くことはなくとも、己の手の届く範囲であれば気にかけるような不器用な男だった。

 

 お面の内側でゆっくりと目を閉じる。そうすれば、いつだって目に見えないものが見えるようになる。目を閉じる前に確認したクロの位置で青い気配が揺れていた。それは氷のように冷たく、すぐに閉じていた目を開いてしまう。

 

 変わらないものもあるが、目の前の青年は確かに変わったのだろう。

 

 ただ愚直に弟に降りかかる悪意に正面から立ち向かおうとしていた七歳の子供の面影は、すっかり消えてしまっていた。

 

 

 

 その日の夜。自室で明日に向けて準備を進めていたオレは、扉をノックする音に「入れ」とだけ声をかける。

 

 部屋に入ってきたのはクロだった。こんな時間にわざわざお面をしているということは、一言二言では終わらない会話が目的らしい。

 

 すでに寝巻きに着替えているせいで、余計に暗部の面が不釣り合いだった。

 とりあえず座るように促す。クロは素直にストンとその場に腰を下ろした。

 

『モズ隊長ってイロと何かあるんですか? 名前を聞いた時、やけに反応してましたよね』

「オレが?」

 

 身に覚えはなかった。そもそもまだ隊長呼びなのかと言いたかったが、その前にクロが続けた。

 

『イロにというより、単語に?』

「あー…………」

 

 らしくない煮え切らない反応をしてしまった。やはりクロ相手だと調子が狂う。彼は妙なところで鋭く、意外と周りの人間をよく観察している。

 

「それを聞くためにわざわざここに?」

『一度気になると朝までしか眠れない気がして』

「健康で良かったな」

『まったくです』

 

 こいつ何も考えずに喋ってるなと思ったが指摘はしない。余計に話が拗れるからだ。

 

「これからはお前と組むことが多くなりそうだからな。オレの能力について少し話しておく」

『隊長の能力?』

「能力というより……血継限界か」

 

 その場で目を閉じる。目の前で揺れているのは、やはり青い炎。それ以外に周りに色がないことを確認してから口を開く。

 

「この状態でお前がどれだけ気配を消して隠れようとも、オレにはお前の位置が正確に分かる」

『…………目を閉じた状態で、ですか?』

「ああ」

 

 目を開ける。暗闇の中で揺れる炎は消えて、正しい光景が広がる。

 

「オレは色葉(いろは)一族と奈良一族の混血だ」

『なんか混じってるなとは思ってましたけど』

「…………まあ、なんか混じってるからな」

 

 そこそこ有名な一族のはずだが、この様子だと知らないらしい。伝説の三忍すら知らなかったくらいだから特別驚きはしない。

 

「お前、視界の範囲外に誰かがいる時にその存在を感じることはあるか?」

『勿論ありますよ。見てなくてもなんかそこにいる気がするってやつですよね。…………そういえば俺、もしかしたら幽霊とか――』

「幽霊の話は置いとけ」

『はい』

 

 息を吸うように自然と話を脱線させようとするのはやめろ。クロに会話の主導権を持っていかれたら終わりだ。

 

「色葉一族は、そういった生きている存在が必ず放つ気配に色をつけることができる一族……だと言われている」

 

 断言できないのは、オレが一族の人間に能力の仕組みを教えてもらったことがないからだ。色葉一族出身だった母以外の一族に会ったこともない。

 

「純血なら目を閉じる必要もなく色として認識できると聞いたが、オレの場合は目を閉じている時だけ可能になる」

『もしかして、隊長の気配が滅茶苦茶薄いのも関係ありますか?』

「…………そうだ。自分の気配から生じる色を限りなく無に近くすることもできる」

 

 こちらに関しては目を閉じる必要はないのだが、そこまで情報を開示する必要はないので黙っておいた。あくまで気配を薄くすることしか出来ないので、チャクラで感知するタイプや単純に目敏いやつには普通に存在がバレる。後者は身の隠し方で何とかなるが前者は無理だ。

 今のところは、感知されないところまで離れるくらいしか対処法がない。

 

『それでイロって名前に反応してたんですね』

「そうらしいな。自覚はなかった」

 

 ふうん、とクロが相槌を打つ。

 

「お前の方はどうなんだ、万華鏡写輪眼」

『それがですねえ……』

 

 クロの両眼がゆっくりと赤に染まる。初めてその瞳を見た時とは違って、今回は目を逸らすことも距離を取ることもしなかった。

 ……しかし、いつまで経ってもこれといった変化は感じられない。

 

「まさかとは思うが、シスイに似た能力か?」

『どうやら違うみたいです。この間ダンゾウ様の目の前で実験体相手に色々試したんですけど』

 

