―――光文明、ハイエストタワー内部、「第一位の座」にて、
五文明主催の平和の祭典、『デュエル・マスターズ』の会見の最中であった。
記者が尋ねる。
「―では早速、主催者のアルズ氏『デュエル・マスターズ』の説明を、念のためもう一度お願いします。」
数多のフラッシュに包まれながらアルズは高らかに宣言した。
「えー、それでは…」
「今回行われる祭典、『デュエル・マスターズ』は、光文明の『ハイエスト・タワー』をスタート地点とし、水、闇、火、自然と、次々と各文明の難所を踏破して、『グラウンド・ゼロ』をゴール地点とする、史上最大の超獣世界での大陸踏破レースです。」
会場が更に雨のように鳴るフラッシュにまみれ、どよめく声が蔓延る。
次に質問したのは、火文明の記者だった。
「では、細かい概要の程をよろしくお願いします。」
「本大会は大きく分けて6回のレースに分けて行います。まず第一レースは、ここ光文明のランドマーク、『ハイエスト・タワー』をスタート地点とし、水文明の都市、『ブイ・バミューダ』をゴール地点、第二レースは水文明から闇文明まで……といったように、火、自然とまでいき、最後の第六レースは自然文明からこの大陸の中心地『グラウンド・ゼロ』を経て、このレース中にポイントが高かったものを優勝者とします。」
すると、水文明の記者が質問した
「レースですが、ポイント制なのですか?」
アルズはそつなく答える。
「本大会ではより早く到着したものにポイントを渡す制度に加え、フェアなプレイをしたもの、区画ごとに一番活躍したものにポイント、『MVPポイント』を進呈します。MVPは我々、五文明の長による合議制で決めさせていただきます。」
水文明の記者は質問を続ける。
「となると、上位入賞者への景品が気になるところですが。」
これも、アルズはすかさず答える。
「優勝賞金は我々、光文明が全額負担いたします!5000兆ラットンを贈呈する予定です。」
おぉ……、と会場がさらに湧き始める。
すかさず質問が続く
「もうすでに各文明から強者を招待したそうですが、一部でもいいのでご紹介できませんでしょうか?」
「そうですね。何人かは。」
彼はすかさず台の上にある本のようなものをペラペラ、と捲り確認した後、正面を向いた。
「では光文明から紹介致しましょう!まずは我々が誇る素晴らしき指導者の器、『ウートポス』!いずれ完全な指導者の器である彼がこのレースを完璧に勝ち取ることでしょう!」
「水文明からは海を駆け巡る英雄、ヴィーヤ氏が参戦します!魔力を使いこなし、翻弄するバトルスタイルも見物ですよ!」
「弓矢を放ち、敵を確実に射止め、レースを制してゆくは闇文明のズァキェル氏!」
「『燃えゆく星』!火文明からはあの大スター、コメット氏がこのレースに旋風を巻き起こすでしょう!」
「最後に自然文明からはあの『四の大蛇』、オリン=ポチトリ氏が参戦します!大地のパワーをとくとご覧下さい!」
名の知れたビッグネームが連なり、会場のボルテージは最大へと上がった。
最後に、司会者が言った。
「では、最後にアルズ氏、締めの挨拶をよろしくお願いします。」
アルズはマイクを取り、立ち上がった。
「―我々光文明は、平和を望んでいます。この平和は超獣世界にとって小さい歩みかもしれませんが、それでもこの一歩がいずれ大きなものだったと語り継がれるよう、此度の祭典はすごいものになるでしょう。我こそはという猛者は、この世界を誰よりも速く駆けまわり、その名誉を手に!『高き館に栄光を』!この世界に繁栄を!」
こうして、光文明による会見により、武闘レース、『デュエル・マスターズ』の情報は瞬く間に全文明へ広がった。
――。
~~~~~
「―ですから、私は絶対に参加しますからね!」
煙が舞い、歯車がきしむ火文明の王宮では、一人の女の声が響き渡っていた。
ブランカ・サンダーボルト。火文明の長の次女でありながらも、その人望故に次期長候補となる彼女は、現在、長と喧嘩の最中であった。
