※2022年2月20日 「ローン35年」の部分を「ローン32年」に修正しました。
春日部の空には何時も通りの青い空と白い雲が広がり、その下では絶えず人の移動が繰り広げられている。その人の移動は徒歩だけではない。人を乗せて移動出来る自転車や車・電車などもそうだ。これらも絶えずに動いており、動きを止める事を知らない様子はまるで生き物のように感じられる。
だが、その中には生き物とも車とも言えるような存在が混じっている。
それは車とネズミ、というよりモルモットを合わせたような外見。
両手足は車の車輪のような形。
サイドミラーの代わりに付いているのが耳。
前部にはナンバープレートではなく、可愛らしい口。
そして可愛らしさを感じる、瞳。
この生物は“モルカー”。
人に従順である事と愛らしさから、最近爆発的に人気が出ている乗り物兼ペットである。
コウモリのマークをしているデパート「サトーココノカドー」*1
何時も多くの人が行き交い、各地で生産・加工された食品や食材が販売される場。ある人は今日の夕食を作る為に食材を買いに来て、ある人はおもちゃを買う為に来訪し、ある人は中にある飲食店で食事をする為に、様々な人が様々な目的の為に来訪している。多くの人が来る以上、駐車場も沢山の車が駐車している。
しかし、そこには奇妙で可愛らしい光景が広がっている。
駐車場には屋根が建てられている区域がある。そこには、何匹ものモルカーが待機している。と言っても、ぐっすり寝ているモルカーの方が多い。起きているモルカーは「プイプイ」と小さく鳴いており、可愛らしさを醸し出している。
そこに、ある一家が歩いて来た。二人の大人・幼稚園児・赤ん坊の合計4人。モルカーが待機している屋根の下までやって来た。すると、待機しているモルカーの内の一匹が彼らに反応した。
「プイ!」
「おぉ~! アンジェリーナ~! 久しぶりぶり~」
「おいおい、2時間位前に会ってるだろ……」
「日陰だから涼しいわよね」
「たやい~」
「プイ」
4人の内の一人である幼稚園児、野原しんのすけは一家が飼っているモルカー、アンジェリーナ2世に手を振って話した。しんのすけの手の振りを見るとアンジェリーナ2世も同じように前足を振り始めた。その様子は可愛らしい。
「それにしても結構モルカーがいるわね~」
「もしかしたら知り合いのモルカーが出来てたりして」
「たや~」
次に話しかけたのは大人の二人である野原みさえと野原ひろし、そして赤ん坊の野原ひまわりだ。ひまわりはしんのすけと同じくアンジェリーナ2世に手を振っている。アンジェリーナ2世もそれに応えるように前足を振る。周囲にいるモルカーはその様子を見ている。
今やひろしとみさえにとってアンジェリーナ2世は大事な家族であり、お出かけのお供となった。ひろしが出張やゴルフに行く時、みさえが買い物に行く時には必ずアンジェリーナ2世に乗って行く。アンジェリーナ2世は運転手と共に元気に目的地まで向かう。以前野原家が使っていた車であるアンジェリーナと同じ位、もしくはそれ以上に良く動く。それでいて、簡単な話し相手にもなれる事もあり親しまれるようになった。
「プイプイ! ピュイピュイ!」
「ほうほう、ポテト・シロモ・テディ・チョコ・アビー*2というモルカーとさっきまで話していて仲良くなったと言ってるゾ」
「ホントよく分かるな……」
そして、しんのすけがアンジェリーナ2世の言っている事を細かく分かるようになった。飼い主故か。
「よし、それじゃあ買い物を入れて出発だ!」
こうしてしんのすけ達はサトーココノカドーで購入した買い物をアンジェリーナ2世に載せて、自身達も乗り込んでサトーココノカドーを後にしようとした。
すると、しんのすけとひろし・アンジェリーナ2世は駐車場の出口を見た。そこには若くて美しい女性が可愛い雌のモルカーを運転している。二人と一匹はすっかり見とれているのだ。
「おぉ~! 綺麗なおねえさんだゾ!」
「お~、美しい……」
「プイ~!」
二人は顔を赤くして鼻を垂れて見ている。完全に惚れている。美形を見たら見とれるのは人だけでなくモルカーも同じようだ。
「飼い主に似るのね……」
「へっ」
