じんせいみてい!   作:湯切

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第三十六話 理想になる世界

 コツコツと音を立てて長い階段をおりていく。

 

 火影屋敷の地下深く。一歩足を踏み出すたびに燭台に立てられた蝋燭の炎が揺らめいている。ここではその小さな光だけが頼りだ。

 

 地下だというのに、漂う空気は外と大差ないくらい澄んでいる。この場所の存在を知るのは三代目火影とごく一部の木ノ葉上層部のみ。

 しかし、現時点でここに何があるのかを正確に把握している人物は火影様と私しかいない。

 

 ギィッと錆びついている扉を開く。真っ暗だ。扉のすぐ横の棚に燭台を置けばぼんやりと中の様子が見える。

 つい先ほどまでここにいたのは影分身。だから自らの目で確かめるまでもないこと。

 

 それでも微かな希望に縋ろうとするのをやめられない。

 

「……変わらない、か」

 

 消毒液の匂いが充満する室内。私の言葉は誰に届くこともなく消えていった。

 

 

 

 火影屋敷を出て木ノ葉の商店街を歩いた。

 

「セキちゃん。火影様のおつかいかい?」

「今日は自分の買い物に来たんです」

 

 薬種問屋。薬だけでなく、最低限の医療品も揃っている貴重な店だ。

 すっかり顔馴染みになってしまった店主が朗らかに話しかけてくる。

 

「ああそうだ。特別上忍になったんだってね。お祝いに今日は少しまけておくよ」

「ありがとうございます」

 

 ぱちんとウインクまでされてしまっては遠慮する方が失礼だ。私はくすりと笑って、ありがたく好意を受け取ることにした。

 

「それでは、そこのガーゼと切り傷への塗り薬と……」

「はいよ」

 

 テキパキと私が口にしたものを紙袋に詰めてくれる店主。

 

「アンタは立派だよ。医療忍術まで学びたいだなんて」

「本業が忙しいので合間にかじってる程度ですよ。それに奥が深くて楽しいんです」

「そうかい。綱手様が里にいてくだされば良かったのにねぇ」

「……綱手様」

 

 伝説の三忍の一人であり、病払いのナメクジ綱手姫といった異名まで持つ医療忍術のスペシャリスト。

 私が火影様に医療忍術を学びたいと伝えた時にも「あやつがいれば」と話題に上がった人物でもある。

 

「伝説の三忍が揃いも揃って里にいないなんて変な話だけどね。一人は里を抜け、残りの二人はどこにいるかも分からないんだから」

 

 困ったお人だよと店主が続ける。その後もいくつか他愛のない話をして店を後にした。

 

 再び木ノ葉の大通りを一人で歩いていると、ある店の前で人だかりが出来ているのが見えた。

 

 新しいお店でも増えたのかな。

 

 そんな軽い気持ちで前に立つ人々の肩から顔を出す。しかし、そこには何もない。

 

「ここで何かあったんですか?」

「ああ、さっきまで誰かが砂隠れの忍と揉めてたんだが……」

 

 砂隠れの忍……もうそんな時期なんだ。

 

 中忍昇格試験。

 

 もう懐かしい記憶。火影様が近いうちに開催すると仰っていたからきっとそうだろう。

 

 私も何か手伝えないかな?

 

 特別上忍として認められ外で任務をこなすようになったけれど……足りない。

 火影様はあの日からずっと志村ダンゾウや敵国の手から私を守ってくれている。

 だから、もっともっと彼の力になりたい。私にできることはなんだってしたいのに。

 

「…………」

 

 今回か次に開催される試験では、きっと()()()も参加資格を得るはずだ。

 この里のどこかにいるはずの“彼”を思い浮かべる。

 

 私、本当は……。一番力になりたいのは……。

 

 ねえ、スバル。

 

 私にできることは本当にあれだけだったの?

