じんせいみてい!   作:湯切

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飛花編
第四十七話 あなたを守るもの


 イタチがナルトに接触したという事実は、あっという間に木ノ葉で暮らす人々の間に広まった。

 

「うちはサスケと上手く立ち回ったらしいじゃないか! あの落ちこぼれが……」

「お前、中忍試験でのあの二人の活躍を見てないのか? 凄いやつだよ、ナルトは」

 

 ナルトの中忍試験での活躍は今でも頻繁に耳にする。あの時からだろうか。里の人間のナルトへの評価が、がらりと変わりはじめたのは。

 

 うちは一族での自分の立場を思い出せば、手放しで「良かった」とは思えない。ナルトはどう感じたんだろう。

 ただ、ナルトの努力が相応に認められたことは……とても嬉しかった。

 

 里の人間が知っているということは、当然、根も知っているということ。

 

 イタチが木ノ葉に現れた数日後、久しぶりに根における主要メンバーが屋敷に集められた。

 

 ここにいないのは長期任務で不在の者くらいで、隊長を任されている者は大体揃っている。

 

 俺の部下で屋敷に残っていたのはイロだけ。彼も分隊長に配置されているので招集対象だった。

 

 基本的にダンゾウの屋敷を拠点とする部隊の隊長である俺とモズ、拠点が屋敷外にある部隊を率いる山中一族のフーや油女一族のトルネ、屋敷どころか里外に拠点を持つ部隊もいくつか存在する。

 フーやトルネ達とは何度か話したことがあるが、里外の部隊に会うのは、根が三代目によって解体された時以来だった。

 

「暫く見ないうちに、以前より優秀なのが揃っているな。貴方の隊の者か?」

 

 親しげに話しかけてきたのは、熊の面を被った男。俺が何も言わないので、向こうも気まずそうに黙ってしまった。

 

 わざと無視したわけじゃない。……誰だったかなと思って。

 俺にタメ口ってことは隊長クラスだろうが、外の部隊に熊の面を被ってる奴なんていたか?

 

 ……思い出した。いたな、こんな人。ユノと同時期に根の試験に合格した人だったはず。ユノが、優秀な同期がいると肩身が狭いと何度か愚痴っていた。

 

『……ええ。俺の部下です』

 

 とりあえず時差有りで返事をしてみた。隣にいたイロが熊面の男に会釈する。

 

 敬語が必要かどうかは微妙なラインだが、ユノの同期ということは一応先輩にあたる。

 俺がダンゾウやモズ以外に丁寧な口調なのが珍しいんだろう。イロが興味津々にこちらを見ていた。

 

 これ以上屋敷の入り口で話し込むわけにもいかない。ダンゾウの提示した時間より少し早いがイロに声をかけ、先にダンゾウの待つ部屋へ向かうことにした。

 

 

 

「お前達を屋敷に集めたのは他でもない」

 

 上座にいるダンゾウは集まった根の人間をぐるりと見渡し、満足げに頷く。

 

「大蛇丸による木ノ葉崩しや、先日のうちはイタチの件は聞いているな」

 

 全員頭を伏せたまま、ダンゾウの次の言葉を待つ。俺の隣で片膝をついているイロが、イタチの名前で反応したのが分かった。

 

「うちはイタチの目的は人柱力であるナルトだったとされているが、それは大きな間違いだ。奴はうちはサスケの安否を確認し、ワシを牽制するために姿を見せたのだろう」

 

 イタチの意図が正しくダンゾウに伝わっているのは喜ばしいが、こうも察しがいいと複雑でもある。

 

「とはいえ、暁の目的が九尾というのは嘘ではないようだ。根はこれまで以上に木ノ葉を脅かす存在に目を光らせる必要がある」

 

 ダンゾウがその場から立ち上がる。

 

「これまで木ノ葉を外から支えてきた部隊は、暁の活動内容やその思想に至るまで、全て調べ上げるのだ。いいな?」

「お任せください」

 

 熊の面をつけた男が代表として発言した。

 