 クロの両眼は元通り黒色に戻っていた。

 

『分からないんですよ』

「は……?」

『ダンゾウ様にも疑われましたけど、隠してるわけじゃないです。本当に自分の能力が何なのか分からないんですよね』

 

 ふざけているのかと思ったが、クロの目はいたって真剣だった。

 

 その目は「お面に不具合などなく全部お前の本心なんじゃないのか?」と指摘した時と同じものに見える。芋蔓式にその後妙な踊りを披露されたことを思い出して肩が震えた。記憶の中のアイツにすら翻弄されるのは屈辱的だ。

 

「そんなことがあるのか? 自分の能力が分からないなんて」

『俺もイタチみたいに黒い炎でるのかなと思ってたら出ないし、シスイのように脳に作用しているわけでもなさそうだし……。ダンゾウ様が言うには「能力は正常に発動しているようだが、発動対象もしくは環境に条件があって不発に終わってるのではないか」だそうです』

「発動対象と環境……」

 

 とくに血継限界となると発動した時点で元から自分の一部だったかのように能力の詳細を理解するものだと思っていたが、そんなパターンもあるのだろうか。

 万華鏡写輪眼は開眼できた人間がそもそも少ないため前例と比べることも難しい。だが、よりによってそんな面倒そうな能力を引き当てるなんて。

 

「お前って……()()()()よな」

 

 皮肉に気づいたクロが黙る。

 こいつは都合が悪いとすぐに沈黙に逃げる癖をどうにかするべきだと思う。

 

 

 

 ***

 

 

 

 うちは一族にとって悲劇の夜――あれから、一年の月日が流れていた。

 

 ダンゾウの命によって新人の教育を中心に行ってきたが、ある程度は育ってきたと思う。

 

 先日行われた中忍試験では俺の担当する班の合格者は一人だったが、まあいいだろう。モズのところは三人だったとかそんなことは……うん。俺の教え方が悪いわけではないはずだ。

 

 モズに「チャクラの質が変わった」だの「お前の気配を色として見ると真冬の海のように冷たい色をしている」だの好き放題言われたものの、なんとか無事に過ごしている。

 

 喉元過ぎれば熱さを忘れるってやつなのか、両親を手にかけた直後の頭に霧がかかったような状態にはあれから一度もなっていなかった。

 ……()()、だけど。

 

「クロ隊長」

 

 ダンゾウの屋敷にある一室を自室として与えられている俺は、障子の前に現れた気配に読んでいた資料から顔を上げた。

 

『どうぞ』

 

 一応資料整理という任務中なので、自室にいるとはいえお面はつけている。

 こうやって部下が度々訪れてくるから、付けたり外したりする方が面倒くさい。

 

 部屋に入ってきたのは、俺の班で唯一中忍試験をパスしたイロという少年。まだ十歳くらいで、サスケとそれほど変わらなかったはずだ。

 面立ちが少しサスケに似ているせいか、この少年を見るだけで心がざわついてしまう。

 

『今日は任務はなかったはずだが』

「ダンゾウ様がお呼びです」

『…………ああ』

 

 折角いい感じに整理が進んでたとこだってのに。相変わらずあの男はタイミングが悪い。

 

 俺は目の前で同じように座って資料を手にしている存在に声をかけた。

 

『お前が行ってこい』

〔俺は忙しい。お前が行くべきだ〕

 

 ピキッとこめかみに青筋が立つ。かつて俺が雀鷹(つみ)というコードネームで火影直属の暗部で働いていた時に使っていたお面がこちらを向いた。

 

〔俺はここで資料を整理していたい。その方が有意義だからな〕

 

 分かるなあ、その気持ち。いくら()()()為だからってダンゾウのところになんか行きたくないよね! こうなれば闇のゲームで雌雄を……。

 

「ダンゾウ様は二人とも連れてくるようにと」

 

 俺と雀鷹の面を被った男がふらりと立ち上がる。そしてほぼ同時にお互いの背中を慰めるように叩いて、困惑顔をしたイロと共に部屋を出た。

 

 

 

「遅かったな」

『…………申し訳ありません』

 

 ダンゾウの居室。

 安定の急に呼びつけた人間とは思えないクソデカ態度にキレそうになりながら、頭を下げる。

 

 ダンゾウの部屋にどちらが飛び込むかで擦りつけ合いをしていたなんて口が裂けても言えない。

 屈辱に耐え忍ぶという点では、俺はこの世のどの忍をも凌駕してる自信があった。

 

「クロとイロ。お前たちに新しい任務を与える」

「任務ですか」

 

 俺の部屋を出た時は微かに困惑顔だったイロだが、今ではすっかり無表情に戻っている。

 この切り替えの早さを見習いたい。俺の場合、常に無表情だけど。セキや弟たちと関わらなくなってから、本当に一ミリも動いてない気がする。

 

「クロとイロのスリーマンセルで、木ノ葉を離れたばかりの大蛇丸の部下を追え」

 

 こいつ……。今度こそおかしくなったか?

