『差しきってゴールイン! 並み居る強豪をおさえ、一着を勝ち取りました!』
テレビでやっている皐月賞を見て、今年も素晴らしいレースだったと満足した。
今回は上位人気をしっかりマークして先行したウマ娘の勝利。
伏兵扱いだったものの、実力をしっかり発揮しての勝利に会場は大盛り上がりだ。
「中々やるじゃねーか。担当してんの新人なんだろ?」
一緒に見ていたゴールドシップがにんじんジュースを片手にこちらを見る。
勝利したウマ娘を担当しているトレーナーは新人だ。それでいてクラシックG1を制覇。
なんというか、自分の新人時代を思い出す。
「しっかしよー、やっぱ中山は外だぜ。内側走ってたら勝てねーな」
確かにね、と頷く。
何度も走るレース場の内側は大荒れだ。
普通に走ったならバ場が悪すぎて内側を通って勝つのは難しい。
今回も外側でレースを進めていた2人と、大外一気の1人が3着までに入っているし。
まあ、ここに内側に突っ込んでワープして勝ったウマ娘がいるんだけどな!
視線を向けるといたずらっぽくニヒっと笑った。
「うっし! 飯食いに行こうぜ飯! 皐月祝いじゃーい!」
午後4時を過ぎて小腹がすいたのだろうか。おおはしゃぎだ。
しかし流石に早すぎない?
「あん? その辺ぶらぶらしてりゃあ丁度いい時間になるだろ」
あ、お出かけも含むんだ。
外に出る用意をし出したゴールドシップを見て、なんか長くなりそうだなと思うのだった。
◆ ◆ ◆
どこに行こうかと話しながらやってきたのは商店街。
ここにくればとりあえず何かしらあるからね。
「やっぱうめーな、おばちゃんとこのコロッケ」
早速紙袋に包まれたコロッケにかぶりついているゴールドシップ。
惣菜店の揚げ物はなんであんなに美味しいんだろうね。
俺も一緒に買ったから揚げを食べる。串に刺さっているから食べやすくていい。
うーん、ウマウマ。
「このうまさはビッグバンに相当するぜ! つまり、おばちゃんは世界の創世児だったのか……?」
「いや、おかしいっしょ」
ビシッと突っ込んできたウマ娘が1人。
「おばちゃんはヒトっしょ。ソーセージとかありえんし」
「あたりめーだろ。何言ってんだ」
「は?」
「あ?」
ゴールドシップ被害者の会会長ことギャルウマ娘のトーセンジョーダンだ。
片手に持つたい焼きよりも、その爪になされたネイルの方が目立つ。
そして何よりゴールドシップでさえも閉口してしまうぐらいの、うーん、なんだろう。
そう、ちょこっとだけおバカなのである。
俺を挟んでケンカになりそうな2人を落ち着かせながら練り歩いているというのが今の状況だ。
「てかさ、なんであたし連れてきたん? そもそも何すんの?」
「何も知らねーで来たのか? おめー大福の中の餡子にされるぞ」
「意味わかんねーよ!」
ジョーダンは学園外に出る時に、たまたますれ違ったところをゴールドシップに捕獲されていた。
いつもなら流れるようにラリアットをかましているのに珍しいこともあるもんだ。と思っていたら連れて来てたというわけ。
いや、ホントになんで連れてきたんだろう。
「トレーナーさんさー、ゴルシのことみてろし。マジで」
いや、これでも相当抑えてると思うんだけど。
そう言うとゴールドシップはやや不満そうにムッとした。
「トレぴっぴよぉー、ゴルシちゃんが鎖に繋がれた猛犬だっつーのか? あぁん?」
「……もーけん?」
暴れてる犬ってこと。
グイグイ近づくゴールドシップを押し込みながら説明すると、ふーんと頷く。
「やっぱアバれてね?」
「アタシは誰にも止めらんねーからな!」
そう言って突然走り出した!
