市大三校との試合を終えた俺たち。
しかし、うかうかしていられない。
何故なら、次の試合は明日に迫っているのだから。
明日は、決勝。
対戦相手は、準決勝でも圧倒的な攻撃力を見せた薬師高校に決まった。
「で、どうよ。」
「どうよと言われましても。俺はエスパーじゃないですよ、純さん。」
試合を明日に控えているということで、今日は最後の調整。
チーム全体の確認練習と調整を行うということで、今日は三年生の先輩方もきていただいた。
打撃練習の番を待ちながら、俺は三年の伊佐敷純さんと軽く談笑しながら待っていた。
「調子だよ、チームの。」
「いいと思いますよ。打順も固定されてきて、何より一年生たちの伸び代がすごいです。」
沢村と降谷は勿論、東条や金丸。
それに、小湊も体力がついて守備やプレーに安定感が出てきた。
金丸は、思い切りの良い打撃に勝負強さ。
東条は、足りなくなった中継ぎの枚数を補ってくれた。
みんな、すごく成長してくれた。
それにきっと、これからもどんどん成長してくれるはずだ。
「俺の目から見たら、お前らも随分変わったように見えるけどな。」
「え?」
純さんの言葉に、思わず俺は聞き返してしまう。
「俺たちが引退したばっかの時は、皆がそれぞれが全部やろうとしてたように見えたからな。俺たちの時もそうだったんだけどよ。今はお前ら、いい意味で役割分担できてるっていうか、それぞれができることを集中してやってるからか。ともかく、前よりもお前ら、雰囲気良くなってるぜ。」
お、おお。
あまり実感はなかったけど、そう言って貰えると嬉しい。
確かに、役割分担。
個の力というよりは、それぞれができることを全うして、強いチームを作るのを目標にしてきた。
それは俺たちがここまで掲げてきたテーマ。
監督と共に言った、「全員で勝つ」。
「でもお前、良いバッティングするようになったじゃねえか。」
「そうですかね、長打はないもんですから。」
「お前だってブンブン丸よりもミート上手い方が嫌だろ?」
確かに、それはそう。
にしても俺も、そこまで率が高いわけじゃないし。
そんなことを話していると、俺の出番が回ってきた。
バッティングピッチャーは、東条。
タイプこそ真田と真逆だが、使っている変化球は近しいものがある。
特に東条はコントロールがいい為、俺が苦手なコースもガンガン放ってくれる。
「インコースのカットとツーシーム多めで頼むわ。あとはお前の裁量で。」
「わかりました。」
テンポよく投げ込まれるボールを、弾き返していく。
真田はインコースにドンドン攻めてくるから、後手に回ったら完全にやられる。
強気に、こちらも応えていくしかない。
内に来たボールを、引っ張り方向と流し方向にそれぞれ打ち込んでいく。
この大会、俺は投手として闘うことができなかった。
だからこそ、最後まで。
この大会は、打者として。
チームの勝ちに、貢献してみせる。
一通り練習を終えると、俺たちは決勝前最後のミーティングへ。
研究のスペシャリストである渡辺が分析結果の報告を終えて、大体の試合の流れを掴んだ。
スタメンと、先発投手。
そして、試合運びや流れの確認。
あとは、対戦相手の薬師について。
今更、こうしろああしろと、細かい話はない。
最後の確認作業のような、そんなもの。
「明日の先発は、降谷。早い回から沢村も行けるように準備しておけ。」
監督の発表に、降谷が小さく返事。
それに続くように、今度は喧しいくらいの声で沢村が返事をした。
薬師のようにガンガン振ってくるチームに、沢村や東条は分が悪い。
ミートポイントの広い金属バットに対して、動くボールは木製よりも有効打になりにくい。
振り抜かれてポテンヒットというのが、かなりあるのだ。
降谷のような豪速球で捩じ伏せるのが、多分1番効果的だ。
特にフォークを投げる降谷にとっては、速球に対して合わせてくる薬師とはかなり相性はいいハズ。
まあ、甘く入ったらやられるのだが。
しかし次点では恐らく、沢村が投げるのがいい。
ストレートと手元で沈む高速チェンジアップ、そしてカットボールを左右にしっかり投げ切れる。
あとはチェンジアップで崩すことができれば、一番。
昨日6回を投げきった降谷は、恐らく早い回で替わる。
そこから沢村、イニング次第で東条を挟みつつ最後はノリでいくのがベストか。
にしても。
「轟だな、問題は。」
横にいる御幸も、俺の言葉に頷く。
今大会の打率は何と8割越え。
本塁打は7本と打点15はトップであり、今大会文句なしの三冠王である。
昨夏も怪物っぷりを発揮していたが、今大会はそれ以上。
