お腹が沢山すきましたよ!
というわけで次はお米です
今日は午前中からトレセン学園近くの商店街へとやってきた。
スポーツドリンクの粉や水、あとはゴールドシップが突然作り出す焼きそばの素材を買うためだ。本当に突然鉄板を取り出すからな。用意しておかないとすぐになくなってしまう。
揚げ玉と麺を確保して、野菜を買うべく進んでいく。
「この揚げ玉が口の中で爆発するんだ! イッツア揚げ玉ボンバー!」
やたら不穏なことを言っているが、タマモクロスも認める腕前を持つからな。
なんだかんだで美味しい焼きそばを作る事だろう。
チャーハンはネギと卵だけで十分なのかどうかを真剣に話し合いながら歩いていると、ゴールドシップが耳を動かし、ん? と声を漏らす。
どうしたのかと思っていると、何やらどこかのお店でざわついているようだ。
あそこは……お米屋さんか?
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ~~!!!」
「まあまあ、そんなに頭を下げなくていいって。地面に散らばってないから大丈夫だよ」
近づいて見ると、耳をペタンと倒したウマ娘がぺこぺこと頭を下げていた。
米屋のおじさんも謝る様子が不憫すぎて苦笑いだ。
「あん? ドトウじゃねーか」
謝り倒している彼女はメイショウドトウ。
かの覇王テイエムオペラオーと鎬を削るすごい強いウマ娘だ。
実力と裏腹に何かと問題を起こすことで有名ではある。ライスシャワーのような不幸ではなく、本人の空回りでドジをするイメージだけども。
「おお、ゴルシの嬢ちゃんにトレーナーさん」
「よう、おっちゃん! 店先でショーをかますなんて、ずいぶんシャレたことするじゃねーか!」
ああこれはねぇとおじさんは頭をかき、ドトウは涙目で縮こまる。
「ま、ドトウが米運ぶの手伝おうとしたらコケてぶちまけたとかそんなとこだろ」
「な、なんでわかったんですかぁ~!?」
「そうだよ。そっくりそのままそんな感じだ」
ああ、なるほどなー。
つまりいつもの如く頑張ろうとして空回りして失敗しちゃったのか。
「うぅ~、そうですぅ~……」
何やってもダメダメなんですぅ~と手で顔を覆い隠している。
うーん、まあ失敗したのは仕方ない。
ところでお米ってどのぐらい撒いちゃったんだ?
「2袋ぐらいなもんさ」
「そんなもんか。珍しく軽いじゃねーか」
そう思って店の中を見ると。
「………」
米袋が並ぶ棚の一角にこんもりと盛られている生米が。
「トレセン学園に卸すようのやつだから50kgのやつでね」
「あん? じゃあ100kgもこぼしたのか! すげーファンキーじゃねーかドトウ!」
「ふぁ、ファンキーですかぁ?」
100kg! とんでもない量だ!
5号炊きの炊飯器でも100回以上は食べられるぐらいの量だぞ。
大食いで有名なオグリキャップでも1度では食い切れないだろう。
「しかしどうしたもんか。食えるっちゃ食えるけど、この状態じゃあな」
おじさんが腕を組んで唸る。ドトウも横でまた泣き出しそう。
うーん……今はお昼前。食材はまあ、買ってある。
よし、ゴールドシップ。
「おう! 任せとけ!」
ニッと楽しそうな笑顔を見せてくれる。
おじさん、このお米を全部買うよ。
「ん? え? これをかい?」
「え、えぇ~~~!?」
2人がとても驚いている。
100kg分全て買わせていただく。その代わりに。
「おっちゃん、店の前借りるぜ」
「お、おお。いいけど」
許可をもらうと、ゴールドシップはどこからともなくテーブルや鉄板を運んできて、慣れた手つきで炭火を着火し暖める。
さて、俺たちは俺たちで動き出そう。
ドトウ、ついてきてくれ。
「は、はいぃ~!」
わけがわからなそうに挙動不審になりながら俺の後を歩くドトウ。
さあ、お米の有効活用だ!
