モルカーを飼うゾ   作:青色好き

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モルカーで通学・通勤してみたい人、結構多いと思います。


第4話 アンジェリーナで送迎するゾ

 遥か上空、大気圏を優に超えて無限の漆黒に位置する太陽が光を地球に送り、地球の朝を形成していく。多くの町や都市に朝が到来して、そこに住む人々の生活を始動させる。山や野原では動物達も起床し始める

 野原家が住む春日部にも朝は到来し、野原一家は目覚まし時計の音と共に起き始める。

 

「ふわぁ~…… 朝かぁ」

 

「おぉ~、ななこおねいさん~……」

 

「……て夢見てるのか?」

 

 しんのすけは何か夢を見ているようだ…… しんのすけが好きな女性である大原ななこの名前を呟いている事と頬をリンゴのように赤く染まっている事から、付き合っている夢を見ているのだろうか。

 

「もう、しんのすけったら…… ほら起きなさい! 幼稚園バスに遅れちゃうでしょ!」

 

「おぉ、ななこ~」

 

 みさえはしんのすけを起こそうとするが起きる気配は無い。しんのすけの表情は大して変わらず。このままでは何時起きるのか分からない。

 ひろしは日の光が当たれば少しは起きやすくなるか? そう思い、窓から見える景色を断絶しているカーテンを開けた。遮蔽物であった布が無くなったことで、日の光が部屋に入ってくる。部屋の床や壁・布団を照らして暗闇を次々と消していく。しんのすけは光に当たるもののあまり反応が無いようだ。

 

 本来ならみさえが更にしんのすけを起こそうとしたり、ひろしが出勤のために服を着替えたりする。

 

 しかし、それは“ある光景”を見た事でその行動に移せなかった。

 

 その“光景”とは……

 

 

 

 

 

プイ!

 

 

 

 

 

 アンジェリーナ2世が部屋を覗いている光景だった。

 

 

 

 

 

「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

 

 

 

 大きな叫び声が、部屋に木霊した。

 

 

 

 

 

「まさかアンジェリーナが起こしに来るとは……」

 

「あ~、朝からびっくりした……」

 

プイ!

 

「おぉ~、アンジェリーナ~、グッモーニン~ 今夕方~?」

 

「朝方じゃい!」

 

プイプイ~

 

 窓に顔を見せているアンジェリーナ2世はひろしとしんのすけ達に元気よく返事をした。

 窓を見たらアンジェリーナの顔がデカデカと映っている事に相当驚いた事もあり、みさえやひろしはすっかり眠気が彼方まで吹っ飛んでしまった。体を本調子に動かせる位にはテキパキに動かせる。しんのすけはみさえとひろしの叫び声に起きたため、あまり眠気は冷めていない。

 

「さぁ、時間通りに起きたんだからお着換えして朝ご飯を食べちゃいなさい」

 

「ほ~い……」

 

「俺も朝ご飯を食べて出社しないと」

 

「たや~」

 

 こうして野原家は何時もの平日の朝を迎える。着替え、朝ご飯を食べて、それぞれの行くべき所に行く。それが彼らの日常なのだ。新しい家族(アンジェリーナ2世)が加わってもそれは変わらない。

 

 だから……

 

「結局幼稚園バスに乗り遅れちゃったじゃない!」

 

「いや~、大きい子がなかなか出てこなくて~」

 

「も~! 早く幼稚園に送らないと~!」

 

 しんのすけが遅れる事も変わらない(勿論間に合う事もあるが)。その度にみさえはママチャリでしんのすけを幼稚園まで送る。幼稚園までの道のりは短くはないためみさえは毎回苦労している。

 

「しんのすけ! 早く乗って!」

 

「ブ! ラジャー!」

 

 しんのすけは着替えを完了していて、幼稚園バッグもきちんと携帯している。出かける準備は万端だ。みさえはひまわりをおんぶした状態で、当然普段着に着替えてる。みさえも出かける準備は出来ている。みさえはママチャリにまたがり、しんのすけも後ろの席に乗っている。みさえの足もママチャリのペダルをしっかりと踏んでいる。今すぐに出発しようとした。

 

 その時だった。

 

プイ!

 

 アンジェリーナ2世がしんのすけ達に近づいて声をかけた。

 

「お? アンジェリーナ、どした?」

 

プイ! プイ! プイ!

 

 アンジェリーナ2世は前足を自身の座席を指す。自分に乗って。そう言いたいようだ。

 

「運転していって て事!」

 

プイ!

 

 アンジェリーナ2世は顔を上下に振って頷く。肯定している。アンジェリーナ2世、というよりモルカーは人と意思疎通出来る程高いようだ。

 

「よし! それなら間に合うわね! しんのすけ! 乗って!」

 

「ブ! ラジャー!」

 

「たいやー!」

 

 こうして、しんのすけ達はアンジェリーナ2世に乗り込む。みさえは運転席に座り、ハンドルを握る。しんのすけとひまわりはチャイルドシートにきちんと座り、シートベルトでちゃんと固定する。

 

「それじゃあ、私の言う通りに動いてね!」

 

プイ!

