トレーナー室にて書類整理を終わらせて、首や肩を回す。
ペキポキと骨が鳴る音がする。うーん、デスクワークは関節にくるなぁ。マッサージとか行こうかな。
時計に視線を向けると、午後2時半。
仕事的にはもうひと踏ん張りという時間帯だ。
今日はゴールドシップたちウマ娘のトレーニングの予定がないため、平日ながらずっと机にかじりついている。結構珍しい日だな、うん。
提出書類も終わらせたことだし、トレーニングメニューでも考えようかな。
パソコンでブラウザを起動して早速検索だ。[トレーニング おもしろい 脚]と……。
「コンコンコン! キツツキのお通りじゃーい!」
検索結果を見ようとしたところで珍しく扉がノックされた。
というか声が聞こえている。ゴールドシップだ。
いるぞーと声をかけると、本当に珍しく普通に扉が開く。
「おっす! アタシゴルシちゃん! 今あなたの目の前にいるの!」
「当然ではないですか。こほん、こんにちは、トレーナーさん」
いつも通りのテンションで挨拶してくるゴールドシップと友人であるお嬢様メジロマックイーン。
よく見るコンビではあるが、何か用だろうか。この時間だとまだ授業はある気がするが。
「今日はテストだからな。早めに終わるんだ」
「ええ。なので、これからゴールドシップさんと出かける予定なんです」
成程、テストか。それならば早く終わるだろう。俺が学生だった時もテスト期間は早めに帰れたし。
ゴールドシップは成績はいいし、マックイーンも優等生だ。赤点補習にはならないだろうから安心だな。
ところで、出かけるってどこに行くんだ?
「テスト明けのご褒美にスイーツを食べに行きますわ!」
ふんすふんすと興奮気味に話すマックイーン。
ああ、成程。甘いものが好きな彼女に連れられて行くのだろう。
ゴールドシップは特段甘味が好物ってわけじゃないしな。珍しいことに。
「アタシはマックイーンが食うスイーツのカロリーを耳元でささやくっつー仕事のためにくっついていくぜ!」
「余計なお世話です!」
非常に恐ろしい仕事をしに行く気のようだ。
それで……なんでここに?
別にトレーナー室に来る意味はない気がするが。
「何言ってんだ? トレーナーも行くんだよ」
え? 何故?
「道連れに決まってんだろ! マックイーンのスイーツ沼にお前も沈めてやるぜ!」
「沼とは何ですか沼とは!」
「いつも食いすぎてんじゃねーか! この前体重落とすのにランニングやったばっかだろ!」
「そ、それは言わないでくださいます!?」
ギャンギャン言い合いが始まってしまった。
一応仕事中なんだけど、俺。
「仕事だろうがレースだろうが関係ねー! オラ、行くぞ!」
椅子に根っこを生やしていたところを無理やり引きちぎられる形で連れていかれた。
正直トレーナー室まで来た時点で行くのは確定していたよね、うん。
「相変わらず強引なお方ですのね」
マックイーンと一緒に苦笑いしてゴールドシップの後に続くのだった。
◆ ◆ ◆
「ここがあのスイーツのハウスか」
「なんですの? その言い回し」
歩いてやってきたのは、学園にいるウマ娘たちがよく食べに行くオープンテラスカフェだ。
いつもフェアをやっているし量も多いため、ウマ娘御用達だと聞いている。
学園から近いというのも好条件なようだ。
でもね、君たち。
ヒトにとっては結構な距離だからね!
「ん? トレーナー、戦いを前にして不満そうじゃねーか」
徒歩で片道30分はそこそこ長いわ!
ウマ娘基準だと走れば5分ぐらいだし、走るのも歩くのも好きだろうから気にならないかもしれないけど!
「それは……そうですね、すみません。ゴールドシップさんのトレーナーさんは、他のみなさんより体力がありますので大丈夫だと思っていました」
体力的には全く問題ない。
でも一応仕事中だからね。往復1時間かけておやつ食べに行くとなると、流石に苦言を呈される。
ゴールドシップの体調管理と銘打っても許してくれるのはウマ娘関係に寛容な秋川理事長だけだろう。
「なんだよ、つまんねーなー」
ゴールドシップはぶーたれながらどこかにぽちぽちとメッセージを送り始めた。
「何してますの?」
「たづなさんに生徒会室へロケット花火打ち込む予告してんだ」
「何してますの!?」
突然の奇行にメジロビックイーンになっている。
ああ、うん。俺の外出許可もらってるんだな。
「ちぇ、ダメか。ま、とりあえず入ろーぜ。限定のやつなくなっちまうからな」
「よくわかりませんが、そうですわね。早く行きましょう!」
店内へ入っていくゴールドシップたち。
俺は携帯を取り出し、メッセージアプリでたづなさんに連絡を入れる。
いえいえ、大丈夫ですよ!