みさえとひまわりは呆れるものの二人と一匹を正気に戻して、駐車場を出る事にした。駐車場を出る時に屋根の下で主を待機しているモルカー達はアンジェリーナ2世を見送るように見つめていた。
アンジェリーナ2世はひろしに運転された状態で春日部の町の中を走っている。春日部の町では車に混じってモルカーも走っている。モルカーの色は様々であり、多種多様。中には服のように編み物を着ているモルカー*3もいる。
あの日、アンジェリーナ2世がネコを助けてからモルカーの知名度だけでなく信頼も高くなった。多くの人が「モルカーは危険な生き物ではない」と理解した。それにより、多くの人が「モルカーで運転したい」と考える人が世界中で考えるようになり、北与野博士と彼と共に随伴する事となった各国の代表者はチカネシアの人達と交渉し、本格的にモルカーとの共存を始める事に決めた。
とはいえ直ぐにモルカーを販売というのは早急。当時モルカーを飼っているのは世界で野原家だけであった。一家が飼えたので世界中の人が飼えるだろうが、店や交通施設でモルカーが止まれるように工事しようとするのは大変だ。
そこで、先ずは春日部からモルカーの住める都市作りが始まった。元々モルカー(アンジェリーナ2世)を飼っている野原家は春日部在住で、春日部のモルカー人気は極めて高い事から春日部はモルカーのモデルシティとしてスタートした。モルカーが熱中症にならないように日除け*4の取り付け、モルカー専用のトイレ*5の建設が始まった。現在春日部ではモルカー専用の販売店が建設されたり、モルカーのレース場*6も造られている。今や人類はモルカーと共生する時代ののが本格的に始まったのだ。
その後、世界各国の都市でモルカーのモデルシティ化が進んだが、特にしんのすけが住む春日部はモルカーとの共生のモデルシティの中で最も規模が大きく、世界で最もモルカーを飼う人が多い都市として君臨している。そういう事情もあり春日部の町を通れば車道に、駐車場に、家のガレージに、洗車場にモルカーがいる。少し歩けばモルカーと出会う。春日部はモルカーの町となった。
「おぉ、もう家に着いたゾ!」
「きちんと道を覚えたのね」
「プイ!」
野原一家はアンジェリーナ2世に乗ってローンが32年残っている我が家に帰宅した。以前は時々道を間違えていたのだが今では一切間違えずに行けるようになった。
「よし、鍵を開けるか」
ひろしはアンジェリーナ2世から降りて家の家の玄関の扉を開けようとして鍵をだそうとした。すると、玄関先の道から小さい人影が見えてくる。その数は4人。その影はしんのすけにとって見覚えのある影であった。
「おーい、しんのすけ!」
「「「しんちゃーん!」」」
「おぉ! 皆!」
4人の影の正体は春日部の平和を守る防衛隊「かすかべ防衛隊」。春日部がモルカーの町となってもその役割は変わらない。
「あら皆、今日はどうしたの?」
「今日は皆と一緒にパトロールしてるんです!」
「いや~、大変ですな~」
「いや、お前もやるんだよ!」
「え~! もう5歳なんだから厳しいゾ~」
「“まだ”5歳でしょ……」
「春日部、そしてモルカー達の平和を守るんだ!」
「どうせならアンジェリーナとシロも連れて行きましょう!」
「そうだね! 一緒に行こう!」
「プイ~!」
「ほ~い」
しんのすけはリードを持って来てシロの小屋の所にまで歩いて行く。すると、シロは尻尾を振りながらしんのすけに駆け寄っていく。しんのすけはシロの散歩をサボる事が多いものの、散歩を嫌っているわけではない。散歩する時は楽しく散歩する。
「キャンキャン!」
「おぉ、シロ! アンジェリーナと一緒に散歩するゾ~!」
「プイ~」
シロとアンジェリーナ2世の二匹は嬉しそうな表情でしんのすけに付いて行き、かすかべ防衛隊の面々も意気揚々と行く気だ。アンジェリーナ2世はすっかり野原家とかすかべ防衛隊と親しくなった。今や正式なかすかべ防衛隊のメンバーだ。
すると、向こうから人影が見えてくる。人影は2人。その内の一人はしんのすけ達がよく知る人物で、もう一方の人物は初めて会う。
「やぁ、しんちゃん!」
「ハァーイ!」
「おぉ! 北与野博士! と誰?」
その人影の内の一人は北与野博士。しんのすけ達にモルカーのアンジェリーナ2世を買わせた人物。そしてもう一人は……
