守銭奴ですが冒険者になれば金持ちになれますか?   作:土ノ子

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 初日はプロローグ含め8話ほどまとめて投稿予定です。

 なお第一話は原作設定説明用の文章が多いので下記を抑えてもらえればぶっちゃけ読み飛ばしてもOKです。
・主人公は守銭奴だよ。冒険者はカネになるよ。だから主人公は冒険者になりたいよ。
・入学した大学にある有名な冒険者チームに入部希望したけど断られたよ。いつかリベンジするよ。
・それはそれとして籠付とかいうナメた同級生は○す。絶対に○す。

 ハーメルン側ではAAを多用して投稿していきます。キャラ付けのイメージであり、AA当人そのままのキャラではないことご認識下さい。
 作者にとっても初めての試みなので、気になったこと・ご指摘ありましたら積極的に声掛け頂けると幸いです。


第一話 Q.先輩、守銭奴ですが冒険者部に入れば金持ちになれますか? A.悪いけど金持ちか二ツ星冒険者以上しか入部できないんだわ

 堂島守善(どうじましゅぜん)守銭奴(しゅせんど)である。

 

「堂島。お前の入部志望の意思と動機、確かに聞いた。その上で()()()()の代表として答えるが」

 

 不幸な身の上であることは間違いはない。

 事故で両親を早くに亡くし、反りの合わない親戚に引き取られる。が、守善を持て余した親戚との関係から早々に独り立ちを決め、バイトで稼いだ金と両親の遺産で食いつないできた。

 奨学金を得て大学に入ることが叶ったのは僥倖だったろう。

 カネに苦労した人生経験が守善に人生の指針を与えた。

 

 すなわち、人生には金がいる。人は生きるために金を稼がなければならない。より多くのお金を、より短い時間で稼ぐべし!

 

 ある種突き抜けた守銭奴として守善は成長した。

 もっと上の社会的地位(ステータス)を、もっとたくさんの金を。飽くなき”飢え”が守善を苛む。その”飢え”を満たすことこそが堂島守善の行動原理。

 ほとんど強迫観念のような衝動が、餓鬼のように守善を衝き動かすのだ。

 

「悪いがお前の入部は認められない。実のところ、大半の入部志望者は足切り条件で切り捨てているのが実情でな」

 

 そして昨今、最も金になる職業は『冒険者』である。

 ノストラダムスの大予言が騒がれた1999年の七の月、まさに世紀末に突如として迷宮(ダンジョン)が出現した。

 迷宮出現当初、世界はダンジョンから取れる魔法のような資源の数々に歓喜の声を上げた。一方で迷宮に出現するモンスターという脅威には尋常ならざる警戒を示した。

 浅い階層に出現するモンスターならばともかく、深い階層の強力なモンスターや死霊系モンスターに現代社会の軍人や武器は通用しなかったからだ。

 魔法のような資源を無限に生み出す鉱山であり、同時に迂闊に振れてはならないパンドラの箱。

 それがダンジョンだ。

 事実、ダンジョンとそれにまつわる事物は幾度となく世界を揺り動かした。

 モンスターが突如としてダンジョンの外へ溢れ出し人々を襲った第一次・第二次アンゴルモア。ダンジョンでドロップしたモンスターカードからモンスターを召喚し戦わせるサマナーの発見、それに伴う民間人がモンスターカードを所有し召喚モンスターを頼りにダンジョンに挑む冒険者制度の制定。

 世界は増え続ける迷宮に対抗するため(同時にその利益を最大化するため)、官民を問わず()()()()()()()に資金と人材を湯水のように投入した。

 その結果、世界は飛躍的に豊かになった。

 同時にアンゴルモアを始めとする多くの問題も抱え込んだわけだが、そんなことは守善にとってはどうでもいいことだ。世界の危機より明日の飯、自身の栄達こそが重要である。

 一番重要なのはダンジョンは金になるということだ。

 昨今、冒険者の露出が著しい世間の動きを見れば、それは一目瞭然である。

 モンスター同士が殺しあうモンスターコロシアムの出場選手(グラディエーター)はスターも同然の扱いだし、ダンジョンから産出されるモンスターカードや魔道具、資源を目当てに大企業がしのぎを削り巨額の大金が動く。

 

「冒険者志望の新入生は多いが、半分以上が心折れて辞めていく」

 

 だからこそ守善は苦学生でありながら、大学構内にダンジョンが存在し、それを管理する有名な冒険者部のある大学に進学した(公立で学費が安かったこともあるが)。

 高校生活三年は全て冒険者になるための準備にあてた。知識と技術、何よりも資金を貯えるために。

 懐には空いた時間のほとんどをバイトに使って貯めた200万円。守善の虎の子と言える初期資金だ。

 苦学生が出来る範囲で、考えられる準備は全てこなした。これ以上は本物の冒険者にアドバイスを受けながらキャリアを積んでいく方が手っ取り早い。

 そう考え、入学を機に冒険者部の部室を訪ねたのだが。

 

