多くの子供達が集まる場所、公園。
川の側公園には、滑り台や砂場・トイレがある、一般的な公園だ。休みの日には多くの子供達があつまり、持って来たおもちゃで遊ぶ、憩いの場となる。
だが、この公園には今子供は数人しか集まっていない。厳密に言うと、子供五人と
「それじゃあ、今日のかすかべ防衛隊の会議を行う!」
五人来ている少年の内、青い服を着た少年が声高にそう宣言する。かすかべ防衛隊。それは春日部市の平和を守るために結成された防衛隊。春日部の平和はこの五人のおかげで守られていると言っても過言では無い。とは言うもののかすかべ防衛隊自体はこの五人組が独自に結成しただけの集団だ。だが、今まで何度も世界の危機を救っているのは紛れも無い事実だ。
そのかすかべ防衛隊の(自称)リーダーが風間トオルだ。
「えぇと、今日は向こうの方のパトロールだよね?」
次に発言したのは、緑色の服を着ていておにぎりに見える少年、佐藤マサオだ。気弱な所があるものの、時には別人の如く豹変する少年。
「ボ、あっちの方は石がよく採れる道……」
マサオ君の発言に反応したのは黄色い服を着ている少年で、鼻水を垂らしているボーちゃん。いざという時は巧みな技術と知識・鼻水を使った技で窮地を脱出してきた、かすかべ防衛隊の猛者だ。
「それじゃあ、パトロールが終わった後は、リアルおままごとを」
「あ、この公園でサッカーしようよ!」
「「さんせーーい!」」
「オラも~!」
「プイ?」
「何よ~……」
おままごとの誘いを聞いてないかの如くスルーするかすかべ防衛隊の面々+大きな生物。おままごとを誘った少女は桜田ネネ。リアルおままごとを遊びたがる、男勝りな所がある少女。
そして、最後の一人と一匹が……
「サッカーボールが見つからなかったから、代わりにピンポン玉で遊ぶゾ~」
「ピュイ!」
「ピンポン玉でサッカー出来るか!」
そして、かすかべ防衛隊の最後の少年、赤い服を着た、語尾に「~ゾ」と付ける、野原しんのすけ。そして今回特別に招かれた野原家の一員、モルカーのアンジェリーナ2世。アンジェリーナ2世は今回の会議で特別に呼ばれたのだ。
呼ばれた理由は「アンジェリーナ2世と遊びたい」である。
「アンジェリーナ2世って色んな遊びが出来るんだよね?」
「きよーだから色々できるゾ!」
「プイ!」
そう言うとしんのすけは懐からゲーム機を2機取り出し、もう片方をアンジェリーナ2世の方に渡した。ゲームを起動させるとアンジェリーナ2世は前足を動かすことでボタンを押してゲームを操作し始めた。足を器用に動かすことでゲームを難無く進めている*1。遂にはしんのすけとゲームで対戦出来る位上手い。
「す、凄い!」
「ボ、お上手!」
「結構器用だ……」
「凄いわ! アンジェリーナ!」
かすかべ防衛隊の面々はアンジェリーナ2世の器用さに驚く。タイヤみたいな前足で小さいボタンを正確に押せる技量。五歳児である彼らからすれば驚くのは無理も無い。
「いや~、オラの育て方が良いからでしょうな~」
「本当か……?」
しんのすけの発言に風間君はやや疑問を感じる。まぁ、分からなくもないが……
「一緒にゲーム出来るなんて、凄く良い子だわ」
「プイ~」
「でも、モルカーが本当に安全な生き物なのか疑問に思う人もいるみたいなんだ」
「お……」
「プー……」
マサオ君の発言にしんのすけは一瞬黙ってしまう。
モルカーの存在が世間に広まり、その人懐っこさや可愛さが受け始めている。しかし、まだモルカーが人に対して安全な生き物なのか疑問に思う人も一定数いるのも事実。直ぐに受け入れられるというわけではない。
「アンジェリーナはとても大人しいって色んな人に教えてあげたいわね」
「テレビに出て、芸をやるとか?」
「子供のお願いにテレビを出てくれるかな?」
色々な意見が出るが、有効的な案は出てこない。自分達は5歳児という子供達だ。大人と違って出来る事は限られる。どうしたものか。すると、しんのすけからある提案が出た。
