記念すべき(?)100話になります。/チキチキバンバン!/
まだまだ続きますが、どうかお付き合い下さい。
秋の昼空は、澄んでいた。
雲ひとつないほどの快晴は太陽の光を帯びて輝く。
適度に上がった気温は、秋特有の心地の良い空気と相まって絶好の行楽日和となっていた。
「いい天気だな。」
ベンチ前でバットを振りながら、御幸がそう言う。
確かにここ最近晴れること自体は度々あったが、やはりここまで綺麗な晴れは久しぶりだ。
何より、かなり気温が上がっている。
「だな。絶好の野球日和だ。」
「呑気にいうよ、全く。」
肩をぐるりと回し、俺も息を吐いた。
これから始まるのは、きっと厳しい試合になる。
もちろんここまで楽な試合なんてものはなかったが、それでも。
多分、一番苦しい試合になると思うんだ。
「集合。」
監督に呼び集められ、ベンチ前に揃うナイン。
ピリついた空気に、みんなの顔も険しくなる。
試合が、始まる。
「ここまでの試合、一つも楽な試合はなかった。お前たちもよく、ここまで勝ち上がってきた。」
監督が全員の目を見て、続けた。
「これ以上、何も言わん。俺たちの野球で、勝とう。いいな?」
「「「はい!」」」
「白州、いつもの言っておけ。」
「はい。」
そうして、白州に合わせてナインで円陣を作る。
これが、青道高校の伝統。
戦う準備はできた。
あとは試合開始を、待つだけだ。
白州が胸に手を当てる。
それを確認して、俺たちも胸に手を当てた。
一息吐き、白州が口を開いた。
「ここまで来たな、みんな。」
成孔学園から始まり、その次は帝東。
鵜久森も本当に、強かった。
王谷も決して楽な相手じゃなかった。
俺は投げられず、一年生頼み。
それでもみんなで、勝ち上がってきた。
「俺が引っ張ってきたとも思っていないし、みんなが俺を助けてくれたと思っている。」
寡黙で、静かに闘志を燃やす男。
言葉でというよりも、行動やプレーでみんなを引っ張る男。
前キャプテンの、哲さんのような主将となってくれた。
「ここまできたんだ。行こう、最後まで俺たちらしく。」
白州が笑う。
そして、みんなが笑う。
そして、俺たち青道の主将が、大きく息を吸った。
「俺たちは誰だ!」
「王者青道!」
「誰より汗を流したのは!」
「青道!」
「戦う準備はできているか!」
「応!」
「我が校の誇りを胸に、狙うは全国制覇のみ!」
「行くぞオオオオオオオオ!」
「オオオオオオ!」
天高く挙げられた腕。
燃え上がる青い炎は大地を揺らし、観客たちの声援と共に舞い上がった。
先攻は、俺たち青道高校。
青道のリードオフマン、倉持が打席に入る。
打撃復調、というよりは開花したこの男。
きっと何とかしてくれる。
そう思った、刹那だった。
「ストライク、バッターアウト!」
三球三振。
まさに圧巻の投球で、倉持を捩じ伏せる。
勢いのまま振り上げられた右腕。
その人差し指が、ピンと一本起き上がった。
「まずは、一つ。」
見下ろすその姿は、まさにエースそのもの。
既視感にも似た感覚は。
(同じだ、俺と。それに、鳴と。)
バットを肩にかけ、打席へと向かう。
そして息を吐き、右手に握られたバットを天久に向けて掲げた。
ゆらゆらとバットを揺すり、タイミングを取る。
初球、速いボール。
甘めのコースに入ったストレートだが、球威に押されて空振り。
速い、何より威力が凄まじい。
これが、天久のストレート。
はっきり言って、ここまでの相手とは比べ物にならないほどだ。
2球目もストレート。
これもバットに当たらず、ストライク。
追い込まれた。
最後は、何で来る。
倉持に対しては、フォークだった。
ストレートか、スライダーか。
どちらにせよ、ゾーンに来たら反応する。
3球目。
ストライクゾーンの高めに迫るボール。
甘い、これなら、捉えられる。
そう思った瞬間、俺の視界から白球が「消えた」。
「…は?」
思わず、後ろを振り返る。
キャッチャーミットに収まっているボール。
三振したのか、俺は。
これが、噂のスライダー。
正直、真中さんのそれとは比べ物にならないぞ。
俯き加減でベンチへ戻る。
そしてすれ違い様、小湊に耳打ちした。
「やばいよ、あのスライダー。」
「反応を見れば、何となく。」
「正直俺は視認できなかった。キャッチャーミットに入ってから、スライダーだって認識した。」
「そんなにですか?」
うん。
何なら、消去法で、あのキレはスライダーだって決めつけてるだけ。
でも、俺よりも目が良い…というよりは、感覚が鋭い小湊ならきっと。
「ストライク、バッターアウト!」
しかし、天久。
ここもスライダーで空振り三振。
たった10球で、1、2、3番を三者連続三振。
天久光聖の圧倒的な投球で、この試合は幕を開けた。
「GOGO三校!GOGO三校!」
「いけ!市大三校!」
天久の投球で、流れは市大三校に持って行かれた。
会場も何となく、彼の圧巻の投球に目を奪われている感じだ。
この嫌な感じは。
いや、これを払拭できるのは、お前だけだぞ。
肩をぐるりと回し、マウンド上で淡々と準備をする男。
高い上背の肩がゆらりと揺れる。
男は小山で腰を折ると、そこに置かれた小さな袋に手を当てた。
流れを変えろ。
この空気を、強引に引き寄せることができるのは。
お前だけだ、降谷。
(流れを変えろ、降谷。そして、全てを。)
捩じ伏せろ。