七月十八日午前五時ごろ
白い機体に、青い線の塗装がなされたヘリが、フォスト・ブリッツが攻撃を受けた海域へと急行していた。機体には『JAPAN COAST GUARD』の文字。横浜海上保安部所属、広域哨戒中だった巡視船〝しきしま〟の搭載機『AS332 シュペルピューマ』だった。
「フォスト・ブリッツまで6マイル。まもなく視認距離に入ります」
敵のレーダーから逃れるため、シュペルピューマはかなりの低空飛行で航行していた。すでに水平線には黒煙が立ち上るのが見え、付近の空が朝日のように明く色づいているのもわかる。
今回の海難、および武力攻撃には不自然な点が幾つもある。まず一つは、フォスト・ブリッツからの不可解な衛星通信だ。
『本船は砲撃を受け炎上中!!女っ。赤い目の、白い肌の少女が、甲板に……』
〝赤い目と、白い肌の少女〟
午前三時ごろ、フォスト・ブリッツはそう言い残して、以降国際無線および衛星通信は不通となった。
「油槽船フォスト・ブリッツ、フォスト・ブリッツ。こちらは海上保安庁巡視船、しきしま搭載ヘリ〝うみたか〟応答願う」
今も継続して双方向無線での呼びかけを行っているが、フォスト・ブリッツからの回答は得られていない。乗組員の生存は絶望的だと思われる。
二つめは、海自や海保が今回の武力攻撃に関する事前情報を一切得られていないことだ。海上での戦闘行動には舟艇が不可欠である。ましてやタンカーを砲撃、炎上させられるほどの武装を搭載した船艇の接近を、海保や海自の哨戒網が見逃す筈が無かった。
しかし、実際に武力攻撃は起こってしまった。あり得ないことだが、どこかに監視網の穴があった可能性や、特殊な武装をした潜水艦による攻撃の説もあり得る。
ただしいずれにせよ、攻撃を受けたフォスト・ブリッツの船体以外にも、武装組織の有する舟艇や、その構成員などの直接的な痕跡が周辺海域には残る筈だ。今回の〝うみたか〟の任務は、その痕跡を見つけ出すことと、生存者の救出を行うことだった。
「赤外線映像、出ます」
搭載された赤外線カメラからの映像が機内モニターに映し出される。そこには浸水し、船首側へと大きく傾斜するフォスト・ブリッツと、船体や流れ出た油から煌々と立ち上る巨大な火炎が映っていた。
「酷い……一面火の海だ」
「母船母船、こちらうみたか。火災が激しく船体への接近不可。空からの生存者の捜索と情報収集に徹する」
うみたかは少し高度を上げて、広域の捜索に移る。乗員の一人が言ったようにまさに『一面が火の海』になっている。海洋汚染の問題もあるが、一番気がかりなのは───
「……船体に破口が幾つも空いている。やはり砲撃を受けたものと思われるが……〝付近に攻撃者が見当たらない〟」
「通信士、母船に連絡しろ」
「母船母船、こちらうみたか。フォスト・ブリッツの周囲に船艇および人影なし。繰り返す……」
フォスト・ブリッツからの救難信号発信後、その周辺海域は危険と判断され即座に封鎖された。ここは沖縄の西十マイルの位置。周辺は平時は日本から中東や欧州などを結ぶ重要な通商路であり、既に封鎖によって海運業界には大きな損失が出ていた。
救難信号発信からすでに二時間程度が経過している。既に武装組織が海域を遠く離れているとしたら、今の海域封鎖では不十分である。更なる被害拡大に繋がるおそれもあった。
「せっ……生存者!!ウイングに人がいます!」
突然機内の一人が声を上げた。
窓から目視での捜索を行っていた隊員が、左舷のウイング(操舵室左右にある、出っ張った部分)に一人の乗組員らしき人影があるのを見つけた。人影は両腕を大きく広げ、それを何度も上下に振っている。
「早く助けないと、火の手が居住区まで来てる」
新米の特殊救難隊員が焦燥するのをベテラン隊員が宥めた。
「この火の勢いじゃ厳しい。神田、母船に現状報告」
ベテランはそう通信士に指示するが、当の通信士は黙り込んだまま、なんの反応も無い。
「……おい、聞いてるか?」
妙な汗を額にたくさん浮かべながら、ヘッドホンを耳にぎゅっと抑えて固まり、目を泳がせている。まるで何か、亡霊に耳元で囁かれているかのような……
「おい!神田!」
「はっ、はいッ!!」
ようやく気がついたのか、通信士は驚いたように顔を上げてヘッドホンを頭から外した。顔面蒼白で、首元の作業服は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。
「どうした、何があった?本船との通信は?」
「そ……それが」
通信士は震える顎と呂律の回らないまま答えた。
「しきしまが、襲われています」
本当は海猿見たかったんですけど、DVDプレイヤーが手元になく……
海保の描写は後々編集が入るかもしれません。