◆ ◆ ◆
「うっし! こっちは焼けたぜ!」
はい、じゃあもらうよ。
お皿を差し出し、ウインナーをたくさん乗せてもらう。
その間に炊飯器のお米を手に取り、具を中へ。えっさほいさと握って形を整え、のりを巻く。最後に中に入れた具と同じものをちょこんと頭に乗せれば特製おにぎりの完成だ。
紙皿の上におにぎりやウインナー、卵焼きなんかを乗せれば美味しそうなおべんとになる。
それを手伝っているドトウは目をぐるぐるさせて俺を見た。
「どういうことなんですかぁ~~~!?」
米屋のおじさんも苦笑いだ。
俺とゴールドシップは米を消費するために、米屋の前でおにぎりの販売をすることにしたわけだな。
こういう屋台販売とか出店みたいなのって普通はできないんだけど、ゴールドシップは何故か許可を得ているためこうして動いている。このウマ娘はどこへ向かおうとしているのだろうか。
ゴールドシップが鉄板で色々なものを焼いている間に、商店街で馴染みの人たちから炊飯器を借りて炊きまくり、おにぎりを作っているというわけだ。
おにぎりは塩から魚屋で買った鮭にツナマヨ、昆布、肉屋の特製タレが染みた肉巻きおにぎりなど色々ある。
特徴的なのは、ゴールドシップが作った焼きそばの麺をいっしょに混ぜ込んだそばめしおにぎりだろうか。ソースの香りが食欲をそそる。
「どうしたんだいみんなして」
「お、電気屋のばーちゃん! 知らねーのか? 今日はおにぎりを食べると若返る日なんだぜ」
「あら本当? ならお1つもらおうかしら。そうだねえ……この昆布、美味しそうだねえ」
ではお1つどうぞ。
お皿を渡すと、おにぎりを掴んでぱくりと1口。
「ふんふん……ううん、美味しいねえ」
「あ、ありがとうございますぅ~!」
ぺこぺこ頭を下げて喜ぶドトウ。
彼女の担当はツナマヨと昆布だったからな。美味しいと言われると嬉しいものがあるのだろう。
「お嬢ちゃんが作ったのかい? あったかくて優しい味だよ」
「よかったです~」
くしゃっと顔をほころばせて笑うおばあさんに、ドトウも笑みを見せる。
そんなやり取りをしていると、色々な人たちが近寄ってきた。
「よう、あんちゃん! なにしてんだ?」
「ゴルシねーちゃんうまそうなの作ってる!」
「ホントだ! ねぇねぇ! あたしツナマヨ食べたーい!」
商店街によく来るお客さんたちだ。顔馴染みの人たちでもある。
交流として配布しているので好きなものを1つずつもらってくださいと声をかけると、真っ先に子供たちが集まってきた。
「はい! ツナマヨ!」
「俺この茶色の! そばめしってやつ!」
「おれは肉がいい!」
「は、はい~~! これがツナマヨ、こっちもツナマヨ……!」
ドトウがわたわたと慌てながらおにぎりを渡していく。
あ、これは危ないやつだと思って様子を見ながら構えていると。
「に、肉巻きですぅ……あぁ!」
慌てて差し出したせいでお皿が傾き、つるっと肉巻きおにぎりが滑り落ちる。
それを予想していた俺はすかさずキャッチ。別の肉巻きおにぎりの交換してドトウが持つ皿に乗せた。
「ご、ごめんなさいぃ! ありがとうございます~~!」
「にーちゃんすげー! ヒーローみたい!」
トレーナーになればできるようになるよ。
「トレーナーってスゲー!」
「これで将来トレーナーが増えるねえ」
キラキラ輝いた笑みを見せる男の子を優しく見守るおばあちゃん。
商店街は暖かいなぁ。
そんなこんなでどんどんとおにぎりを捌いていくと、あっという間に100kgが70kg、50kg、20kgと減っていく。
お昼時の商店街というのもあるが、やはり現役で走るウマ娘のゴールドシップとメイショウドトウがおにぎりを作って配布しているというのが効いている。明らかに2人を見にきただろう人たちが写真を撮っているしな。
そうじゃなければこんなに減らないだろう。あまりに人が多すぎて、ついには他の店のおばさんや居酒屋のおじさんたちも協力してくれる状態に。
お米って炊くと増えるからね。100kgを炊いたら結果倍ぐらいになると米屋のおじさんは言っていた。
で、おにぎりにすると1個が100から110g。
つまり、おっきく握っているけど、100kgを全て消費するにはおにぎりを約2,000個作らなければならないのだッ!
