燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード9

 

 

小鳥の囀り。

爽やかな朝の匂いを噛み締めるように、俺は走り始めた。

 

まだ朝日は登りきっていない。

少しばかり冷たい、心地よい風で前髪が少し揺れる。

 

 

いつもの日課である、早朝のランニング。

入学当初からずっと行っている、俺の日課だ。

 

体力をつけるという意味もあるが、この静かな朝に1人で運動するというのも気持ちがいいものだからな。

 

「くそおおおおお!」

 

静かな朝だ、うん。

横にいるうるさいバカさえいなければ。

 

 

一年生と二軍の試合は、6対2という結果で結末を迎えた。

 

一年生チームは4回の得点以降一点も挙げることができず、2点止まり。

二軍チームも登板した一年生投手3人を打ち崩すことができずに、6点で止まってしまった。

 

両チーム不甲斐ないという思いで試合が終わったわけだが、首脳陣たちは大きな期待感で満たされていた。

 

 

まずは、即戦力1人。

二軍相手に9者連続三振で見ている者に大きなインパクトを与えた。

 

その名も、降谷暁である。

北海道の苫小牧から一般入試でこの高校にやってきた長身の投手で、所謂ノーコン速球派投手だ。

 

150キロに迫る高めの直球で、打者たちを翻弄。

まあ、事前の打ち合わせでは脱力して低め勝負の予定だったのだが、気持ちよく高めに投げまくっていた。

 

たまたま二軍チームが熱り立っていてどんどん振りに来ていたからよかったものの、見逃されていれば四球祭りであっただろう。

 

しかし、速球持ちというのは羨ましいことである。

Max130キロの俺からしたら…うん。

 

 

あとは、今後戦力になりそうな選手と原石。

 

まずは、東条秀明。

持ち前のコントロールと幅を持たせた投球で、5失点ながら試合を作った張本人である。

 

球速をつけて決め球を身につけるまでは二軍で経験と体力づくり。

 

あとは、小湊春市。

試合では4打数の3安打と高いアベレージを残した。

 

高校野球でも珍しい木製バット使いであり、高いバットコントロールでヒットを量産する。

これも上に同じ、二軍で経験を積みながら体力づくり。

 

 

そして、我らが金丸信二。

試合では4打数の1安打2打点、1本塁打。

 

この試合で降谷以上にインパクトを残したと言っても過言ではない大活躍。

丹波さんの失投を逃さずホームランに、場内もざわめいた。

 

正直俺もヒット打てれば良いなあ程度に思っていたのだが、あの勝負強さは本物だ。

 

とりあえずは、二軍で様子見。

要は、上2人と同じである。

 

 

 

そして最後の1人は、今ちょうど横で走っているバカこと、沢村少年である。

 

2イニングを1失点と大活躍であった。

降谷から点を奪えなかったことで焦った二軍チームを、手元で動くボールを打たせて取るピッチングで抑えた。

 

まだフォームも固まっていない原石の塊でありながら、失点したのは増子から食らった一発のみ。

今後の動き次第では、降谷を越える投手になるのではないかと首脳陣の中では話題になった。

 

まあ話題になったのは、俺たちプレハブ小屋で実況していた俺たちと副部長と監督だけ。

沢村はもちろん、一年生すらも知らない。

 

とりあえずは、二軍だ。

練習試合での活躍次第では、戦力として考えるとのこと。

 

つまりは、降谷に次いで最高評価を受けた。

わけなのだが…。

 

「何が不服なんだ。」

 

「別に、なんでもないっすよ!なんで一軍じゃないんすか俺ええ!」

 

なんでもなくないじゃないか。

 

「被安打2の1失点、十分活躍したとは思うが。」

 

「じゃあなんで俺は!」

 

うーん。

 

「線は細い、球も遅い、変化球だって持っていない。制球だって纏まってはいるが、特段いいわけでもない。」

 

わかりやすく、落ち込む。

まあ、俺も言ってて悲しくなるくらいだし。

 

けどな。

 

「そんなお前が、なぜ二軍に選ばれたか分かるか?」

 

「それは、俺の底知れぬ可能性に」

 

「その通り。しかしそれだけじゃない。」

 

手元でブレるムービングボールと、それなりに纏まったコントロール。

そして何より、貴重な左腕。

というより、戦力になるかもしれない左腕はこいつしかいない。

 

つまりは。

 

「お前が今一番必要なのは、経験値だ。沢山試合に出て、沢山野球をする。そうして経験を積んでいけば」

 

