じんせいみてい!   作:湯切

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第四十五話 積み木

 以前影分身としてこの身に受けたガイ大先輩の“木ノ葉剛力旋風”。

 

 流石に写輪眼無しだと目で追うことすら出来なかったから、全部感覚だ。

 でもちょっとだけコツを掴んだ気がする。

 

「ぐっ……これは、あの全身タイツ男と同じ……」

『…………』

 

 タイツ……。ガイ大先輩のことを言ってるのか?

 

 後方に蹴り飛ばされていった男は、刀を地面に突き立てて勢いを殺していた。

 まるで鰹節のような抉れ方をしている地面に目を細める。例えは自分でもどうかと思うけど他にいい表現が見つからない。どうやら普通の刀ではなさそうだ。

 

「その体術……形は限りなく近いですが、どうやら威力はお粗末のようですね」

『……もう一度言ってみろ』

「おや、地雷を踏んでしまいましたかね。威力がお粗末だと、」

『違う。もう少し前』

「…………形は限りなく近い」

『それだ』

 

 つまり、見た目だけでもガイ大先輩に近づけたってこと。

 お面の内側でちょっとだけニヤける。そうかそうか。限りなく近い、ね。影分身も報われるってもんだ。

 

 目の前の男は真顔のままだった。

 

「変わった人ですねぇ……。このやりとり、妙に覚えがあるような……」

『陸で生きてるサメなんてこれまで会ったこともないが』

「……私の持つ大刀・鮫肌は生きたサメのような存在ですが、陸でも水中でも問題なく呼吸ができますよ。そもそもサメという生き物は――」

『サメ博士なんだな』

「…………」

 

 やけに熱心にサメについて語り始める男。その知識量に素直に感心する。陸に長時間いても死なないサメがいるなんて知らなかった。

 

「写輪眼にその発言、アナタはまさか……」

「こんなところで何をしている、鬼鮫」

 

 その声を聞いた瞬間、今日起きた全てのことがあっという間に頭を巡り――影分身の奇妙な行動の理由すら分かったような気がした。

 

 サメに詳しい男の背後から、まったく同じ格好をした人物が姿を現す。被っている笠のせいで顔は見えないが……声だけで俺には十分だった。

 

「…………」

『…………』

 

 ――イタチ。

 

 僅かに笠を持ち上げたイタチと目が合う。

 お互いに表情は変わらず、ただ相手の写輪眼に呼応するかのように瞳に広がる海が波打っていた。

 

「……あなたは」

「またお知り合いの方ですか、イタチさん。アナタも顔が広い」

 

 イタチの連れと思われる男は俺に向けていた刀を下ろす。

 

「うちは一族の生き残りはアナタともう一人だけだと聞いていましたが」

「彼は一族の者ではない」

「……なるほど。そういうことですか」

 

 瞬時に状況を理解したイタチが息を吸うように嘘を吐く。

 

「オレはこの人と話すことがある」

 

 先ほどイタチに鬼鮫と呼ばれた男はやれやれと肩をすくめ、やがて姿を消した。

 イタチが行動を共にしていたということは、例の暁という組織の人間だろう。

 

 鬼鮫の姿が完全に消えたことを確認したイタチが笠を外し、身を包んでいた外衣から片腕をのぞかせた。見覚えのない指輪をしている。

 

「スバル兄さん」

 

 数年ぶりに見たイタチの顔には疲労が滲んでおり、両眼の万華鏡写輪眼は以前のまま――移植はしていないようだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「カカシのヤツ、人を呼び出しておいて急用とはな……」

 

 大事な話があると言われてわざわざ茶屋まで足を運んだというのに、肝心な本人が話をする前にいなくなるなんて。

 

 とりあえずうちはの集落まで戻ってきたものの、ナルトはすでに出かけたようだった。そういえばラーメンを食べに行きたいと言っていた気がする。

 玄関で靴を脱ぎ、行儀は悪いが足で隅に寄せた。どうせすぐ後で履くだろうからどうでもいい。

 

