守銭奴ですが冒険者になれば金持ちになれますか?   作:土ノ子

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 第一章も〆。
 なろうの方で先行投稿予定なので、そちらもブクマお願いします!


第二十五話 家族/ファミリー/カード

 イレギュラーエンカウントの撃破から三日が経った。

 あのあとの顛末について語ろう。

 まず守善は無事二ツ星冒険者へと昇格した。元々そのために潜っていたのだから当然である。ましてやイレギュラーエンカウントを討伐までしたのだからどこからも文句が出るはずもなかった。

 守善の冒険者ライセンスが無地の白からやや高級感のあるブロンズカラーに、表面に描かれた星が一つから二つに変わった。

 それ以外で大きく変わったのは裏面の賞金首の討伐実績に【☆白雪姫(E)】との表記が増えたことくらいか。Eランク迷宮でイレギュラーエンカウント・白雪姫を倒したという証明だ。

 挑める迷宮のランクが一つ上がった。確かに歩を進めている実感があった。

 そして一番の目玉である二つのドロップアイテムだ。

 血のように紅い魔石は懸賞金込みで一千万円で売却した。ちなみにイレギュラーエンカウントの魔石はかなり特殊な代物らしく、Fランク迷宮産の百万円からスタート。迷宮のランクが一つ上がるごとに売却金額も桁が一つずつ上がっていくという狂気の値段設定となっている。

 

(つまりDランクなら一億、Cランクだと十億……頭がおかしくなりそうだな。冒険者の金銭感覚が狂いがちになるわけだ)

 

 だがより貴重かつ重要なのはもう一つのアイテムだろう。

 イレギュラーエンカウントは極稀に自分に由来するアイテムを残していく。自らを倒した者を認めた証と言われている。なおイレギュラーエンカウントから見れば再戦のためのマーキングなのだが、こちらは世間には知られていない。

 ほとんど呪いのアイテムだが、その分有する効果は控えめに言って破格。守善が回収した【ガラスの棺】もまた、その前評判に恥じない強力なアイテムだった。

 

 その効果をバッサリと分かりやすく言ってしまえば『持ち運べるプチ精神と時の部屋(常時回復機能付き)』だ。

 

 もう少し詳細に説明する。

 この【ガラスの棺】の内部には特殊な異空間が内包されている。巨大な石造りの城を中心とした半径十キロほどのフィールドだ。

 棺を迷宮に設置することで持ち主とそのカード、持ち主が許可した者達は異空間に出入り可能となる(使用中棺の持ち運びは不可)。

 異空間内部の時間は歪んでおり、外部の一時間が異空間における二十四時間に相当。更にガラスの棺で運ばれ、死から生へと転じた白雪姫の逸話を象徴するように、内部のマスター・モンスターに対し、回復効果が常時自動発動する。それも手足がもげていようが、死にかけだろうが生きてさえいれば異空間内部で二十四時間経過すればほぼ無傷まで回復するほどに強力。

 

(疲労困憊だろうと死にかけの負傷だろうと棺を設置して異空間に放り込めば外部時間で一時間後には復活する。色々と物資も貯蓄できて、オマケに備え付けの物件付き。いたせりつくせりだな。呪いの染み付いてそうな事故物件だが手放す理由はない)

 

 拠点として使うのに申し分なく、更に休憩時間を極端に圧縮できる。迷宮攻略において破格のアドバンテージだろう。効率厨のケがある守善からすれば垂涎のアイテムだ。

 とはいえ棺内部の異空間から外部に戻ってきた時、敵モンスターの集団に待ち伏せされていれば大ピンチとなるリスクもある。極力安全地帯などで使用するべきだろう。

 だがそれら注意点を差し引いてもとんでもなく強力なアイテムであることは間違いない。

 

(()()()()()()で百万、レベルアップのカード分を先輩へ返金して更に三百万。獅子の購入、物資の補充とCランクカード購入のための貯蓄に回す金を合わせれば……一千万円もすぐに消えるな。こうして冒険者の金銭感覚は壊れていくわけだ)

 