皐月賞じゃあないんだぞ!
すごいペースで作っては減っている。
ウマ娘効果って凄いなーと思っていたら、見知った顔が。
「あん? おいトレーナー、悪の親玉と幹部だぜ」
手を振っているのは……理事長とたづなさんでは? 何故ここに?
順番が進み、2人はニコニコ楽しそうな笑顔でやってきた。
「感心! 素晴らしい取り組みをしているな!」
「こんにちは、トレーナーさん。お話は聞いてますよ」
どういうことだろうかと聞いてみると、どうやらSNSで書き込みがあったようだ。
『ゴルシとドトウがおにぎり配ってる』とバズっていたとはトーセンジョーダンの談。
そこで写真の背景に写っていた米屋に問い合わせ、ドトウの一件と今回のおにぎり配布を知ったらしい。
おじさんが対応してたのかと振り向くと、いやぁと頭をかいていた。
「私が言わなくていいですとお話したんです。秋川理事長が実際に行くということでしたから」
「うむ! レース外でも活躍している姿を見たくてな!」
はっはっは! と扇子で仰ぎながら笑う理事長。
評価してくれて何よりだ。ところで注文はいかがしましょう。
「そうだな。うむ、決定! そばめしにするぞ!」
「では、私は鮭おにぎりをいただきます」
「はい、どうぞぉ~」
ドトウから受け取った2人は満足そうに頷く。
「トレーナーさん、後で本日使ったものの領収書を提出してくださいね。イベントでの経費にしますから」
「お! 太っ腹じゃねーか! 流石は理事長だな!」
ゴールドシップと理事長がはっはっはと大笑い。
なんともまあ、豪快な人だ。
お礼を言うと、好きに頼ってほしいと扇子を開いた。信頼と書いてある。ありがたいことだな。
えっちらおっちら、えっさほいさ。
おにぎりをたくさん握ってたくさん渡して、時々ゴールドシップとドトウがファンサービスで写真を撮って。
お昼が過ぎたころには人も少なくなり、一段落した。
「ふぃー、こんなもんだろ。焼きそばのサービス期間は終了だぜ」
「おにぎりもなくなっちゃいました」
鉄板の上は綺麗に空っぽ。おにぎりは30個ほど残っているが、手伝ってくれたみんなで食べればすぐになくなるだろう。
腕がパンパンだなぁとぷるぷる震える手を見せると、みんながわははと笑ってくれた。
「それじゃあ残りを食うぞ! ゴルシちゃんはこのそばめしを捕食するぜ!」
「わ、わたしは、昆布をいただきますぅ」
じゃあ鮭を、肉をと手に取り、みんなに行き渡ったところで手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきますぅ~」
『いただきます』
いただきます。あんぐ。
「うーん! 流石はゴールドシップ様だぜ! ソースが丁度いいな!」
うん、美味いね。
俺もそばめしを手に取ったが、これはとてもいい。
ソースの甘さとそばの食感がプラスされて、ふっくらしているのにつるつるした部分もある不思議な感覚。
でもクセになる味わいだ。思わずもう1口とかぶりつく。
「昆布も、やさしい味です~」
もむもむと美味しそうに食べるドトウ。
正直このお米が凄く美味しい。当たりだったな、うん。
「鮭もいい塩加減だな。魚屋、やるじゃねぇか」
「おめぇンとこの肉もうめーじゃねぇか。このタレ! いいぜ、これ」
「ツナマヨもたまに食べるといいわね」
みんながみんな美味しそうに食べていく。
あっという間に食べてしまい、おにぎりが全部なくなってしまった。
100kgを消費しきったぞ!
「やったぜ! これで免許皆伝じゃーーい!」
「よかったですぅ~~! やりましたぁ!」
ガッツポーズで盛り上がる2人に、商店街のみんな。
いやあ、なんとかなったなぁ。
「どうもな、トレーナーさん。おかげで助かったよ」
いえいえ、こちらこそいい取り組みになりました。
こういった交流も走るのにいい影響となりますからね。
「はは、ならよかったよ」
米屋のおじさんと共に笑い合う。
ドトウがゴールドシップにもみくちゃにされるのを見て、今日はいい日になったなと思うのであった。
おにぎりの具はね、おかかが一番好きですね
かつおぶしとしょうゆの塩辛さと甘味がとても好きです