 

 こんな感情は初めてだった。純粋に心配になってしまった俺は、恐る恐る口にした。

 

『ダンゾウ様。一足す一は三にはなりません』

 

 大蛇丸という鳥肌ワードすら意識の外に追いやられるくらいの衝撃だった。ダンゾウ、足し算を間違えるところまで来てたのか……。

 

 憐れみの目を向ける俺を嘲笑うかのように、非情な一言が降ってきた。

 

「お前が二人になるのだ」

 

 

 

 ダンゾウのあのセリフが俺以外に向けられていたなら「バカじゃねーの!」と大笑いされて終わっていたかもしれないが、悲しいことに俺は二人になることが可能だった。

 

 それどころかすでに二人になっていたので、ダンゾウの足し算はある意味では正しい。大変腹立たしいことに。

 

 俺とイロは大蛇丸の部下が目指している合流地点とやらが記載されている地図を受け取り、大急ぎで支度して、今では森の中を走っていた。

 

 急ぎの任務なら先に言えと何度言えば分かるんだあの男は! 指摘したことないけど!

 

「クロ隊長の影分身は、通常の影分身と何が違うんですか?」

 

 そこそこの速度で進んでいるのに息一つ乱さずについてきていたイロが問いかけてくる。

 俺の隣を走っていた雀鷹のお面が揺れた。

 

〔俺がもう一人増えただけだと思えばいい〕

「もう一人……」

 

 俺の万華鏡写輪眼の能力は、かつて何度挑戦しても完成しなかったうちは流多重影分身、あの怪しさ満点の術に最後の仕上げをする為のものだった。

 

 失敗だと思われていたあの大量のスライムはどうやら正しい形だったようで、ようはスライムという成り損ないたちを一つに統べて、己の魂を分け与える……ということらしい。

 言葉にしても意味が分からない能力である。

 

 一つだけ分かっているのは、前段階であるスライムを作り出し、尚且つ万華鏡写輪眼の能力ガチャでスライムに魂を吹き込む能力を手に入れなければこの術は絶対に完成しないということだった。

 

 そりゃあ発案者すら完成させられなかったわけだと納得もいく。むしろよく前段階まで手探りで完成させたな。どんな嗅覚だよ。

 

〔当然、色々と縛りはあるが……〕

 

 耳元で風が鳴った。反射的に振り上げた腕に鋭い痛みが走る。

 

 雀鷹のお面を被った男――俺のオリジナルだ。

 

 オリジナル、つまり本体から飛んできた蹴りを今度は防御動作無しに素直に受け入れる。

 本体の脚が俺の横腹を貫通し、俺の身体がぐにゃっと歪んで、一部がゼリー状に溶けていく。それも暫くしたら元通りに修復されてしまった。

 

 ぽんぽんと服についた汚れを払って何事もなかったように走り出した俺に、イロが目を見張る。

 

〔普通の影分身なら今の衝撃で消えてる〕

「非常に丈夫ということですか」

〔今はそう認識してくれていればいい〕

「分かりました」

 

 説明が面倒になったのだとすぐに分かった。さすが俺。でもいくら面倒だからって、急に殴りかかってくるのはやめてくれないか?

 

 俺はオリジナルに生み出された影分身だ。

 

 うちは流多重影分身の術で複数のスライムを生み出し、俺の右眼に宿った能力【千千姫】によって魂と肉体を分け与えられた存在である。

 

 オリジナルのチャクラをまさかの二分割にしているので、それはもうコスパの悪いチャクラ食い虫だ。俺でもそう思う。

 

 今日は資料整理だけだと聞いていたから術の精度を上げることも兼ねてもう一人のボクならぬ俺を生み出したというのに、ダンゾウは常に俺の予想を超えてくる。

 

 どこの世界に影分身を一人として数える小隊があるんだ。オリジナルにも影分身にも本来あるべきチャクラの半分しか残ってないからすでに戦闘後だよ。任務開始前からジリ貧だよ!