「俺はエースに!?」

 

飛びすぎだ。

 

「長いイニングを投げれば、それだけ多くの経験を得られる。だから」

 

「走ってスタミナをつけろってことですね!ぬおおおお」

 

そうしてペースを上げる沢村。

猪突猛進とは、よく言ったものだ。

 

「あと、クリス先輩の話は聞いておけよ。」

 

聞いてない。

まあ、俺が言わんでも聞くか。

 

 

 

さて、と。

 

こんなのんびりしているが、実は関東大会の真っ最中である。

今日は朝から試合、体を起こす意味も込めて宿の周りを走っていた。

 

初戦ということで、先発は俺。

相手は千葉県代表の更科総合高校、うちと同じく強力打線を擁するチームである。

 

「相変わらず早えな。」

 

「まあね。こんな大事な試合で日課をこなさなかった日にゃ、何が起こるかわからないしな。」

 

明らかに寝起きといった表情をしながら外に出てきたのは、マイハニー(バッテリー的な意味で)の一也である。

 

「お前、そういうの気にするクチなんだな。」

 

「念のためだよ。で、どうしたんだ。」

 

「朝飯の時間だよ。」

 

「もうそんな時間か。」

 

そりゃそうか。

寝坊常習犯のこいつが、他のみんなより早く起きるはずないもんな。

 

「お前今失礼なこと考えたよな。」

 

「朝飯だな、早くいこう。」

 

「おい。」

 

逆になぜ読まれている。

と、若干の恐怖感を抱きながら、俺は一也と共に朝食場に向かった。

 

そして。

 

「あ。」

 

走らせていた沢村のことをすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月とはいえど、少しばかり暑い。

けど夏というには、足りない。

 

深呼吸をして、マウンドに上がった。

 

目を閉じ、右掌を胸に当てる。

心を落ち着けるために。

 

早るな、もう時期始まる。

焦らなくても、すぐに投げられる。

 

「どうだ、調子は。」

 

言葉が耳に入り、俺は目を開ける。

もう、準備はできている。

 

「今更。」

 

「だよな。」

 

俺が答えて間も無く、一也が間髪入れずに答える。

阿吽の呼吸、だ。

 

彼が俺の胸にミットを当てると、自分の守備位置へ走っていく。

 

目の前に立つのは、敵。

切って取るべき、敵。

 

俺は、己の力を信じて、投げるだけだ。

 

 

(まずは。)

 

(インハイストレート、だな。)

 

トルネード投法と呼ばれるフォームで投げ込まれる、直球。

スピンの効いたその真っ直ぐが、打者の胸元を抉った。

 

「ストライク!」

 

まずは、見送る。

初球から見逃すは、好打者特有のアプローチ。

 

見ず知らずの投手の、それも厳しいコースをいきなり振ることなんてない。

 

(様子見、だな。)

 

(気にする必要なんてない。ねじ伏せるぞ。)

 

そして、一也がミットを大きく開く。

構えられたコースは、再びインコース。

 

同じくストレート。

打者が振りにくるも、空振り。

 

この時点で、勝負は決まっていた。

 

3球目。

打者にとって、最も遠いと言われるコース。

 

アウトローのストレートで見逃し三振で先頭打者を切り落とした。

 

続く打者に対しては、カーブを引っ掛けさせてセカンドゴロ。

3番打者に対しては、3球目のスライダーを引っ掛けてショートゴロ。

 

まずは初回、相手打線を0に抑える。

 

 

そして、打線はいつも通り快調。

特に。

 

「ウガア!」

 

スタメンに復帰した増子さんは、会心の3ランホームラン。

エラーで二軍に落とされていたが、今は一つ一つのプレーに集中して取り組んでいる。

 

それが、一球一球の集中力にもつながったのだろう。

やっぱり、この人がいるだけで打線に厚みが増す。

 

 

打線から熱い援護を受けた俺は、相手打線をシャットアウト。

ストレートとカーブ、スライダーとSFFを操って7回を1失点で抑え込む。

 

そして、8回。

9−1という大差のついた場面で、この男がマウンドに上がる。

 

「青道高校、選手の交代をお伝えします。ピッチャーの大野くんに変わりまして、降谷くん。レフトの門田くんに代わって大野くんがレフトへ。8番レフト大野くん、9番ピッチャー降谷くん。」

 

入学して一ヶ月の怪物が、聳え立つ。

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