間違いなく現段階では、この都内で最も良いバッターである。
特に今大会は、得点圏での打率が高い。
まあ恐らくは、薬師の他の打者の出塁率が高いからこそ、チャンスの場面で多く轟の打席が回ってきているのであろうが。
まずは、先頭打者の秋葉。
出塁率が高く、尚且つ足もそこそこ速い。
イメージとしては、小湊が先頭を打ってる時と同じような感じか。
尚且つパンチ力もあり、今大会でも2本の本塁打を放っている。
2番は、小技のうまい増田。
どちらかというと、守備の人。
だが、足は速い。
そして、ここからクリーンナップ。
3番は、強打者の三島。
典型的なパワーヒッターでありながら、打率も意外と高い。
難しいボールでもきちんと拾う技術があるからこそ、轟の前を任されているのだろう。
4番の轟は、先述通り。
このチームで一番気をつけなくてはいけない打者であり、最悪歩かせても良いと思う。
のだが、そう簡単にいかないのは、この後に控えている打者もまた怖い。
それが、5番に座る真田俊平。
投手でありながら薬師のクリーンナップを務めるのには、理由がある。
それが、得点圏打率の高さ。
というより、ビハインド時や勝負所でヒットを打つ確率が、高い。
逆境での集中力は、チームトップクラスになる。
今大会でも勝負を決める一打や、逆転、決勝タイムリーを放っている。
だから、迂闊に轟との勝負を避けることもできない。
下位打線も一発を狙う打者が多く、下位からもチャンスメイクができるのだ。
積極的なプレーは健在。
バントは今大会でもまだなし。
盗塁数も多く、走塁死も多い。
しかしその分、流れに乗ると怖い。
守備はまだまだ荒さはあるものの、昨夏に比べてもかなり安定感が出てきている。
しかし連携は、まだ甘いところはある。
そこの隙をつけば、上手く撹乱できるはずだ。
攻撃から守備まで、強気で攻め手。
荒いからこそ、流れに乗ったら止められない。
投手は、主に3人で回している。
先発の可能性が最も高いのは、三島。
恐らく彼は本業投手であり、チーム内で2番目の投球回を投げている。
130キロ台の真っ直ぐに加えて、キレのあるフォークとカウント球のカーブとスライダーで試合を作るスターターだ。
ピンチでも物怖じしない度胸もあり、むしろギアを上げる。
あとは、準決勝で先発した秋葉。
サイドスロー気味のスリークォーターからテンポ良く投げていく。
恐らくは、明日は投げないはず。
あとは、エースの真田。
今大会先発はまだなしだが、チームトップの登板数である。
先発で試合を作るというよりは、ピンチの場面やこれ以上失点したくない場面で出てくる。
理由は多分、スタミナに不安があるから。
単純な体力面もあるが、彼も足に怪我を抱えている。
だから先発完投はまずないだろう。
最速140キロの球威のある真っ直ぐに、カットボールとシュート。
そして今大会から投げ始めた、縦変化のツーシーム。
インコース攻めはかなり強力であり、とにかく内で詰まらせてくる。
恐らくは、先発で三島。
中盤の勝負所で真田が出てくると思う。
先制点は取りたい。
できれば、真田が出てくる前に点差を開きたいかな。
「明日の先発は今日と同じ。打順もこのままいくぞ。」
いま、一番安定している。
何より、相手もかなり嫌なはずだ。
変に変える必要はない。
今一番良い状態で向かっていくのが、一番いい。
あくまで、やることは変えない。
今はただ、真っ直ぐに。
自分たちの野球で、勝つ。
あらかた話終わり、少し静寂が訪れる。
すると監督は、息をふっと吐いた。
ゆっくりと、俺たちの顔を見渡す。
そして、髭の蓄えられた口を少し開いた。
「お前らも目の前で見た通り、相手の薬師高校は強い。今、都内で一番強い対戦相手だってことはわかっているな?」
当然だ。
だから、この決勝という舞台に立っているのだ。
強いから、ここまできた。
決してまぐれで勝ち上がれるような、甘い場所ではない。
「だが、それはお前たちも同じだ。」
ここまで一切楽な試合はなかった。
それでもここまで、勝ち上がってきた。
これも、まぐれではない。
「あえて言うぞ。お前たちが、都内で一番強い。だからここまで来た。」
監督がそういうと、俺たち全員が頷く。
もう迷いなんて、ない。
「最後まで俺たちの野球で、勝とう。強い青道の野球で、自信を持っていこう。」
最後の監督の言葉。
一拍開けて、噛み締めるように俺たちは声を張り上げた。
勝っても負けても、明日が最後の試合だ。
この試合が終わったら、長い冬がやってくるんだ。
だから。
ベストを尽くそう、俺たちの野球で。
そう、胸に秘めた。