じんせいみてい!   作:湯切

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第五十四話 飛花落葉

 九尾の人柱力とうちはサスケが交戦しているという知らせは、あっという間に里内に留まっていた暗部全員へ届けられた。

 

「五代目様からの指示だ。この隊はうちはの集落で暴れている九尾の人柱力を食い止める」

「待てテンゾウ。追加が来ている」

 

 別の隊を率いる男が、飛んできた鳥を肩に乗せたままこちらを振り返る。

 

「九尾の方は自来也様がすでに対処済みだそうだ。お前の隊もうちはサスケの元へ向かった方が良さそうだな」

「では、数人だけを自来也様の元へ。残りは僕と一緒に行こう」

「分かりました」

 

 部下たちと共に更衣室を出る。

 

 九尾と聞いて思い出すのは、十年以上前の九尾襲撃事件。あの頃の僕はまだ根に所属していた。

 別任務での怪我が原因で待機を言い渡されていたけれど、任務から戻ってきた仲間たちは揃って「自然災害のようだった」と口にしていた。

 

 スバルは……どうだったかな。ああ、そういえば。

 

 大丈夫だったかと尋ねた僕に、彼はお面をつけた状態でこてんと首を傾げ、暫くして『三途が見えました』とだけ答えたんだった。

 

 相変わらず表現に癖があるなと思った。それだけ九尾が恐ろしい存在だったってことだろう。

 あのスバルにそこまで言わせるなんて、やはり生きた兵器と呼ばれるだけある。

 

 そんな九尾を自来也様がすでにどうにかしてくれていることに、どことなくホッとしてる。

 

 木遁の使い手である僕は、根の時に九尾への対処法を叩き込まれているものの、実戦で試したことはない。本番で上手くいく自信はあまりなかった。

 

「隊長、うちはサスケが……!」

「……あれは」

 

 うちはサスケは九尾化したナルトに()()()()()、集落の奥の森に飛ばされたと聞いている。

 

 森の中へ入った僕の隊は、簡単にうちはサスケを見つけた。そして、頭から血を流している彼に忍刀を振り下ろそうとしている影の姿も。

 

 部下たちが僕から距離を取ったと同時に印を結ぶ。

 

「土遁……土流槍!」

 

 地面から突き上げてくる土の槍を、こちらに背を向ける形で立っていた影が軽く飛び上がって避ける。

 続けて印を結ぶ。

 

「木遁・大樹林の術!!」

 

 空中では誰もが無防備だ。腕が大木に変化し、相手を拘束するために伸びていく。もう少しで届くといったところで、影が片腕を斜め上に上げた。

 

「ワイヤーか!?」

 

 忍の中でもとくに暗部が好んで使うもの。僕の木遁から逃れた影に、部下が水遁で追撃をかけたが、すでにワイヤーによって離れた木に飛び移っていた影には届かない。

 

「この隙にうちはサスケの確保を!」

「はい」

「おい、離せっ! オレは……!!」

「僕たちはキミを守るようにと指示を受けている。どんな事情があるかは知らないけど、大人しくしていてもらうよ」

 

 ……それに、キミはスバルが可愛がっていた弟の一人なんだから。

 

「オレはこんな里は出ていく!! ……もううんざりなんだよ。どいつもこいつも、オレの道を邪魔しやがって!」

「里を抜ける?」

 

 話が見えない。人柱力であるナルトとサスケの間に何があったかは分からないが、単なる仲違いではなかったのか?

 

「――そうだ。キノエ、そこにいるのは木ノ葉の裏切り者」

 

 その声の持ち主は、先ほどサスケから引き剥がした影。影は木の上から降りてきて、僕たちへ近づいてくる。

 

 月明かりの下にやってきたことで、影が被っているお面のデザインがはっきりと見えた。

 

 特徴的な鳥を模ったお面――百舌鳥(モズ)

 

「……モズ、隊長?」

「……お前もまだオレをそう呼ぶんだな。とっくに隊員ではなくなったというのに」

 

 お面の裏で男が苦笑したように感じられた。

 

「なぜアナタが……。うちはサスケをどうするつもりだったんですか」

「言っただろう。うちはサスケは大蛇丸の部下の手を借りて里を抜けようとした」

 

 モズ隊長……いや、モズさんが僕の後ろにいるサスケに視線を向ける。

 

「危険因子は早々に排除しなければならない」

「はっ……! オレに正体を見破られたから口封じに殺そうとしてるだけだろ」

 

 興奮状態なのか、サスケはやけに早口だった。冷静には見えない。

 

「大蛇丸の部下は始末した。お前にはチャンスを与えただろう。引き返すなら、これまでのような日常が送れると」

「“日常”だと? そんなものはいらない。オレが求めているのは……真実。そして、一族虐殺に関わった人間全員の死だ」

 

