ゴルシのグルメ   作:あぬびすびすこ

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 讃岐うどんです


ゴルシとぶっかけうどん

『ゴールドシップが大楽勝でゴールイン! やはり阪神は彼女の庭だ!』

「いえーい! ピスピース!」

 

 レースに勝利したゴールドシップがニコニコしながらピースして駆けまわる。

 やはり阪神は彼女の脚質や走りに合っているようだ。

 他の追随を許さない圧倒的なレース運びだった。

 

 ただまあ、圧倒的過ぎて本人的にはあまり気持ちよくはないようだが。

 笑顔は見せているものの、耳はやや絞り気味だし尻尾も不満げにブルンと振られている。

 もっとアツいレースをしたかったようだ。今回は調整の意味合いもあるから許してほしい。

 

 ウィナーズサークルにて1着のポーズをしているゴールドシップと共にインタビューを受ける。

 彼女の破天荒ぶりをみんな知っているため、挑発的だったり挑戦的な質問は控えめだ。それをしたら最後、しこたま弄り倒されるからな!

 

 と、ここで1人の記者が手をあげた。やや小太りだがいい笑顔の記者さんだ。

 

「ゴールドシップさんはこの後、勝利祝いで何を食べる予定なんでしょうか?」

「この前はカニだったからなー。かまぼこかちくわだぜ!」

 

 結局海産系らしい。

 特に決まってないですよと話す。

 

「何かコレといって決めているわけじゃないんですね」

「今食いたいものを食う。それがグルメファイターってもんだろ!」

 

 グルメファイターは決められたものを多く食べる人だから違うだろ。

 まあ、その日の気分ですね。ラーメンが多いですけど。

 

「麺類が多いと……それなら、駅前のうどん屋さんには行ったことありますか?」

「駅前はねーな。いつもトレタクだからよ」

 

 僕が車を運転してるので駅には行かないですね。

 

「ラインナップが豊富でおすすめですよ! レース場が近いのでウマ娘ファンが多いと思いますけど」

「ふーん。ま、考えとくぜ!」

 

 情報ありがとうございます。

 そう言って新たに質問が飛んでくる。

 質問が終われば後はライブだ。主役は大変だなと思うのであった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 ウィニングライブも終え、後は宿泊施設に戻るだけだ。

 とはいえ激しいレース後はエネルギー補給の軽食しかしてないゴールドシップ。

 流石にお腹がすいたらしく、いつもよりちょっとだけ動きが鈍い。

 

「なあトレーナー、早くメシ食いに行こうぜ。ゴルシちゃんのエネルギーが底を貫いてマイナスだからな」

 

 助手席でお腹をぽんぽん叩きながら駄々をこねる。

 俺もレースからライブまで何も食べてないしお腹ペコペコだ。

 今日は何を食べようか。

 

「たこ焼きとかお好み焼きみてーな粉もんはタマモの姐さんが食わしてくれっからなー」

 

 うーんと腕を組み、真剣な表情で考える。

 適当に車を走らせながらあーでもないこーでもないと話し合うのがいつものルーティーンだ。

 

 あ、そういえば。

 

「ん?」

 

 インタビューしてきた人が駅前のうどん屋さんが美味しいって言ってたじゃん。

 そこに行ってみよう。

 

「お、いいぜ! U・DONの貴公子と呼ばれたこのゴルシ様を唸らせるメシなら!」

 

 どんなメニューがあるんだろうな。

 そう言って駅前まで車を走らせる。

 

 あっという間に着いた。駐車場に車を停めて、早速店を探す。

 

「すっすめー、すっすめー、うどんどんどどん!」

 

 ご機嫌な様子でうどん屋さんを探し回るゴールドシップ。

 口もお腹もうどんになってしまったようだ。

 

 少し歩いていると、それらしき場所を発見した。

 外観はおしゃれなダイニングバーみたいなところ。癖毛の先輩やメガネの先輩に連れていってもらったバーも似たような感じだったな。

 

「いざ、入店! オープン・ザ・プライス!」

 

 料金はメニューを見てからでしょ。

 勢いと裏腹に丁寧な所作で扉を開けて入っていく。

 

「いらっしゃいま……え!? ゴルシ!? トレーナーさん!?」

「え、ホンマ!?」

 

 店員さんが俺たちを見て思わずといった感じに声をあげる。

 それを聞いたお客さんが驚いてこちらを見て、再度驚くという連鎖。

 