「…………」

 

 昨日ナルトが家に泊まったせいか余計に家が広く感じる。元々は五人で住んでいたんだから当然だ。

 居間に向かう途中、意味もなく壁に指を添えてみたり、寄りかかってみたりした。

 ……なんでこんなことをしてるんだろう。すぐ我に返ってやめた。急に暇になると碌なことがない。

 

「……はぁ。オレの方から行くか」

 

 ついでに買い出しもしよう。冷蔵庫の中身を確認し、頭の中で買い物リストを作成してから家を出た。

 

 

 

 カカシの住む部屋の扉を開けようとしたら、部屋の中から数人の話し声が聞こえた。内容までは分からない。

 

 もう帰ってきていたのか。

 

 無駄足にならずに済んでホッとしながらドアノブに手をかける。話し声はすでに聞こえなくなっていた。

 

「サスケか」

「……どうしてカカシが寝てる。それに、ここで何を」

 

 カカシの部屋には三人の上忍がいた。部屋の主はベッドに寝かされていてその目は固く閉じられている。一目で何かあったのだと分かった。

 

「いやこれはだな……」

「――あのイタチが帰ってきたって話は本当か!? 狙いはナルトだっ…………あっ」

 

 笑って誤魔化そうとしていたマイト・ガイの言葉を遮ったのは、後から部屋にやってきた別の忍。

 

「……イタチ、だと?」

 

 あの時、急用が出来たと突然姿を消したカカシ。入れ替わるように茶屋にやってきたアスマたちはカカシの行き先をオレに尋ねて、何故かカカシとは逆方向へと消えて行った。

 

「イタチがナルトを……?」

 

 一体何が起きてる。何故あの男が今更木ノ葉に。ナルトをどうするつもりだ。

 

「待つんだ、サスケ!!」

 

 気づけば走り出していた。上忍達が追いかけてくる気配がしたが、彼らの動きは妙にぎこちなく、驚くほど簡単にまくことができた。

 

 木ノ葉にいて、カカシほどの実力者をあそこまで追い詰められる人物がどれくらいいる?

 

 少なくともオレは知らない。カカシはいつだって余裕そうで、オレやナルト達の攻撃を難なくかわして二倍三倍で返してくるような奴だ。

 

 そんなカカシの余裕の笑みが剥がれたのは、再不斬や白という少年と戦った時だけ。そもそも木ノ葉の人間が仲間であるカカシ相手にあそこまでやるとは考えにくい。

 

 やはり、イタチなのか……?

 

 あの男はナルトを狙っていると言っていた。カカシはそれを止めようとして……?

 

 なぜだ? なぜナルトを狙う必要がある。何の目的があって? 分からない。あの男の考えは昔から……。

 一つだけ確かなのは、イタチが()()オレから奪おうとしているということだけだ。

 

 大好きだった兄、両親、一族。そして――――

 

 ギリッと拳を握りしめる。

 

「ここにナルトが来なかったか? 来たのなら、今はどこにいる!?」

 

 ナルトが外でラーメンを食べる場所といえば一楽しかない。暖簾をめくった先にいた店主に矢継ぎ早に言葉を投げつける。

 

「急ぎなんだ! ナルトはどこに行った?」

「ナルトなら自来也さんと一緒に取材旅行だとか……言ってたような」

「自来也?」

 

 聞き慣れない名前だ。

 

「彼は伝説の三忍の一人でね。ああ……里の外れにある宿場町が目的地だと言ってたよ。知ってるだろう? ファンファン通り」

「…………」

「あそこは男の…………やめておくか」

 

 店主は自分の話し相手が成人男性ではないことにやっと気づいたらしい。ごほんと気まずそうに咳払いしている。

 

「……分かった、行ってみる」

「次来た時はラーメン食っていきな!」

 

 その言葉には返事をせずに駆け出した。

 

 

 

 一楽の店主は自来也という男を「白髪で図体のデカいオッサン」だと言っていたな。

 宿場町と呼ばれてるだけあって宿屋の数はそれなりに多い。しらみつぶしに探し回るしかないのか?