 とはいえ人間大の棺など悪い意味で目立ちすぎるし、持ち運ぶのにも支障が出る。

 そのため守善は冒険者ギルドのサービスを利用し、ガラスの棺をカード化することにした。迷宮産の魔道具には物品をカード化できるものがあり、ギルドに一回百万円を支払えば利用できるのだ。

 カード化した物品は何度でも出し入れでき、持ち主以外が使用することも出来ない。また、イレギュラーエンカウント産のアイテムそのものが討伐者にしか使えないというルールがある。奪われる心配はない。

 その他幾らか細かい迷宮踏破報酬やドロップカードがあるが、誤差と言って差し支えない。

 堂島守善という新米冒険者が挑んだ冒険のリザルトは以上だ。

 結果として冒険者登録からわずか一ヶ月程度で二ツ星冒険者へ昇格、さらにイレギュラーエンカウント討伐と華々しいスタートを切った守善は……都内にある総合病院へ向かっていた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 休日を利用し、自宅から電車を乗り継いで都内の総合病院へと向かう。

 穏やかな日差しを受けて柔らかい白を照り返す白亜の病棟。ここの505病室が守善の目的地だ。

 病院の入り口から入り、受付をして5階へと上がる。ここ最近は冒険者業が忙しく足が遠のいていたが、何度と無く通った場所だ。スムーズに手続きをこなして目的地にたどり着く。

 音を立てないようにスライドドアを開けると、身奇麗な格好をした品のある中年女性がベッドのそばのパイプ椅子に腰掛けていた。

 静かに本を読みながら、時折寂しそうにベッドに眠る少女を視線を送っている。

 

「お久しぶりです、叔母さん」

「あら、まあ……。守善くん? 久しぶりねぇ。今日はお見舞いかしら?」

「はい。ここしばらく顔を出せていなかったので」

 

 その背中に声をかけると驚いたように振り向く。亡くなった父の妹、叔母にあたる女性だ。

 穏やかにやり取りを交わしながら、その事実を少し奇妙に感じる。

 昔は叔母と折り合いが悪かった。いや、守善が一方的に嫌っていたというべきか。

 彼女は時折病室に来て、眠り続ける妹に声をかけ、世話をして……それだけ。それ以上のことはしてくれない。

 身勝手に叔母夫婦へ見切りをつけ、守善は妹の治療のため冒険者を志した。生活の全てをそのために費やし、それ以外を切り捨てた。大学入学まで冒険者登録を認めなかったこともしこり

となっていた(法律上未成年者は保護者の同意なしに冒険者登録は出来ない)。

 

「良かったわね、藍ちゃん。お兄ちゃんが会いに来てくれたわよ」

 

 嬉しそうにベッドに横たわる少女へ声をかける叔母の姿を見れば、そうではなかったのだと今なら分かる。

 少し冷静に考えてみれば、(ポーション等迷宮産の物品・技術で従来よりずっと割安になったとはいえ)入院費用を負担し、日々の生活がある中で時間を捻出してお見舞いに通うことは簡単ではなかったはずだ。守善の両親から多少の遺産を相続したとはいえ、全く割に合わない生活だっただろう。

 生き急ぐように生活の全てを冒険者業への準備に傾ける守善のことも、その在り方を危うく思っていたからこそ冒険者登録を認めなかったのだ。

 叔母は叔母なりに全力で守善たち兄妹の面倒を見てくれていた。

 結局、甘えていたのだろう。そして無意味に気負っていた。妹を、残された家族を助けられるのは自分だけだと。

 

「叔母さん。いつも、妹のことをありがとうございます」

「どうしたの、急に? 突然で叔母さん驚いちゃった」

「いえ、思い返せば叔母さんにはロクにお礼も言えていなかったので……」

 