「お、そうだ! 行進だゾ!」
「「「「行進?」」」」
「プープイ?」
「アクション仮面でやってたゾ! みんなで一緒に歩いて仲良くなる話があったんだゾ。みんなでわいわい行進したら、オラ達は仲良しで安心だゾ~って教えられるゾ」
行進。つまり皆と一緒になって町を歩くのだ。仲良く歩けば皆モルカーが優しい生き物だと分かってくれるのでは…… と。
「確かに! それは良いアイデアだ!」
「うん! やってみよう!」
「人が多い所が良い……!」
「ほうほう、商店街や春日部駅辺りが良いですな~」
「プイ!」
有効な案が思い浮かんだ。後は実行するだけ。公園には少年少女達の元気な声が木霊し、それを青い空と白い雲・光り輝く太陽が見ていた。
春日部駅前。多くの人々が電車に乗るため、駅前の店に入るために行き交っている交流の場。車もバスも行き交う。活気ある場となっている。
「あら? あれ何かしら?」
「あ、もしかして……」
駅前を行き交う人が何かに気付いて、ある者は目を向け、ある者は指を指し、ある者は手持ちの
彼らの向ける方向には……
「かすかべ防衛隊~♪」
「プププププ~プ~イ~」
かすかべ防衛隊とアンジェリーナ2世が仲良く並んで行進している様子だった。かすかべ防衛隊の面々とアンジェリーナ2世は笑顔で行進しており、見た者に好意的な印象を与える。
「あ、あれってテレビや新聞で見たモルカー?」
「可愛い! 写メ撮ろう!」
「インスタ映えするなぁ!」
多くの人達がかすかべ防衛隊とアンジェリーナ2世に注目を集めている。大人も子供も男も女も、老若男女関係無く彼らに注目している。
(よし! 皆の注目を集めてる! これなら完璧だ!)
(おぉ~、オラ注目されてる~♡)
(プ~)
(もう、しんちゃんだけじゃなくて僕達とアンジェリーナも注目されてるの)
しんのすけの軽口にひっそりマサオ君がこっそり注意した。アンジェリーナ2世は
しんのすけの考えが当たり、この行進は大きな注目を浴びた。多くの人がかすかべ防衛隊とアンジェリーナ2世が仲良く行進する様子を見て「モルカーは安全な生き物」と言うイメージを与える事に成功した。
それが分かるのは周囲の反応を見たから。それも一つの理由である。それだけでなく、もう一つ理由がある。
「見て、トレンド入りしてるわ!」
「凄い件数だ!」
「ほ~、どんどん増えてるゾ!」
「プイ~!」
彼らが見ている物、それはSNSだ。情報発信技術が発達した現代では多くの人達と画面やコメントでやり取り出来る。一度情報を発信すれば日本だけでなく世界中に広める事が可能だ。
それを利用したのだ。モルカーが人に危害を加えない生き物だと発信すればそれが世界中に広がる。SNSを上手く利用したからこその効果だ。
「これなら色んな人がアンジェリーナの事を正しく理解してくれるぞ!」
「オラの作戦成功しましたな~」
「良かった~!」
これならアンジェリーナ2世、もといモルカーが優しい生き物だと世界中で広まる。かすかべ防衛隊はそう確信していた。
すると、
「きゃあ!」
「危ないぞ!」
「まずいぞ!」
誰かの声が聞こえる。声色からして何やら危険な状況らしい。
「お?」
「何だろう?」
「行ってみよう!」
「プイ!」
かすかべ防衛隊とアンジェリーナ2世は先程の会話が気になり、会話の発声源に向かった。一体何が起きているのだろうか。何かの事件だろうか? もしそうだとしたら、春日部を守る者達として解決しなければならない。その使命感により、彼らは動いた。
会話の発声源の場所に向かっていくと、色んな人が木に集まっている。顔は何やら焦燥的な表情をしており、不安そうな表情をする人もいれば指を木の上に差している人もいる。その場にいる人達は木の上に視線を向けている。
一体何が起きているというのだ?
