「「…………」」
「お~、大きなネズミだゾ!」
「たや~!」
何て言えば良いのか分からない。困惑しているのだ。
自身達がこの車屋に来たのは新車を買うためだ。そこで北与野博士に偶然出会い、新しい車があると言われて此処まで来た。技術は確かなのだが彼の発明品は色々と問題を起こしたりしている。だからこそひろしとみさえはその車がどんなものなのか不安が少なからずともあった。
自分達の目の前にある北与野博士の言う車。なのだが、
「プイ~?」
明らかに生物としか思えない。
色は薄茶色に白い斑点が点在している。口からは「プイ、プイ」と可愛らしい声を出している。生物的な特徴が多い。明らかに機械ではない。
あまりの衝撃的かつ予想外な光景にひろしとみさえは硬直している。しんのすけは特に気にすることなく自身の思った事を言っており、ひまわりは目の前の生物に興味津々としている。
ようやく頭の中を整理してきたひろしが言葉を発する。
「あ、あの、これは……」
「よく聞いてくれた! この子が新しい車である“モルカー”だよ!」
モルカー
それがこの子(それとも種族としての名前なのだろうか)の名前、らしい。
「モルカー……? もしかしてあれが発明品!?」
「まさか、遺伝子操作の産物……!?」
「いやいや、私が以前訪れた事のある地に住んでる、新種の生物だよ!」
「新…… 種!?」
目の前にいるモルカーという生物が新種の生物であるという事にみさえとひろしは驚きを隠せない。何せ見た目が車を模したようにしか見えない。明らかに車にしか見えない生物が自然界で誕生する。俄かに信じがたい事に感じる。
「いやいやいやいや、どう考えてもそれは有り得ないだろ! どんな進化をしたらこうなるんだ!?」
「決して有り得ない事ではありません。バクテリオファージをご存じですか?」
「えっと…… テレビで見た事があるな。確か…… 細菌とかに感染するウイルス…… だっけ?」
「その通りです! あれも人工的な見た目ですよね」
「まぁ、確かにそうだけど……」
バクテリオファージ。ファージとも呼ばれているが、細菌や古細菌に感染するウイルス。その形が正二十面体の頭部と、脚とドリルが付いているのだ。人工物にしか見えない独特の形状をしている。人工的な形状の存在と言う前例があるため、モルカーが自然界で誕生したとしても不思議では無い。
「お~、中がどうなってるか気になるゾ。お邪魔しま~す」
「あ、コラ!」
「大丈夫です! 野原さん!」
しんのすけは窓の部分からモルカーの中に入った。中はハンドルやブレーキと座席と普通の車と同じ品が置かれている。見た目は普通の車である。シートベルトもきっちり付いている。正に車。まごう事無き車だ。
しんのすけが車内を見ていると、異変が起きた。
前の座席に、大きな黒い球体が付いている。
いや、これは“眼球”だ。
つまり、モルカーの目。
「お~、此処にもお目目がありますな~」
「え~! 四つ目なのか?!」
「いえ、目を瞑ると車内を見る事が出来るんです!」
席やハンドルがあるだけでなく車内を見る事が出来る。驚きばかりの生態である。益々モルカーがどんな生き物なのか気になってしまう。
「ほうほう、博士はモールカートを何処で見つけたの?」
「モルカーだよ。実はモルカーを発見したのは…… 地下の世界なんだよ!」
「「地下!?」」
「たや~」
「ほうほう、地下のちゅーしゃじょーに住んでいたのですな」
「んな訳あるか!」
しんのすけに即座に突っ込むみさえ。流石はしんのすけの母親である。
「地球空洞説を知っているかな?」
「地下に大きな空洞があって、そこに別世界があるっていう話だろ? まさか……」
「そう! 地下の空洞世界は実在し、そこにモルカーを見つけたのだよ!」
北与野博士はあの時の事を話す。彼の表情は、何十年前の事を懐かしむような様子だ。
彼はグレートババァブリーフ島*1の近くにある無人島に来ていた。そこに地下空洞の世界の入り口があるという話を聞いたからだ。本来なら過酷な環境故に今までは入れなかったのだが、博士の発明品により無事に入る事が出来たのだ。
反重力によって浮遊し、水中だけでなく深海や宇宙空間でも活動出来る特殊な乗り物で岩石の洞窟を通り抜けていく。すると、光が見えてきた。その光が段々と大きくなっていく。先に何かあると博士は確信した。そして、乗り物は光に飛び込んだ。
そこには、草木が生える母なる大地が地平線の彼方まで広がっていた。
よく見ると小動物が歩き回っており、鳥も多数飛んでいる。
地上と何ら変わらない世界。
北与野博士は「地球空洞説は本当だったのか!」と興奮していた。大気組成を調べてみると地上と全く同じで、そのまま外に出ても生命活動に問題ない事が分かった。
さすがにそのまま外に出ると野生動物に襲われる危険があるためまずは複数のドローンなどで周囲の安全確認する。問題が無ければ地上に出て探索をする事にした。