 

 しかも、影分身である俺はどれだけ身体を休めようともチャクラが回復することはない。

 

 その代わり、オリジナルが解術するか体内に残ったチャクラが空っぽになるまで決して死なないし消えないゾンビアタックが可能だったりする。

 

 とても強いが、もしも他人のチャクラを吸い取るタイプの敵に遭遇したら瞬殺されるだろう。そんな卑劣な奴が存在しないことを祈るばかりだ。

 

〔もうすぐ目的地に着く。離れたところで一旦様子を見るぞ〕

「はい」

 

 恐怖の二人ぼっちスリーマンセルのせいで実感なかったけど、これって大蛇丸の部下とやらの後をつける任務だったな。

 

 どうやら木ノ葉に大蛇丸のスパイが紛れ込んでいたらしい。上司が上司なら部下も部下だ。

 

 勿論、近くに大蛇丸はいないんですよね? 渡された地図に記された合流地点とやらに大蛇丸が現れるなんてことはないですよね?

 

「この地図は大蛇丸の部下が持っていたものですよね。本当にここに現れるんでしょうか」

『どうだろうな。そいつは根の忍とすでに一戦交えた後のようだから。地図をとられたことに気づいて目的地を変更しているかもしれない』

 

 ちなみにスパイと交戦した根の忍は二人いたが一人は死に、もう一人は瀕死の重傷を負ったそうだ。怖すぎ。忍は消耗品がモットーなブラックな組織なので、生き残った忍も情報を抜かれた後に処分されるだろう。

 

 木ノ葉の西側に広がる森を抜け、視界を遮るものがない街道に出てしまう前に立ち止まる。これ以上は近づけそうにない。

 

 指で上を指すと、イロが小さく頷いて手頃な木に登っていく。俺と本体も足裏に流したチャクラで別々の木を駆け登っていき、見晴らしのいい位置で止まった。

 

 木の枝に足を引っ掛ける。

 遠目に街道から外れた場所、地図に記された合流地点とやらが見えた。

 

 スパイが木ノ葉の機密情報を手に入れているかどうかを確認し、どちらにせよ始末すること、あわよくば大蛇丸の動向や思想を探ること。

 以上が俺とイロに授けられた任務である。

 

「隊長。合流地点に大蛇丸が待機していた場合はどうすればいいでしょうか」

 

 本体の沈黙が重い。考えたくないよな、そんな最悪な未来。

 

 合流相手が大蛇丸の部下だったら一緒に始末するだけだが、大蛇丸本人がいた場合は別だ。今回の任務は放棄して里に戻ることを優先する。

 

 これはイロには伝わっていないが、もしも大蛇丸に存在を気取られてしまったなら、イロを囮にしてでもダンゾウの元に帰ってくるようにと言われている。写輪眼が大蛇丸の元に渡らない為だ。

 

 まあ、そうはならない。犠牲になるとしたら間違いなく影分身(俺の方)だから。

 

〔大蛇丸との戦闘は極力避けるつもりだ〕

『もし戦闘になったら俺が時間を稼ぐから、イロは逃げることを優先してほしい』

「…………はい」

 

 さっさと前に向き直って合流地点を遠目から確認している本体にため息をつく。我ながら無愛想なやつだ。どことなく心細そうにしているイロに『心配するな』と声をかける。

 

 影分身の方が表面上も感情豊かな傾向があるのは、この術の特徴なんだろうか?

 

 本体からの視線が痛い。余計なことをするなと言いたいんだろう。だがしかし拒否する。

 

『お前は死なない』

「ボクは死を恐れているわけでは……」

『あの日、それでいいとは言ったが、人らしさを失うのが良いことだとは思っていない』

 

 人らしい感情があるからこそ、敵と対峙した時に相手の行動を先読みできることがある……と俺は思ってる。

 

 これをモズに言ってみたところ「お前のような無神経な男が?」とバカにされたけど。感情を失いしモンスターにだけは言われたくない。

 

〔お喋りはそこまで〕

 

 冷たい声に容赦なく会話が中断された。本体が合流地点から目を離さずに続ける。

 その目はすでに写輪眼になっていた。

 

〔――大蛇丸だ〕

 




うちは流多重影分身の術(もう一人のボク)
本体のチャクラを半分こしてもう一人の自分(ベースはスライムなので腕が取れようが足がもげようが元に戻るゾンビ)を作り出す能力。分身体は他人からの譲渡以外でチャクラを補充できないので基本的にチャクラを使い切れば死ぬ。
オリジナルが受けていた肉体的精神的ダメージは分身体には受け継がれないので、オリジナルが闇堕ちしていても分身体には影響がない(というより忘れる)。本体と比べると瞳術は弱め。
千千姫無しにこの術を生み出した考案者といい謎しかない能力。

・右眼の万華鏡写輪眼【千千姫】
ただのスライムに命を吹き込む女神の能力。(この能力が発動した時にチャクラを半分持っていかれる)
スライムを作り出せなかった人間がこの能力を手にした場合、詰む。
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