クレヨンしんちゃんのキャンプ回を見ると懐かしく感じます。
今話で出てくる背景色の部分は、木の看板をイメージしています。
青い空と白い雲が快晴である事を教えてくれる程天気が良いこの日、野原家はアンジェリーナ2世に乗って道路を走行している。アンジェリーナ2世の両手足はせわしなく動いているが、疲れる様子は一切無い。
「父ちゃん、母ちゃん。家のローンを払えなくなって夜逃げならぬ朝逃げするの?」
「プイ!?」
美しい青空に似合わぬ台詞がしんのすけから出てくる。「ローン」や「夜逃げ」の言葉を(何故か)知ってるせいでアンジェリーナ2世は一瞬ビクッと驚いてしまう。
「んなわけあるか! 何処で覚えてくるんだよ……」
「今日はキャンプしに行くのよ。しんのすけが当てた景品のおかげよ!」
「そういえばそうでしたな~」
「たやい!」
「キャン!」
「プイ~……」
夜逃げ云々は言うまでもなくしんのすけの冗談なのだが、アンジェリーナ2世は割と本気で信じてしまったようで、冗談と分かった安心感からか溜息を吐いた。しかし、モルカーが「ローン」や「夜逃げ」を何故知っているのか、ある意味謎である。
今回野原家がアンジェリーナ2世に乗って向かう先…… それはしんのすけがくじの景品で当てた「キャンプ旅行」だ。最近人気のキャンプ場なので野原家はルンルン気分だった。それに加えてキャンプ当日は日本晴れ。さらに調子が良くなるのは無理も無いだろう。
「さて、もう少しで到着だ! 満喫するぞ~!」
アンジェリーナ2世が通っている道の歩道脇に「キャンプ場 1km」と書かれている。更にその先には木々が生えていて林が形成されている事が分かる。そして、僅かにではあるが、水の流れる音も聞こえる。川が近いのだ。
野原家が目指すキャンプ場は、もうすぐだ。
ちょっと奥かもしれないけど、奥と言う程でもないキャンプ場
野原家が着いたのは「ちょっと奥かもしれないけど、奥と言う程でもないキャンプ場*1」である。此処は最近出来たばかりの人気のキャンプ場で、多くの人がやって来るのだ。
緑が生い茂り、葉の隙間から光のカーテンが舞い降りて、川では清流が流れてせせらぎの音が天然のBGMとして機能している。それらに加えて野鳥の鳴き声が加わり、此処に来る人から見れば「自然豊か」であるという印象を持つだろう。それだけ自然美しい場所なのだ。
「プイ~!」
「お、騒いでいますな」
「もしかしてアンジェリーナの故郷にもこういう所があるのかもな!」
此処に着いてからアンジェリーナ2世は目をキラキラと光らせている。此処にある大自然が故郷の自然を思い出しているのかもしれない。
「よ~し、それじゃあまずテントを組み立てるぞ。組み立てキットを持って来てくれ」
「ほっほ~い」
「え~と、これね!」
こうして、野原家のテントの組み立てが始まった。元々懸賞で当たったという事もあって、ひろしとみさえは少し高揚している。テントの組み立ては順調に進み、早く終わるかもしれない。
「おぉ、父ちゃん。決行早いゾ!」
「おう! 一家の大黒柱はこうやって家を作るんだぜ!」
「プイ~!」
「立派に立てても、ローンに苦しむ事になりそうですな」
「う……」
「プイ、プイ」
「コラ! 落ち込ませるような事を言うな!」
……このように、気分がやや落ち込んだことでテントの完成が予定より10分ほど遅れた。何てこったい。
色々あったが、どうにかテントを組み立てられる事が出来た。見た目は比較的一般的なテントだが、中は少し豪華となっている。
ついでにシロ専用のテントと、アンジェリーナ2世もといモルカー専用のテントも組み立ててある。後者は北与野博士が送ってきてくれた物である。
「よ~し! これで完成だ!」
「凄い! ちょっとしたアート作品みたい!」
「たや~!」
「キャン! キャン!」
「プイ!」
「おぉ~! 父ちゃんにしてはよくやりますな~」
「父ちゃんにしては、てどういう事だよ……」
気になる文言はあるものの、一先ず完成したことに安堵する一行。テントの灯りが周りの木々や小川のせせらぎの音と混ざる事で幻想的な風景を生み出している。ひろしやみさえから見れば非常に美しい、日本とは思えないような風景のように見えて感動を覚えるだろう。
「夜に綺麗な灯りのキャンプ…… なんだかファンタジーの世界に迷い込んだみたい!」
「母ちゃんがファンタジーの世界に来たら、悪役のおばさんにしか見えないゾ」
