「以上が、青道高校の予想スタメンになります。」
市大三校。
都内でも有数のスポーツ強豪校であり、各スポーツで全国に名を轟かせている。
特に野球部は甲子園常連で、群雄割拠で有名な西東京地区でもトップスリーに入る強豪校として名高い。
そんな彼らが準決勝で対戦する相手は、同地区のライバルの青道高校。
決勝で当たる薬師高校に雪辱を果たすためにも、この試合は何としてでも勝たなければいけない。
対戦相手の青道高校といえば、今大会でも優勝候補筆頭と言われる実力のある高校だ。
充実した投手陣に高い守備力。
扇の要である御幸を中心に、守備範囲の広い二遊間、そして身体能力の高い中堅手による堅牢なセンターライン。
投手は、怪物と呼ばれる一年生、降谷暁。
最速154キロの直球に大きく落ちるフォークが持ち味の本格派右腕。
コントロールは悪いものの、その剛腕から放たれるボールは異常なほど、奪三振率が高い。
「調子の良し悪しは激しいですが、フォアボールが多いです。甘いボールは少なからず来るため、そこを狙い打つしかありません。」
もう1人の先発候補は、沢村。
こちらは、安定感のある軟投派左腕。
外内の左右を幅広く使い、快速球と動くボールでテンポ良く打者に打たせる。
「今大会からチェンジアップを投げていますが、これのせいで更に投球術に磨きがかかりました。」
正直、今の青道の中で一番出てきてほしくない投手。
安定感含め、意外と降谷よりも付け入る隙がない。
そしておそらく、この男が先発してくる。
「動くボールは厄介ですが、しっかりと振り抜けばかなりの確率で内野の頭を抜けますね。球威もある方ではなさそうなので、多少芯を外してもヒットを許している光景は今大会でもありました。」
特にミートポイントの広い金属バットだと、少し芯を外しても飛ぶ。
あとは、やはり一年生。
コースが甘くなることも、変化球が高めに浮いてしまうこともある。
そこをしっかり狙えば、連打の可能性も出てくるはずだ。
あとは、リリーフ2人。
サイドスローの川上と右の東条。
比較的コントロールがいい2人で、短いイニングで出てくる可能性が高い。
「ちょっと待ったー。」
言動と比例しない覇気の無い声で、天久はわざとらしく手を上げて言った。
「エースは大野夏輝だろ?投げねーのかよ。」
「原因はわからないけど、多分投げられないと思う。怪我か、それ以外の理由があるのか。どちらにせよ、帝東との試合で投げなかった時点で、今大会は投げないと思います。」
今大会、まだ投球が無いエースの大野夏輝。
夏の大会では、強力な稲実打線を圧倒した、世代でもトップクラスの実力者だ。
針の穴を通すほどの精密なコントロールと、キレのあるストレートとツーシームの投げ分けで三振を量産する。
安定感、またピンチを背負った時の集中力も高い。
且つ、要所で見せる最大出力は、世代最強左腕と名高い成宮を凌ぐとも噂されている。
そんな彼も、今大会はここまで登板ゼロ。
度々ピンチがあったにも関わらず投げなかった彼は、きっと投げないはず。
「まーいいや、何にせよ点取られなきゃいいだけだし。」
しかし、少なからず天久にも思うことはあった。
(投げ合いたいなとは、思ってたんだけどな。)
夏の大会でも、その前の春の大会でも。
どことなく、大野夏輝という投手に魅力を感じていた。
強気な投球スタイルに、キレのある変化球。
球速も球種もまるで違うが、何となく自分と似ているような気もしていた。
だからか、普段からあまり他の投手に興味を示さない天久も、大野に対しては少しばかり気にしている所があった。
(関係ないか。今は俺を迎え入れてくれたみんなのために、投げることだけを考えよう。)
天久は、一度チームを離れていた。
充実した生活というか、高校生らしい生活。
彼女と遊んだり、普通に友達と遊んだり。
しかし、ここは都内屈指の強豪校。
練習量も多ければ、拘束時間も長い。
そのため、もちろん遊ぶ暇もなければ、それこそ休日に出かけることなんかもできない。
そんな生活に嫌気がさした彼は、チームから去っていった。
しかし、野球から離れた約一年。
天久に、充実感はなかった。
転機は、夏の大会。
ダークホースに敗れ、崩れ落ちるエース真中。
涙を流すナインを、天久は観客席から傍観することしかできなかった。
己の無力さと、何もせず腐っていた不甲斐なさ。
ある種、投手としての、責任感のようなものかもしれない。
チームに戻った彼は、ひたすらに練習に励んだ。
この市大三校の勝利のために、腕を振るうことを決心したのだ。
一度逃げた自分を迎え入れてくれた、チームメイトのために。
「あとは、投手陣に目が行きがちですが、攻撃力も地区トップクラスになります。」
そう、この青道はかなりの得点力も有している。
帝東との試合では一点ゲームになったものの、他のチームとの試合ではかなり点が入る。
4番の御幸は言わずと知れたチャンスヒッターだが、今大会からはランナーがいない場面でも出塁するケースがかなり増えている。
1番の倉持は、俊足のリードオフマン。
今大会打撃の方では不振に陥っているのだが、塁上での揺さぶりと走塁技術は健在。
塁に出す訳には行かない。
2番の大野だが、打者としても優秀。
長打こそないものの、高いミート力を生かした出塁し、チャンスでクリーンナップに回す。
3番の小湊は、チームトップの打率を誇る安打製造機。
この上位打線で、確実にチャンスを作って4番の御幸に回す。
5番の前園は、天性のプルヒッター。
上記の打者に比べて確実性には欠けるものの、帝東戦で決勝タイムリーを放つなど勝負強さを発揮していた。
6番の白州は、仕事人。
主将である彼は、派手さこそあまりないものの、状況に応じたバッティングが強み。
何より、かなり打撃技術が高い。
ミート力も高く長打も打てるため、打撃の総合力は御幸を上回る。
この6人が、打線の中核。
他にも、鵜久森との試合でホームランを放った金丸や降谷など。
上位には打率の高い打者、そして下位には一発のある打者と、抜け目のない打線はかなりの得点力を誇っている。
「かなりバイオレンスな打線だが、抑えられない相手じゃない。どんなにいいバッターでも、パーフェクトな訳じゃない。天久ボーイ、いけるな?」
監督である田原がそういうと、天久が小さく頷く。
それを確認して、また視線をナインに移した。
「野手は天久ボーイをアグレッシブな守備で盛り立ててやってくれ。攻撃は、何も心配していない。君たちのパワフルな打撃で、相手を圧倒しようじゃあないか!」
「「「はい!」」」
おそらく、今大会最も緊迫した試合になる。
青道の面々もそう思っているだろう。
現時点で最高峰の完成度を誇る両チームの熱戦が。
始まろうとしていた。