「ピスピース! ウマ娘のハバネロ大使、ゴルシちゃんだぞ☆」

「ほ、本物や!」

「マジもんはやっぱちゃうわ……!」

 

 みんな感動している。

 よく考えたら今日のメインレースで勝利した上、宝塚記念連覇ウマ娘だ。

 阪神ですごい人気だし、そりゃあこうもなるかと納得する。

 

 2人ですと声をかけると、フリーズしていた店員さんが慌ててテーブル席へ案内してくれる。

 どうやらウマ娘用の席らしい。テーブルにウマ耳のステッカーが貼られていた。

 ゴールドシップに限らず、ウマ娘はよく食べるからな。大きなお皿が置けるように、時々専用テーブルがあったりするのだ。

 

「お水です」

「ありがとな!」

 

 ありがとうございます。

 さて。2人でメニュー表を開き、どれにするか話し合う。

 こうやって選んでる時が楽しいんだよね。

 

「アタシは……おすすめがいいな! ヘイラッシャイ!」

「え、あ、はい!」

 

 呼び込みの声掛けで店員を呼ぶな。

 

「こまけーことはいいんだよ! ここのおすすめって何だ?」

「えっと、おすすめはぶっかけうどんやと思います」

 

 そう言ってメニュー表を指さす。

 

「あと鶏天もええと思いますよ」

「ふーん。じゃあ鶏天おろしぶっかけうどんにすっかな」

 

 じゃあ俺は鶏天梅とろろのぶっかけで。

 

「鶏天おろしと鶏天梅とろろですね。お待ちください」

 

 注文をメモしてカウンターへと戻っていく。

 それを契機に、お客さんたちがこっちへそろりそろりとやってきた。

 

「あの、俺ゴルシのファンやねん。サインもろてもええ?」

「いいぜ! アタシの超美麗な美文字を刻んでやるからな!」

 

 これに、と帽子を渡してくる。

 ゴールドシップがツバの内側にさらさらサインを書いていく。

 『Gold Ship』と金色の筆ペンで達筆に書かれた帽子は、なんというか芸術的な代物になっていた。

 

「おぉ! ごっついなぁ!」

「いいだろ? ついでにおめーにも書いてやる」

 

 そう言って俺の腕に『金船』と書き出した。

 いや俺はいらないんだけど。

 

「うるせー! いいからもらっとけ!」

「せやで、なんぼもろてもええやろ!」

 

 他の客からもヤジが飛ぶ。

 これが関西特有のノリというやつか……!

 

「ちょっと! ゴルシさんらに迷惑かけんとって!」

「せやかて、スーパースターおんねんで? 話しかけんと。なあ、大将」

「せやな」

 

 うどんを作ってくれている大将さんはそんなに話さないタイプなのか黙々と作業している。

 出会えてここまで喜んでくれるのもいいことだ。少しぐらいはいいですよ。

 

「お! 話がわかるやんか。なあなあ、トレーナーってなんぼもらえるん?」

「マンボ? おめー鷹飼ってんのか?」

「いや鷹関係ないやろ!」

「おめーが言ったんじゃねーか!」

 

 やいのやいのと盛り上がっている。

 からからと笑いながら会話を見ていると、うどんができたのか先ほどの店員さんが持ってきてくれた。

 

「ほら、邪魔や! はい、鶏天おろしと鶏天梅とろろです」

「へえ! 美味そうだな!」

 

 俺たちの目の前に並んだのは、ごろっとした大きい鶏の天ぷらに大根おろし、梅とろろがかかったうどん。そして細切りの海苔。

 これは美味しそうだ!

 

「んじゃ、早速いただきま――」

「ここの天ぷらはごろってしててごっつでかいやろ! これが美味くてな!」

 

 先ほどのお客さんが解説を始めようとした。

 あ、これはまずい。

 

「あ?」

「うおっ!? な、なんや?」

「アタシはお腹ペコリヌス三世なんだよ! 邪魔すんなよな!」

 

 先ほどまでのほんわかした空気が一転。

 ゴールドシップが謎のポーズで怒り出した。

 ご飯を食べるときは楽しく、美味しく、しかし騒がしいのはダメ。これが彼女のこだわりである。

 

「お、おぉ……」

「だから言うたやろ! 迷惑かけんとってって! いい加減にせぇよ!」

 