 そう言って深々と頭を下げる。できる限り心を込めて、感謝とともに。

 驚く彼女にささやかだが日頃の感謝を込めて御礼の品もを用意したこともあわせて伝えておく。誠意とは言葉ではなく形にして贈るものなのだ。

 ダンジョン攻略のドロップアイテムなので費用は実質タダ。とはいえ市場価格にして十万円ほどになろうか。

 各種最下級ポーション詰め合わせだが、庶民ならこれが結構喜ばれる。即効性の治癒効果こそないが美容効果や手荒れのケア、ちょっとした体調不良に劇的な改善効果があるのだ。いまはこれが守善の精一杯だった。

 

「守善くん、あなた……変わった? 雰囲気がずっと柔らかくなったわ」

「どうでしょう。自分ではそうは思いませんが」

「そう? そうかしら。でも私はいまのキミはいいと思うな。きっと大学でもモテるんでしょう?」

「色々と世話になっている先輩はいますが、生憎とそっちの方はどうにも」

 

 からかうように問いかける叔母に向けて苦笑する守善。

 叔母は変わったというが、おそらく根っこは変わっていない。守銭奴で、成り上がり気質、性格も悪い。だが少しばかり余裕が出来て、視野が広くなったかもしれない。それと多少は上っ面を取り繕うことを覚えたくらいか。

 

「それじゃ、兄妹水入らずの時間を邪魔するのも悪いし。私は少し外の喫茶店に出ているわ。帰るころになったら呼んでね? それじゃ」

 

 言うが早いか素早く手荷物をまとめ、病室を出ていく叔母。一見物静かに見えてその実快活で行動的な人なのだ。

 その後ろ姿を見送ると、叔母が座っていたパイプ椅子に腰掛ける。

 

「すまんな、藍。色々あって顔を出すのが久しぶりになった」

 

 ベッドで昏睡状態のまま眠り続ける守善の妹……堂島藍の手を握りながら静かに語りかける。妹が応えることはなくても、きっと無駄ではないと信じて。

 一家全員を巻き込んだ交通事故からもう十年以上になる。

 当時幼い小学生だった妹は年齢だけならもう高校生だ。だが寝たきりのままやせ衰え、小柄な身体つきはとても高校生には見えない。中学生、人によっては小学生に見えるかもしれない。

 床ずれや成長不全など肉体面の悪影響などは迷宮産アイテムを利用した医薬品やケアのおかげで最小限で済んでいるのが救いだろうか。

 その顔立ちは守善に似ず愛嬌があって可愛らしいが、これは美人の母譲りだった。逆に守善は父親似だ。鋭すぎる目付き以外は凡庸なパーツで構成されたモブ顔なのだ。

 

「前に来たときは冒険者登録の直前くらいだったか? 実はな、ついこの間一ツ星冒険者から二ツ星冒険者に昇格した。これは他の連中と比べても結構早くてな。お前の兄貴もなかなかやるもんだろ?」

 

 いまの青白く不健康そうな肌色からは想像もできないが、藍はクルクルとお転婆に駆け回るこまっしゃくれた少女だった。こんな風に病院の片隅で静かに朽ちていく人生を送っていいはずがない。

 守善の目的は植物状態の妹を救うこと。そして叶うなら時を巻き戻し、妹の人生をもう一度やり直すことだ。

 もちろん言葉そのままの意味で時間を巻き戻すことはできないが、手段はある。アムリタだ。

 アムリタの効果は万病の治癒と一歳ほどの若返り。複数個を服用すればその分だけ若返ることができる。ならば事故に遭った年齢にまで回帰できる個数を用意できれば、あるいは……。

 万感の思いを胸に押し隠し、近況をできるだけ面白可笑しく喋り倒していたが、一方的に話しかけるだけでは自然と話題も尽きる。

 部屋に降りた沈黙に包まれながら、不意に胸に満ちる思いが呟きとなってこぼれ落ちた。

 

「必ず」

 

 アムリタはギルドへの()()()()で一億円。中間マージンが重なった購入価格となれば果たしてどれほどになるだろうか検討もつかない。供給量が少なすぎるくせに求める億万長者は数知れず。きっとそういう金持ち連中が争って買い求める超高価格帯なのだろう。複数個入手することなどいまは夢のまた夢だ。

 しかも時間がかかればかかるほど必要な個数は増えていく。時間は守善にとって決して味方ではない。

 