「屋敷外の部隊は、うちはイタチを追え。里外の部隊と連携し、少しでも怪しい動きを見せれば報告するように。可能であれば抹殺しても構わぬ」

「承知いたしました」

 

 今度はトルネが声を発した。俺の心は僅かにざわついたものの、フーやトルネ達が優秀とはいえイタチがそう簡単にやられるとは思えず、小さく息を吐き出すだけで済んだ。

 

 ここにきてからなんだか変だ。どうも嫌な予感がする。気のせいであってほしい。

 

「そして、クロネコ」

 

 黙って顔を上げる。流れ的に屋敷内の部隊としてモズと一緒に呼ばれるのだと思っていた。

 

 木ノ葉組は俺のダンゾウに対するちょっと不遜な態度には慣れっこだが、里外の連中はそうではなかったらしい。数人が驚いたようにこちらを振り返っていた。

 

「お前の部隊は大蛇丸だ」

 

 嫌な予感の正体はまさか。以前大蛇丸相手に『ご縁ができましたね』などと言って菊理媛(ククリヒメ)を発動したのがいけなかったのか?

 

「あやつは殺しても死なぬような男だ。お前達に任せるのは、大蛇丸のアジトや研究施設を探し出し、時間をかけて一つずつ潰していくこと」

 

 大蛇丸の研究施設とかトラウマでしかない。

 

 不屈の精神・巨が搭載されているダンゾウは、終始無言な俺の態度を気に留めることすらせず、最後にモズに目を向けた。

 

「モズ」

「はい」

「今抱えている任務は全て部下に引き継ぎ、これから与える任務が終わるまではお面を外せ」

 

 ……暗部がお面を外すということは。

 

「以前と同様にスイと名乗れ」

 

 モズがお面を外して懐に仕舞った。

 

 モズの素顔を見た一部の人間がざわついてる。里外に拠点を持っている奴らだ。

 モズはなんかこう、他では見ない珍しい顔つきなので気持ちは分かる。

 

「すでに自来也がうずまきナルトを連れて、綱手姫を探そうと里を出ている。その為、はたけカカシの班は早急に人員を補充しなければならぬ。カカシ自身もイタチの幻術を受けて動ける状態にないのは知っているな」

「私は、はたけカカシの代わりに七班の担当上忍になるのですね」

「そうだ。相談役からの了承は得ている」

「承知いたしました」

「人柱力には自来也がついているから心配はいらぬだろう。もしも大蛇丸がうちはサスケを狙ってきたのなら、お前が適切な対処をするように」

「適切……というのは」

 

 こんなにもダンゾウの言葉を一言一句聞き漏らさまいと集中したのはいつぶりだろう。

 

 モズも『適切な処理』という表現に引っ掛かりを覚えたらしく聞き直していた。

 

 モズは影真似による後方支援は得意だが、一人で大蛇丸に立ち向かうには戦闘スタイルや能力の相性が悪すぎる。さらにサスケやサクラを守りながらとなると、ほぼ不可能。ここでダンゾウが適切という言葉を選んだ意図は恐らく。

 

「大蛇丸と対峙し、うちはサスケを守り抜くことが不可能だと判断したならば。あやつの手に写輪眼が渡る前に、うちはサスケを始末するのだ」

 

 声も出せないのに叫びそうになった。

 

「うちはサスケが大蛇丸の手に落ちることだけは、なんとしても阻止しなければならぬ。器としても、写輪眼としても、だ」

 

 額に浮かんだ冷や汗が頬を伝い、立てた膝に乗せた俺の腕にぽとりと落ちた。ああ、本当に。この男はいつも俺の想像を超えてくる。

 

 いつもはダンゾウから命を受けたならば二つ返事で引き受けるというのに、モズは俯いたまま何も言わない。ダンゾウが怪訝そうに眉を寄せる。

 

「どうした」

「……何でもありません。お任せください」

 

 モズは目を伏せ、さらに深く頭を垂れた。

 

 

 

