熱気の煙が舞い、蒸気と喧騒が渦巻く火文明、
彼らの社会は、「長」と呼ばれる共同体の主導者によって成り立っている。
それがトニトゥルム・サンダーボルト。火文明の長にして、火文明最高の鍛冶者である。
『火文明を面白くする。』先代のテンペスタ・サンダーボルトの意志を引き継ぎ、内政、外政に力を注いでいる。
そんな火文明の長を、よく思っていない勢力がいた。
『灯火』という保守的な鍛冶職人らによる革命勢力であった。
火文明としての歴史を何よりも重んじる彼らは、革新的である反面、歴史を顧みないトニトゥルムの政治に不満を持っていた。
その灯火が誕生する発端として起こった出来事が「ガイハート事件」であった。
先代の長、テンペスタが、他文明との宥和を図るために、光文明が主張している歴史「ウートポス史談」を認めた。という事件だ。
これは、「グレンモルトは光文明の英雄であり、ガイハートは神の奇跡によって作られた光文明の遺産」といった内容が含まれており、光文明の傲慢さゆえに火文明は長年それを否定してきた。
しかし、他の文明との協力によってしか火文明を興せないと考えたテンペスタは、光文明との譲歩を決めたのである。
これにより、長年、長の政権を支持していた鍛冶職人の同業組合は、一瞬にして打破せんとする革命勢力へと変貌してしまった。
その幹部が一人、アイリッシュ・ブルージェットはこのレースに、灯火の筆頭格として、『歴史』奪還のため、英雄剣、ガイハートを回収すべく参加をしたのである。
そして――
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「はぁ!?」
夜もすがら、レースの道中で、光文明の荒野にブランカの怒号が響いた。
「そ。アタシは『灯火』ってトコの幹部で、ガイハートを
暮れに釣れた串焼きのシャイン・モンスターを振り回しながら軽々と言った。
「っ…………。」
ブランカは自分の無警戒さを呪った。仮にも火文明の長の一族であるということがばれてしまえば、己の身がどうなるか想像はつくからだ。
「ってか、お嬢ちゃんアレだろ?ブランカ・サンダーボルト。長の末娘の。」
すぐばれた。開いた口がふさがらない。
「『麗しき炎の知恵者』!『最もおもしろき者』!貴方のことは火文明中で聞かないことはないくれぇだよ!」
生きた心地がしない。とはこの状態のことを言うのだろう……。とブランカは思った。
彼女は覚悟を決める。
「……いいですわアイリッシュ。ちょうどこの大陸全ては今武闘レース会場ですもの、私のこの身一切は、闘いにて―」
アイリッシュはそれを遮った。
「ああ、それなんだけどよ、ブランカ。アタシはその気はねェんだ。その代わりお願いがあんだけどさ……。」
アイリは口をとがらせ、荷物から何かを取り出すと、恥ずかし気にとんでもないことを言った。
「アタシと『結婚』、してくれねえか?」
膝を曲げ、自分に向かって指輪を掲げるレジスタンス幹部の光景を、ブランカは飲み込むことができなかった。
「はぁぁあああぁぁあ!?」
もう一度叫ぶと、あまりの衝撃さ故に、彼女は気絶してしまった。
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光文明の都市のはずれ、何もない原野に、一人、男がいた。
彼の名はヴィーヤ。水文明の英雄であり、この世界随一の探検者である。
「ふぅ…。何とか一日目は乗り切ったね。ここら辺は静かだし、他の参加者も紳士協定で夜くらいは手出しはしないんだろう。お疲れ様だよ。ロゼッタ。」
ヴィーヤは懐から、透明で青白く光る結晶を取り出し、夜空に重ねた。
「ブランカ君もレースに参加しているらしいね。あの娘のことだから参加するだろうと思ってたけど、今頃どこにいるのかなぁ。」
そんな中、無線機の反応があった。
「おっ。こんな時に。
ヴィーヤが応答すると、無線の送り主は火文明の要人であった。
『おう、久しぶりだなヴィーヤ先生。調子はどうだ?』
「あぁ、相変わらずだけど。『原因』はまだぼちぼちで……」
ヴィーヤは笑い交じりに言ったが、相手は今回は冗談に応じないようだ。
「すまない。先生……。アンタにしか頼めなくて申し訳ねェんだがよ…。」
「はい……。」
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次の日の明け方、光文明にて
大会運営の光文明支部では、各地を映すカメラを、エイブル含め大会運営が見ていた。
「こちらCブロック。依然として異状ありません。」
「よろしい。……そろそろですかね。」
「エイブル様……。本当に『アレ』をやるんですか…。」
側近がささやく。
「やりますとも。少なくとも今回の祭典は、ウートポスの提案こそあれど新兵器の活躍ぶりを全世界に見せ、闇にけん制するために私は承諾したのですから。」
エイブルは、透明な覆いを外し、その中の丸型のボタンをいとも簡単に押して見せた。
「では、オペレーションA。スタートです。」
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光文明に朝日が昇り、参加者はゴールへ向かっていく。
そんな中、ブランカはまだシャットダウンされたままであった。
「う~ん……。」
「起きろ!起きろって!!……アタシが悪かったから起きてくれぇ……。」
「ん…むにゃ……。」
ブランカは微睡みから覚めると、アイリの顔が真っ先に視界に入った。
「うわぁっ!!」
諸々の衝撃で倒れそうになりブランカを、アイリはすかさず受け止める。
「良かったぁ……。いいか、ブランカ。落ち着いて深呼吸しろ。そして周りを見ろ。」
その時に、ブランカが見たものは想像を絶するものだった。
「何、これ……。」
昨日まで平らで地平線が見えるほどであった荒野が、一つ一つの浮島になっており、空中を舞う何かを使わないと水文明にはたどり着けない位、ブランカ達のいる浮島は空まで浮上していた。
「何これ……。」
二人は淵の方にかがんで下を見るが、地面は全く見えずにいた。
ブランカは冷や汗をかく。昨日のことは覚えてはいたものの、彼女のことはまだ信用しきれていないからだ。いや、昨日のことがあったがゆえに余計信用しきれないのかもしれないが。
「参ったわねこれは……。」
思わずぼやくブランカのところに、なにやら遠くから人影が一つ。
「おーい……。」
「っ…!」
島と島を軽快に飛び乗り、地続きならぬ岩の島など何するものぞと、彼女たちのところへどんどん近づいていく。
ブランカは思わず息をのんだ。その姿は見覚えのあるものであった。
「ブランカ君…!やっと見つけたよ。」
人影の正体はヴィーヤ・ドレッドノート、水文明の大探検者であり、ブランカが水文明に留学する際の先生でもあった。
「先生!お久しぶりです……!」
「ブランカ君。」
その刹那、ヴィーヤは魔術によって編み出された水の縄でブランカを縛った。
アイリはとっさに叫ぶ。
「何すんだテメェ!」
激昂するアイリ、状況が呑み込めないブランカの間で、ヴィーヤは無慈悲にも説明する。
「ブランカ君の親御さんから『回収してこい』とのお達しでね。残念ながら、旅はここまでのようだね。」