いやどこへ行くんだ。
止める間もなくすっ飛んでいってしまい、すぐに姿が見えなくなってしまった。
「ほっとく?」
放置するとスねちゃうから追いかけるよ。あと何するかわからないし。
から揚げをさっさと食べて小走りで追う。そんなに遠くへ行ってないと思うけど。
ジョーダンも一緒に走ってきた。どうやら付き合ってくれるらしい。
「あのさ、結局どーゆーこと? 何しに来たん?」
顎に指を当てて不思議そうにしている。
単純に夕飯食べに出かけてるだけなんだよなぁ。
「ふぅん。でも早くね?」
だから商店街でちょっと食べ歩きながら店を探してたってところ。
「なーる」
納得してくれたようだ。
……なんだかジョーダンと話してると、自分の日本語の概念が崩れるというかなんというか。
これがギャル……!
「あ、いたし」
俺が戦慄しているとジョーダンが指さす。
ゴールドシップはじぃっと何かを見ていた。
どうしたんだと声をかけると、真剣な表情でこちらを見てくる。
「見つけちまったんだ……海に眠る秘宝をよ」
「ひほー……?」
「こいつに挑戦しねーと、親父に面目がたたねぇ! 行くぜ!」
ゴールドシップのお父さんは別に何にもなってないはずだが。
勢いよく店の中に入っていくので、ジョーダンと目を見合わせ、一緒に入る。
「いらっしゃいませー。あら、ゴルシちゃん。ジョーダンちゃんも。トレーナーさんもいらっしゃい」
「ようおばちゃん!」
「どもー」
こんにちは。にこやかに笑う女性が嬉しそうにしている。
ここは商店街にある中華料理屋さん。
紆余曲折あったが、夕飯を中華にするということらしい。
腰を下ろし、テーブルのメニュー表を見る。
久々にしっかり中華を食べるから、何にするか迷ってしまうな。
「ねえトレーナーさん」
ジョーダンがおずおずと声をかけてくる。
どうしたんだ?
「なんかゴチになる感じだけどいいの?」
「トレーナーだし別にいいだろ!」
「オマエに聞いてねーよ!」
ご飯食べさせるぐらい構わないよ、うん。
ただ量は自分で考えてほしい。食べすぎて体重増えても責任取れないし。
「りょ! ゴチになりまーす」
嬉しそうにしてメニューを選び出すジョーダン。
さて、俺も何にしようかな。
「アタシこれとこれ頼むぜ」
ゴールドシップから指さされたのはエビチリと麻婆豆腐。
なるほど、ならご飯ものと点心にしよっかな。
五目チャーハンと小籠包とか。
「あんかけのやつな」
じゃあそれにするか。
ジョーダンはどうだと顔を上げると、なんだか変なものを見る目で見られた。
え、何?
「マジ仲良すぎじゃね? みんなシェアっしょ?」
そうだよ。
でも中華料理ってこんなもんじゃないかなと思うんだけど。
「そうなん? あたしが知らないとかなのかな」
うーんと首を傾げる彼女に、思わずゴールドシップと目を見合わせる。
中華って色々なものをみんなで食べるイメージがあるけどそうでもないのかな。
「まいっか。あたしも決まり! おばさーん」
「はいはい」
店員さんが来たところで注文していく。
五目チャーハンと小籠包。チャーハンにあんかけを。
「チャーハンにあんかけね」
「アタシはエビチリと麻婆豆腐!」
「あたしこれね。ほいのやつ」
ジョーダンが指さすのは回鍋肉。
……ホイコーローが読めないのか。
「ふふふ、ホイね。あとはごはん?」
「そ! ねね、たまごスープもいい?」
いいよ。
「じゃあスープもよろ!」
「はい。じゃあ用意しますね」
にこやかに戻っていったところで、ずっとニヤニヤしていたゴールドシップがジョーダンを見る。
「ジョーダンよぉー、読めねーのに注文したのか?」
「うっせ! 食べたことあるし、伝わってるからいいっしょ!」
「因みになんて読むと思うよ」
「えっ」
ゴールドシップに言われて、じぃっと回鍋肉の漢字を見つめる。
いや、そもそも日本の読みでもないから絶対わからないと思うんだけど。
「これがほいじゃん。こっちも似てっし、金ついてるから……こい?」
「………」
ゴールドシップが笑いそうなのを必死で耐えている。
口元がピクピクして震えてるぞ。
「でこれにくっしょ? ほいこいにくじゃん」
「ぶっふぉ! はははははっ!」
思わず吹き出し、お腹を抱えて大笑いだ。
かくいう俺も失礼ながら口をおさえて震えている。
いや、そうはならんでしょ……!