戻ってから渡しますね
わかりました!
私も行ってみたいです
楽しみにしてます!
やり取りを確認して2人の座る席へと向かう。
「あら、どうかされましたか?」
遅れてきたためマックイーンが不思議そうにしている。
俺もたづなさんに連絡しておいただけだよと話すと、成程と頷かれた。
これでとりあえずは大丈夫だろう。
「ふーん」
何故かじっとりとゴールドシップに見られているが!
真顔のゴールドシップが頬杖をついて穴をあけるかの如く見つめてくる。
「アタシも連れてけよな」
お出かけがバレている……!
まあ別に来てもいいけどね。たづなさんはウマ娘がいたほうが喜ぶし。
なんならマックイーンも連れて来てもいいぞ。メジロ家の話を聞きたいって言ってたしな。
「んじゃ、次のフェアん時だな!」
「あの、どういうことですの?」
困惑しているマックイーンに、また後日わかるよと話してメニューを開く。
首を傾げて耳を動かしているが、別にいいかとなったのか彼女もメニューを見始めた。
食べに行くとは言っていたけど、どれにするか決まってるのか?
「ええ! この期間限定チョコレートパフェです!」
ズビシと指さすのは2月限定チョコレートパフェと書かれたもの。
バニラのソフトクリームにたっぷりとチョコレートソースがかけられ、その下にはバナナがしきつめられ、ちょこんと乗っているまん丸のチョコアイス。
他にもブラウニーやワッフルも差し込まれている豪華なものだ。
グラスの中には生クリームとチョコがたっぷり入っているし、チョコチップみたいなものまで見える。
これは確かに凄いな。本当にご褒美だ。
「そうでしょう! チョコレートパフェですが、アイスはチョコレートだけではないんです! 楽しみですわ!」
「ならそれ頼めばいいじゃねーか。なくなっちまうぞ」
「メニューを見るのが楽しいのです!」
キャーキャーと楽しそうにしているマックイーンと、それを見守るゴールドシップ。
……保護者みたいだな。
「だ、誰が子供ですか!」
「すみませーん、このチョコレートパフェを」
マックイーンが顔を赤くして抗議したところで、他の席からチョコレートパフェが注文される。
それを聞いて慌てたマックイーンが手をあげ、店員さんを呼んだ。
「ご注文でしょうか?」
「はい。この期間限定チョコレートパフェを1つと、温かい紅茶を」
「アタシもチョコレートパフェ。ミルクティーのホットで」
俺はいちご大福とミルクティーホット。
「かしこまりました。お待ちください」
店員さんが内容をメモして去っていく。
どのくらいで来るかなと思っていたら、マックイーンが珍しいものを見る目で俺を見つめてくる。
「チョコレートパフェじゃなくてよろしいのですか? 期間限定ですのに」
ああ、成程ね。
マックイーンって限定品に弱いタイプなんだな。
「そ、そういうわけではありません!」
「何言ってんだ。いつも期間限定のスイーツ食ってんじゃねーか」
「スイーツは別ですわ!」
失礼じゃありませんの! と抗議されてしまった。
まあ、単純にチョコレートパフェの口じゃなかっただけなんだよ、うん。
「あら、そうでしたか。確かにその時の気分で美味しいものを食べたほうがいいですもの」
うんうんと手を合わせて頷くマックイーン。
スイーツに対して一家言あるようだが、かなり柔軟に話を聞いてくれるようだ。
懐の深いお嬢様だな。
「あー、アタシもいちご大福にすりゃよかったぜ」
「ゴールドシップさんもですの?」
ゴールドシップは柔らかい食感の食べ物が好きだからな。硬い食感のものがそんなに好きじゃないし。
チョコレートパフェは歯ごたえのあるものはないだろうけど、大福みたいなもちもちのやつが好きなんだよな。
「そうですわね。柔らかい食感はそれだけで満足感があります。もちろん、ザクザクしたクッキーのようなお菓子も美味しいですけど」
楽しそうに話すマックイーンを見て、本当にスイーツ好きなんだなぁと思う。
これで体重制限をしているというのだから、なんというか……大変だ。
そうこう話している内にパフェが到着した。
2人の前に置かれたのは、白く輝くソフトクリームにチョコがかかった贅沢な一品。
嬉しそうにスプーンを持つマックイーンを見て、手を合わせる。
いただきます。
「いただきます!」
「いただきます」
ソフトクリームを口に運び、目をキラキラパチパチさせて頷く。
このカフェのソフトクリーム美味しいからなぁ。
「美味しいです! チョコレートの苦みがいいアクセントになっています」
「ん、美味いな。ミルクが濃いんだよなー、ここのアイス」
満足そうに食べ進め、次はブラウニーと突き刺さっているバナナ。
ソフトクリームをつけて一口。
「このブラウニーも美味しいですわ。バナナも甘くて美味しいです」
「お、柔らけー! トレーナーも食ってみろよ、ふわふわしてるぜ」
スプーンを差し出されたのでブラウニーにかぶりつく。
なるほど、これは柔らかい。しっとりしているがふわっとした触感で美味しいな。
うんうんと頷いていると、マックイーンが驚いた様子で俺たちを見ている。
何かあった?