「いやぁ……しかしな、ブランカ。お前ぇには火文明でのコースの設計を頼もうと思ってんだ。現に水文明に遊学しに行ったことがあるだろ?ブランカ。火文明で一番『面白ェ』のはお前ぇなんだ。頼むぜ。」
渋い顔で懇願するトニトゥルムの言葉を、ブランカは聞こうともしない。
「そんなの、お姉様に頼めばいいじゃないですか。お姉様は私よりユニークな発想の持ち主ですし問題ないと思われます。 ―私はもっと他の文明を見て回りたいんです。留学はお金がかかりますが、今回はレースの参加費だけで済みます!」
「金にケチつけるほど火文明も落ちてねぇぞ馬鹿垂れ。遊学ならいくらでも金なんざ出してやる。レースの設計だって、そこまで言うならマリアと一緒に作りゃあいいじゃねえか。何もお前一人でやれって言ってるわけじゃねぇ。」
その時、もう一人、少女の声がした。
「そうですわ!『お姉様』。マリアはお姉様と一緒にレースが見とうございます。」
ブランカは額に手を当てた。
「…マリアお姉様。私にその呼び方はやめてほしいと言っているでしょう?」
マリアはまんざらでもなさそうに返す。
「何言ってますの。お姉様。姉か妹かに歳など関係ございませんわ!確かに私の方が年上ですけれども、ブランカお姉様の方が『
ブランカは少し、やりきれない思いでため息をつく。
「とにかく、私は絶対にレースに出ます!いいですね!お父様!」
ブランカはそう言うと、長の間をカツカツと早歩きし、扉をバタンと閉めた。
自らの部屋に入り、ブランカはベッドに埋もれる。
「お父様も、…お姉様も誰もわかってくれやしない……。」
閉じこもっていると、扉からノック音がした。
誰だろう、とブランカはその方に目をやる。
「入ってもよいですか、ブランカ。」
母の声であった。 ブランカはすぐさま体を起き上がらせる。心なしか、肩がこわばっているようであった。
「…どうぞー……。」
がちゃり、きぃい…と音がする。
「父上が困っておりましたよ。」
「っ……。」
ブランカの母は少しため息をついた。
「―どうせあなたのことです。レースに行きたいと思う気持ちは、外から何も言われても聞かないのでしょう。」
伏し目がちなブランカは、深呼吸をして声を発した。
「……っでも!でも!私は外を見たいんです。水文明だけじゃ足りない。他の文明を、見て回って、…………自分の見識を深めたいんです。」
「それに、私が走ってレースで優勝したら、火文明がもっと活気づいて、それに―」
「ブランカ、あなたの気持ちはよくわかりました。」
熱くなったブランカを、母はなだめるように遮った。
「あなたが生半可な気持ちで危ないところに自ら身を投じるのかと、私は焦っていたのです。……正直、私はあなたのレースの参加に賛成です。 父上やマリアにも言って聞かせましょう。」
ブランカはほっと、肩をなでおろした。
「ですが、」
母は続ける。
「『
母はブランカの顔を両手で覆うように掴み、まだ伏し目がちなブランカに目を合わせるようにした。
左目を見る。
冷たくて、それでいてギラギラしてて、気圧されるような。
ブランカは、私が怒る時にそんな目をしていると、マリアがにこにこ笑いながら言っていたのを思い出した。
ぼそっとつぶやいた
「似ているのかぁ…。」
「…今、何か言いました?」
ブランカは慌てる
「い、いえ!……、何も……。」
そして意を決したように、ブランカは母の顔を見た。
「……はい。私はちゃんと、無事にレースを走り切って、ちゃんと、おうちに帰ってきます。―だから安心して?お母様。」
ブランカの意志を聞くと、母はにこりと、微笑んだ。
「そうですか。それでは、父上へ説得させておきましょう。ご健闘を祈りますよ。」
ブランカは胸を躍らせた。
まだ見ぬものが待っていると、
しかし、待ち受けていたものは、彼女が思ったよりとてもすさまじいものであった。
~~~~~