 

「よっしゃー! しゅっぱつおしんこー!」

 

「きゅうりのぬかづけー!」

 

「たやー!」

 

プイ~!

 

 こうして、アンジェリーナ2世は野原家を出発した。足を動かして移動しているが、速度は時速45km程だ。平均的な車の速度で走行している。どうやら車としては最低限の速度を出せるようだ。

 右折や左折・信号の色・道路標識も理解しており、「止まれ」の場所ではしっかり一時停止して、赤信号の時に止まって青信号の時に動き出す。みさえの指示もあって交通ルールをしっかり守っている。みさえのハンドルの通りに曲がる事も出来る。

 

「なる程、なかなか快適ね」

 

プイ

 

「人生で新しく見る景色だゾ~」

 

「いや、いつもの風景でしょ……」

 

 しんのすけの呟きにみさえは突っ込みを入れる。この速度なら十分に幼稚園に間に合う。アンジェリーナ2世を運転しながらふたば幼稚園に向かった。

 

 

 


 

 

 

 一方、幼稚園バスはふたば幼稚園*1に到着しようとしていた。

 

「しんのすけの奴、今日も遅刻かぁ……」

 

「今日遅刻したら50日連続よ?」

 

「今日は流石に遅刻しないかな~ て思ったんだけどね……」

 

「記録は 破られる ためにある」

 

 バスの中でそのような会話をしているのはかすかべ防衛隊である風間トオル・桜田ネネ・佐藤マサオ・ボーちゃんである。しんのすけの友達であり、今まで多くの事件を解決してきた防衛隊でもある。

 

「最近しんのすけの父さんと母さんはモルカーっていう生き物を飼い始めたんだよね?」

 

「うん、窓からちらっと見えたよ」

 

「とても可愛かったわ! ネネも飼いたい~!」

 

「地底の 神秘!」

 

 しんのすけから聞いたのか、彼らはモルカーの事を話していた。車の姿をした生物、話題にならないわけが無い。幼稚園だけではなく春日部中にもモルカーの事は知られていた。

 そんな話をしていると、ふたば幼稚園の門が見えてきた。もうすぐ到着する。門の前では園長夫人が立っている。園長夫人は箒を持って掃除している。そのおかげで門の前は綺麗で、葉が一枚も落ちていない。そんな美しい門の前で風間君達はもうすぐ降りようとしている。

 

「今日もしんのすけは遅刻だな……」

 

 しんのすけの遅刻は確定。かすかべ防衛隊だけでなく、バスに乗っている吉永先生と組長園長先生もそう思っていた。

 

 すると、バスの外から何かが聞こえてくる。

 

 何か、動物の鳴き声…… ハムスターのような、ネズミのような鳴き声が……

 

 何事かと思い、音が聞こえてくる方向である後方を見てみた。

 

 そこに映っている光景は、

 

 

 

 

 

プイ~!

 

 

 

 

 

 

 車みたいなモルモットだった。

 

 

 

 

 

「あ、幼稚園のバスだわ!」

 

「お~、お早いお着きだゾ~」

 

 アンジェリーナ2世は幼稚園バスに追いつき、今正に後ろを走っている最中だ。アンジェリーナ2世は初めて見るバスに興味津々な様子で見ている。だがしばらくすると、背後の模様はよく見るとアンジェリーナ2世が苦手な“あの生物”に似ている気がするのは気のせいだろうか? とアンジェリーナ2世は思った。

 

プイ~……

 

「あれがバスだゾ! お、風間君がこっちを見ているゾ! ほほ~い!」

 

 しんのすけは窓に映ってる風間君に向けて手を振る。風間君だけでなく、マサオ君・ネネちゃん・ボーちゃんもしんのすけの方を覗き込む。やはり興味津々で此方を見ている。

 

「よし! 追い越すわよ! アンジェリーナ! 前に出て!」

 

プイ!

 

 みさえの指示に従ってアンジェリーナ2世は幼稚園バスを追い越す。前方から車が来ない事を確認し、幼稚園バスを追い越した。すると、幼稚園バスの模様の全容がはっきりと見えた。

 

 ネコだ。

 

 プイプイ、もといモルカーが苦手とする生物。

 

 このバスは、巨大なネコ?

 

プイ~!?

 

「え、どうしたの?」

 

「もしかして、ネコが苦手なの?」

 

「たや~?」

 

「え、そうなの?」

 

プ、プイ~……

 

 アンジェリーナ2世の体が若干震えており、顔も苦手意識があるような表情をしている。バスの模様がネコに見える事から、バスを巨大なネコだと思っているらしい。

 

「おぉ、アンジェリーナ! あれはネコの落書きだゾ。ネコじゃないゾ」

 

プイ?