「いえ、その……ゴールドシップさんたちがいいのであればいいです」
ちょっと恥ずかしそうにしながらパフェを食べ進める。
思わずゴールドシップと目を見合わせ、首を傾げた。
気を取り直してゴールドシップはグラスの中にスプーンを突き刺す。
すくい上げたのはチョコチップのフレークと少し溶けたアイスクリームだ。
「ほい」
フレークがいらないのか俺に差し出してくる。
俺もいちご大福食べたいんだけどなーと思いながら、雛鳥の如く口に入れていく。
うん、フレークにチョコの味が付いていて美味いな。
「チョコレートパフェという名前ですが、基本はバニラですわ。チョコレートはトッピングです」
「確かになー。しょうゆラーメンくれって言ったら豚骨しょうゆ出された気分だぜ」
「言いたいことはわかりますが……概ねそうですわね」
でも、これはこれでアリですわ。そう言ってグラスの中に眠るフレークを掘り出してパクつく。
半分ほど食べたところで、ソフトクリームにそっと乗せられていたチョコアイスにも舌鼓。
「! 美味しい……! 思ったよりも濃いチョコレートアイスですわね」
「すげー! アイスでもこんなに濃い味になるもんだな!」
かなり美味しいらしく、マックイーンはどんどん食べていく。
俺もゴールドシップが差し出してきたアイスを一口。
成程! 今まで食べてきたチョコアイスの中ではトップクラスにチョコレートの味が強い。これはおもしろいな!
全ての味を堪能した2人は、どんどん食べ進めていく。
アイスを食べ、バナナをつけ、フレークを噛みしめる。
美味しそうに嬉しそうに食べる姿を肴に、俺もいちご大福を食べていく。うん、甘酸っぱくてもちもちだ。
一心不乱に食べ続けてしばらく。
カランとグラスの中でスプーンがぶつかる音がする。
「ごちそうさまです」
「ごちそうさまでした」
ごちそうさまでした。
3人で手を合わせて完食。遅れて運んできてもらった紅茶を飲んで、口の中をスッキリさせる。
俺とゴールドシップはミルクティーだからスッキリできるかわからないけど。
「ふぅ……美味しかったです。やはりスイーツはいいものですわ」
「たまにはこういう甘いやつもいいな」
大満足のようで、非常に満ち足りた表情をしている。
2人がよかったなら何よりだな。
「ええ! やはりバレンタインの時期はチョコレートですわ」
マックイーンがそう言うと、ゴールドシップがそうか? と不思議そうにしていた。
まあ、ゴールドシップはバレンタインに鯛釣ってくるようなウマ娘だからな。
「何をしていますの……」
「ゴルシちゃんはやりてーことをやるんだよ!」
そう言って釣り竿と帽子を取り出す。
全く……とため息を吐くマックイーンだったが、そういえばとゴールドシップを見た。
「今日は珍しくスイーツに誘ってくださってありがとうございます」
え? ゴールドシップが誘ったの?
「ええ、そうですわ。期間限定のスイーツが出ていると教えてくれたんです」
そうなのか。
ゴールドシップがチェックしてるなんて珍しいこともあるものだな。
「ゴルシちゃんはありとあらゆる知識をこの頭脳に蓄積させてんだぜ!」
親指で至高の頭脳を指さす。
マックイーンはやれやれと紅茶を飲んでいたが、不意に俺とゴールドシップを交互に見る。
「………!」
そしてピン! と耳と尻尾が立つと、苦笑いをし始めた。
「素直じゃありませんこと」
「あん? アタシはいつもショージキだろ!」
「ええ、そうですわね」
クスクス笑うマックイーンを見てご立腹なゴールドシップ。
何の話だと思いながら、自分の口元のチョコレートをペーパーで拭き取るのだった。
素直だけど素直じゃないバレンタインデー
パフェはベリー系が一番飽きない気がします
甘いだけだとね、どーしてもくどいからね