「部活と言っても命を懸ける以上半端者を抱え込めない。メンタルと実力が揃っていない者に入部は認められないのさ」

 

 こうしてものの見事に断られてしまったというわけだ。

 冒険者部の部室はいかにも大学の部活動らしくいたるところに物が積まれ、雑然とした雰囲気だ。ボディアーマーやヘルメットなどガチガチの装備が転がっているのはいささかシュールな光景だったが。

 穏やかな口調で守善の入部を跳ねのける冒険者部の先輩だが、日々命を懸けて迷宮に潜っているだけのことはあった。守善の睨みつけるような鋭い視線を気にした様子も無く平然としている。

 特に左頬に刻まれている大きな十字傷は先輩がワイルドな雰囲気を醸し出すのに一役買っていた。いまどき古傷程度なら迷宮産のポーションで治るので敢えて残しているのかもしれない。

 

「……ふぅー」

 

 息を一つ、ゆっくりと吐く。それから深々と吸い込む。

 元から上手く行くことの方が少ない人生を送ってきた守善だ。自己制御の類はお手の物だった。

 

「……入部の条件をお聞きしても?」

「おう、いいぜ。このまま追い返しても納得いかないだろ?」

 

 目を伏せ、感情を抑えて冷静に問いかける。

 先輩はざっくばらんな口調ながら丁寧に冒険者部の入部資格について説明した。

 ・二ツ星冒険者の資格

 ※冒険者の等級の一つ。下から二番目の等級だが、金を出せばなれる一ツ星冒険者と比べ昇格難易度は一線を画す。

 ・Dランクカードを複数枚所有していること。

 ・経済的に余裕があること。

 

「全部を満たせとは言わんが、二ツ星冒険者資格があれば新入生としては鳴り物入りだ。最低限複数枚のDランクカード所有は必須だな。カードがロストした時に備えて経済的な余裕も欲しい。毎年金銭が元でトラブルになることが多いんでね」

 

 Dランクカードの公式販売金額は()()100万円から。強力な性能のカードなら更に桁が一つ上がることすらある。

 大学生の身で自由にできる数百万の資産を持てと言われているようなもので、普通に考えれば無理難題もいいところだ。

 だが要するに先輩が言いたいのは()()()()ことなのだろう。その程度の条件も満たせない人材では冒険者部ではやっていけないのだと。

 

「在学中に入部条件を満たしたならいつでも冒険者部の扉を叩いてくれ。優秀な冒険者は一人でも多いに越したことはない」

「まあ、十中八九無理でしょうけどね」

「籠付! お前は黙ってろ」

 

 と、真摯な口調で説明する先輩の横から明らかに言わなくてもいい余計な茶々を入れてきた男がいた。

 部室の隅で黙ったまま成り行きを伺っていた優男だ。その顔には薄っぺらい優越感と他人を攻撃する快感が浮かんでいる。

 

 

※籠付イメージAA

 

 

 どうも部員のようだが、目の前の先輩のような凄みがない。まだ幼さを残した顔に同じ新入生か、とアタリを付ける。

 

「あんたは?」

籠付(かごつけ)善男(よしお)。君と同じ一年生だ。……君と違って、冒険者部への入部を認められているけどね」

 

 一見爽やかなイケメン風の男だが、いちいち格好(かっこう)つけた仕草と物言いが鼻につく。あと名前が妙に古臭い。総じていけ好かない印象を与える男だ。

 

「ここの冒険者部はレベルが高い。なにせ大学所有のプライベートダンジョンの管理を任されているプロが在籍しているくらいだからね。当然入部を許されるのは一部のエリート冒険者だけ」

 

 つまり自分はエリートであると言外に自慢げな感情を滲ませている。ストレートに言って見下されているのが一目で分かった。

 

「……」

 

 なお隣でそのザマを冷ややかに見つめる先輩からの評価がどんどん下がっているのも一目で分かった。

 

(周りが見えないバカか)

 

 一銭にもならないというのに優越感を満たすためだけにわざわざマウントを取りに行く。しなくてもいいことをやらかして周囲からの評価を下げる。

 つまりバカだ、相手にする意味がない。そうと見切りをつけ、冒険者部の先輩へ再び向き直るが向こうの方からしつこく絡んできた。

 

「200万円、だっけ? その程度の()()()()()()資金しか用意できないのならどの道ムリムリ。冒険者サークルの方へ行った方がいい。あそこはどんな底辺冒険者でも受け入れているからサ」

 

 ()()()、と空気が凍った。

 

 

※堂島守善イメージAA

 

 

 籠付が守善の地雷を踏み抜いたと理解したのは真正面にいた冒険者部の先輩だけだった。守善が浮かべた形相を見て一瞬()()()とすると、大慌てで無礼を働いた新入生に叱責を加える。