「必ず、お前を治すから。もう少しだけ待っててくれ」

 

 それでも諦める気は微塵もない。藍を助けるために一兆の金が必要ならなにをしてでも積み上げてやろう。最早決意ですらない当たり前の事実を胸に、守善は他の誰にも見せない穏やかな顔で妹に向けて語りかけ続けた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 日が変わり、所変わって守善が通う大学の構内。

 目当ての人物を探して歩き回り、いつものカフェテリアで優雅なティータイムを過ごしている白峰響を発見する。

 響とは迷宮から生還したあと電話で状況を伝えていたが、直接顔を合わせるのは迷宮に潜る前に挨拶を交わして以来だ。

 不意に顔を上げた響と視線が合い、軽い驚きにその目が開かれる。だがすぐに笑顔に変わった。

 

「やあ」

「ええ」

 

 互いに軽く挨拶を交わし、対面の椅子を示すと頷かれる。そのまま椅子を引き、浅く腰掛けた。

 

「五体満足に帰ってきたようで安心したよ。後遺症は無いと聞いているけれど、本当に大丈夫かい?」

 

 軽いジャブのような会話。守善が負った傷……精神面のソレを見極めている視線を向けられる。無理もない、イレギュラーエンカウントとは死神の代名詞。遭遇し、命からがら生き残っても冒険者を廃業する者は少なくない。

 安心したという言葉に嘘はないが、お互いの今後のために見極めなければいけない部分でもある。

 

「ご安心を。後遺症の類もありませんし、腕の一、二本もげた程度で辞める気もありません」

 

 故に守善はただ静かに、当たり前のように答える。

 なお仮に手足が欠損する大怪我を負ってもいまの時代なら迷宮産のアイテムを使い割合安価に再生可能だ。もちろん守善も必要になれば費用を用立てて実行するつもりだった。

 

「相変わらずのよう……いや、どこか変わったかな? 顔付きが違うように見えるけれど、気のせいかい?」

 

 守善が響に向ける視線には、これまでの不遜さが鳴りを潜め、本当の敬意が宿っている。響が仕込んだマジックカードと教えが逆転の鍵となったのだから当然だ。

 

「それなりに、色々とありましたので」

「そうかい」

 

 ただ一言に無数の行間を詰め込み、なんとなくそうと察した響も頷く。修羅場に叩き込まれて一皮剥けたのだろうと認識し、概ねそれは正しかった。

 

「先輩にも助けられました。ハヤテ……木の葉天狗に預けたレベルアップのカードの代金は後で必ず払います」

(……驚いた。彼がカードに名付けとは本当に人が変わったようだ)

 

 と、内心で驚きつつ、言葉の内容を冷静に吟味する響。

 高等魔法相当のマジックカードはモノによるが約三百万円程度。レベルアップのカードも相応に高価だ。これをただ口先だけのお礼で済ませるのは守銭奴としてありえない選択なのだろう。

 金のやり取りはキッチリと後腐れがないように。守善らしい言い草に響は苦笑した。

 

「気にしなくてもいい……と、仮に言っても聞いてくれなさそうだね?」

「アレのお陰で命を拾いました。先輩の言葉でもそこは譲れませんね」

「そこまで言うのなら遠慮なく高値で吹っかけさせてもらおうか。君から私のチーム入りの確約を貰いたい」

「それでいいので?」

 

 これまでは互いに半ばお試し期間だった。やろうと思えば互いの関係を清算することもできるギリギリが今この時だと響は考える。

 新年度から一ヶ月経過するが、モノになりそうな新入生は守善を除けば一名のみと僅か。ならば是が非でも囲い込むべきだろう。そのためならマジックカード一枚程度安いものだ。

 

「君は冒険者登録から一ヶ月で二ツ星に昇格、しかもイレギュラーエンカウント討伐実績付きの金の卵だ。囲い込んで逃したくない。敢えて言うが、いまの君なら冒険者部にも他の新入生を蹴散らす勢いで入部が認められるはずだよ」

 