 裏の世界で生きる者なら、誰もがあの夜の矛盾に気づく。しかし誰も口にすることはない。

 

 うちは一族虐殺事件の詳細な調査は一度も行われなかった。他でもない、三代目火影の指示によって。

 

 ……あの事件には何かある。僕もカカシ先輩も、何度か三代目に嘆願したものの、スバルの遺体を確認することすら許されなかった。

 

「テンゾウ!」

 

 複数人の足音と共に、僕たちを取り囲むように暗部達が集まっていた。奥から綱手様が駆けてくる。

 

「そのお面……色葉スイ? これはどういうことだ」

「…………」

 

 モズさんは手に持っていた忍刀を背中に戻した。その姿が空気に溶けるようにして消えていく。

 

「……色葉一族の術か」

 

 完全にモズさんの姿が消えたところで、綱手様がこちらを振り返った。

 

九尾(ナルト)にやられたんだな、酷い傷だ」

「…………」

「うちはサスケを火影屋敷へ運んでおけ。治療する」

「はい」

 

 部下達が抵抗するサスケを数人がかりで連れていく。

 綱手様の後ろからカカシ先輩が顔を出した。

 

「カカシとテンゾウも屋敷に来い。今後のうちはサスケのことで話し合う」

「分かりました」

「……僕もですか? 担当上忍であるカカシ先輩だけならまだしも」

「お前もだ。二度も言わせるな」

「は、はい!」

 

 鋭く睨まれ、ビクッと肩を震わせた。

 

 ……新しい火影様は少し、いやかなり恐ろしい。

 

 

 

「里の被害状況は?」

「自来也様の迅速な対応により、うちはの集落のほんの一部に留まっているようです。時間が時間でしたので、気づいていない住民がいるほどかと。今は手が空いている暗部を総動員して後始末に回っています」

「ナルトは?」

「木ノ葉病院に。自来也様がついてくださっています。驚異的な自己治癒力によって傷のほとんどは塞がっているようです」

「……そうか。もう戻っていい」

「はい」

 

 うずまきナルトの元へ向かうよう指示されていた暗部たちが持ち場へ戻っていく。

 

 火影室に残されたのは、綱手様と彼女に治療されているサスケ、そして僕とカカシ先輩だけだった。

 

「手当てはこれで終わりだ」

「…………」

「うちはサスケ。お前に見せたいものがある」

「……オレに?」

「ああ。そこにはお前が知りたがっていた“真実”に近づくために必要なものがあるはずだ」

 

 綱手様が僕とカカシ先輩に目を向ける。

 

「二人はここで待機していろ。地下には私たちだけで行く」

「地下……ですか」

 

 カカシ先輩と顔を見合わせる。二代目様の時代に作られたという、火影屋敷の地下にある小部屋。

 特定の人間しか入れないよう術式が施されており、僕は一度も中に入ったことはない。噂では貴重な資料が保管されているそうだが……。

 

 サスケはあの夜の真実を知りたがっていた。

 

「……うちは一族に関する資料があそこに?」

 

 ずっと綱手様を睨みつけていたサスケの表情が虚をつかれたものになる。

 

「あるはずだ。肝心の資料にもロックがかかっていて私でも解除できないがな」

「それでは」

「地下にあるのは資料だけじゃない。あそこには、猿飛先生と覚方セキしか知らなかった秘密がある」

「……覚方セキ?」

 

 なぜここで彼女の名前が出てくるんだ。

 

 セキは同じ火影直属の暗部だけど、ほとんど顔を合わせたことはない。

 彼女は里に留まって捕虜から情報を得たり、忍具の開発等を中心に任されているから。里外の任務によく駆り出される僕とは対照的だ。

 

 綱手様は自重気味に笑った。

 

「私も火影にならなければ、一生知ることはなかったかもしれないな」

 

 

 

 綱手様とサスケが地下へ消えてから十分は経っただろうか。

 

「どう思う? テンゾウ」

「……何がです?」

「うちは一族のことだよ。お前もずっとおかしいと思ってたんだろ」

「それは……まあ」

 

 三代目様が最後まで固く口を閉ざしていたことを考えれば、疑いを口にすることすら躊躇われる。

 

「オレ達はスバルとイタチ、両者の実力をよく知っている。だからこそ分かる。あの夜のことはイタチ一人では不可能だ」

「…………ええ」

「うちは一族のほとんどが警務部隊に所属していて実力も保証されている。たった一晩、たった一人に滅ぼせるような存在じゃない」

 

 カカシ先輩は綱手様たちが消えていった地下への扉を見つめている。

 