 モズがスイという名で、正式に第七班の臨時担当上忍となった日、俺は自室で荷造りをしていた。

 

「クロ隊長。全員支度が済んだようです」

『すぐに行く』

 

 部屋の前で声をかけてくれたイロに、少し待つように伝える。俺の足元には兵糧丸などが入った小袋に、充分な数のクナイや手裏剣、薬や包帯などが散らばっている。

 

 こんな形で木ノ葉を離れることになるとは思わなかった。

 

 小さな鞄に必要なものを全て詰め込む。念入りに確認したから忘れ物はないはずだ。

 

 これは間違いなく長期任務になる。

 

 大蛇丸のアジトや研究施設なんてどれだけあると思ってるんだ。

 木ノ葉ですら、資料には存在が示唆されているのに未だに見つかっていない施設がいくつかある。実際はもっとあるだろう。

 

 捜索対象がここまで広範囲だと……俺はもう二度と木ノ葉の土を踏めないのでは?

 

 鞄を腰に固定し、一度ぐるりと周りを見渡してから自室を出る。

 

 部屋の前で待っていたイロには、障子を開いた時に中の様子が見えたんだろう。「影分身を置いていくんですね」と言われた。

 

『チャクラが切れるまでは』

 

 顔だけで振り返って、部屋の中央に布団を敷いて眠っている(ように見えるだけで実際は寝ていない)影分身を見る。少しでもチャクラを温存できるよう、基本は眠らせておくつもりだ。

 

「ボク達が里を離れれば、木ノ葉の守りはモズさんの隊だけになりますからね」

『ああ』

「ボクもクロ隊長のような影分身を作れたら良かったのに」

『……必要ない。これはうちは一族にしか扱えないし、お前には()()がある』

 

 イロが背負っているリュックを指差す。正確には、リュックの中にある彼の道具を。

 

『根には必要不可欠な能力だ』

 

 イロの能力はよく出来ている。チャクラを込めた墨で描いたものを実体化させ、鳥であればその背に乗って移動するだけでなく、報告用に使うことも可能だ。イロの飛ばした鳥は受け取る側が巻物を用意して情報を書き出すタイプなので、鳥が敵側に見つかっても情報が漏れる心配はない。その場合は元の墨に戻るだけだ。

 

「隊長にとってもですか?」

 

 思いもしなかった言葉に目を瞬く。イロの能力には何度も助けられたから当然だ。

 何となく、俺の考えている通りの意味で聞いてきたわけではない気もするが頷いておいた。

 

「……そうですか」

 

 イロは最近よく見せるようになった綺麗な笑みを向けてきた。悪い言い方をすれば、いかにも嘘っぽい笑みだ。

 

『何か気に入らなかったのか』

「あ……いえ違うんです。本に書いてあったので」

『本に?』

 

 イロは困ったように眉を下げ、ちらっと俺を見上げながら言った。

 

「嬉しいと感じたら――ボクにはまだはっきりとその感情に確信は持てないけれど――そうかもしれないと思ったら、笑顔を手段にして自分の気持ちを相手に伝えることが、」

『…………』

「その人と仲良くなる秘訣なんだそうです』

 

 つまり、俺と仲良くなるために?

 

「隊長?」

 

 モズといいイロといい、なぜ?

 

 ユノだってそうだ。彼も人の心がないなりに、俺に向ける感情に嘘偽りがあるようには見えなかった。いつだって彼らからは純粋な好意を感じる。

 

『……ダンゾウ様に報告してから行くぞ』

「はい」

 

 木ノ葉崩しが起きた日。……ダンゾウが初めて俺の前で弱みを見せた日。

 

 弱みと呼べるかも怪しい小さな綻びは、今でも俺の中に波紋を呼び続けている。

 

 迷いも油断も、目的の前では足枷でしかない。分かってる。俺は、痛いくらい理解してる。だからまだ……大丈夫だ。

 

 開いたままだった自室の障子を閉じて、イロと共にダンゾウの部屋へ向かった。

 

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