 

 

 

 ***

 

 

 

 中忍選抜試験。

 

 危うい場面はあったものの無事に第一の試験を突破したオレたちは、第二の試験が行われる演習場前に集合していた。

 

 第二の試験では参加予定の二十六チームでそれぞれ半分ずつ配布された天の書と地の書を奪い合い、両方の巻物を持って中央塔まで辿り着いたチームのみが次の試験に駒を進めることが出来る。

 

「……アンタ、スバル兄さんの」

 

 ここから先は死人が出るからと書かされた同意書の提出先。受付に座っていた彼女は同意書を持つオレの姿を認めて瞳をまん丸にさせる。

 一度だけスバル兄さんの墓前で話したことがある覚方セキだ。

 

「サスケくん?」

「なによ、セキ。うちはの子と知り合いだったの?」

「彼はスバルの弟ですから」

「あ……そう、だったわね」

 

 試験官であるみたらしアンコが気まずそうな顔をする。

 

「今さ、今さ! スバル兄ちゃんの話してた?」

 

 オレの後ろから顔を出したナルトは試験官を見て「げっ」という顔をした。

 

「うずまきナルト君だよね。スバルがキミのことを話してたことがあって」

「こっ……」

 

 ピシリ。一瞬石になったナルトがコソコソとオレに耳打ちしてくる。

 

「この女の人知ってるってばよ……!」

「お前が?」

「“ムッツリスケベ”がスバル兄ちゃんとこの人の三人で写った写真を見せてきたことが」

「……ムッツリスケベ」

 

 ナルトの話はいつもこうだ。一つ分かったと思えば次には別の疑問が出てくる。

 

「そのムッツリ野郎がスバル兄さんたちとの写真を持ってることと、何の関係があるんだよ」

 

 そう言いつつ内心気になってしょうがなかった。

 スバル兄さんの写真はとても少ない。

 オレや()()()が頼み込んだ時は少し困ったような顔をしながらも撮らせてくれたが、あまり得意ではないのか母さんたちがカメラを向けようとするたびに姿を消してしまう人だったから。

 

 そんなスバル兄さんが家族以外と写真を撮っただと?

 

「ムッツリが『私はスバルくんと一緒に中忍試験を受けて合格したエリートですよ』っていうからさぁ、オレってばてっきり嘘だと……」

「……それってもしかしてエビスのこと?」

「やっぱり本当だったのかぁ!?」

 

 セキは口元に手を当ててくすくすと笑う。

 

「……キミは昔のスバルみたいに“読みやすい”ね。それにしてもエビスをムッツリだなんて。あそこまで真面目な人なかなかいないのに」

「真面目とムッツリは両立するんだってばよ」

 

 腕を組んで「ウンウン!」と頷くナルト。

 

「私もスバルも中忍試験でどれだけエビスに助けられたか」

 

 穏やかに微笑んだセキがこちらに手を差し出してくる。

 

「同意書、貰っていいかな」

「ああ……」

 

 三人分の同意書を受け取ったセキは最後までしっかり目を通すと眉を下げた。

 

「私の時は書かなかったのに……」

「それってばオレたちより簡単な試験内容だったってこと?」

「言っておくけど、この子が受けた第二の試験は過去一番合格者が少なかったわよ」

「……どういうことだってばよ?」

 

 試験官が「あれは当時の試験官運が無さすぎたのよ」とため息をつく。

 セキはオレたちの同意書をテーブル横の箱に入れつつ苦笑するだけだった。

 

「第二の試験を通過したのはセキの班を含む四チームのみ。最近ならあり得なくもない数字だけれど……今とは時代が違うからね」

「…………」

 

 時代。スバル兄さんやあの男と自分を比較するたびに、母さんやアカデミーの先生たちは揃って「あの頃とは時代が違うから」と口にしていた。

 

「忍界大戦や九尾襲撃事件……まだまだ傷の癒えぬ木ノ葉では今よりも早くアカデミーに入学させて卒業させ、どんどん中忍に昇格させていたもの。どこもかしこも人手が足りていなかった」

 

 試験官は過去を懐かしむように目を細める。

 

「今でこそ他国への牽制目的で命懸けで中忍試験に挑ませるけど、昔はそうじゃなかったのよ? 今より同盟国も少なかったから自国の戦力を見せつける必要もそれほどなかったし……何より貴重な人材を試験で失うことすら惜しい状況だったから、受験生が死なないよう最大限配慮されていた」

「……イタイさんの札に守りの加護があったんですよね」

「それだけじゃないわよ。死の森周辺にはちゃーんと暗部が待機してたんだから」

 

 ある程度命の保証がある状態で合格したのがたったの四チーム。

 セキの様子からして受験生には知らされていなかったようだが、それだけ内容が過酷だったということだろう。

 

 そんな試験をスバル兄さんは……。

 