「ひー! ひーっ!」
「おい! 笑いすぎだし! バカにしてんだろ!」
いや、うん。だって面白すぎる。
「はぁー、笑った笑った。やっぱお前すげーよ」
「うれしくねー。マジオコなんですけど」
ムスッと不機嫌になるジョーダンにごめんごめんと謝っていると、料理が到着した。
「はいお待たせしました。ジョーダンちゃんがホイコーローね。ごはんとスープも」
「あざす……あ、ホイコーローって言うんだ」
「ふふふ。エビチリと麻婆豆。あと五目あんかけチャーハン。小籠包はもう少し待ってくださいね」
ずらりと並べられたところでスプーンをとる。
じゃあ食べよっか。
「うっし! いただきます!」
「いただきまーす」
いただきます。
まずはチャーハン。あんかけだから黄金色の米はちゃんと見えない。
しかしこのだしが効いたあんにシンプルな塩胡椒のチャーハンがイイんだ。
一口食べるとあっつい!
「わんぱくぱくぱくじゃねーか」
「出来たてのあんかけマジアツいかんね。水飲んどけ~」
ジョーダンから水を渡されて口に含む。
ふう、熱かった。
しかし美味しいな。和のだしとはまた違う、ちょっと濃い感じの味がイイね。
「この店のエビでけーよなぁ」
「もぐもぐ……んめー! やっぱこれっしょ!」
丸々と大きなエビを嬉しそうに食べるゴールドシップと回鍋肉と米をかきこむジョーダン。
商店街の中に肉屋も魚屋もあるからだろう。この店は肉系も海鮮系もすこぶる美味しい。
八百屋もあるから、全ての具材が新鮮で凄いんだ。
「ほれ、食っていいぜ!」
「じゃあもーらい」
「ただしビリギャル、てめーはダメだ」
「いいじゃん1個ぐらい!」
がるると火花を散らす2人をよそにエビチリを一口。
うーん、このピリッとした辛さと噛み応え抜群のエビが本当に美味しい。
思わずチャーハンをかきこむ。うんうん、イイね!
まだギャーギャーやりあっているので麻婆豆腐も一口もらう。
いやぁ、ここのやつは普通の店より甘口だから食べやすい。
四川の麻婆豆腐は本当に辛いからね。俺は中辛ぐらいのものが一番好きだな。
「おめーの回鍋肉を生贄に捧げるなら海の宝石を1つやってもいいぜ」
「……いけにえ?」
「………」
ジョーダンが首を傾げるのに絶句するゴールドシップ。
語彙の宝庫である彼女だが理解できない相手には通用しないんだよね。タイキとかハルウララとか。
「とりまもらうかんね」
「おう、食え食え。もっと食ってバカを治せよな」
「はぁ? 何でバカにされてんの!?」
はよ食えお前ら。冷めるだろ。これ以上は俺も許さんぞ。
じっとり睨むと2人ともそそくさと食べ始めた。
ジョーダン相手だとゴールドシップもついノリノリになってしまうところがあるからなぁ。
ま、なんだかんだ女子高生だし、そんなものだろ。
しばらく世間話をしながら食べていると、店員さんがせいろを持ってきた。
「お待たせ、小籠包です」
中にはぷっくりとした小籠包が6つ。
うーん、この湯気がなんとも。
「へぇ~。たまに見るけど木なんだ」
「松竹梅だからな」
「どゆこと?」
竹で作られてる蒸し器がせいろ鍋って言うんだよ。
「ふぅん。ねね、1個食べていい?」
「ダメだ、これはアタシのもんだ」
「注文したのトレーナーさんっしょ」
まあ丁度いいから2個ずつ食べよう。