「ミナサン、ハジメマシテー!」
「彼はチカネシアから来た住人です! 地上の様子を見に来たところなんだ」
「ほうほう、オラは野原しんのすけ5歳! 好きな言葉は平熱!」
「ワタシ ノ スキナ コトバ ハ フドーサン ダゼ!」
「不動産か~…… 何故?」
「さぁ……?」
チカネシアの人はきちんと日本語を話せるらしく、博士としんのすけの会話をきちんと理解している。
「アンターラ プイプイ シッカリ カッテテ ウレシーゼオンドレラ! コンゴトモ ゴヒーキ シテホシイゼヨ!」
「……誰に日本語を学んでるんだろう……?」
「まさかオマタさん達に日本語を教えた人と同一人物*7だったりして……」
尤も、どうやら日本語が幾つかおかしいみたいだが。
「これからモルカーは人類の掛け替えの無い友として人々に愛されるでしょう。ですが、きちんとモルカーが販売されたり、きちんとした飼い主に届くのを見守るために新しい会社を立ち上げたんですよ!」
「会社?」
「株式会社 PUI PUI *8」を立ち上げたんです。この会社が今後モルカーの販売を取り仕切る事になったんです。チカネシアの人達に会社の事を教えている最中なんです。モルカーの事を詳しく知る人がやるのが最適ですし、チカネシアの人々の地上進出と地上の勉強も兼ねています」
博士はどうやらモルカーの会社を立ち上げたようだ。博士曰くモルカーの事を詳しく知っているチカネシアの人がモルカーの販売などをするようだ。と言っても彼らは会社の事を知らないため、現在会社がどういうものなのか教えている。いきなり会社を立ち上げても経営の事を知らなければ経営しようが無いからだ。
「あれ? じゃあ今は誰がモルカーの販売とかやってるの?」
「……全部私です。残業も多くて最近研究に費やす時間が少なくなりましたけどね。ははは……」
「「「「…………」」」」
博士が残業で大変である事から、一同は同乗の目を向けている(特にひろし)。
「と、ともかく。今後はモルカーの為に会社を立ち上げるんです! 野原さん、その時は少しだけサービスしますよ!」
「あ、それって半額とかですか?」
「いや、そこまでは…………」
「タダだったら母ちゃん、喜んで来るゾ~。ケチンボだから」
「プイ」
「何ですって!」
「おわ~!」
「プイ~!」
みさえは頭から湯気を出す程カンカンに怒ってしまい、遂に髪が金髪になり金色のオーラを纏う「スーパーサイヤ母ちゃん*9に変貌してしまった! あまりの威圧感からしんのすけやアンジェリーナ2世だけでなく野原ひろしやひまわり・シロ・かすかべ防衛隊・北与野博士・チカネシアの人もビビってしまう。
「おわ~! 逃げるゾ~!」
「プイ~!」
「待ちなさ~い!!」
しんのすけとアンジェリーナ2世は直ぐに逃げ始め、それに応じるかの如くみさえはしんのすけとアンジェリーナ2世を追いかけ始める。しんのすけとアンジェリーナ2世の逃げる速度は速いが、みさえも追いつけそうな程速い。超人的な五歳児と車並みの速度を出す生物に追いつける程の速度を出せる事から今の彼女はかなり激昂しているのが分かる。
「みさえの奴、当分怒りが冷めないな……」
「たやい」
「クゥ~ン……」
「相変わらず凄い……」
「チジョウ ノ カミサン ツエーゼ!」
「しんのすけのママ、速いな……」
「オリンピック選手みたい……」
「絶対1位取れるね……」
「……世界一位」
しんのすけ達の様子を見て、取り残された皆は引きつったような笑いを浮かべて見守っていた。彼らの目に映る光景は、みさえが走った事により発生した砂煙だった。
こうして、野原一家とアンジェリーナ2世の生活は続いて行く。これが日常。平和という名の日常。
このような、ドタバタする時がある平和が春日部から日本へ、そして世界へ広がっていくだろう。
人とモルカーの共存は、始まったばかりだ。
後書きは2022年2月26日12時00分に投稿予定です。
ついでに、チカネシアの人の好きな言葉が「不動産」という理由は、
・「地下」 → 「チカ」 → 「地価」 → 「土地の価格」 → 「土地」 → 「不動産」
という言葉遊びみたいな感じで決めました。