 考え込んでいたオレと目が合ったセキはちょっとだけ意地悪そうな顔をする。

 

「試験内容はお姫様役になったスバルを救出する、だったんだけどね」

「…………」

 

 そんな試験をスバル兄さんは……。

 

 まったく同じことを、さっきとは別の意味で反芻した。

 

「それは言っても、あの頃の中忍試験は戦争の延長みたいなもの。戦争に参加する人にわざわざ同意書なんて書かせないでしょ? 今より命が軽い時代だったから、同意を得る必要すらなかったってこと。分かった?」

「わ、分かったってばよ」

 

 オレたちは戦争も木ノ葉に甚大な被害を齎したという九尾襲撃事件も経験していない世代。

 後者が起きた時、オレはすでに生まれていたらしいがまったく記憶にない。

 

「アンコさん。ちょっといいですか」

「ええ。セキ、このまま頼んだわよ」

「はい」

 

 補佐役に呼ばれた試験官が受付から離れていく。

 

「サスケくーん! こっちにナルトが来て……るわね、やっぱり」

「さ……サクラちゃん!」

「同意書の提出くらい一人でいいってサスケ君に言われてたでしょ!」

 

 ナルトが角を生やしたサクラに頬を引き伸ばされながら連れ去られていった。

 セキはそんな二人をぽかんとした表情で見送っていたが、やがて微笑ましいものを見たかのように目を細める。

 

「いいチームだね」

 

 差し出されたのは引換券のようなもの。

 これを黒塗りの幕が下ろされているもう一つの受付に提出して巻物と交換するらしい。

 今はまだ交換時間外の為、誰かが並んでいる様子はない。

 

「……頑張って」

 

 なんと答えるべきか悩んだ末、頷くだけに留めておいた。

 

 

 

 ついに第二の試験が始まった。

 

「くっ……」

 

 ドクドクと血が流れていく左腕を押さえる。それよりもさらに強く痛みを発するのは首元。その焼けるような熱さと痛みに触れることすら躊躇するほどだった。

 

 死の森と呼ばれる演習場に足を踏み入れてから、およそ数時間後。

 同じ受験生から奇襲を受けたところまでは良かった。

 誰が来ようと全力で迎え撃つ。その心構えで臨んでいたおかげだろう。オレたちは大きな動揺もなく比較的冷静に敵の存在を受け入れた。

 でも……。

 

「さあ、これからその身に流れるうちはの血で私を楽しませてちょうだい!」

「サスケ君に何をしたの……!?」

「アナタには関係のないことよ」

 

 オレを庇うように立ち上がったサクラがギリッと歯を食いしばる。

 敵はたった一人。額当てを見たところ草隠れのくノ一。

 

 うちはの、だと……?

 

 草隠れは木ノ葉隠れと同盟関係にあるというのに、まるで目的は別にあるかのような口ぶりと態度。

 その証拠に、オレから奪った天の書を見せつけるように目の前で燃やしていた。

 

 この女は一旦席を外したナルトと入れ替わるようにオレたちの前に姿を現した。

 

 どうしてナルトは姿を現さない? この女にやられたのか、別の仲間に捕まったのか……。

 

「サ、サスケ君……血が……それに首元のその痣は……!」

「……こんなの、何ともなっ、」

 

 より一層大きな痛みに視界が大きく揺れた。

 

「うっぐぁ、ああああ!!」

「サスケ君!!」

 

 オレの名を呼ぶサクラの顔が涙でぐちゃぐちゃになっている。

 

「なるとぉ……! どうして……どうしてこんな時にいないのよ!」

 

 ――アイツは無事なのか?

 

 痛みで身も心も引き裂かれそうになる中、それだけが気がかりだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 オレってば、なんでこんなところにいるんだ?