レース開始当日。
光文明の要所。「ハイエスト・タワー」近辺、
「レース参加者はここで受付をお願いしま~す」
「はいはい!押すな押すな!しっかり並べやい火文明の
「あぁ!?てめェやるってぇのか?」
様々な国の者ががやがやと、受付会場にひしめくなか、ブランカは上がり続ける決戦前のボルテージを肌で感じ取っていた。
「うわぁ……、ここが、会場か…。」
期待で心が躍り、受付へ向かうその時、
「…わっ!」
何かにぶつかってしまった。
「あっ…ごめんなさい!お怪我はありませんか…?」
「あぁ、ありがとうね。お嬢さん。」
その体の小ささゆえか、ぶつかった獣人はしりもちをついていたが、ブランカの手をとって起き上がった。
「すみません…。このレース楽しみで仕方なくって…。」
「私も同じよ!…どうやら、私たち前方不注意みたいね。」
あはは、と情けなく笑う二人。
「ところで、あなたはどこから来たの?」
獣人はブランカに尋ねる。
「私は……火文明から来ました。このレースに参加して、色んなところへ、行きたいなぁ…って」
その小動物はぱぁっと笑顔になった。
「いいじゃない!とってもいいわ!―私、自然文明の歌い巫女なの!せっかくだから、あなたに歌を聴かせてあげる!」
ブランカは驚いた。
「歌い巫女って、自然文明の未来を告げるあの…?」
「そうよ。私は、あなたみたいな人を探してここに来たの。ささ、聴いてごらんなさい。あなた、お名前は?」
「ブランカ……サンダーボルト。ブランカって呼んで下さい。」
「ブランカちゃんね!いい名前だわ! そうね…。どんな所でも自由に駆けていくあなたにお気に入りの歌は、うーん……
そうやって巫女は喉を整えると、きれいな声で歌う。
駆ける。駆ける。
森を越え、山を抜き、
どこまでも、どこまでも。
星に苛まれども、
自在に、自由に―――
ブランカはその歌と、巫女の歌声に感動した。
「すごい…!なんかこう……、言葉で言い表せないんですけど、歌の意味がそのまま頭の中で映し出されるような……さすが自然文明の巫女ですね!」
「ふふ…ありがとう。そう褒めてもらえると、私もちゃんと歌った甲斐があるものだわ!」
ブランカはお辞儀をし、彼女に別れを告げる。
「じゃあ、私は受付をしなきゃいけないんで、行きますね。素晴らしい歌をありがとうございました!」
「ええ、さようなら!あなたの進む道に、幸せが訪れますように。」
別れ際まで素晴らしい人だ。と思ったブランカは、受付の方へ向かうことにした。
~~~~~
理想郷、別の世界だと僕の名前はそういうらしい。
そう、歌に聞こえた。
誰が歌っているのか、わからないけど。その歌に生かされているのかもしれない。
それならば、僕の敬愛するエイブル様のように、光文明を救わなくては。平和に、治めなくては。
「エイブル様!今日も僕は、ドラグハートの威光で聞き分けのない他文明の者共をこらしめてやりました!」
「すばらしいですね。ウートポス。その調子で、我々光文明の秩序と平和を確固たるものにしてください。」
この世界に散らばっている「ドラグハート」という武器は、奇跡だった。『災厄』によって滅びかけていく世界の中、これだけは無事にあったのだから。
なんでも、伝説上の生き物である「ドラゴン」がその武器の中に宿っているのだとか、なにやら儀式をすることでそれが顕現するのだとか、
水文明の古文書にはそう書いてあった。
「素晴らしい……!」
そんな、神の御業の如き代物は光文明が全て持っていたに違いない。
僕はドラグハートが使われていた「神話」をみんなに伝えることにした。
―かつては、神の作りたもうた「ドラグハート」という武器があった。
―それは龍が宿る神の奇跡による武器である。
―平和の祭典であった『デュエル・マスターズ』で英雄とたたえられた龍は、名誉としてドラグハートに成ることができた。
―そんな中、神を騙る「ザ=デッドマン」が、平和の祭典を無茶苦茶にした。