 一ヶ月前までなら手応えを感じただろう保証にも、いまの守善にはさして興味は引かれない。いまはただ響の背中を追うことに集中していたかった。

 

「興味ありませんね。少なくとも先輩に負った義理を全て返すまではありえないし、それにしたって当分は難しそうだ」

「おや、それは怖い。ならば今よりもっと恩を着せなきゃならないな。積み上がって返せなくなるくらいに」

 

 緊張感を孕みつつどこか通じ合った笑みを互いに向け、契約の更新を確認する。

 利害は一致し、互いに尊敬すべき先達と有望な後進として認めあう。嘘偽り無く二人は互いにWIN-WINのいい関係を築けていると考えていた。

 

「では、今後とももよろしく」

「ええ、引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。とはいえそれはそれとして……」

 

 朗らかに笑みを交わし合うやり取りに含みのある語尾が交じる。そして一拍の間を空け、守善は好戦的な笑みを対面の響に向けた。

 

「先輩に追いつくため、一度その力を味わってみたいと思っていました。よければこの後、是非――」

「模擬戦の申し込みかな? だが肝心の場所がないよ」

 

 実は冒険者同士の模擬戦は結構難しい。そのための場所を確保しづらいからだ。

 当然だが、一部の特殊なダンジョンでもない限り安全地帯以外は常にモンスターから襲撃される恐れがある。逆に安全地帯で誤解を招くような真似内での模擬戦はご法度である。

 とはいえ守善も何の考えもなく提案したわけではない。

 

「ご安心を。丁度いいトレーニングスペースを手に入れたので」

 

 困ったように苦笑する響に向けてカード化したアイテム【硝子の棺】を示す守善。

 それをひと目見て納得したように頷く響。流石プロを目指す三ツ星冒険者と言うべきか、イレギュラーエンカウントの情報を一通り叩き込んでいるのだろう。

 そう、【硝子の棺】内部の異空間ならば余人に迷惑をかけることも横槍を入れられることもない。常時回復効果の副作用で決着が決めづらいという欠点とも言えない欠点があったが、そこはルールを決めることで補えるだろう。

 守善は響に敬意を抱いているし、その指示・指導に従うことに抵抗はない。だがそれはそれとして目指すべき高みは直に知っておきたいし、一度もぶつからずにただ下に就くのはなんとなく()()()()するのだ。色々と動物的なタチなのである。

 敢えて言うならこれもまた守善流のコミュニケーションの一つだった。

 

「なるほど。これはまた中々断りづらいタイミングでの申し込みだ」

「この程度でさっきの話を反故にする気はありませんよ」

「それはありがたい。しかし、ここでキッチリと君に勝っておけばあとあと楽が出来そうな気もするな」

「……どうも生来ひねくれ者でして。自分の上に立つ相手は、自分が納得して選びたい。それだけですよ」

 

 この模擬戦の勝敗次第で大人しく従うと告げる守善。もともとそのつもりだったが、そうと意思表示することで響がやる気を出すなら是非もない。

 それを聞いた響はにっこりと笑い、カードホルダーからカードを取り出した。シルキー・オルマとCランク上位モンスター・ヴァルキリーを筆頭にした四枚だ。カードの格は守善に合わせて少し落としてある。

 

「分かった、()ろうか。互いに四枠、ベストメンバーで来てくれ。遠慮はなしだ」

 

 イレギュラーエンカウントとの死闘を経て随分と変わったと思えば、やはり変わっていない部分も多々ある。だが敵意ではなく、上昇志向の表れであるその笑みは響から見ても好ましいものだった。

 

「流石、話が早い」

 

 示したカードはCランク一枚、Dランクが三枚。ランクで言えば守善率いるモンスター達と同等。あとは互いの練度がモノを言うだろう。言い訳の利かないぶつかり合いだ。

 黒のロングポニーテールを風になびかせ、凛々しく挑戦を受ける響と邪悪な眼光と好戦的な笑みを浮かべる守善。誰がどう見ても善玉と悪玉がはっきり分かれていたが当人たちは気にもしない。