「あれ? あそこに人が沢山集まっているよ」
「皆木の上を見ている。何だろう?」
かすかべ防衛隊とアンジェリーナ2世が木の上を見てみると、そこにはネコがいた。木に登ったらしいが震えている所を見ると、怖くて降りられなくなっているようだ。
「プイ!?」
「お? アンジェリーナ?」
「もしかして、ネコが怖いの?」
「確かモルカーって、ネズミの仲間だから…… 怖がるのも無理無いかも……」
アンジェリーナ2世がネコを見て怖がっている。それは恐らく本能的なものだろう。ネコはネズミを捕まえる事があるため、ネズミであるモルモットから進化した種であるモルカーがネコを恐れているのだろう。遺伝子にそう刻まれているのかもしれない。地下の世界にいても、ネズミがネコを恐れるのは共通らしい。
「このままじゃあネコちゃんが危ないわ……」
「何とか助けられないかなぁ……」
「……プゥ……!」
ネコを助けようとするかすかべ防衛隊の様子・ネコを心配している人々・そして木から降りれなくなって怯えているネコを見てアンジェリーナ2世は恐怖心を消してジッとネコを見つめ始める。確かにネコはモルカーが苦手とする生物。しかし、だからと言って困っている生物を見捨てる事は出来ない。
アンジェリーナ2世は降りられなくなっているネコをどうにか助けたい、と思うようになった。
すると、ネコが足を踏み外しそうになった。どうやら体力が限界に近いらしい。このままでは滑り落ちてしまう。
「あ! ネコちゃんが!」
そしてネコが悲痛な鳴き声を出し始める。
まずい。
「プイ!」
「お……?」
すると、アンジェリーナ2世はしんのすけの方を向き、何かを訴えるような目でしんのすけを見つめる。アンジェリーナ2世だけでなくモルカーは人の言葉を喋る事が出来ない。しかし今まで家族として暮らしてきたため、言いたい事が分かった。
あの猫を助けたい。
アンジェリーナ2世の瞳は、そう語っていた。
「お……! そうだ! アンジェリーナ! あれをやればいけるゾ!」
「! プイ!」
「あれ? あれって?」
しんのすけが言った“あれ”。
それはしんのすけが好きな番組「アクション仮面」であった場面である。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!」
それは、数日前に放送された場面。卑劣な敵が人質を投げ捨てた時の場面。アクション仮面は人質を助けるために披露した技。
「アクション! マウンテンジャーンプ!!」
アクション・マウンテンジャンプ。それは助走を付けて大ジャンプする技。これにより落下している人質を救出に成功した。
「ありがとうございます!」
「うむ! 無事で何よりだ!」
「い、今の内に逃げるぞ~!」
「させん! アクションビーム!」
「ぐわあ~! やられた~!!」
逃げようとする卑劣な敵をアクションビームに向けて放つ。直撃した敵は大爆発を起こし、敵は撃退した。事件は無事に解決した。
「お~! 正義は勝つ! わ~はっはっはっはっは!」
「プ~!」
その時、アンジェリーナ2世はしんのすけと共に窓越しでアクション仮面を見ていた。野原家の構造からしてテレビの画面を窓越しから見る事は出来ないのだが、この時はひろしがテレビを動かしてアンジェリーナ2世にも見えるようにしたのだ。初めて見るテレビにアンジェリーナ2世は大興奮してしまい、しんのすけと一緒にアクション仮面を応援していたのだ。
「プイ! プイ!」
「お~! アンジェリーナもアクション仮面の凄さが分かったようですな~! 次はカンタムロボを見せるゾ!」
「プイ~!」
「しんのすけー! そろそろ夕飯よー! 何時までも見てないでこっちに来なさいー!」
「も~、母ちゃんは空気が読めないですな~」
「何ですってー!」
「おわ~!」
「プイ~!」
みさえの呼びかけを愚直った事でみさえは怒ってしまい、頭から湯気が出る程カンカンな様子でしんのすけを追いかけ始めた。起こっているみさえを見てアンジェリーナ2世は恐縮してしまった。
そして今、アンジェリーナ2世はやる事を決めていた。しんのすけとアイコンタクトを取り、“あれ”
をやるタイミングを見定めようとする。
「しんちゃんの“あれ”をやればあのネコを助けられるんだな?」
「勿論だゾ!」
「よし! 僕らも手伝おう!」
「うん! 僕もあのネコちゃんを助けたい!」
「ボ!」
「よし! アンジェリーナ2世を信じてネコを助けるぞ!」
「ネコちゃん救出作戦を実行するゾ! かすかべ防衛隊、ファイヤー!」
「「「「ファイヤー!」」」」
「プップー!」