新種の生物を次々と見つける中、何と人が暮らす村を見つけた。どうやらかなり昔空洞の世界に移り住んだ人達の末裔だそうだ。地下で暮らす人達はこの世界を「チカネシア*2」と呼んでいるそうだ。北与野博士は昔ながらの生活をしている人達と仲良くなり、村の中を案内された。
その時に見つけたのが、車のような巨大モルモット、モルカーである。
どうやら馬やラクダのように、人や荷物を運ぶ家畜として活躍してるようだ。地下の人々はそのモルモット達を「プイプイ」*3と呼んでいる。それと同時に犬や猫のように人のパートナーとしても暮らしているようだった。
北与野博士はモルモットのようでカー(Car。車を意味する英単語)のようだから、「モルカー」と名付けた。地下の人々はその名前を気に入ったようだ。
村の人達は「プイプイ(モルカー)は私達を支えてくれる素晴らしい友です。そのことを地上に住む人達に教えてほしい」とお願いされたことから、沢山住んでいるモルカーの内の一匹を譲り受け、地上に戻った。
「という訳で、一先ずモルカーを飼ってくれる人を探していたんだが、野原さんならきっとモルカーを飼えるでしょう!」
「えぇ!? 何か俺達が飼う事を決定事項みたいに話してないか!?」
「野原さんならシロを飼ってますし、この子を飼えるだけの余裕がありますよ! そもそもこの子を飼うのにお金はあまりかかりませんし!」
ひろし達は博士がモルカーを見つけた経緯を聞いたが、何やらいきなり自分達が飼う事が決まっているかのような内容となっている。
「えー? 父ちゃん、安月給でも飼えるよーな値段なら飼ってみたいゾ!」
「たやい!」
「えー!? 無理よ!」
「みさえの言う通りだぞ! これだけ大きな生物を飼ったらどう考えても莫大なお金が……!」
しんのすけとひまわりは飼ってみたいと思っているようだが、ひろしとみさえはモルカーを飼う事には消極的だ。何せクマより体が大きい生物を飼うなんてどう考えても餌代がかかる。そう思っている。
しかし、
「大丈夫ですよ、野原さん!」
北与野博士は自信満々な様子で野原家の両親の意見に反論した。
「モルカーは普通のニンジンやレタスを食べます。消化効率もかなり高くて、朝・昼・夜にニンジン一本、或いはレタスの葉一枚で十分なんです!」
「え……!? それだけで……?」
「地下の世界は食料は限られていますからね。少量の食事でも生きていけるように進化したのでしょう」
モルカーの餌はニンジンやレタス。それらを一本・一枚のみで朝・昼・晩の食事が十分だという事にみさえとひろしは驚く。あれだけの大きな体ならエネルギーを得るためにかなりの餌が必要だと思っていたが、まさかニンジン一本程度で十分だなんて…… それが事実なら食事代はあまりかからない。
「いや、しかしなぁ……」
「よく見てください、野原さん」
博士がしんのすけとモルカーの方向を指差す。そこには、しんのすけとモルカーがやり取りをしている様子だった。
「よ!」
「プイ!」
しんのすけは片手を上に軽く上げてで挨拶をすると、モルカーはしんのすけを真似をして前足(車輪)を軽く上げて挨拶する。どうやら前足は見た目に反して器用に動かせるようだ。
「1+1はー?」
「プイ! プイ!」
モルカーは「プイ」を2回答え、更に両前足を上に上げた。どうやら「2」と答えたようだ。
「それじゃあ、わたあめ!」
「プイ!」
モルカーは目を瞑って手足を体の下に隠した。どうやらこれでわたあめを表現している。 らしい。
「おぉ、見事だゾ! シロと並べられるゾ!」
「プイ~!」
しんのすけとモルカーは嬉しそうに抱き合っている。本当に嬉しそうな表情だ。
「野原さん! 是非ともモルカーを飼って欲しいのです! この子にとっても、地上の世界を知る良い機会になります! よろしくお願いします!」
「え、あの……」
「う~ん……」
みさえとひろしは北与野博士の頼みに少し困るが、しんのすけとモルカーは二人の方をじっと見つめている。
「くぅ~ん……」
「プイ……」
二人共キラキラした、瞳で二人を見つめている。愛する息子のしんのすけは黄色い星を目から無数に放って暗に「飼って欲しい」と主張し、モルカーは黒蝶真珠の如く黒い瞳からしんのすけと同様に黄色い星をキラキラと出して見つめている。
ついでに、みさえに抱っこされているひまわりも黄色い星を出し続けている。
「「う……」」
愛する息子と娘、そして純真無垢な生物を前にして「飼いません」なんて言えない…… それにモルカーは息子と短時間で仲良くなっている。引き離すのも……
二人が悩んだ末に出した答えは……
今話で登場したモルカーは「PUI PUI モルカー」のポテトやヒデヨシみたいな見た目です。
次回は2022年1月15日12時00分に投稿予定です。