カナロアとの戦闘は終了し、それまで水文明を照らしていた淡い青色の天は打って変わって、濃い藍色の夜空へと変わっていた。
後は…停止している『アカシア』を再起動するだけ……。
と、ヴィーヤが思考していたところに、なにかの危機感を感じたのか上を見た。
纏っていた魔力の塊がはじけ飛び、ゆっくりとカナロアは落ちていく。
「あぶない!」
ヴィーヤはすかさずカナロアの方へ飛び込み、すんでのところで背中と腰を抱えた。
「はぁ……、よかった。カナロ……。」
バチィン、と大きな声がした。
急に横を向けさせられ、右頬がじん、となったヴィーヤは何が起こったのか理解できなかった。
ゆっくりとカナロアの方に目を向けると、彼女は赤い頬を膨らませ、涙目になっていた。
「さっさと!殺すのです!」
カナロアは叫んだ。
「勝ったのはヴィーヤだから、さっさと私を殺して、あなたの目的を果たすべきなのです!そして、姉様と一緒に…、私をいっつも置いてけぼりにしながら話していたことをやって、そうするべきなのです!最後まで私は独りぼっちだから……。ほら、早く……!」
「そんなんじゃあない!」
ヴィーやも叫んだ。
「そんなんなんだけど……、やっぱりそんなんじゃなくて。そんなんじゃなくて!!」
ゆっくりとカナロアを下ろし、膝をついて話す。
「カナロア、君に、謝らなくちゃあいけないことがある。君抜きでロゼッタと話していた事、君抜きで水文明の未来を考えていた事、本当に申し訳ない。僕がこんなんだから、君がそうしちゃうのも訳無いよね。」
え?
カナロアの脳内には、その二文字が埋め尽くされた。
「先生っ!」
ヴィーヤの元に、ブランカとアイリが来る。
「ああ、ブランカく~ん!悪いけど、今取り込み―」
突如、ヴィーヤの左頬がバチン、と豪快に音を立てた。
「あの……ブランカ、君?」
戸惑うヴィーヤに、ブランカは喝を入れる。
「もう!先生はいつもそうです!勝手に考えて勝手に行動して!正直胡散臭いし怪しいし!何考えているか本当に分からないし!留学中の時もそうでしたよあの実験の時も急に計画を一から説明無しに変更して、だいたい先生って人は―」
まくし立てるブランカに続き、カナロアも続く形で怒った。
「そう!ヴィーヤ!お前はいっつもそう!いっつもそうなのです!私が出してくる外交案と全く違う結果を出してくるからこっちも計画が狂って!そのくせ結果だけ伝えてどう思ってるのかとか!どう考えているのかとか!!お前は本当になんにも伝えてくれない!」
彼女の怒号はまだ止まらない。
「せめて!姉様が結晶になった時も、一緒に話してくれればどんなに良かったか!私はあの時姉様とさよならすら言えなかったのです!お前のせいで、お前のせいで!!」
怒りは嗚咽へと変わり、前に倒れそうになるところを、カナロア自身が両手で支えた。
「小さい頃だけ、私はお姉様と一緒にずっと話せた。ずっと遊んでもらえた。だけど、私が長になってから、お前をお姉様が見つけてから……、私一人で……。」
カナロアの両肩を誰かが掴んだ。
顔を上げる。掴んだのはヴィーヤだった。
「カナロア、これからは僕と、カナロアで一緒に水文明を支えていこう。本当に、済まなかった。」
カナロアはふと、ヴィーヤの向こうにある星を見た。
「お姉様は、星々に興味があったのです。」
カナロアが不意に呟くと、すかさずヴィーヤは上を見上げた。
「透明よりも綺麗な輝き……。お姉様はアレの正体が何なのか。姉様がいる間についぞ解き明かすことは出来なかった。―ヴィーヤ、私とお前で、アレが何なのかを研究するのです。」
ヴィーヤは目を開いてしまった。予想外の返事が返ってきたからだ。
「え、あぁ……。」
うろたえるヴィーヤを、ずっと見つめるカナロア。
「ぷっ、あははははは!よく見たらヴィーヤ、お前両頬ビンタされて真っ赤になってるのです!!」
えっ!?ああ、えぇ!?とさらに、男は戸惑う。
カナロアは改めて問い質した。
「で、どうするのです?手を取り合うのか、それともここでもう一回殺し合うか。」
カナロアが立ち上がり、ヴィーヤに手を差し伸べる。
大探検家は、締まらないなあ。と頭を掻きながら照れ混じりに言った。
「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。まあ、もう殺し合いをする余力も動機もないから。うん。カナロア。これからもよろしくね。」
その言い回しが胡散臭いし鼻につくのですこの蝙蝠男。
あいだだだ!しょうがないじゃないか。これはもう生まれ持っての性だよ!
バミューダは時間も捻じ曲がっていれば、バミューダのクリーチャーは出てくる言葉もひん曲がっているのですね。
ははは、そりゃあ一本取られたな。
何を笑ってるのです!
あいたぁっ!
彼ら、彼女らの喧騒は、この後も白くて小さい星々が暖かく見守った。