 

 うーんと眉間に力を入れて記憶を手繰り寄せる。

 

 中忍試験の第一の試験をクリアしてぇ……第二に進んだ。うん、ここまでは覚えてるってばよ。

 そんで、第二の試験会場は死の森なんて呼ばれてる物騒な演習場。いつだったか火影の爺ちゃんにサスケと一緒に修行するから使わせてくれって頼み込んで断られた場所だ。

 演習場の出入り口と直結してる受付所で巻物を受け取って、そのまま森に……。

 

「どういうことだってばよ……?」

 

 目の前に広がるのは、何度も何度も見上げてきた火影岩の真下の景色。

 

「あれぇ……?」

 

 オレってば確かに森の中にいたはずなのに。……うんうん、いた。絶対にいた。

 天の書をどちらが持つかでサスケと喧嘩して、負けて、そんでもってタイミング良く尿意がきたからサスケ達と離れて用を足しに行ったんだってばよ。

 

「そんなところに突っ立ってどうした。また火影様たちの顔岩に落書きしようとか思ってるんじゃないだろうな?」

 

 オレ以外誰もいないと思っていたこの場所に突然現れたのは、イルカ先生。ちょっと困ったような顔で笑ってる。

 

「イルカ先生がなんでここに。今は中忍試験で来られるはずが」

「はは、寝ぼけてるのか?」

 

 イルカ先生はいつものように優しい笑みを浮かべてオレの肩を叩いた。

 

「下忍になったばかりで疲れてるんだな。……よし、一楽にでも行くか。奢ってやる!」

「いっ……かないってばよ! オレってばこんなことしてる場合じゃなくて、サスケ達が!!」

「オレがどうかしたの?」

 

 慌てて声がした方を振り向く。そこにいたのはサスケ――だけど、どこか違う。

 

「……サスケ?」

「そうだよ」

「……お前ってばそんな口調……じゃなくて、縮んで、る……?」

「それより早く行こうよ。兄さんが待ってるかもしれないから!」

「兄さんって……待てってばよ!」

 

 強引に手を取られる。

 

「イルカせ――」

 

 サスケに引きずられながら顔だけを後ろに向ける。

 

「え?」

 

 そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 

「ただいま! 兄さん、もう帰ってる?」

「お、お邪魔しまぁ……す?」

 

 うちは一族の集落は、明るい顔をしたサスケが駆け込んでいくには不自然なくらい静まり返っている。

 

 サスケの家……入るのは初めてだ。

 

 どことなく景色がぼやけているような気がしたうちはの商店街と違って、サスケの家に入った瞬間から何もかもが鮮明になった。

 

 綺麗に整えられた玄関横の棚に飾られた花瓶に、そこに生けられた薄ピンク色の花。

 

 オレってばこれまで友達の家に遊びに行ったことなんて一度もないから……!

 

「こういう時靴ってどうしたら……なるようになるってばよ!」

 

 とりあえずサスケの靴の隣に並べて、向きも揃えておく。

 

「兄さーん? まだ帰ってないの」

 

 オレを置いてどんどん家の奥へと進んでいくサスケ。

 

「あれって……」

 

 通り過ぎようとした居間で立ち止まる。

 

「おかしいなあ、お昼には帰ってくるって言ってたのに」

 

 サスケの声がどんどん離れて小さくなっていく。オレは吸い込まれるように居間に足を踏み入れた。

 居間には四角いテーブルに、テーブルを囲むようにして置かれた座布団が四つ。

 その奥には小さな引き出しがあって、その上にはいくつかの写真立てが並んでいた。そのうちの一つを手に取る。

 

「サスケと、うちはイタチ……?」

 

 オレはサスケの笑顔を一度しか見たことがない。それは今よりもずっと幼く、写真として残っていた()()でしかなくて……。

 

 だから、ちゃんと覚えてた。

 

 サスケの兄ちゃんがオレの家で静かに本を読んでいた時に、ふとそれを見ては穏やかな表情を浮かべていたことを。

 

 それはなんだと聞けば、じっとそれを見つめたまま何も答えてくれなかったこと。

 

 兄ちゃんに二度と会えなくなってから、兄ちゃんの僅かな荷物を整理してる時に偶然見つけたこと。

 

 そこには、オレが一度も見たことのない表情で笑っているサスケに、そんなサスケを抱き上げながらうちはイタチの肩に手を置いている――そんな、スバル兄ちゃんの姿が。

 

 ミシッと床が軋む音がした。顔に影が差しているサスケが、オレと、オレが持っている写真を交互に見つめている。

 

「……何してるの? 兄さんはいないし、ナルトはこんなところにいて、オレだけがひとりぼっちだ」

「サスケ……」

「兄さんが帰ってくるまでここで待っていようよ!」

 

 パッと映画か何かで画面が切り替わった時のように、サスケはいつの間にか四つある座布団の一つに座っていた。

 