 

 ちょうどすれ違った男女の会話が耳に届いた。

 

「さっき伝説の三忍見ちゃったよ」

「どこにいたの?」

「忍民の横にある宿屋の受付だったかな。自来也様、木ノ葉に帰ってきてるって噂は本当だったんだなぁ……って、なに!?」

「その宿屋はどこにある」

「忍民の……」

「その忍民は!?」

 

 見たところ忍ではない男には、オレが瞬間移動してきたように見えたかもしれない。

 男には悪いがこちらも時間が惜しいんだ。

 

「えっと、あっちに……ほら看板が見えるだろ?」

「……あれか」

 

 男が指差す方向には『酒処 忍民』の看板がぶら下がっている。すぐ目の前だった。

 

「な、なんだったんだよ!?」

「ねぇ怖いよ、早く行こ……」

 

 男は一緒にいた女に引きずられるような形で離れていく。

 オレは忍民の隣にある宿屋に入り、受付で教えてもらった部屋へと急いだ。

 

「……ナルト!」

 

 頼む、無事でいてくれ。

 

 ドクドクと胸の鼓動が煩い。痛い。苦しい。それは、まるであの夜の再現のよう。

 

 一族の集落に足を踏み入れた瞬間に鼻をついた濃厚な血の匂いに、折り重なるように倒れている死体の数々。

 

 あの夜のオレも今と同じように走っていた。全部悪い夢であれと願っていた。

 

 家まで走って走って走り続けて……そして――長い夢からさめたんだ。

 

 

「なんで……お前がここにいるんだってばよ」

 

 ナルトが泊まっているという部屋にたどり着くと、僅かに震えた声が廊下に響いていた。

 

 ……無事だ。

 

 怪我も見当たらず、普通に立っているナルトの姿を見た途端に肩の力が抜ける。しかし、ナルトの視線の先にいる人物を見て凍りつく。

 

「うちはイタチッ! お前がスバル兄ちゃんやサスケにしたこと、オレは……!!」

「――――久しぶりだな、サスケ」

 

 こちらに背を向けていた二人のうち、ナルトの前に立っていた男が振り返る。

 奇抜なデザインのマントが翻り、記憶にあるより細くて長い腕が見えた。

 

 うちはイタチ。

 

 怒りに伴う熱で目の前がチカチカした。

 

「さ、サスケ?」

「ナルト……そいつから離れろ」

「それはお前の方だろ! イタチはきっとサスケを」

「その男の狙いはお前だ、ナルト!!」

「えっ?」

 

 ここまで全力で走ってきたせいかもう息切れしている。来る途中から制御できずに写輪眼になっていたから、チャクラも消耗してるはずだ。

 

「オレはこの日のために生きてきたんだ」

 

 だが関係ない。どんな手を使っても目の前の男を殺す。それだけの為に絶望の中でも命を絶つことなく生き続けてきたんだから。

 

「……少しは変わった、か」

「ナルトをどうする気だ」

「お前に話す必要はない。……うずまきナルトは連れていく」

 

 殺したいほど憎い男を前にしてまだ冷静さを保っているのは、ナルトがいるから。オレの復讐にアイツを巻き込むつもりはない。

 

 イタチの隣に立っていた長身の男がオレの目を見て「やれやれ」とため息をついた。

 

「今となっては希少な写輪眼をこうも立て続けに見ることになるとは……些かありがたみに欠けるといいますか」

「カカシをやったのもお前たちか」

「それだけではありませんがね……」

 

 イタチが「よせ」と言うように長身の男に目配せする。

 

 イタチ達に隙が生じたと思ったナルトがホルスターに手をかけたが、クナイに指が触れる前にイタチに首を掴まれてしまった。

 壁に背中から押し付けられたナルトの口から苦しげな呻き声が漏れる。

 

「……ぐっ!!」

「大人しくしていれば危害は加えない」

 

 ナルトが眉を寄せながらニヤリと笑う。

 

「そんな脅し……ぜんぜん怖くないってばよ」

「この鮫肌で右足か左足か……身体から切り離された時にその強がりが続くか試してみますか?」

「――やってみろ。足がなくなっても、手がなくなっても、オレは絶対諦めない」

「…………ナルト?」

 

 ナルトの周囲に禍々しい気配が渦巻いていた。これは――チャクラ?