 

「そう! あれはネコの模様が描かれてるだけ。ネコじゃないわよ!」

 

「たや~」

 

……プイ~

 

 アンジェリーナ2世は少し怖がったような表情から、気を抜いたような、癒しを与えるような表情に変わった。しんのすけ達が行った事を理解し、あのバスがネコでは無い事を知ったからである。落ち着いた表情へと変わり、平静を取り戻した。

 

「ふぅ、良かったわ」

 

プイ

 

 落ち着きを取り戻したアンジェリーナ2世は無事にバスを追い越して先頭に立ち、幼稚園に向かって行った。

 幼稚園バスに乗っている組長園長やかすかべ防衛隊達園児達はその様子を興味津々な様子で見守った。

 

 

 


 

 

 

 ふたば幼稚園ではアンジェリーナ2世が停車している。本来しんのすけを下ろしたら自宅に帰る予定だったのだが、珍しさ故に園児達が集まって身に来ていたため、仕方無くその場に留まっている。

 

「わー! 凄い!」

 

「かわいいー!」

 

「モフモフしてるー!」

 

プイ♪ プイ♪

 

 皆から好意的な目で見られているアンジェリーナ2世は頬を少し赤くなっており、恥ずかしくなっているようにも見える。

 

「いや~、オラの息子さんが有名になっていますな~」

 

「いや、アンタの息子じゃないでしょ……」

 

「おぉ、そうだった! オラの息子はここ」

 

「 や め な さ い 」*2

 

 そんな会話が行われていると、かすかべ防衛隊のメンバーがしんのすけの方にやって来た。どうやらアンジェリーナ2世を見てみたいようだ。

 

「しんのすけ! それがモルカーってやつか?」

 

「そうだゾ! アンジェリーナ2世だゾ!」

 

「アンジェリーナ2世? もっと可愛い名前の方が良いと思うけど?」

 

「オラの家にあったお車が『アンジェリーナ』だから、『アンジェリーナ2世』だゾ!」

 

「え? あれ車なの?」

 

「ボ 可愛い……」

 

 メンバー各々が話す中、ボーちゃんがアンジェリーナ2世に触れる。モフモフとした毛皮に、体中に癒しが伝わる。

 

「気持ちいい……」

 

「ネネも触りたーい!」

 

「僕も!」

 

「ぼ、僕も!」

 

プイ~

 

 アンジェリーナ2世にかすかべ防衛隊の小さな手が触れられる。車のような形をしていながらも生暖かい体温と拍動を感じ取れる事から生物である事が分かる。触られているアンジェリーナ2世も何処か嬉しそうな表情だ。

 

「うわぁ、モフモフしてる~」

 

「気持ちいい~」

 

「なんだか、何時までもこうしていたい~」

 

「ボー とする……」

 

「ボーっとしてるんじゃねぇゾ~」

 

「何処かで聞いた事あるような台詞ね……」

 

 かすかべ防衛隊の楽しそうな会話が続く中、みさえは吉永先生や組長園長先生達と話していた。

 

「この子がモルカーですか…… 凄く可愛いです!」

 

「確かに、うちでも飼ってみたいわ!」

 

「インスタに載せてみます!」

 

「おぉ、近くで見ると中々大きいですね」

 

「なんだか、乗ってみたくなりましたわ! 野原さん、羨ましいです!」

 

「えぇ、飼う事になったのは、色々ありまして~」

 

 先生方からもモルカーの話題で持ちきりだったらしく、結構話が弾む様子だ。上尾先生はアンジェリーナ2世の写真を色んな角度で撮っている。

 

「私も園児達みたいに触ってみましょうか」

 

「あ、園長先生、いきなり行ったら……」

 

 すると、組長園長先生がアンジェリーナ2世に触ろうと近づいた。

 

「何だかモフモフしてそうで気持ち良さそうですね」

 

プ?

 

 組長園長先生の顔はとても優し気な表情である。しかし、影が重なってしまい、どんどん怖い顔に見えてきてしまい……

 

「それじゃあちょっと……」

 

 完全に悪人面になってしまった。

 

プイイイイイィィィィィーー!!

 

 アンジェリーナ2世は後方に(両前足と両後足を猛スピードでジタバタさせて)後ずさりし、幼稚園の門の敷地内側に隠れてしまった。顔を少しだけ出しているが、眼からは涙を流しており、体をブルブルと震えて、口は細長い形に変形している。明らかにビビってる。

 

「「「「………………」」」」

 

 その様子を見ているかすかべ防衛隊含む園児達や先生方・みさえは汗を流して「あ、やっぱり……」と言いたげな表情をしている。沈黙が流れる中、しんのすけが口を開いた。

 

「次からは、光や影の当たり方でどんな顔に見えるのか考えた方が良いゾ、組長~」

 

「……そこまで考えるのは、難し過ぎです……」

 

 しんのすけの提案を聞く組長園長は、泣いていた。

 

 

 

 

 

 一方、野原家では……

 

「クゥ~ン……」

 

 一家が餌やりを忘れていたために、シロが泣いていた。

*1
アニメでの表記。原作では「アクション幼稚園」と表記。

*2
お察し下さい。




次回は2022年1月29日12時00分に投稿予定です。
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