 店員さんにもの凄い怒られている。お客さんもすまんかったとしょぼくれていた。

 食事マナーに関してはいいとこのお嬢様なゴールドシップだ。この振れ幅を理解できないと逆鱗に触れることになるぞ。

 ご飯の時は神経質になるから気にしないでと話すと、苦笑いで頭を下げられた。

 

「ほら、食うぞ! いただきます!」

 

 いただきます。

 改めて手を合わせ、早速麺をほぐして1口。

 

「……うん! 美味いな! 麺に弾力があるぜ」

 

 うん、このもちっとした感じの弾力が美味しい。噛む楽しさがあるよね。

 そしてこのぶっかけだしがとてもイイ。濃いめの味が空腹のお腹に沁み込んでいく。

 関西のかけうどんもだしが効いてて美味しいけど、ぶっかけうどんの濃い味もまた美味しいのだ。

 

「じゃあアタシはこのおろしを……」

 

 ゴールドシップは大根おろしをだしに溶いて、麺を絡ませ始めた。

 俺も同じように梅とろろを麺にたっぷりからませる。ほんのりピンク色に染まったとろろがまたイイね。

 十分にからんだら、1口。

 

「さっぱりしてんなー。このおろしは甘くてうめー」

 

 おお!

 この梅とろろ、すごい美味しい!

 だしのからんだとろろもいいけど、梅の風味がほんのりあって箸が進む。

 いやぁ、これは当たりだぞ。

 

「よし。天ぷらも食おうぜ。はむっ」

 

 ……おぉ、ボリューミーでぎっしりした鶏肉が美味い。

 もそっとする鶏天は結構あるけど、これはしっとりジューシー。

 これはおすすめされるわけだ。うまうま。

 

「んー、美味い! これが2つあんのはやべー。大将天才か?」

 

 感心しながらうんうんと頷いて1個ぺろりと食べてしまう。

 いやぁ、本当に美味しいな、このうどん。

 

「トレーナー、梅とろろくれよ」

 

 ゴールドシップがそう言うので、器を渡す。

 俺も代わりに鶏天おろしをもらう。

 水を口に含んで味をリセットしてから1口……うん! さっぱりしてるけど大根が甘くて美味しい!

 薬味としていいものだけど、俺は辛いおろし苦手だからこれだと美味しく食べられるな。

 

「おお! これすげー美味いな! とろろに無限の可能性感じちまうぜ!」

 

 満足そうに梅とろろうどんを頬張るゴールドシップ。

 いやほんと、梅とろろが凄い当たりだった。

 

 美味しいなぁと思わずメニュー表を見る。

 すると、丼もののところに梅とろろごはんの文字が。

 ゴールドシップに指さして見せると、目をキラキラさせて俺を見た。

 

「世紀の大発見じゃねーか! ヘイ! 梅とろろごはん1つよろしく!」

 

 俺は卵かけごはんください。

 

「はーい!」

 

 店員さんが元気よく返事をしてご飯をよそってくれる。

 そして白米の上にかけられる梅とろろと卵。

 

「はいお待ちどおさま。梅とろろと卵かけ!」

「へへっ、ありがとな!」

 

 お互いに茶碗を受け取る。

 俺は卵をかき混ぜて白米を黄色くする作業にとりかかり、ゴールドシップは丁寧に1口分をすくってパクリ。

 

「ん! ウマウマ娘だな!」

 

 大満足なようで、そのままご飯を食べ進める。

 かきこんで食べそうに見えて、すごく上品に食べる様はいつ見ても不思議だ。

 美味しそうに食べる彼女を見つつ、俺も卵かけごはんを1口。うん、美味しい。

 

 一通り堪能した後は、食らいつくすだけだ。

 うどんをすすり、ごはんを食べ、水を飲む。

 ずるずる、もぐもぐ、ごくごく。

 

 夢中になって食べていると、あっという間に目の前の食べ物がお腹の中に入ってしまった。

 

「美味かった! ごちそうさまでした!」

 

 ごちそうさまでした。

 手を合わせ、この食事に感謝を。

 

 少し食休みをしてからお支払いをしにレジへ向かうと、今までほとんど話さなかった大将がヌッと出てきた。

 そして、懐から正方形の板を取り出す。

 

「お!」

「店長……」

「なんや、大将もかい」

 

 ゴールドシップが楽しそうに笑い、店員さんも苦笑い。

 差し出された色紙を見て、みんなが笑顔になるのであった。




 弾力のあるうどんは噛むのが楽しいですよね
 もっちりしたおうどんが好きです
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