「ラッキー! あざ丸!」
「トレーナーよぉ、ジョーダンに甘くねーか? あん?」
いや、ゴールドシップが相当迷惑かけてるからね。
その分のお返しということで。
「わかってんじゃ~ん。じゃあいただきまーす」
「あっ」
あっ。
「あむっっっっついッ!?」
小籠包をそのまま口に入れてしまったジョーダンは体を跳ねさせて暴れる。
ああ、そんな一口で一気に食べるから……。
「あっはっはっは! こいつマジでバカだ! ははははは!」
「あっあっあっ!? と、とれッ!」
手をバタバタし出したので水を渡す。
一気に呷ると、ヒィヒィ半泣きで睨んできた。
「ゲキアツじゃん!? マジなんだし! おまえもか! やったな!?」
いいよって言ったけどそのまま食べるとは思わないし。
思わず頭をかくと、ぐぬぬとまた水を飲む。
「しょーがねぇなぁ。こいつの食い方を教えてやるよ」
そう言ってレンゲを手にしたゴールドシップは小籠包を箸で摘み、レンゲに置く。
「それで食べたらいっしょじゃね? 変わらんでしょ」
「変わんねーに決まってんだろ。何言ってんだ」
「なんだし!」
不満たらたらなジョーダンを他所に、箸で小籠包を破く。
えっ、と声を漏らしていたが、そのまま放置するゴールドシップ。
「どゆこと?」
小籠包の中にあるスープが熱いんだ。
だから、それを外に出して冷ましてるんだよ。
「なーる! それがアツかったんだ」
「こっから先にスープを飲むんだよ。アタシは一緒に食いたいから、冷まして一緒に食うぜ。酢醤油もめんどくせーからここに垂らす」
醤油と黒酢を投入して、十分冷めたところで1口。
「ん! やっぱうめーなぁ。ほら、おめーもやってみろよ」
「よーし、やってやろーじゃん!」
ジョーダンも同じようにレンゲを使い、小籠包をつまんで冷ます。
俺も食べよ。レンゲへ乗せて皮をやぶる。中から澄んだスープが出てくるのがやっぱりいいよね。
「で、冷ましたらすじょーゆ……コレとコレ?」
「おう。ま、酸っぱいの好きじゃねーなら黒酢は少なくていいぞ」
「ふーん。こっちがくろずってやつ?」
「いや醤油って書いてあんじゃねーか」
「え~? わからんし」
懇切丁寧に説明してもらい、なんとかレンゲの上で完成させたジョーダン。
ゴールドシップはこういう時凄い親切なんだよな。本当にわからない時はバカにしないというかなんというか。
「できた! 食べていっしょ?」
「おう、食え食え」
「あむ……んー! ウマっ! さっきとちげー!」
きちんと食べた小籠包は美味しかったようで、目を輝かせる。
俺も一口。うーん、このスープがいいよね。
そして酢醤油の酸味と塩味が美味しさを引き立てる。
かなり美味しく満足しているが、まだまだ食べるものは残っている。
「うっし! どんどん食おうぜ! アタシたちの食い倒れロードは、まだ始まったばかりだぜ!」
「おー! あ、マーボードーフもちょーだい」
「小皿に持ってけよな」
「りょ」
ゴールドシップが気合をいれて、みんなでどんどん食べ始める。
わいわい話しながら中華で楽しむ。
こんな日もありだなぁと思うのだった。
中華は回鍋肉が一番好きです
麻婆豆腐もいいですよね
でも小籠包とかも捨てがたいしチャーハンも美味しい
中華料理はすごいねぇ