「ナルトは兄さんのところに座って。そこと、それは父さんと母さんのだからダメだよ」

「なんで、なんで……スバル兄ちゃんの分がないんだってばよ?」

「……だれのこと? オレ、知らないよ」

「サスケェ!!」

 

 するりと手から落ちた写真立てのガラス部分が割れる。飛び散ったガラスの破片の中に躊躇なく手を突っ込んで中の写真を引っ張り出した。

 

「この写真も……! スバル兄ちゃんと写ってる最後のやつだって言ってたのに! なんでスバル兄ちゃんだけが消えて……」

 

 じわりじわり、目に涙が溜まっていく。

 途端に不安定になった“世界”は真っ黒な闇に包まれていった。サスケの家という器はとっくに取り払われ、ここにはオレとサスケしかいない。

 

「……それが」

 

 サスケがぽつりと呟いた。ジジジ……と音を立ててその姿が歪んでいく。

 歪みは次第に落ち着いていき、()()()()()()()少年の姿へと変わる。

 覚えのある冷たい瞳がオレを射抜いた。

 

《おれの のぞみだから》

 

 

 ハッと勢いよく起き上がる。荒い呼吸を繰り返し、額にはいくつもの汗が流れた。

 

「オレってば……」

 

 ピィピィとどこかで鳥の鳴き声がする。鬱蒼と生い茂る緑の濃厚な匂いと、湿った土の匂い。

 

「……森?」

「……ナルト、アンタねぇ……!!」

「えっ」

 

 殴られたと理解した時にはオレの身体は吹っ飛んでいた。

 いっ、痛いってばよ!?

 

 吹っ飛んだ身体を受け止めてくれたのが岩じゃなくて木だったのは不幸中の幸い。

 ズキズキと痛む背中に構ってる余裕もなく恐る恐る顔を上げる。

 

 そこには般若がいた。

 

「レディの前でお花摘みしようとしたり、肝心な時に不在だったり、見つけたかと思えば敵の幻術に掛かって呑気に寝てるわで一体どーいうつもりなの!? アンタがそんなだから、サスケ君が、サスケ君が……!」

 

 鬼から弱々しい女の子に変わったサクラちゃんがわっと泣き出してしまった。

 

「あれって幻術……じゃなくて、サスケがどうしたんだってばよ!?」

「大蛇丸っていう変なヤツがサスケ君に……サスケ君にぃ……」

「なっ、泣いてたら分からないってばよ……」

 

 これはもう自分の目で確かめたほうが早い。

 

「サクラちゃん、サスケは今どこに――」

 

 サクラちゃんが手の甲で乱暴に涙を拭いながら目の前から退いた。

 ちょうどサクラちゃんで影になって見えなくなっていた位置に横たわるサスケが……。

 

 その光景が波の国での出来事と重なる。

 

「サスケ!! なんでお前が」

 

 駆け寄って肩を揺する。

 

「うっ……」

「ナルトやめて! サスケ君、酷い熱なの」

 

 生きてることが分かって力が抜けた。へなへなとその場に座り込む。

 

「オレが幻術なんかに掛かってたからサスケが……」

「そ、それはアンタ一人の責任じゃ……」

 

 でも、サクラちゃんだって。

 サクラちゃんの罪悪感に満ちた表情と、その頬を流れる涙を見てしまったら言葉にするのは憚られた。

 

 サスケ達を襲った大蛇丸という草隠れの忍に天の書も燃やされてしまったらしい。

 

「これからどうするの……? 私たちだけじゃ、二つも巻物を集めるなんて無理よ」

「……サスケが起きるのを待つ。今日はここで朝を待つってばよ」

 

 サスケがオレだったら、きっとこうしたはず。

 サクラちゃんはきょとんとした表情でオレを見上げていた。

 

「完全に日が落ちる前に何か食べられそうなもの探してくる! サクラちゃんはサスケから離れずに、この近くで燃やせるものを探しといてくれってばよ」

「う、うん!」

 

 力強く頷いたサクラちゃんが早速作業に取りかかる。

 

 オレってばいつまでもサスケに頼ってばかりじゃダメだ。もっとたくさん修行して、サスケもサクラちゃんも守れるくらいに……。

 

 得意ではないなりに念入りに周辺の気配を探ってからその場を離れた。

 




【補足】セキの「少しかじった」は一般的には「猛勉強した」と同じ(本人無自覚)
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