「あの夜から何度も何度も考えてきた。……スバルは、なぜあんなにも愛していた弟の手によって殺されなければならなかったのかと」

「…………」

「結論はいつもこうだ。どのような理由があろうとも、()()()許せそうにない」

「……綱手様はどうしてサスケだけを地下に連れて行ったんでしょうか」

「さあな。うちはの真実……それを知ったオレ達が、サスケのように里を抜けてでもイタチを追うことを危惧したんじゃないか?」

「それはサスケも同じでしょう」

「サスケはすでに里を抜けるところだった。ならばいっそと考えたのかもしれない。……いや、憶測でする話じゃないな。忘れてくれ」

「……冷静じゃないですね。アナタほどの人が」

 

 そう口にはしたが、冷静ではないのはお互い様だった。

 相手がイタチだというのもやるせない。彼も、不器用ながらに兄や弟へ愛情を向けているように見えたのに……。

 

 カタンッという音と共に地下への扉が開かれる。扉の奥から綱手様とサスケが出てきた。

 

「大丈夫か、サスケ」

 

 サスケの顔色は酷いものだった。気遣うカカシ先輩の言葉に、サスケは黙って顔を逸らす。

 

「綱手様……一体何が?」

「本人から聞くといい」

 

 綱手様の顔にも疲労が見える。彼女は僕らの前を通り過ぎ、火影椅子に体を沈めた。

 

「……いつから知っていた」

 

 やっと口を開いたサスケが、静かに綱手様を睨みつける。

 

「火影に就任する少し前にセキから聞いた」

「それから何をした? このことを調べようとは思わなかったのか」

「勿論調査は進めていたさ」

「なぜオレにアレを見せた」

 

 綱手様は机の上で腕を組む。

 

「お前に里を抜けられては困るからだ。しかも大蛇丸になんぞ渡せるものか。もしお前の体が乗っ取られでもしたら? 今度こそアイツは木ノ葉崩しを完成させるぞ」

「…………」

「里を抜けることは許可できない。だが、お前の望みを叶えてやることはできる」

 

 サスケが弾かれたように顔を上げた。

 

「オレの望みは、うちはイタチとその協力者を殺すこと。カカシと、そこの暗部の力を借りて殺してこいと言っているのか?」

「違う。私が言ったのは、“真実を知ること”。そこにいる暗部はテンゾウ。以前は根に所属していた男だ」

 

 急に全員に注目されてギクッと肩が震えた。

 

「根……お前もスバル兄さんの……? だから色葉スイと顔見知りだったのか」

「初めまして、になるかな。キミのことはスバルからよく聞いていたよ。だからかな。あまり初めて話した気はしないんだけど……」

「…………」

「キミは地下で何を見たんだい?」

「……根の」

「根?」

 

 サスケの両眼はいつの間にか写輪眼になっていた。薄暗い火影室を照らす二つの光が僕を射抜く。

 その光はかつてのスバルやイタチよりも鋭く、見ているだけで妙に落ち着かなくさせるものだった。

 

「根が一族虐殺に関与したという確固たる証拠だ」

「……まさか」

 

 酷く喉が渇いている感覚。意識が片隅に追いやられ、冷静な自分が納得していることに気づいた。

 僕は根をよく知っている。

 あそこがどれだけ歪んだ場所だったか……。所属していた時にはあれが当然だと思い込み、麻痺していたけれど。

 きっとスバルもそうだった。僕たちは三代目様やカカシ先輩達によって掬い上げられ、日の当たる場所の温もりを知ったんだ。

 

 どのような背景があったかは分からない。でも、もしも()()()()()()()()()()なら。

 根ならば、ダンゾウ様ならば、迷わずうちは一族を滅ぼす選択をしただろうと。……嫌というほど理解できてしまう。

 

「――オレは根に潜入する」

「無謀なことを! キミは根がどういう場所か分かって、」

「それが出来なければ里を抜ける」

「だそうだが、テンゾウ。他にいい案があるか?」

「…………綱手様。やはり無謀です。彼が里を抜けずに済んだとしても、これでは大蛇丸の元に向かうより危険が伴います」

「……はぁ」

 

 隣に立つカカシ先輩の大きなため息が聞こえた。

 

「オレとテンゾウを残したのはこの為ですか?」

「このためって……」

「テンゾウは根に詳しい。オレもほんの一瞬とはいえ根に所属したことがあるし……暗部歴も長い。サスケが根に潜り込めるようにバックアップすることもできる」

「……僕にはダンゾウ様の呪印が付いたままです。話せることは限られているんですよ」

「全てに制限がかかってるわけじゃないだろ」

 

 ダンゾウ様のことはもちろん、根の仲間の能力すら呪印の対象になっているはずだ。根の機密とは言っても、それがどこまで及ぶかは当事者も把握していない。

 