 この瞬間、先輩の脳裏に浮かんでいたのは派手な血飛沫が飛ぶ刃傷沙汰である。

 

「籠付ぇ! 口が過ぎるぞ!」

「おっと、失礼。言い過ぎようだ、すまないね」

 

 先輩からの叱責に気にした様子も無く軽く頭を下げて形だけ謝る籠付。心が籠っていないのは明らかだった。

 先輩が素早く守善の顔を盗み見ると、そこには±0℃の無表情があった。ある意味怒髪天を衝いている方がマシにすら思える無表情だ。

 

「……すまんな」

「いえ、()()()()()()()()()()()()()

 

 言外に侮辱した当人は許さないと守善が伝えると、苦々し気な顔をしながら先輩も頷く。

 守善は籠付の名を心の閻魔帳に報復対象としてしっかりと書き残した。守善は執念深い性格だった。

 

「あのエリートは二ツ星冒険者ですか?」

「いや、キャリアは長いが一ツ星だな」

 

 その答えに守善は思わず失笑する。

 キャリアの長い一ツ星などある意味素人冒険者よりも質が悪い。冒険者部への入部が叶ったのも縁故を頼ったか金づると見られたかのどちらかだろう。

 

(だが丁度いい踏み台にはなるか)

 

 入部は断られたが、収穫はあったと嘘偽りなく満足する守善。この胸の内でどす黒く燃え盛る炎こそが最大の収穫だ。

 

「それじゃ、俺はこれで。先輩、縁があればまた」

「ああ、顔を見かけたら声をかけてくれ」

「いやいやいや、君じゃうちの先輩とは釣り合わないから。夢を見るのは止めておきなよ」

「籠付、いい加減に黙れ。一応いっておくが善意の忠告だからな」

 

 最後まで余計な一言を忘れない男を無視して、守善は冒険者部の部室をあとにした。

 

 




【Tips】時系列
本作における時系列について。
原作『モブ高生の俺でも冒険者になればリア充になれますか?』において、1999年七の月に迷宮が出現。
そこから約20年後の(おそらく)2019年10月が原作開始時期と思われる。
本作第一話の時系列は同年4月であり、原作主人公北川歌麿が冒険者となる半年前に物語がスタート。

※下記、第一話で登場した原作設定に関する【Tips】です。補足として記載します。たまに本作独自設定に関する【Tips】もあります。
※これら【Tips】あるいは百均氏の活動報告のQ&Aは原作者である百均氏より許可を頂き、転載しております。
 なお百均氏によるとこれらの情報(特に活動報告のQ&A)はあくまで現時点における設定とのことです。
 基本的に原作からそのまま転載していますが、一部意訳などしております。
 特に監修頂いている訳でもないので、あまり鵜呑みにせず補足としてお考えください。
 【Tips】、活動報告のQ&Aに限らず百均氏が本作の記述を誤りと言ったら誤りです。
 Q.つまり?
 A.百均様のお言葉(設定)は全てに優先する!


【Tips】迷宮
 ある時を境に突然現れた異空間。内部には危険なモンスターが蔓延る一方、魔法の道具や未知の金属など多くのリターンが存在する。迷宮によってその規模はまちまちだが、深部に行けば行くほど強力なモンスターが出現する。最深部には主と呼ばれる存在がおり、倒せばその難易度に見合ったリターンを得られる。
 迷宮は年々増加しており、消滅させる方法も判明していない。いずれ、世界中を迷宮が埋め尽くすという終末論も存在する。

【Tips】モンスターカード
 迷宮内で稀にモンスターが落とす謎のカード。モンスターたちを描いたイラストが描かれており、マスター登録をすることで自在にモンスターをカードから呼び出せるようになる。モンスターを呼び出している間、マスターへのダメージはすべてカードが肩代わりしてくれるため、迷宮攻略には欠かせないアイテムとなっている。モンスターは基本的にマスターの命令を聞いてくれるが、感情がある為嫌われると言うことを聞かなくなる。
 弱いカードほどドロップ率が高く安価で、強いカードほどドロップ率が低く高価。
 そして女の子カードは基本的に、需要の関係からどれも高額で取引されている。

【Tips】冒険者
 迷宮の登場により新しく生まれた職業の一つ。初期投資に金がかかり命の危険がある反面、収入は高い。近年の冒険者ブームにより、その危険性を理解せず冒険者になる若者たちが増加している。
 一ツ星から六ツ星の六段階でランク分けされており、三ツ星までをアマチュア、四ツ星からをプロと見なす風潮がある。
 プロ冒険者は、迷宮攻略の収入の他に、TV出演によるタレント業や動画投稿による広告収入、モンスターコロシアムへの出演料と賞金など様々な収入源があり、荒稼ぎしている。

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