ブランカの危機に体がいち早く反応したのは、アイリだった。
「危ないッ!」
1秒でも早く身を呈し、ついには彼らの周りが閃光を包む。
数秒経ち、全員の視界が明白になる。
「怪我は無い?ブランカ。」
「え、えぇ。……ッ!?」
ブランカが目にしたものは、間違いなくアイリであった。しかし、その五体は欠けてしまっていた。
「アイリ……その、右腕……。」
「貴方が無事なら、右腕なんかどうでもいい。」
彼女はあらゆる恐怖で震えた。
「嘘……、私なんかのために……。」
ブランカがうろたえていると、マドンナがズァキェルの方に近付く。
「ここにいたのね。お前。」
「あぁ、ちょうど今そこの夢無しの腑抜けを殺そうとしていた所だぜ。」
「『アレ』はダメよ。殺しちゃ。」
マドンナは静かな怒りの気配を放つ。
「まさか、あいつが?」
「えぇ。そうよ。加減をしなさい、ズァキェル。」
「……了解だぜ。」
ふてぶてしくズァキェルは了承する。
ちぎれた腕から血がポタ、ポタと滴りながらも、アイリは立ち上がり、構えを取った。
(アタシが戦うからブランカは離れてるバイクに乗って。 )
(で、でも……。)
(今は時間が無い。それに、ヤツらの狙いは貴方だから。)
小声ながらも、アイリが凄む。
(わ、分かったわ。)
ブランカは10m先にあるバイクの方へ走った。
「させねぇぜ!」
先程と同じく、雷の矢が放たれる。が、明らかに殺害の意思があったさっきのものとは違う。
これなら……!
と、魔術を編もうとした瞬間。
バァン!!
アイリの銃が、弾丸が矢を相殺した。
「早く!」
ブランカが瞬間戸惑っているのに気づいたのか、アイリは叫ぶ。
すぐさま彼女は銃が届く距離まで潜り込み、マドンナとズァキェルに応戦する。
ブランカは走った。
ズァキェルの矢、マドンナの槍。それら全てをアイリは守ってくれた。
5m、3m、一瞬が彼女たちにとってとてもありがたく、
ブランカはバイクに辿り着いた。
「でかした!」
アイリは軽い身のこなしで近づこうとする。
しかし、彼らは攻撃の手を緩めない。
今度は、私の番!
そう咄嗟に思ったブランカは魔術で「壁」を作り、アイリを乗せる時間を作る。
彼女たちはすかさずバイクで、一時の安息を得た。
アイリの後ろで、ブランカはアイリの腕に手をかざす。
「止血するわ。それと、直ぐに消えてしまうけど義手をつけるわね。」
ぽわ、と光り、そこから魔力で生成された腕が生えてきた。
アイリは、若干やつれながら、ありがとうと息を漏らしつつ感謝した。
少しの静けさに包まれながら、当たり障りのない会話をする。
ここからどこへ? 先公ンとこだ。
腕、大丈夫? まぁな。……サンキューな。
それから少し話さなくなってから、口を開いたのはブランカだった。
「私ね。……嘘ついちゃった。」
アイリは何も言わなかった。
「それも1回だけじゃないの。お父様達と一緒にいた時も、レースに出る時も、さっきズァキェルさんとお話した時も。」
「アイリはもう知ってるかもしれないけれど……、私火文明じゃないの。でも、お父様は私を次の長にするって。……馬鹿だよね。余所者をリーダーにするって。」
ブランカは滔々と話す。
「アイリは、私の事好きなんだよね。『麗しき炎の知恵者』って……。アレ、全部嘘だよ。性格はクソだし、炎でもないし、生まれた時から知恵なんてない。いい所に拾われただけの運だけクリーチャー。 周りには『火文明が良くなればいい』って言ってるけど。正直どうでもいい。真っ白な空っぽなんだよ。私って。」
「……。」
アイリはバイクを止めた。
降りろ、と彼女の低い声。