 互いに肩を並べ、二人は近くのダンジョンへと足を向ける。程なくして【硝子の棺】の異空間で行われた模擬戦の結果は……守善が今後、大人しく響に従うようになった辺りから察することができるだろう。

 それでも守善は腐ることなく、むしろ一層力を入れて迷宮攻略に挑んでいく。響を超えるため、金のため、なによりも家族(ファミリー)のために。

 

 こうして守銭奴は冒険者となり、迷宮に挑み始めた。その道はまだ途中、目指す目標は遥か彼方。

 それでも彼にはともに歩むことを決めたカード達がいる。もう彼は一人ではない。彼が率いるカード達も最早ただの道具ではない。

 彼らが挑む”冒険”はまだ始まったばかりだ。

 




【Tips】カード化
 冒険者ギルドでは、特殊な魔道具を用いて物品をカード化するサービスを行っている。小さな指輪だろうが一軒家だろうが一回百万でなんでもカード化してくれる。カード化されたモノは、モンスターカード同様所有者以外は召喚することができなくなるため、財産の保護などにも使われている。主人公のように転移の魔道具など持たない一般の冒険者たちは、このサービスで大量の物資をカード化し、泊まり掛けで深い階層へと潜っている。
 なお、このカード化の魔道具を入手した際は絶対にギルドに報告し売却しなければならないという法律がある。もしも隠し持っていたことが発覚した際は、即逮捕されて公安の厳しい取り調べを受けることになる。

※上記は原作者である百均氏より許可を頂き、転載しております。

【Tips】『守銭奴ですが冒険者になれば金持ちになれますか?』における2019年
 迷宮の出現とその恩恵により、戦争や貧困といった大きな問題が数多く解決されている(その代償に迷宮終末論を始めとする迷宮の脅威も多数存在する)。
 そのため現実世界の2019年よりもはるかに発展している部分があり、一見すればユートピアに見えるところも。
 医療技術もその一つであり、迷宮産のアイテムや技術を用いることで高度な医療を比較的安価に受けることができる。
 堂島藍が受けている治療もその恩恵に預かっており、現状維持だけならばさして大金は必要ではない。

【第一章あとがき】
 これにてモブ高校二次、「守銭奴ですが冒険者になれば金持ちになれますか?」の第一章完結となります。
 第二章につきましては鋭意製作中となります。
 とはいえ手を付け始めたばかりなので3月くらいに書き上げて投稿が目標です(自分を追い込むため敢えて目標を宣言)。
 それと別途なろうの方で先行して投稿しております。第二章もなろうの方が先に投稿されますので、そちらも是非ブクマをお願いします。

 さて、ひとまずキリのいいところまで書き上げましたが、拙作はいかがだったでしょうか。
 面白かったでしょうか? ピンチにハラハラしましたか? はたまた自分もモブ高生二次書きてええぇぇ! となりましたか?

 いずれにせよ拙作を読んで心を動かしていただいたのなら作者にとって冥利に尽きます。ありがとうございます。
 特に最後に該当する人、是非連絡を下さい。拙いながらご相談に乗りますし、読者第一号になりますので。
 イケるイケるヘーキヘーキ、モブ高生は割とマジで二次創作を書きやすい部類だと思ってるのでみんなもモブ高生二次を書いて界隈を盛り上げよう!
 本作を書いたモチベの半分は自分がモブ高生もの読みたいからなので、そこまでいければ目標達成で私的には大成功です。
 是非私まで連絡を下さい(二度目)。


 それでは最後にここまで読んで頂いた読者の方へお願いです。
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 下記【Tips】の通り、感想やポイントは作者の栄養源でして、摂れないと生きていけないか弱い生命体なのです。
 
【Tips】感想
 作者のやる気に直結する栄養素。
 人間は食べ物がなくても「感動」を食べるだけで生きていけるらしいが、作者は「感想」がなければ生きていけないか弱い生物なのである。
 感想お待ちしております。

 かよわい生き物へ栄養を投げるつもりで些少の手間を割いて頂けますと幸いです。

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