かすかべ防衛隊とアンジェリーナ2世は片手を天に向けて大きく上げた。これはかすかべ防衛隊が気合を入れる時に行う動作である。
彼らはこれからネコの救出を始めるのだ。
かすかべ防衛隊の目的は春日部の平和を守る事だ。それは治安や人を守る事だけではない。目も前で困っている生命を助ける事も、彼らの役割でもあるのだ。
「よし! 皆! 行くぞ!」
「「「「おー!」」」」
「プイ!」
こうして、彼らの作戦が実行する事に決まった。
ネコが登った木の周辺に集まった人々は不安そうにネコを眺めている。すると、
「すいませーん!」
「ちょっとそこを開けてくださーい!」
子供達の声が聞こえた。此処を開けて欲しいと言う要望。どういう事だろうか? 救助の人が来たのだろうか? だが子供と言うのが気がかりだ。普通は大人がやる筈だ。どういう事なんだ? 周りの人達が開けた道の先を見ると、そこには……
「しんちゃん、開いた!」
「ブ、ラジャー!」
「プ、プッイー!」
巨大な車のような姿をしたネズミ、モルカーが赤い服と黄色いズボンを着た子と一緒に後ろで待機している。モルカー、アンジェリーナ2世は前足をと後ろ足を動かしていて、何時でも行けると言っているかのように思える。そして顔つきも真剣な表情。上に登っている、飼い主と思わしき少年も真剣な表情だ。
少し離れた場所では黄色い服を着た子が目を瞑り鼻水を垂らしている。何をしているのか。そう思った瞬間、口を開けた。
「南南西の風…… 風速0.52メートル……」
風の向きと風速。鼻水の揺れ具合で正確に把握。そして、アンジェリーナ2世はそれを聞くと進行方向の角度を僅かに動かした。
「あ! ネコちゃんが!」
最早ネコの体力は限界。足がもたつき始めた。落ちてしまう!
「今だゾ!」
「プイ!」
この瞬間、アンジェリーナ2世はしんのすけを天井に乗せたまま走り始めた。手足を高速で動かす事で驚異的な速度を出している!
そして最悪の事態が発生する。
「! あ、ネコが落ちた!」
遂にネコが木から落ちてしまった! 地球の重力に引かれて地面に向けて落下していく。このままでは……!
だがアンジェリーナ2世としんのすけがネコに向かって走って行く! そして……
「今だゾ! アンジェリーナ! アクションマウンテンジャーーンプ!」
「プイ!」
しんのすけの合図を聞くと同時に、アンジェリーナ2世は大きく跳躍した!
「跳んだ!」
「よし! これでネコちゃんを助けるんだ!」
これがしんのすけの考えた作戦。アンジェリーナ2世がジャンプしてネコを捕まえる事で救出するという作戦だ。
跳躍した事で落下するネコを口で捕まえようとした が……
「!! 高さが!」
足りない。
ほんの僅かに、高さが足りない。
このままではネコが地面に……
だが、その時のためにしんのすけがアンジェリーナ2世の上に乗っているのだ。
「行くぞ! アクショーーン、ブースターーーー!!」
そう言うと、しんのすけは尻を後ろに向けて尻に力を入れ……
プゥー
おならを出しうる力の限り出した!
その推進力により僅かに浮かび、足りない高度を補う事に成功。そして……
「プイ!」
「ニャア!」
アンジェリーナ2世は落下するネコを咥えて見事救出! その後、両手足を地面に付けてかっこ良く着地した! ズザザッと地面と両手足が擦る音が木霊し、アンジェリーナ2世が止まると同時に止んだ。
「お~! 良くやったゾ~! アンジェリーナ~!」
「プイ!」
「ニャア~!」
アンジェリーナ2世に咥えられたネコはしんのすけとアンジェリーナ2世に向いて笑顔で鳴いた。自分を助けてくれたお礼を言っているのだろう。それを見たしんのすけとアンジェリーナ2世は表情を笑顔に変えて喜んだ。
「……! やった!」
「凄いわ!」
「あの子、ネコちゃんを見事に助けたわ!」
ネコが心配で集まっていた人達はアンジェリーナ2世としんのすけに拍手した。人々の目には賞賛の目を宿している。
そして、喜んでいるのは彼らだけではない。
「やったな! しんのすけ! アンジェリーナ!」
「上手くいったわ!」
「凄いや!」
「お見事!」
かすかべ防衛隊の面々もしんのすけとアンジェリーナ2世を賞賛している。パチパチパチと子供らしい拍手を彼らに送っている。
「いや~、何だか照れますな~」
「プイ~……」
「ニャア?」
皆から賞賛された事から少し照れてしまうしんのすけとアンジェリーナ2世。そんな様子をネコはアンジェリーナ2世のような丸い瞳で不思議そうに見ていた。
こうして、アンジェリーナ2世はこの一件により春日部だけでなく日本、そして世界の多くの人々に親しまれるようになった。
次回は2022年2月19日12時00分に投稿予定です。