「何ですって!」
「言えてるかも……」
「プッ……」
「クフ……」
「プッ……」
「あん?」
「いえいえ、何でも無いです!」
「たやややい!」
「クゥンクゥン!」
「プイプイプイ!」
みさえの強烈な視線により、その場の皆が一瞬でビビってしまい、即座に笑いかけた事を否定する。みさえの怒りは火山の噴火や隕石の衝突よりも恐ろしい。
とりあえず夕食のため、みさえの怒りを忘れさせるために夕食の準備に取り掛かることにした。
「よ~し、食材は事前に用意してあるから、テーブルとイス、コンロを用意するぞ!」
「ほっほーい! 美味しそうだゾ!」
「クゥ~ン」
「ピュイ~」
「おいおい、言っとくけど先に食うんじゃないぞ!」
しんのすけとシロとアンジェリーナ2世はこれから焼く野菜と肉を見て涎を垂らしそうな表情で見つめている。勿論まだ焼いていないので食べてはいけないが。
「これがバーベキューコンロよ。野菜や肉を焼く道具よ」
「プイ?」
みさえは持って来たバーベキューコンロをアンジェリーナ2世に見せる。恐らくアンジェリーナ2世の人生ならぬモルカー生で初めて見ると思われる、火で食材を焼く道具だ。アンジェリーナ2世の円らで光沢のある目はバーベキューコンロに釘付けだ。
「北与野博士はああ言っていたけど、本当に大丈夫かしら?」
「博士は嘘つかないだろうけど、やってみるか」
ひろしとみさえは“ある事”を心配していたが、博士の言っていた事を信じて、バーベキューコンロの炭に火を付けた。火は少しずつ大きくなっていき、火の赤色も徐々に濃くなっていく。パチパチと音を鳴らしながら、テントの灯りと共に風景に馴染んでいく。
「プイ~!」
「本当に火を怖がらないんだな……」
「ちょっと、凄いわね……」
揺らめく火を前にしてアンジェリーナ2世は癒されるような表情で落ち着いてる。火を全く怖がっていない。ひろしとみさえは少しばかりそれに驚いている。一部の動物は火を怖がるので、モルカーも怖がるのではと思っていたが、キャンプに行く前に北与野博士が火を怖がらないと教えてくれていたのだ。
北与野博士曰く、地底で暮らす一族と一緒に育ち、焚火をする機会も多い事から火に慣れているという。それなら火を恐れないのも納得である。
こうして、バーベキューコンロでの調理が始まった。野菜や肉を網の上に載せていく。野菜と肉がコンロの火と交わる事で食欲をそそる音を奏でながら白い煙を出している。
「おぉ、いい匂いだゾ~」
「たや~!」
「キュゥ~ン」
「ピュイ~」
2人と2匹はすっかり気が抜けたような表情をしている。野菜と肉から放たれる匂いが彼らの鼻を通る事で味覚が美味しさを伝えているのだ。ひろしとみさえもその匂いにそそられて、焼いてる最中でも涎を垂らしそうになるが、二人は我慢する。
しばらくして食べられる位焼けると、ひろしとみさえは紙製の皿を取り出して焼いた肉と野菜を載せていく。
「よ~し、出来たぞ!」
「焼いたばかりだから冷やして食べてね!」
「ほ~い! いや~美味そうですな~!」
「たや~!」
「キャン!」
「プイ~!」
野原一家は焼きあがった野菜と肉を頬張る。焼いた事により味が増した食物が口の中に広がり、野原一家の顔をとろけさせていく。大自然の中で食べる料理は格別。そう思わせる一幕だ。
「お~、母ちゃんの手抜き料理より美味しいゾ~!」
「何ですって~!!」
「うひ~!」
「プイ~!?」
しんのすけがみさえに失言を言ってしまい、しんのすけはみさえに追いかけられてしまい、咄嗟にアンジェリーナ2世の中に隠れるという珍事が起きた。その際、みさえのデカいケツがアンジェリーナ2世の窓に突っかかってしまうという、笑いそうなアクシデントも起きた。そんな光景を見てひろし達は笑いそうになったという。
そんなこんなで夕食を食べ終えて野原一家はテントで寝る事となった。
夜、皆が静かに寝ている。周辺にいる虫達が演奏会の如く癒しの音を鳴らしていて、自然と眠りを催してしまう。僅かに吹く風が周辺の草や木々の葉を揺らめかせて自然音を輩出している。これらの音が交わる事で美しい環境音を作り出している。野原家はその中で気持ち良く眠っているのだ。
「ん~……」
「ぶ、ぶちょー、すみません…… その件は……」
しかし、しんのすけの足がひろしの腹の上に折り重なりひろしがやや苦しい状況となっている。そのせいかひろしは嫌な夢を見ている。