「……?」
バヂン、とアイリは平手打ちした。
「!?」
すぐさまアイリはブランカの胸ぐらを掴む。
「ふざけんなッ!」
一瞬戸惑ったが、ブランカは安堵の表情を浮かべた。
「そうだよね―。」
続けようとしたが、アイリが言葉を遮る。
「そうじゃねぇ!」
少し驚く。
「アタシが貴方に惚れたのはよ……、貴方が綺麗事言ってたからでも、『知恵者』だったからでも無ェ!『一目惚れ』だよ!アタシが貴方を初めて見て、可愛くて、カッコよくて、顔がいいと思ったからだよ!!」
ブランカはキョトンとした。
「嘘をついてたのはいい。お前んとこの親父や取り巻き共にいい顔してたのも、アタシにとっちゃよ、どうでもいい事なんだわ。」
「取り巻き共って……!」
彼女の琴線に触れたのか、掴んでた手を振り払う。
「じゃあなんだよ。貴方にとっても、ソイツらは適当なことほざく位どうでもいい連中なんだろ?」
「違う……!違うの!」
アイリは叫んだ。
「嘘ついたままかよ!嘘ついたンなら、本当の事言えよ!」
ブランカは少し狼狽しながら、言い始めた。
「私の『家族』達は、私を育ててくれた人達は……、とてもいい人達で、こんな私に色々くれて、でも色々くれすぎて私には返せなくて……。」
「まだ言えてないだろ。」
ブランカはぽろぽろと落としていた涙が引っ込んだ。
「もっとあるだろ。なあ、ブランカ、貴方はなんで、このレースに出たんだよ。貴方の『夢』を教えてくれ。」
「ダメよ。私にはわがまますぎる。」
もう1回胸ぐらを掴まれる。そしてアイリはもう1回大きな声で―。
「『夢』くらいわがままでいいだろッ!生きてる内はッ!」
止まっていた涙がまた出始めた。
「う゛ん……。私、もっと解放されて生きていたい。『自由』になりたいッ!」
ブランカが心の底から叫んだその時、体の内側から光り始めた。
「これは……?」
「あの時と同じだ……。空を飛んだ時と!」
眩い光が大きくなり、それで当たりが全て白くなり、
光が戻った後はバイクがそこに無く
代わりにブランカの姿が変わっていた。
「あら、そこにいたのね。探したわよ、『レッドゾーン』。」
撒いたはずのマドンナ、そしてズァキェルが彼女たちの元に追いついた。 二人はそれぞれ虚空から武器を取り出すと、獲物を仕留めるかのような目へと変わっていく。
「悪ぃ、長話しすぎたな。」
ブランカは考えた。光文明の時でも、この状況から抜け出せる方法があった。
それに、彼女の言っている通り、この力が『レッドゾーン』であるなら―。
やってみるしかない。
「さっきまで、アイリが私を助けてくれたから、今度は、私が助ける番ッ!」
そう言うと、彼女はアイリを両腕で抱え、後ろへ踏み出した。
すると――。
~~~~~
こりゃあ、万事休すか。
ヴィーヤは大の字に倒れながら、頭の中でそう結論付けた。
「最後まで、お前は何も言わないのですね。ヴィーヤ。」
「負けた者は何も言わず、静かに去るべきさ。仕方ない、君の勝ちだ。カナロア。」
カナロアは、歯ぎしりをしながら生成した剣でヴィーヤの胸を貫こうとした。
「どわぁ~~~~っ!」
その声が聞こえた瞬間、二人ともその声の方に気が向いてしまった。
声の主は飛び蹴りでカナロアを吹っ飛ばしながら、着地に失敗し、抱いている少女と一緒に転ぶ。
「かぁ~~っ……。どこだここ。」
「どうやら、変な所に――、先生?」
そこに居たのは、色彩のある鎧を纏いながらも、赤くギラギラに光る1人の戦士だった。
「あぁ……、君は?」
彼女はキョトンとした顔で答えた。
「誰って……、先生、私です。ブランカ・サンダーボルトです。」