―神を騙るものは、愚かにも世界を滅ぼすほどのドラグハートを作り、世界を支配せんとした。
―それを阻止するべく、光文明の英雄であるモルト、サソリス、ロージアは水と闇の協力によって、神の名を騙った悪魔を滅ぼしたのである。
ドラグハートの神話は、瞬く間に光文明中に広がり、英雄たちは信仰の対象になった。
今回のレースも、僕の発案によるものだ。
このレースで、僕が新しい英雄になる。神になって、光文明の皆を守るのだ。この名前に、ふさわしい生き様を。
けど、
「ん~…
えっ――
~~~~~
いよいよ『デュエル・マスターズ』が始まろうとしていた。
開会式も無事に終わり、あとは走者がゴールへ向かって走るのみ、となった。
光文明が用意したグラウンド、そこに数多の走者が集う。
あらゆる思惑をそれぞれの胸の中にしまいながら
ブランカも、速くなる鼓動を手で触れて感じ取り、深呼吸をして緊張を和らげていた。
「ふう……。……よしっ!」
ブランカがスタートを今か今かと待っていると、一人の少女に声をかけられた。
「そこの嬢ちゃん!こっち来なよ。」
声の方へ目を向けると、そこには火文明らしいナリをした、勝気そうな女の子だった。
額にはゴーグルをつけており、またがってる
「あなた、名前は?」
「アイリッシュ・ブルージェット。火文明の銃鍛冶屋さ。アイリって呼んでくれ。」
「よろしく。」
アイリはブランカに提案をしてきた。
「見たとこ、お嬢ちゃんも火文明だろ?同じ文明のよしみだ。一緒にレース、このバイクに乗ってかねぇか?」
「いいわね!旅は道連れ世は情け、とも言うし、ランデブーとしゃれこんじゃいましょう!」
気が合ったところで、アイリは質問をした。
「ところで、嬢ちゃんの名前を聞いておこうか。長い旅になりそうだしな。」
「私? 私は、…ブランカって呼んで。」
アイリは、その言葉で少し感づいた
「ブランカ…、ねぇ。」
スタートラインの銃手が台に立った。まもなく始まりの合図である。
「始まるわね……!」
「あぁ…!」
5、4、3、……とカウントダウンが始まる。
誰も、胸が高鳴らないものなどいなかった。
さあ、始まるぞ。早くピストルを鳴らせ。
2、1、……0
ピストルが高らかに告げた。
戦士たちは次々と走り出す。
「つかまれよ!」
そういうとアイリは、フルスロットルでスタートを切った。
速い。速すぎる。まるで音を置き去りにするような。
「わぁ!すごいわ!アイリ。今私たちが一位よ!これ。」
二人を乗せた二輪車は、どんどん、有象無象を引き離していく。
「あぁ……! 速くぶっちぎって、
ブランカは、アイリの言っていることが今は分からなかった。
が、しかし、この言葉の意味を、後々に知ることになる。
~~~~~
レース開始前、VIP専用観客席にて
火の長、トニトゥルムは、娘、妃と共にブランカの雄姿を見届けようとしていた。
「いよいよだな…。」
落ち込む父を、マリアが元気に励ます。
「もうっ!お父様ったら!お姉様は大丈夫ですわ!何せお姉様は『面白い』んですもの!」
レース開始の銃砲が鳴った。 選手たちがわらわらと走り出す中、先陣を切って飛ばす赤い二輪車がいた。
妃は双眼鏡をかざして見る。そこには見知らぬ何者かと相乗りするブランカの姿が。
「まあ、ブランカったら、他の知らない誰かと一緒にいますね。」
トニトゥルムは焦って双眼鏡で覗く。
「おいちょっと待て!変な奴じゃあねえだろうな…。」
「見た感じ、お姉様と一緒にいるのは火文明の方っぽいですけど…。」
マリアも様子をまじまじと見つめている。
そんな中、VIPルームに火文明の使者が入る。
「トニトゥルム様…。少しお話が…。」
使者は、青ざめた顔で言ってきた。
「ん?なんだ?」
「―ブランカ様と相乗りしておられますあの者は…………。」
使者から伝えられたのは、彼らにとって信じられない言葉であった。
「―我らが長に仇なす