そんな事があるものの、まだ平穏な状況を寝ている野原一家。だが、それは突然破られた。
「プイ~!」
アンジェリーナ2世の悲鳴が響いた。
「おぉ?」
「ど、どうした!?」
しんのすけとひろしがアンジェリーナ2世の悲鳴を聞いて目を覚まし、みさえとひまわり・シロも目を覚ます。何事かと思い皆はアンジェリーナ2世の所に駆け付ける。そこには、ブルブルと震えるアンジェリーナ2世がいた。
「どうしたんだ!? アンジェリーナ!」
「プイ……」
アンジェリーナ2世は震えながら前足を草むらの方向に前足を向ける。そこには何の変哲も無い草がはえている。だが、普通の草むらにしては奇妙な点がある。
「……やけに揺れてるな……」
草がやけに揺れている。風は吹いているもののそこまで強くないため、目の前の草程揺れるとは考えにくい。では風が狭い場所を通る事で風が局地的に強まり大きく揺れている? とは言え近くに風が通りそうな構造物は無いからそれも考えにくい。
つまり、“何か”がいる。
「まさか、動物……?」
「でも、此処って人を襲う動物はいない筈よ……」
「でもあの揺れ具合からして大きいわよ…… 熊位は……」
「母ちゃんより強い?」
「そりゃ強いわよ……」
「いいか、一か所に集まるんだ。離れるなよ……」
ひろしとみさえ・しんのすけ・ひまわり・シロ・アンジェリーナ2世は一か所に集まり、武器になりそうな物を持つ。ひろしはライト、みさえは鍋のおたま、しんのすけはアクション仮面とカンタムロボのおもちゃ、ひまわりは宝石のネックレス(輪投げのように振り回そうとしてる)、シロは骨を咥えていて、アンジェリーナ2世は博士から貰っていたブーストにんじんを咥えている*2。
……中には武器っぽくない物があるが、気にしてはいけない。
「お、どんどん揺れているゾ!」
「く、来るぞ!」
「プ、プイ!」
草の揺れが段々と大きくなっていく。どんどん近づいているという事。
一体何が出てくるのか……
野原一家は武器を構え直す。恐怖心があるため、数人は僅かに後ずさりする。草の音と共に、何か歩行音のような音も聞こえてくる。
そして闇夜から、影の姿を現した。
「のはらさあああああああああんんんんんんんんんんん!!」
緑色の服を着た男性が飛び出してきた。
「ヨ、ヨシリン、お前何やってんだよ……」
「オラ、驚いちゃったゾ~」
草むらから出てきたのは緑色の地にハートの模様が描かれている服を着た男性、鳩ヶ谷ヨシリンだった。彼は野原家の近所に住んでいて、野原ひろしと同じく「双葉商事」に通勤している。
「ヨシリンも此処に来てたの?」
「以前、商店街のくじ引きで当てた懸賞でこのキャンプ場に来ていたんです!」
「ヨシリンも当ててたんだ……」
どうやらしんのすけと同じく懸賞で当たった事でこのキャンプ場に来ていたようだ。お隣さん同士で懸賞に当たっていた、何と言う奇跡なんだろうか。
「何で夜中にうろついていたの?」
「トイレに行こうと思ったんですけど、迷って……」
「おいおい……」
どうやらトイレに行こうとしたら迷ってしまったようだ。灯りこそあるものの、夜という事もありやや暗い。迷っても仕方ないかもしれない。
「ヨシリーーーーン!」
すると、遠方から聞いた事ある声が聞こえてくる。ヨシリンがいるので当然……
「ミッチーーーー!」
「ヨシリーーーーン!」
「げ、やはりミッチーもいるか……」
「プー……」
やっぱりという表情で、それと同時に嫌そうな表情をする野原一家。アンジェリーナ2世もミッチー・ヨシリンと初対面だが、イチャイチャっぷりに不快さを感じているのか、やはり嫌そうな表情をしている。
「此処にいたのね! ヨシリン!」
「ミッチー! 心配かけてごめんね!」
「ううん! ヨシリンが無事ならそれで良いわ! だって、世界でたった一人のヨシリンなんだもの!」
「ミッチーーーーーー!!!!」
「ヨシリーーーーーーーーン!!!!」
お互いの愛の叫びにより、ミッチーとヨシリンは涙を流しながらお互いを抱きしめあう。まるで恋愛映画のワンシーンのような場面。だが、普段から彼らがイチャイチャと騒ぐ事を知っている野原家から見れば何回も見ている場面である。
「……………………」
「…………寝よっか」
「ほーい……」
「キャン」
「たや」
「プイ」
こっそり野原一家はテントで寝る事にした。
もっとも、ミッチーとヨシリンの愛の叫びはしばらく続いたが。
次回は2022年2月12日12時00分に投稿予定です。