 イタチがナルトから手を離して長身の男と共に後退する。

 

「九尾の……これほどまでとは」

 

 ナルトはオレを庇うようにこちらに背を向け、その横顔からはどこか鋭さを感じる。

 

「やめろ、ナルト! お前には関係ない」

「関係あるだろうが!!」

 

 廊下に響いた怒鳴り声に次の言葉が引っ込んだ。

 

「オレはお前みたいに、復讐とかうちは一族の無念を背負って生きていくとか、難しいことは正直よく分かんねェ。……でもスバル兄ちゃんのことは関係なくないだろ。これだけは、唯一オレがお前のことで理解できる『痛み』だ!」

 

 ……こいつは、本当に。

 

「一緒に戦うからな」

「…………好きにしろ」

 

 どうせ言ってもきかない。勝手に口元が緩むのを止められなかった。

 

 

 ――雷鳴。

 

 印を結ぶ。ゆっくりと持ち上げた左手から迸るチャクラが、静電気の如く身体の表面を駆け抜けていく。

 

「…………千鳥?」

 

 怪訝そうに呟いたイタチの声すら、爆ぜるようなチャクラの音にかき消された。

 

「多重影分身の術!」

 

 瞬く間に周囲は煙に包まれ、中から飛び出してきたナルトの影分身がイタチ達に飛びかかる。

 

「影分身を一度にこれだけ作り出せるとは、厄介な人柱力ですねぇ……」

 

 長身の男が刀を一振りしただけで次々とナルトの影分身が消えていく。消えるというより、チャクラを吸収されているのか?

 

「数だけ多くても無意味だ」

 

 イタチは一気に飛びかかってきたナルト達に手裏剣を命中させ、影分身が音と煙を出しながら消えた。

 

「――無意味じゃねェ」

 

 どこかにいるナルト本体の声。

 

 怯むことなく突っ込んでいく影分身達に紛れていたオレは、最後は影分身が消える時の煙に身を隠し――千鳥を纏った左手をイタチに振り下ろした。

 

 完全に煙が晴れ、至近距離で鳴り響く千鳥の音に気づいたイタチは、驚くほどの速さでオレの左手を掴み取った。

 

 これを止めるのか……。あの日から埋まるどころか広がっているイタチとの差に焦燥感を抱く。

 

 まだだ、まだ終わってない。

 

 

 ――うでを つかまれたら

 

 期待の目をして見上げてくるオレに、スバル兄さんは指文字とともに分かりやすく教えてくれた。

 

 ――こうやって てをひらいて あいてにふみこむ

 

 相手と力の差があるなら尚更。オレは今のオレにできることをやる。

 

 オレの左手を掴んで離さないイタチに対して左足を大きく踏み込む。

 

 ――てをうえにあげるように ふりほどく

 

 イタチの手が離れた。これまで一貫して無表情だったイタチの顔が微かな動きを見せる。

 

 ――すぐににげろ にげられないなら

 

 ――つぶせ

 

 

 身体を大きく捻り、両手を床についた状態で、地面から突き上げてくる岩をイメージした全力の蹴りを放つ。

 

「なっ!?」

 

 今までで一番自信のある蹴りだった。だというのに、イタチはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()大きく飛び上がってオレの蹴りを完全に回避した。

 

「今のは……」

 

 難なく床に着地したイタチ。しかしその表情には動揺が見え隠れしていた。

 

「…………スバル、兄さんの」

 

 懐かしむように細められた目は、記憶の奥底に沈められていた“優しかった頃の兄”とまったく同じ色をしていた。

 




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うちは三兄弟、無事に兄(弟)摂取完了
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