「……まさか、僕がどこまで話せるか試すつもりじゃないですよね?」

「どうだろうな」

「絶対にダメですよ! 僕の呪印は痛みを伴うものじゃないですけど、話そうとした内容の重さによっては、呪印の持ち主であるダンゾウ様に伝わる可能性が高いです」

 

 軽いものまでいちいち拾うほど性能がいいものじゃないと思うが、ダンゾウ様の能力について話そうとしたなら、すぐに本人に伝わるはずだ。

 実際に重要な情報を敵に渡そうとした仲間が、ダンゾウ様にバレて処分されてしまったことがある。

 

「例えば、当時ダンゾウ様が身につけていた下着の色とかなら問題ないとは思うんですけど」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………今のは忘れてください」

 

 何故お前がそんなおぞましいことを知ってるんだという、かなり引いた視線が三つ飛んできた。

 新人が任される雑用の一つに洗濯があることと、ダンゾウ様は風遁の使い手だから……まあ。

 

「それは置いておいてですね。リスクが高すぎると思います。下忍レベルの変化の術ではすぐに解術されるでしょうし、そもそも潜入すること自体が不可能かと」

「根はかつての霧隠れのような選別をしていただろう。今も行われていることは調査済みだ」

「……それは」

「呪印を恐れて否定も肯定も出来ないか。この辺りは私でも知っているから構わない。正式に根に入る前に行われる試験が、丁度今のサスケくらいの歳に行われるそうだな」

 

 額に浮かんだ冷や汗が頬を流れていく。

 

 とんでもないことだ。前任である三代目様を保守派とするならば、綱手様は急進派。

 

 ……良くも悪くも、この里は変わる。

 

 一度は枯れ落ちてしまった木ノ葉が新たに芽吹く瞬間。胸の奥で言葉にし難い高揚を感じた。

 

「うちはサスケ。今この時よりお前を火影直属の暗部に任命する」

 

 綱手様がサスケに手渡したのは、かつてスバルが使っていた白猫面とは対になる――黒猫のお面。 

 

「そして、長期任務を言い渡す。丁度近いうちに根の最終試験が行われる。お前はそこで生き残る一人と入れ替わるんだ」

「容姿についてはどうするんですか!? サスケが里を抜けようとしたことも周知の事実になるでしょう。そんな状況で彼を暗部に入れたことが知れたら……」

「私が誰か忘れたか?」

 

 綱手様が不敵な笑みを浮かべる。

 

「私はこの里、いや、この国一番の医療忍者。中忍試験でカブトがしたように人の顔を変えることなど造作もない」

「…………」

「うちはサスケは地下牢に入れたことにする」

「綱手様。根や里の人間を騙し通すことは不可能ではないでしょうか。いつまでもサスケの姿が見えなければ不審がるはずです。最初は代役で何とかなるかもしれませんが……」

 

 綱手様はカカシ先輩の指摘に頷き、一枚の紙を差し出してきた。

 

「これは……ミズキと同じ?」

「ああ。後ほど地下牢から例の施設に移したことにすればいい。ミズキの身柄の受け渡しを要求していたダンゾウも、あの場所には手出しできなかったようだからな」

 

 確かにあの収容施設であれば守りは万全。外から中の様子は全く分からないレベルだ。

 

「このことはここにいる四人のみぞ知ることとする。ナルトやサクラ達にも話すつもりはない」

「サクラはともかくナルトが納得するでしょうか?」

「……ナルトはサスケを兄弟みたいに慕ってるからね」

 

 カカシ先輩は青くなり、サスケの頬はほんの少し赤くなっていた。

 

「チッ……アイツのことはどうでもいい」

「ナルトのことは心配いらない。この先数年間は……だが」

「数年間?」

「自来也が修行目的でナルトを里の外に連れ出すそうだ。サスケが施設で問題を起こさなければ、数年で戻ってこられることにしておけば問題ないだろう」

「……なるほど。覚方セキにも伝えないのですか? 彼女も地下の秘密を知っているようですが」

「ああ。セキも猿飛先生と同じく“沈黙”を選んだ側の人間だ。その理由が分からない限り、下手に伝えることはできない」

 

 綱手様がサスケに向き直る。サスケの手にはすでに黒猫面が握られていた。

 

「このまま里を抜ければ、今後一生私の暗部や根に追われることになる。私の暗部として根に潜入することも、同じくらい危険が伴うもの……それでもやるか?」

 

 サスケが黒猫面を被った。 

 

「オレはあの夜の真実を知らなければならない。その為ならば……何だってやってやる」

 




スバルも鞍替編に入るまでは洗濯担当してますね

活動報告の同人誌のお知らせに追記してます。よろしくお願いします…!
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