燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード102

 

 

 

 

 

 

回は進んで、5回。

ここまで走者を許さない三校エースの天久が、またもマウンドに上がる。

 

打席に立つのは、4番の御幸。

チームの主軸であり、幾度となく試合の流れを変える一打を放ってきた。

 

 

その御幸と天久の二度目の対戦。

正直この手の打者を、御幸は苦手としていた。

 

 

コントロールが悪く、球が荒れている打者。

何より、この日の天久の様子に、御幸は違和感を感じていた。

 

 

(あの瞳は…。)

 

帽子の鍔で、上手く見えない。

が、深く被られている帽子からチラリと見え隠れする大きな黄金色の瞳が、キラリと煌めいた。

 

 

どことなく、見覚えがあった。

 

否、鮮明に覚えていた。

忘れもしない、色こそ違えど、あの瞳の輝きは。

 

 

真夏の太陽で輝いた、彼らと同じものである。

 

 

極度の集中状態に陥り、且つチームを背負った男。

そして何より、投手として全てを捻じ伏せることを許されたものだけがたどり着くことができる状態。

 

所謂、ゾーンに入るというもの。

この状態を陥った選手を攻略することは、まず難しい。

 

 

しかし、それだけに弱点があることも御幸は理解していた。

 

 

(目の前で見てたからな、いやでも忘れらんねーよ。)

 

 

まずは、目の前の投手に集中。

御幸は頭の中を一度クリアに史、打席へと入った。

 

 

球は走り、コントロールこそブレて居るものの、変化球のキレは圧巻。

何より、どのボールにも力がある。

 

だからこそ、御幸はシンプルに考えた。

 

 

 

息を吐き、バットを掲げる4番。

小さな丘の上で、エースは打者と同じようにフッと小さく息を吐いた。

 

 

(なーんか、やな感じ。打ちそうだよね。)

 

 

ゆったりと両腕を振り上げ、頭の後ろで腕を組むようにして静止。

その腕を胸の前に持ってくると同時に足を振り上げ、腰を捻り始める。

 

打者に左肩がまっすぐ向けるとまた静止して、身体を弓のように張って、投げた。

 

 

(風格あるっていうかさ。)

 

投げられたコースは、真ん中高め。

御幸も初球から振りに行くが、彼の視界から再び白球は消えた。

 

ストライクゾーンからボールゾーンに滑り落ちる、縦のスライダー。

とにかく今日は、これが切れている。

 

 

(てか、結構イケメンだよな。あのバイザー似合うのあいつぐらいだろ。)

 

2球目のストレート。

スライダーを少しでも意識してしまうと、これに手が出ない。

 

あくまで、ストレートがあっての変化球。

この真っ直ぐに力があるからこそ、対を為すボールに命が宿るのだ。

 

 

(4番でキャッチャー、チャンスに強い。高校野球の申し子感すげーし。)

 

 

3球目のストレートは御幸も反応し、ファール。

147km/hの高めに決まるボールだが、御幸も食らいついてみせた。

 

しかしこれに対応すると。

 

 

 

「ここもスライダーで空振り三振!幾度となくこのボールにバットが空を切っています!」

 

 

未だにランナーすら許さない天久。

所謂、パーフェクトピッチングというもの。

 

 

対する降谷もまた、フルスロットル。

初回から7者連続三振を含む12奪三振を見せるなど、圧巻の投球。

 

 

強打がウリの2チームが、得点を奪えない。

2人の本格派右腕が、どんどん輝きを増していく。

 

スコアボードに刻まれていく0。

 

 

 

その均衡を破ったのは、エースである降谷自身であった。

 

6回表、2アウトランナーなし。

未だにパーフェクトピッチングをする天久が投じた、3球目。

 

2ボールとボールが先行した打者有利のカウントで、バッテリーはストレートでカウントを取りに行く。

 

 

しかしそのボールを。

今日絶好調のこの男が、見逃すはずがなかった。

 

 

内角高め。

コースは、甘い。

 

ピッチングのリズムが良く、集中力も高まっている。

 

 

甲高い金属音と共に舞い上がる打球。

力強い打球をじっと見つめながら、降谷は一塁ベースへと向かっていった。

 

 

「は、入った入ったホームラン!今日は投打で大暴れです、ピッチャーの降谷!」

 

 

観客は湧き上がり、青一色のベンチは大盛り上がり。

 

 

「まさに怪物!降谷暁の怪物伝説はここから始まります!」

 

 

歓声で揺れ動く球場の中で、マウンド上だけは静かだった。

 

ガックリと項垂れる天久。

その額からは、先ほどまでとは打って変わって大きく汗が浮かび上がっている。

 

明らかに、大ダメージであった。

 

 

「代償、か。」

 

 

肘当てをつけながら、ベンチ内で大野は御幸に言った。

 

夏の大会、決勝。

その試合で見せた、大野と成宮は圧巻という他がない投球をしていた。

 

後半から両者限界を超え、実力以上の出力を発揮していた。

 

 

普通、ことに於いて練習以上の実力を発揮するということはまず難しい。

というか、ほぼ無理だ。

 

しかし、互いが意識をし、互いが高めあう。

極度の集中状態から、拮抗した実力の持ち主が向かい合った時。

 

 

稀に、限界を超えることがある。

 

 

しかし、それもまた代償がある。

 

本来の実力を超えて投げているからこその、代償。

身体か、精神か、とにかく普段とは比べ物にならないほどの負荷が襲いかかってくる。

 

 

それを象徴するのは、あの夏の試合であろう。

2人のエースは、全く同じタイミングで力尽きた。

 

 

 

当然、スタミナがある2人ですらそうなったのだ。

一時戦列を離れており、スタミナもない天久が、そう長いイニング保つはずもない。

 

 

降谷に一発をあびた天久は崩れ、続く倉持にもヒットを許す。

そして打席には、エースナンバーを背負った大野夏輝が打席に入った。

 

 

マウンド上で項垂れながらも、何とか体を起こす天久。

痛々しい姿にも、大野は淡白な感情を抱いていた。

 

 

(死んだな。)

 

 

無論、生物学上での話ではない。

 

エースとして、戦う瞳ではない。

その目はもう、死んでいる。

 

 

(ここで、折る。)

 

 

そして大野は集中力を高め、バットを掲げた。

 

まずは、ストレート。

高めに抜けているこのボールは完全に外に外れており、見逃してボール。

 

先ほどまでの勢いはもう、ない。

そんな姿を見た大野は、少しばかり寂しさを感じていた。

 

 

(面白いと思ってたんだけどな、こいつも。)

 

 

2球目の抜けたカーブを、完璧に捉えてライトの前へと運んだ。

 

 

一時の集中状態で言えば、本当に成宮と大野と肩を並べていた。

が、流石に戦列を離れていたこともあり、最大出力は長くは持たなかった。

 

 

ここから青道はクリーンナップへ。

2アウトながら、青道は最大のチャンスを迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

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